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10-26 お年始参りの続き。

コーラって喉薬だったんですよね、確か……

 途中セレンのうちにも寄ってみた。修道院でユウを見かけなかったからだ。

 戸を叩くと、ユウの返事が聞こえた。

「師匠、あけましておめでとうございます。」

「あけましておめでとう。はい、お年玉。」

 ありがとうございますと言って、素直に受け取ってもらえた。

 やっぱりノインはおかしいよな。

 俺がおかしいわけじゃない。

「ベネットさんも、あけましておめでとうございます。」

「おめでとうユウちゃん。一人なの?」

 そういえば、セレンは修道院なんだろう。

 あっちはあっちで忙しいからな。

「夜には帰ってきます。

 それまでは、本を読んで過ごしてます。」

 ほうほう。

「これ、お二人の新刊です。」

 そう言って嬉しそうに、本を持ってくる。

 俺たちの新刊?

 タイトルだけの表紙なので中身は分からないが、題名は銅竜の剣姫と黒髪の王子となっている。

 どんな設定になってるのか気になった。

「ベネットさんは盲目の剣士になってたりするんですけど、ゴーグルのせいなんでしょうか?」

 ますます謎が深まる。

 何処までの話が漏れてるんだ?

 とはいえ創作物に口を出すわけにもいかない。

 あくまでも、あれはフィクションだ。

 モチーフだとしても、本の中のかっこいい黒髪の王子と俺を結びつける人はいないだろう。

 

 早々に挨拶を済ませ、ハルトの家の方にも顔を出した。

 普通の一軒屋だけれど、なんか花壇が整備されている。

 冬だからか、何も生えてはいないけれど、カイネの趣味かな?

「なんだか、こういうのって女の子って感じがするよね。」

 ベネットがじっと花壇を見つめる。

 いや、園芸はどっちかというとおばちゃんなイメージがあるんだよなぁ。

 口にするとまずそうなので、黙っておく。

「もし何か植えたいなら準備するよ?

 まあ、長期に家を離れる時も多いから、世話は家政婦さんにお任せになっちゃうだろうけど。」

 そういう意味で、カイネも誰かに頼まないと世話ができない気もするんだけれど。

 そこら辺は算段がついてるんだろうか?

 気になるところだ。

 そういえば、この一軒家もナバラ家所有の家のはずだ。

 これも競売にかけられてるんだろうな。

「さすがに、難しいよね。

 それより早く、ご挨拶しよ。」

 そうベネットに促されて、俺は家の戸を叩く。

「あけましておめでとうございます、ヒロシ様。ベネット様。」

 カイネが嬉しそうに笑って出迎えてくれた。

 何かいいことでもあったんだろうか?

「あけましておめでとう。これお年玉。」

 奴隷にお年玉を渡すなんてことはふつうないそうだけれど、家ではカールにもお年玉を渡している。

 このくらいの逸脱は許されるよな。

「あ、ありがとうございます。」

 少し戸惑い気味だけれど、素直に受け取ってもらえた。

 そういえば、カイネの年齢は100歳越えだ。

 そう考えると微妙だったかな。

「どうぞ中に。」

 そう言って、家の中に通してもらった。

 そして見慣れたものが置かれていた。

 こたつだ。

「ハルトさん、これは?」

 お前の年くらいだとこたつに縁がなかったと思うんだがな。

「工房のおっさんに頼んで作ってもらった。

 火鉢だけど、結構あったかいよ。」

 ハルトが布団をめくると、陶器のようなものが置かれているのが分かる。

「いや、部屋が寒くてさ。

 暖炉とかあるけど、それだったらいっそ炬燵もいいかなって。

 アニメだとよくあるじゃん。

 こたつでミカンとか。」

 まあ、確かに定番ではあるか。

「みかんじゃなくて、オレンジならありますよ。

 それと頼まれてたコーラも届いてます。」

 そう言って、コーラのケースを渡す。

 ついでにオレンジをかごに入れて、こたつに置く。

「やった!!こっちでコーラ飲めるなんて最高だな!!」

 そう言って、早速取り出して、ラッパ飲みを始める。

「なんですか、その真っ黒な飲み物?

 毒じゃないんですか?」

 カイネが怯えてみている。

 まあ、見慣れない人からすれば、異様な飲み物だよな。

 ベネットも眉をひそめている。

「え?うまいよ?

 ほら、カイネもコップもって来いよ。」

 少しためらいつつも、カイネは台所へ向かう。

「あ、おかけになっててください。

 皆さんの分も用意した方がいいですか?」

 ハルトがそうだなというと、奥に引っ込んでいってしまった。

「別にコーヒーとかあるんだから、黒くてもおかしくないと思うんだけどな。

 そこまでびっくりするものか?」

 まあ、言われてみれば確かに。

「いや、音がね。」

 ベネットがキャップを開ける音や炭酸のはじける音にびっくりしたと伝えてくる。

 炭酸水はあるはずだけどなぁ。

 あとは透明なボトルだって言うのも、気にはなるのかな。

 カイネが戻ってきて、陶器のカップが俺たちの前に置かれる。

 それにハルトがコーラを注ぐ。

 俺は普通に飲んでいたし、気にはならないけれどベネットもカイネもカップを前に固まっている。

 意を決したようにカイネがぐびっと飲み込む。

 そしてむせこんだ。

 そりゃ、まあ、そうなるか。

「カイネ、大丈夫か? お前炭酸苦手だったっけ?」

「だ、大丈夫です。ハルト様。飲めます。」

 そんな悲壮な顔をしてまで飲むものじゃない。

「ベネットは無理そうなら、俺が飲むよ。」

 そう伝えたけれど、ベネットは同じように意を決した表情で口に含む。

「うーん、炭酸強い。

 これは、一気に飲むとむせちゃうのも仕方ないかも。

 でも、甘いかなぁ。

 辛い気もするけど、うーん。」

 辛い?

 俺にはただただ甘い飲み物ってイメージがあったから、意外な言葉に驚いている。

 もう一度味わうようにコーラを飲んでみる。

 うん、甘い。

「確かにスパイスが効いてますね。あと、香草の類も入ってます。

 でもなんだかお薬みたい。」

 カイネも、むせながらコーラの味を確かめている。

 スパイスか。

 なるほどねぇ。

「コーラについては作り方は分からないんで、なるべく外では飲まないでくださいね?

 あと勝手に工房に変なものを作らせないでください。」

 とりあえず、ハルトには釘を刺しておこう。

「えー、じゃあ、欲しいものとか、作ってもらいたいものはどうするんだよ。」

 そんなこと言わなくても分かるだろう。

「少なくとも、まずはカイネちゃんに相談、その後俺なりベネットなりに言ってください。

 一人で勝手に先走らない。」

 まあ、俺も先走ることがあるから、言えた義理ではないかもしれないが。

「あ、そうそう。アライアス伯から報奨金が出てます。

 はい、カイネちゃん。」

 そう言って、金貨の詰まった袋を手渡す。

「それと、紙幣が発行されたそうですから、順次切り替えていった方がいいと思います。

 期限が過ぎたら、金貨での取引はできなくなりますからお早めに。」

 それでも貴金属としての価値は残るから、所有し続けるという選択肢がないとも言い難い。

 でも、それなら金地金を買った方が安定性は高い気はするけども。

「なんでカイネに渡すわけ? 一応俺が主人なんだけどなぁ。」

 ちょっとハルトは不満げだ。

 でも、お前に渡したら散財するのが目に見えてるしな。

「会計は、私にお任せください、ご主人様。

 ヒロシ様にお支払いするお金などもちゃんと管理していますから。

 必要なものがあれば、何でもお言いつけください。」

 そういうと、早々にインベントリにしまってしまった。

 結構結構。

 そうやって手綱を握ってあげた方が、ハルトのためにもなる。

 

 今日は、最後にハロルドの店による。

 久しぶりに奮発したディナーを頼もう。

「あけましておめでとうございます。」

 そう言って、お店に入ると、滅茶苦茶混んでる。

「ヒロシさん、あけましておめでとうございます。

 今片付けますんで、少々お待ちください。」

 どうやらウェイターさんたちがお休みなせいで、片付けが追い付いてないみたいだ。

「いいですいいです。

 こっちで片付けますんで、お料理の方進めてください。」

 そう言って、テーブルに置かれたままのお皿なんかを、回収して、洗い場まで持っていく。

 ベネットは、タオルを取り出してテーブルを清掃してくれている。

 これで、いくらか隙間が空くだろう。

「すいません、お手を煩わせてしまって。

 これはサービスです。」

 そう言って、ウィンナーコーヒーを提供してくれた。

「ありがとうございます。

 それと、あけましておめでとうございます。」

 俺はみやげの生ハムを渡す。

 ラウゴール領で作られたものなので、ハロルドお手製のものとは若干違う。

 特に部位が違った。

「バラ肉ですか。珍しいですね。

 ありがたく使わせていただきます。」

 快く受け取ってもらえて何よりだ。

「やっぱり混んでますね。

 そういえば、支店は増やさないんですか?」

 そういうと、ハロルドは頬を掻く。

「まだ、シェフが育ってないので難しいですね。

 ヒロシさんのカバンがもっとあれば、キッチンだけの場所を用意して料理に専念するという手も、なくはないですが。」

 セントラルキッチン方式か。

 いいなと思ったけれど、インベントリ分割できる数にも限界はある。

 流石に難しいな。

「冗談ですよ。本気にしないでください。」

 真面目に考えこんでしまって、ハロルドに笑われてしまった。

「今年の春までにはもう1店舗増やせればいいなと思ってます。

 その3店で新人育成が整えばもっと増やすスピードがあげられる、かもしれません。

 まあ、料理は腕次第なのでそう都合よくいってくれないものですよ。

 独立したいって子も増えるでしょうしね。」

 それもそうか。

 なかなかに難しいものだなぁ。

「ねえねえ、ヒロシ。レシピの件は?」

 ベネットが忘れっぽい俺をフォローしてくれる。

「そうそう、忘れるところでした。

 これ、ちょっと変わった料理ですけど、作ってみてもらえませんか?」

 そういいながら、ハンバーグのレシピを渡す。

「ハンバーグですか。

 ひき肉を使う料理なら、お安くできそうですね。

 分かりました。

 少々お待ちください。」

 そう言って、ハロルドは厨房へ向かう。

 しかし、これでいいのかなぁ。

 まあ、どこかで似たような料理があるかもしれない。

 なら、どれが元祖とか、本家かとかは些細な問題だろう。

「ハロルドさんが、どんなアレンジをしてくれるか楽しみね。」

 ベネットは純粋に楽しんでくれているようだ。

 それならまあいいか。

 

 ハロルドの作ったハンバーグは、とてもおいしかった。

 ワインベースのソースとひき肉に大きめに切った豚肉が混ぜられ、あらびき感が演出されていてとても高級感を感じる作りだ。

 ハルトにミンチを作らせると、本当にミンチなので練り物感が出てしまう。

 それとは全く違って、食べやすくしたステーキみたいな感覚だ。

 大変有意義な夕食を楽しめた。

「明日は、レイナ様の所よね?

 どうするの?スクーターは無理よね。」

 ベネットに問われて、俺は少し目をそらす。

「もしかして、スノーモービル買った?」

 そっぽを向きながら、俺は頷く。

「まあ、あれがあれば便利だものね。

 今年は、ハルトを連れて行くんでしょ?

 台数は平気?」

「一応、二人乗りを前提に3台買ってあるよ。

 それと今年は、車を使おうと思う。

 事前にロイドから情報を貰うし、安全に移動できそうだなって思ったから。」

 両方とも、大家さんが所有していた船に納めてある。

 あそこに納めておけば特別枠を圧迫することもない。

 コンテナハウスもそっちに移してあるから、枠はそれなりに空いた。

「そんなに儲かってたんだ。

 凄いね。

 まあ竜を倒せる武器だから、当然か。」

 近代兵器の値段からすれば、スノーモービルや普通の車は安いものだしね。

「まあ、《瞬間移動》をばんばん使うよりかは安く済んでいるはずだよ。

 あれ、1回1万ダールかかるからね。」

 ベネットがため息をつく。

「1回で普通の人の年収が飛ぶんだ。

 傭兵になった時も大分金銭感覚が狂ったと思ったけれど、上には上があるんだね。」

 動く金額が大きくなりすぎて俺も、現実味が乏しい。

 変な間違いを起こさないように注意しよう。

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[一言] ベネットさん、いろんな意味で主人公がいなくなったら生活に困りそう……。
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