1-26 とりあえずは合格?
まあ、いつ俺のチートがチートじゃなくなるかを考えていてもしょうがない。
落ち込んでいる暇があるなら儲けを出せるように努力をしよう。
なんにせよ、お金だよ、お金。
とりあえず、面接はクリアしたみたいだから早速グラスコーの試験をクリアしてしまおう。
暗いうちに作業しておいた方が良い。
グラスコーの荷馬車まで戻ったら、早速ホールディングバッグの中身を出して貰う。
結構な量が詰まってはいるが、1時間もしないうちに全部収納できる。
んで、分かったこととしてどうやら俺のインベントリ、ホールディングバッグの中身を取り出さずに一括移動させられる。
これ盗みとかにも使えちゃうんじゃないかと思ったが、どうやらホールディングバッグの使用者登録さえしてあれば、許可しない物の取り出しはロックできるらしい。
このことを伝えたら、ロック機能があることをグラスコーは知らなかったようだ。
「なん……だと?……」
なんだとじゃねえよ。
持ち主が知らないってどういう事だ。
もしかしてと思って、俺はホールディングバッグ同士の一括移動を試してみた。
案の定可能だ。
取り出しは、相変わらず手作業が必要だがこれで中身を取り出さずやり取りができる。
中身がわからんのが難点だな。
「とりあえず、ロックかけといたら?……」
機能の一部を知らなかったからってショック受けすぎだろ。
茫然自失といった感じでホールディングバッグの使用者登録をしている。
と言っても、大したことじゃないんだけどな。
口紐を握って、登録って言うだけだし、解除も解除って言うだけだ。
複数登録する場合は最初に登録した人間が片方持たないと登録できないが、自分の解除は一人だけでいい。
ちなみに最初の登録者が死んだ場合は、次に登録した物が最初の登録者と見なされる。
んで、全員が解除したら中身がぶちまけられる。
少し気になるのは登録者が死亡したら強制解除なんだが、登録者全員が死亡しても中身はぶちまけられないことだ。
登録せずに廃棄されてたホールディングバッグも、基本中身を保持したまま。
中身ありのホールディングバッグが見つかる可能性もあるんじゃないか?
まあ、それは置いておくとして……
もしかして、俺の”鑑定”みたいに機能を調べる手段は、この世界にはないんだろうか?
試行錯誤して調べるしかないとしたら、ずいぶんと面倒くさいな。
「マジックアイテムの機能を調べたりできないのか?」
当然の疑問だよな。
「方法が無いわけじゃないが、マジックアイテムを作成した人間がヒントを残してない限りは難しいな。」
どうやら呪文はあるらしいのだが、作成者が親切に使用方法を残していない限り大まかな使用方法しか分からない。
それよりも詳しく調べるとなると、呪文そのものを解析しマジックアイテムを分解する必要性が出てくる。
まあ、分解と言っても物理的にじゃなく、魔法的な……
えーっと、プログラム?回路?
そんな物を解体して、一つ一つ調べるらしい。
ともかく研究者に渡して残骸を返されるくらいなら、使用方法が不明なままでも使った方が良いと考える人は多いだろうな。
「……もしかして、お前、マジックアイテムの解析もできるのか?しかも壊さずに?」
俺は良いことを聞いたって言うような表情を作ってやった。
いや、まあ今のところはマジックアイテムの解析だけができるって事にしておこう。
グラスコーの様子からすれば、たとえ同じ能力を持っている人間がいたとしても公表していないのは確かなはずだ。
ここでわざわざ全部話すよりも、都合の良い解釈をさせておいた方が良いよな。
「ちなみに、こういう商売は金になるのか?」
情報は金になるって言ってた気もする。
わざわざ高価なマジックアイテムを壊してしか、手に入らない情報だ。
それなりの金額になるんじゃないか?
「そうだな。基本はギルドに報告すれば、それなりの報酬がある。
と言っても、壊したマジックアイテムに見合う報償じゃない。
偶然見つけられたら儲けもの、くらいな金額だが……
やっぱりお前、魔術師を目指した方がよくないか?」
なんで”鑑定”できるだけで魔術師目指さなくちゃならんのだ?
いや、まあ、興味がないわけじゃない。
呪文を多く覚えられれば、それはそれで贅沢をできる可能性も高くなるしな。
でも、”鑑定”が絡むって事はグラスコーが言う魔術師ってのは研究職みたいなものなんだろうか?
正直、俺の頭でついて行けるかどうか分からんしな。
何せ俺は高卒だぞ?
しかもろくに大学を目指す奴のいなかった底辺工業高校。
情報科だったのに、資格もろくに取らずにフリーター始めちゃったくらいだ。
正直、研究職なんて言われてもな。
どんな仕事なんだかさっぱり理解できない。
呪文さえ教えてくれたなら、そういうお仕事はパスしたいな。
「お前はすぐ顔に出るな。そんなに嫌なら無理には勧めねえよ。」
くそう、みんなそう言うんだ。
その割には何考えてるか分からないとか言われるしよ。
「まあ、とりあえず当面は、あんたのところで働くよ。」
何せホールディングバッグを2つも貰う予定だしな。
一つは、即貰えるらしいからハンスに渡そう。
俺の抜けた穴。
いや、なんか偉そうなこと考えたな。元々、彼らに俺が必要なほど抜けている要素なんか無いはずだ。
まあ、便利な道具を渡せば、きっと役に立ててくれる。
多少なりとも恩返しになるよな。
「ちなみに、今回の情報は俺が報告する。
報奨金は半々で良いな?」
グラスコーは、なにやらメモに書き留めている。
見た感じ羊皮紙じゃなくて普通の紙を使ってるみたいだな。
ペンみたいな物を使ってるが、インクは付けてない。
「なあ、そのペン見せてくれないか?」
ボールペンみたいな物があったりするんだろうか?
グラスコーは、何が珍しいんだと言ったような顔をした後、俺が来訪者であることを思い出した様子で頷いた。
「なんだ、お前の世界には鉛筆もないのか?」
鉛筆?
差し出されたペンを受け取り調べてみる。
あー、確かに先端に黒いものがついてるな。
棒状に整形されているわけじゃなく、先をとがらせる形で砕いた小石を付けてる感じだけど。
「俺の世界にも鉛筆はあるよ。ただ、こんな小石つけたみたいのじゃなくて、細い棒状の芯を木で覆った形だけどな。」
俺は鉛筆を返す。
あー、これも商売になるかな。
と言っても、真似をされればすぐにうま味はなくなるよなぁ……
まあ鉛筆を作る方法を知らないから、すぐに真似をされる程度のものかは分からないんだけどね。
そういえば、消しゴムってあるのか?
確か、昔はパンで消してたとか言う話を聞いたことがあるから鉛筆の普及と消しゴムの普及には年代差があると思うんだけど。
「なあ、グラスコー。間違った字を消すのはどうしてるんだ?」
ここで、消しゴム使うって返されたら、かなり文明レベル高いって判断して良いよな。
「基本は間違えないことだ。慎重に書く。」
お、おう。
せやな。
「仮に間違えたら、紙を削るか古いパンでこするかだな。」
どうやら、消しゴムはまだ発明されてないみたいだな。
どうも鉛筆の持ち手部分は手作りっぽいから、鉛筆を売り出したら値段付けはいくらくらいが妥当だろう。
消しゴムはプラスチック消しゴムになりそうだし、売り出して問題になったりしないだろうか?
そもそも、消耗品だしな。
これで大もうけするには、組織力が必要だろうから俺が工場みたいな扱いになるかもしれん。
やめておこうかな……
特許があるかどうかも分からないが、そもそも製造方法が分からないから特許も取れないし。
まあ、売らずに周りで使う程度にとどめておこう。
「まあ、とりあえずこいつはお前の物だ。」
そういいながら、グラスコーはホールディングバッグの一つを俺に渡してきた。
見た目はぼろい革袋にしか見えないが、500万円かぁ……
特にこれと言った感慨も湧かないのは困ったもんだ。
「あと3日ほど、この水場で過ごすから出発するまでに色々と準備しておけよ?
と言っても、何ができるわけでもないだろうがな……」
そういうと、グラスコーは馬車に上がり毛布をかぶった。
え?
もしかして、ここで一夜を明かすのかよ。
「テントとかないのか?」
雨の日とかどうするんだよ。
「そういう道具は、護衛の奴らが使ってる馬車の方にあるんでな。
今は乾期だ。雨の心配もいらないし、この程度でガタが来るほど柔じゃねえよ。」
そういう問題かね。
まあ、こいつがそれでいいなら放っておくか。
「あ、そうだ。これもってけ。」
突然、荷物を漁りだしたと思ったら陶器製の瓶を投げてきやがった。
俺はあわててキャッチする。
取りこぼしそうであわてたが、昔からこう言うのは苦手だ。
落とさなくて済んで俺はほっと胸をなで下ろした。
「落とすなよ? ハンスもロイドもいける口だ……」
つまり、お別れ会の餞別って所か?
でも俺は、酒の味なんか分からんし、すぐ酔う方で……
まあ、付き合うくらいはできるか。
「ありがとう。」
俺が礼を言うとグラスコーは、こっちも見もせず馬車で横になった。
それは照れ隠しなのかグラスコー。
何とも反応のしづらい行動だなぁ……