10-20 プランは決まった。
救国兄弟団としてもかなりの誤算が生じています。
こんなに易々と偵察を許しているのはそれらの混乱から復帰していないためです。
地形は把握できた。地質も大体把握できた。
なら後は、救国兄弟団の目的を調べるべきか。
奥に進めば、扉があった。急ごしらえなのか、粗末な感じではあるが、何かあるんだろうな。
「ハルトさん、中に誰かいますか?」
とりあえず、人がいる気配はないが、念のためだ。
「いや、いない。倉庫かなんかなんじゃないの?」
倉庫か。念のために調べよう。
まず扉を“鑑定”する。
びっくりしたことに《魔法錠》と《警報》がかけられている。俺は呪文を唱えて、《解呪》でそれらの呪文を取り除いた。
罠や機械的な鍵もあるかもしれない。
「ハルトさん、罠があるかもしれないので、確認して開けてください。」
姿が見えないので、みんなが周りにいるのか不安になってくる。
「ヒロシ、時間は平気?」
ベネットは声をかけてくる。
「部屋に入ったら、バリケードを作って閉じましょう。帰りは《瞬間移動》で帰ります。」
また、1万ダールとぶのか。
持ってる金額が大きいので、手軽に使い過ぎそうで怖い。金銭感覚が狂う。
「罠はない。鍵はかかってたけど、開錠したよ。」
そういうハルトの声が聞こえ、扉が開かれる。
「入りました。全員入ったかどうか、確認させてください。」
そういうと、全員が返答してくれた。
マーナは鼻を鳴らしただけだけども。とりあえず、これでひと段落だ。
バリケードを押して、いったん閉鎖する。
しかしこの部屋は何だろう?
机の上には、詳細な地図と日付が描かれていた。モーダルが襲われた日時と一致する。
だが、本来なら襲撃はもっと長期化する予定だったみたいだな。
報告書の類もある。
いかにラウレーネが無力であるかをアピールしたうえで混乱させ、年明けに船団を送り込む予定だったらしい。
サンクフルールの海軍か。
それと同時に南の回廊部分を通って、陸軍も侵攻する予定だったようだ。
完全に国を売りつけるつもりだったんだな。
どうやら、報告書の文面を見ると帝国とサンクフルールは現在仲たがいをしているようだ。
なので、帝国との対決を前にフランドル王国を黙らせたかった様子がうかがえる。
牽制でやるにしては、大規模すぎるけどな。
しかし、ドラゴンを追い払うという名目で船団の砲撃をモーダルに打ち込むとか言うのは、滅茶苦茶だな。
打ち合わせ済みとか、もう完全にあのドラゴンはサンクフルールの犬だ。
人のことを虫けらだなんだと言いながら、その虫けらに従ってるお前は虫けら以下じゃないか。
とはいえ、計画はもう古いんだろうな。
すでにラウレーネは復帰し、モーダル襲撃も1日で終わってしまっている。
確かに街は混乱しているが、いきなり外国の船団が来たからってお題目もなしに砲撃はできないだろう。
もしやったら、それこそ攻撃の材料にされかねない。
帝国だって、喜んでフランドルに協力するだろう。
あるいは、船団が到着する日に合わせてドラゴンを呼び寄せるか?
船団との連絡は取れているのかは不明だ。
いずれにせよ、この情報は持って帰ろう。
カメラで撮影して、現物は置いていくけど。
呪文の効果が途切れる。
「帰りましょう。」
そう言って、バリケードを回収し、全員で俺の家まで転移する。
「ふへぇ、あつい。」
ハルトがソファに腰かけて、ぐったりとしながらコートを脱いでいく。
「結局寒いのは外だけで、中メチャクチャ暑いじゃん。勘弁してよ。」
俺は緊張してて暑いとは感じてなかったけれど、確かにコートの中は汗だくだ。
とりあえず、脱ごう。部屋の中は寒いのか、湯気が立っている。
トーラスやベネットからも湯気が出てる。
「サウナ後みたいだよ。シャワー浴びたいね。」
トーラスもソファに腰かけた。
「それで、ヒロシは作戦思いついたわけ? あれ倒せそうなん?」
ハルトが大して興味もなさそうに聞いてくるけど、別に伝えても問題ないか。
「出入り口を爆破して逃げ道を塞ぎます。その上で、押しつぶして殺す予定です。」
俺の言葉にみんな固まる。
なんでだろう?
一番簡単な方法だ。再生持ちだろうが、窒息すれば死ぬ。アンデットでもないから、呼吸はしてるしな。
「いや、戦わないのかよ!」
何で戦わないといけない。あんなのは、土の中に埋めてしまうのが一番いい。
”売買”で土を買おうと思ったら、残土は無料で手に入るらしいし古い壊れかけの廃船を集めれば、あの空間を埋め尽くす程度の土は収まっておけるだろう。
生きているか死んでいるかはハルトの能力があれば十分だし、あとは人を使って掘り返せばいいだろう。
一番安全かつ、効率的な倒し方だ。
ただ、特別枠をそれなりに使うから常に使える戦術でもない。それに閉じ込めておける状態を維持できなければ実行は不可能だ。
つまり出入り口の封鎖というのが瞬間的にできないとまずい。
「戦いたいというのであれば作戦変更しますけど、多分埋めてしまうのが一番成功率が高い気がします。」
こっそり爆薬を仕掛けるだけでいいしな。
「何で埋めるの?」
ベネットの問いかけの意味がよく分からない。
あぁ、水で埋めるというのも手か。
「土で埋めるつもりだったけど、水の方が早いかな?」
そっちの方が早く窒息しそうだ。いっそ、水と土を同時に流し込んでやろうか。
「いや、地面掘って逃げられないかな?」
まあ、普通はそう考えると思う。
でも実際は、土の中で自由に動き回るのは容易なことじゃない。特に柔らかな土でおおわれ、硬い岩にぶつかると、岩を削るための踏ん張りも効かずうまく掘れない。
生き埋めって言うのは恐ろしいものだ。
「まあ、もし地面から這い出したら、大砲をぶち込んでやりましょう。」
俺はにっこりと笑う。
「ねえヒロシ、怒ってるの?」
「怒ってるよ。」
それも、かなりむかついている。戦わせてなどやるものか。
「でも、事を仕損じるつもりはないから、ちゃんと実行可能か検討するよ。鉱夫ギルドの人とも相談してみる。
構造的に無理であれば、計画を変更するよ。
爆薬については、高性能なものを買うけど、それが上手く使えるかどうかも検討しないとね。」
やろうとしてみて、失敗しましたじゃお話にならない。ちゃんと相談はしよう。
「でも、土を出すのに視認できてないとまずいんじゃ?」
カイネが呪文使いらしい疑問を投げかけてくる。
「呪文と違って《魔法の目》を経由して出現させることが可能です。」
一応、実験はしている。
まあ、大量の土で埋まっていったらどうなるかは分からないけれど、改めて実験しておくか。
「もちろん、俺が言っていることが不可能な場合もあるから、何か質問があればどうぞ。」
どうしたんだろう? みんな黙ってしまった。
「ヒロシって、残酷なのな。」
ぼそりとハルトが呟いた。俺は眉をひそめてしまう。
「そんなに残忍な方法ですかね?
いや、もしそういう事であれば別の方法を探しますけど。」
俺の言葉にベネットは静かに首を横に振る。
「とりあえず、専門家の人の話を聞いてからにしましょう。
もちろん、あの赤竜が転移系の呪文をもっていたら、根本から話が崩れてしまうけれど。確認してるよね?」
俺はベネットの言葉に頷く。
生来呪文に慣れ親しんでいるドラゴンは、成長とともに呪文をいくつか覚えるというゲーム知識はあった。
だけど、あのドラゴンは巨体の割には呪文には精通しておらず転移系の呪文を使いこなせるだけの腕は持っていない。
「とりあえず、何か飲む? 私も喉が渇いちゃった。」
そう言って、ベネットが立ち上がろうとする。
「あー、俺はコーヒー飲むから。ベネットもそれにする?」
そういいながら、缶コーヒーを取り出す。
「あ、うん。そうする。」
割とベネットも気に入ってくれてるから、最近は罪悪感が薄れてきた。
「え? 缶コーヒー? じゃあ、俺コーラが飲みたい。」
それは買ってないんだよなぁ。
「すいません、ジュースとか炭酸水しかないですね。トーラスさんは、お酒ですか?」
そういいながら、俺はハルトとカイネの前にジュースの瓶と炭酸水の瓶を置く。
「そうだね、ソーダ割で。
しかし、結局あの馬鹿でっかい銃は使い道が無いね。ドラゴン退治には、うってつけかと思ったんだけど。」
確かに、一発では貫通出来なかったけれど、鱗を砕けてたんだから同じ場所に打ち込めれば有効打を与えられたかもしれない。
「まあ、生き埋め作戦が上手くいくとも限りませんしね。その時はよろしくお願いします。」
俺は、苦笑いを浮かべてしまう。
「うーん、ジュースを炭酸で割ると薄くなっちゃうなぁ。コーラ買えるんだったら、売ってくんね?」
ハルトはジュースに不満な様子だ。
「ハルト様、お値段にもよりますけど、あまり無駄遣いはなさらないでください。」
カイネが真剣な表情でハルトに注意する。
「いや、そんなにしないでしょ? ジュースと同じくらいの値段だし。」
俺が何時、同じ値段で売るといったハルトよ。
いや、まあケースで買っても2500円程度だから、銀貨4枚くらいで売ってやらんこともないが。
「言っときますけど、そこら辺にペットボトルとか捨てたら二度と売りませんよ? それと24本で40ダールです。」
これで拒否されるなら売らない。
「ぼったくりじゃん。えーっと、24本で40ダール?えーっと、いくらだ?」
ハルトは暗算が苦手らしい。俺も苦手だ。
「約1.7ダールです。割り切れないので、そのくらいのお値段だと思っておいてください。」
すっとカイネが1本当たりの値段を算出してくれた。
「やっぱりぼったくりじゃん。2倍くらい取るとか酷くね?」
酷いと言われたところで、値引きをするつもりはない。
大体コーラなんてまだどこにもないんだから、10倍の値段を付けたって文句を言われる筋合いじゃない。
「いやなら、他で買ってください。」
そういうと、ベネットとトーラスがくすくすと笑いだした。
「なんですか?」
笑われるようなことを言ったかな?
「いや、商人らしくなったなって。」
トーラスは、微笑みながらソーダ割を口に含む。、
「まだまだ、修行が必要だと思うけどね。」
そういいながら、ベネットは俺の手を撫でる。
うーん、これは褒められてるって事でいいのかな?
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