10-22 後は作業だ。
いわゆる晒し首という奴ですが、現代でこれやったらとんでもない蛮行ですよね。
次の日から、回収作業が始まる。
兵士さんたちには申し訳ないが、鉱夫の真似事をしてもらう。
俺も当然作業には参加させてもらった。
鉱夫ギルドの人たちから指示を受けつつ、慎重に横穴を掘っていく。
口々にぼやく声が聞こえるが、そのうち自分の出身や兵役が終わったら農夫に戻るとか、別の仕事を探すとかっていう話に変わっていった。
「ヒロシ様は、これで王国の騎士にでもなられるんですか?」
一緒に働いてるのに、様扱いされてもなぁ。
「俺は、ずっと商人見習いですよ。騎士なんて柄じゃありません。」
どうにも尾ひれがついているらしく、俺は龍人なのだともっぱらのうわさになっている。
やったことだけに反論はしにくい。
ハーフドラゴンオーガだと言っても、見た目は龍人と何にも変わらないしな。つぶさに観察していれば違いも分かるだろうけど、そんな暇なんかなかっただろうし。
夜半過ぎにどうにか泥の詰まった空間まで到達できた。
作業を切り上げて、また一晩過ごす。
お風呂入りたい。
こうやって集団行動しているから、コンテナハウスを使うわけにもいかない。
ベネットがやっているように、タオルを濡らして体を拭おう。
「ヒロシ、私がやってあげる。」
そういうと、ベネットは濡れたタオルで俺の体を拭き始めた。
「前より、引き締まったよね。相変わらず、お腹はぽよぽよだけど。」
笑いながら、ベネットは俺の首筋にキスをする。
「やめて、くすぐったいから。それより、ベネットは昼間何してたの?」
またイチャイチャしてるとか言われそうだ。
「狩りと野草を集めてたの。
カイネちゃん凄いね。傷薬になる草とか胃薬になる実とか雪の中から掘り出してくるし、鹿の群れも見つけちゃうし。
熊の寝床を見つけて注意してくれたから、危険も回避できたよ。野営するなら一人はいて欲しい人材ね。」
なるほど、自然に親しむ呪文を習得してるだけはあるんだなぁ。
「じゃあ、今日の晩御飯はカイネちゃんのおかげだね。」
前日よりも、量やレパートリーが充実していた。
「私だって、お料理手伝ったんだけどなぁ。」
ちょっと拗ねたようなことを言うけど、冗談めかしてる。
「ありがとう。ベネットの料理は世界一だよ。おいしいものを食べられて、俺は幸せ者です。」
分かればよろしいと、ぎゅっと抱き着かれてしまう。
もう、人がいる前で。我慢するのが大変だ。
泥を回収し、《集団飛行》でベネットたちを引き連れ開けた空間に降り立つ。
泥を吐きレッドドラゴンは骸をさらしている。見れば、いくつかのバラバラにされた死体があった。
気が滅入る。
とりあえず、遺体は全部回収しよう。泥を回収した廃船と、ドラゴンの体を入れ替えた。
人の遺体はインベントリにしまう。
女性や子供の遺体が多い。みんな押し黙ってしまっている。
金貨やら宝石やらも、山と積まれているが、どこから奪ってきたんだ?
ともかく、それも回収しよう。
全てを回収し終えて、地表に戻る。不要になった廃船は穴の中に詰め込んでいく。
一隻分は、中の残土だけ穴の中に詰め込んでおいた。
大分老朽化が進んでいたので土の重みでバキバキと砕ける音が響いている。
「なあヒロシ、レッドドラゴンの死体どうするんだ? なんかに使えたり?」
ハルトは気を取り直して、明るい声を出す。
いや、前向きなのはいいことだよな。うん。
「いろいろと使えます。だけど、その前に首だけはモーダルの市庁舎前にさらされる予定なんで首を落としてもらわないとですね。」
流石に全身をさらすのは難しそうだ。でかすぎなんだよ。
「え?それ、俺がやるの?」
そのつもりだったんだけどな。
「難しいですか?」
やってみないと分からないという風にハルトは首をひねる。
「ヒロシ様。場所を確保しましたので、よろしくお願いします。」
兵士をまとめているアライアス伯の騎士が声をかけてくる。
解体場所を用意して欲しいとお願いしてたから、報告してくれるのはいいんだけど、様はやめて欲しい。
「私は平民です。普通にヒロシと呼び捨てにしてください。」
失礼しましたって、頭下げるのも違うだろう。
いや、本当に困る。
ともかく、確保してもらった場所まで移動して、レッドドラゴンの遺体をセッティングする。斜面を平らにするの大変だったんだろうなぁ。
以前もそうだったけど、質量が重い物が置かれても、音も衝撃もない。これがどうにも不自然に感じられてならない。
もちろん、若干浮かせば自由落下で音や振動が出てくるんだろうけど、危険だからやる理由もないけど。
「じゃあ、ハルトさん、よろしくお願いします。」
そういって、俺はマグロ包丁を取り出す。
もし戦闘になった時にはこれで戦ってもらうつもりでいた。
「うぇ、でけぇ。」
ハルトはへっぴり腰で、マグロ包丁を握る。そんなのでも、ちゃんと扱えるんだろうか?
そんな心配をよそに、ハルトがちょんっとドラゴンに包丁を触れさせるだけで、バッサリ首が切り落とされた。
ジャキンとか派手な金属音が響いたけど、ハルト自身が動いた気配はない。
おぉと、兵士さんたちや技術者さんたちから歓声が上がり、拍手が巻き起こる。
いや、まあ確かにすごいと言えば凄いのか。俺もつられて拍手する。
ハルトは少し照れながら、マグロ包丁を掲げる。
いやいや、危ないから。
ちゃんと収まおうね。
体は、また特別枠に戻して、頭は荷馬車に乗せる。
これを走らせるのもデモンストレーションの一環だ。
ついでに、残った廃船を取り出し、ハルトに今度はのこぎりを持たせた。
「今度はこれの解体できますかね?」
ちなみにマグロ包丁は鞘に納めてカイネが回収している。ちょっと見てて危なっかしい感じではあったけど、そのうち慣れるだろう。
「まあ、俺に掛かればこんなの楽勝だよ。」
そういいながら、のこぎりを適当に振るい始めた。
いや、それなのに綺麗に解体できること。振るうたびに廃船が綺麗に解体されて並んでいく。
“下拵”というだけに、解体して再利用しやすいように再配置までしてくれるようだ。ドラゴンの体の方も、ハルトにお願いしてしまおう。
下手に誰かに頼むよりも、ずっと安全だ。
今までが地味な作業の連続だっただけに、みんな開放感から大はしゃぎになる。
いや、もう撤収しないとまずいんで兵士を連れて行軍するとなるとモーダルにつくころには年が明けてしまう。
「はいはい、ハルトさんありがとうございます。
じゃあ、皆さん。撤収!!」
そう大きく声を張り上げると、おおー!!と勝鬨みたいな声を上げて走り出していく。
なんだかなぁ。
帰る道すがら、通る町や村では歓待を受けながら、モーダルへと向かう。
ドラゴンを始めてみる人が大半だから、みんな見世物を見る感覚なのかな?
まあ、それはいい。
時折、頭に向かって石を投げたり、悲嘆にくれる人を見るとやるせない。多分、ドラゴンに親類縁者を殺された人なんだろうな。
そういう人に、ありがとうございますと頭を下げられると、罪悪感でいっぱいになる。結局俺は俺のためにドラゴンを殺したに過ぎない。
でも、そんなこと言えないしな。
まあ、それはいいとしよう。俺の気持ちの問題だ。
そういうしんみりした空気と関係なく、大はしゃぎなのは何とかならないか。
落差が激しすぎておかしくなりそうだ。酒盛りはともかく、女性に言い寄られるのは勘弁して欲しい。
こっちは彼女いるんだからと何べん追い返したことか。
お風呂に入ってたら、勝手に入ってくるし。
なので、お風呂に入る時にはベネットと一緒に入ることとなってしまった。
「ごめん、迷惑かけて。」
湯船につかり、ベネットを足の間に座らせている。
いや、無理にそうしてくれって言ったわけじゃないんだけどな。
「迷惑なんかじゃないよ。それとも、一人で入りたかった?」
そういうわけじゃない。出来れば、ずっとこうしてたい。
「一人で入りたかったら、トーラスさんやハルトさんに立ってもらってるよ。
しかし、二人にも女性が言い寄ってるんだって?」
そう聞くと、ベネットは苦笑いを浮かべる。
「ハルトはカイネちゃんがいるから平気だけど、トーラスは困ってるみたいね。
あそこまで言い寄られたのは初めてだってぼやいてた。」
彼女がいるわけでもないんだから、別に困ることはないんじゃないかと思わなくもないけど。選ぶ権利くらいはあるよな。
「そういえばヒロシの世界には、第二婦人や妾みたいな制度はないの?」
触れてこなかったことに突然触れられて俺は戸惑う。
「え?何、いきなり?」
俺が浮気しても平気ってこと?
「だって、断り続けるのも大変でしょ? お金持ちや貴族だと普通にお妾さんがいるし、第二婦人はちゃんとした制度だから。
もちろん、世継ぎの問題があるからなんだけど。」
そう言うのは、あくまでも家という制度が強いからであって、俺はそういう身分じゃない。仮に必要になった時が来たとしても、出来れば避けておきたい。
というか。
「ベネットは、俺が他の人としてても平気なの?」
平気と答えられたらベネットが俺に興味が無くなてしまったみたいでいやな気持になる。
もしかして、迷惑をかけてるって事ばかり言ってるから気にしたのかな。それなら、まだいいけど。
「平気じゃないけど。」
平気じゃないなら、何故勧める。
「断るのが苦痛なんて思ったこともないよ。相手に申し訳ないなって気持ちになることはあるけれど、少なくともベネット以外と関係を持ちたいとは思ってない。
俺の住んでいたところの話なら、昔はあったよ。
だけど、廃れて浮気とか一時的な関係はあっても、ちゃんとした制度はなくなっちゃった。」
それがいいとも悪いとも言えないけども。
「だけど、それと他の人を拒むのは関係ないんだよ。ベネットがどうして欲しいか、とかでもなくて。俺がそうしたいんだ。」
ベネットだけが欲しいんだ。
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