10-17 ドラゴンに敵うはずないだろ。
平然としているようでいてかなりダメージを受けています。
肉体的にも、精神的にも。
"踊れ踊れ、虫けらどもが!!
俺の腕をもいだ償い、しっかりしてもらうぞ!!"
相変わらず、チンピラみたいな物言いだ。
山のようにでかい体を持っているのに、なんでお前はそんなにみみっちいことばかりを口にする。
ふざけやがって。
戦えるかどうかなんて知ったことか!!
一発殴らなきゃ気が済まん!!
俺は、巨体に合わせて作ってもらった槍を取り出し、ドラゴンの頭めがけて突撃をかける。
頭だけでも俺よりも巨大だ。
注意が眼下に向いていたのか、それとも俺くらいのデカさじゃ目にも入らないのか、ともかく綺麗に槍の一撃がドラゴンの頭にぶち当たった。
ガチンっという、まるで金属同士をぶつけ合ったような音が響く。
レッドドラゴンは、よろめき地面に足を付けた。ズンっと地面を揺らし土埃を上げ、山が空から落ちるような衝撃が空気越しでも伝わってくる。
その巨体のせいでよろめくだけで建物が壊れる。
”なんだ!!ラウレーネの所の龍人か?邪魔をするな!!”
ドラゴンは咆哮を上げ、翼をふるう。まるで巨大な鉄柱を振るわれるようだ。
視界一杯に赤い鱗に覆われた翼が眼前に迫る。
避けるなんてできるわけがない。
ガラガラと瓦礫をまといながら俺に迫ってくる。
槍で受け止めたが、力強いふり抜きに俺もよろめいてしまう。
よくもまあ、受け流せたものだ。
さらに追撃とばかりに、尻尾が振るわれた。今度はまるで壁が斜め上から降ってくるようなものだ。
激しい打撃に俺も地面に叩きつけられてしまった。
バキバキと鱗が砕け、肩が折れ、首が折れそうだ。
それでも何とか潰されずに済む。
《竜化変身》のおかげで頑丈な体を得たからだろう。普通の人間だったらぺっちゃんこだ。
実際、地面がえぐれ、いろんなものが尻尾の形に潰されていた。
尻尾をどかされ俺が思わず膝をついたところで、ドラゴンは大きな顎を開き俺を飲み込もうとする。
大きく開かれた口の中は生臭い匂いと硫黄の匂いが入り混じったような悪臭を放っている。
まるで、あたり一面が赤黒い肉の壁に覆われ牙が生えて迫ってくるようにすら見えた。
恐怖心が俺の心を埋め尽くす。
ラインズのように上半身をかじり取られる未来を幻視した。
だが、それも一瞬のことだ。
鱗がないなら、刃を立てることができるはず。俺は立ち上がり、思いっきり槍を突き出す。
柔らかい口内を槍で突かれて、引き裂かれる痛みに、ドラゴンは身を引く。
おそらく、口の中に針を突き立てられた程度でしかないが、それでもそれをやられたら怯むくらいはするだろう。俺は、その引かれていく頭に何度も槍を突き出す。
しかしすべて避けられる。
あんなにでかい頭なのに、槍の先は全く届かない。槍を振るっても砕かれた肩の痛みにうめくくらいしかできていない。
あまりのスケールの違いに、距離感がおかしくなる。
ドラゴンは、翼をはためかせ上空へと逃げていく。徐々に高度がまし、ドラゴンとの距離が開いてしまう。
そうしているうちにドラゴンの準備が整ったのか周囲の温度が上がる、そしてカチカチと音が響く。
炎が周囲を包み込んだ。
あたり一面が火の海に包まれる。
石造りの建物ばかりだから、延焼することはないが、炙られた石材は表面が溶けて表面が滑らかになるほどの温度だ。
だが、半竜となっている俺に効き目は薄い。炎に対する耐性が弱いとはいえ変身によって付与されているからだ。
もちろん、無傷というわけにはいかない。表面の鱗は赤熱化し、その下の肉が焼けるにおいがする。
それでも、まだ死んではないない。
ブレスをかき分けて、攻撃するくらいの余裕はある。
「お前の腕をもがれたのは、お前が悪いんだろうが!! くそったれが!!」
俺は、思いっきり槍をぶん回してドラゴンの頭をぶん殴った。
またガチンという音が響くが鱗がひび割れているのが分かる。
そこに狙ったかのように銃弾が撃ち込まれた。
おそらく、トーラスに渡したAW50の一撃だろう。
狙撃ポジションを確保したようだから、これ以降はトーラスのサポートを受けられる。
鱗が砕け散り、派手に血を飛び散らせながらドラゴンの頬が削れ飛ぶ。
思っていたよりも損傷が激しい。
かなりの痛みがあったんだろう。ドラゴンは言葉にならない咆哮を上げる。その音の衝撃だけで、俺の体が後ろへと押し出されてしまう。
その隙を突いてドラゴンは翼をはためかせ、はるか上空へと逃げ去って行ってしまう。
”覚えていろよ!! 人間に与する愚かものが!! 必ずお前も喰らってやる!!”
そんな捨て台詞を履いて、悠々と逃げ去っていく。
駄目だ。
俺の翼じゃ、追いつけない。巨大だから鈍重なイメージがあるが、俺なんかよりも数倍速い。
追いすがっても、ぐんぐん距離を開けられてしまう。
こんなことなら、《電撃》や《氷結爆砕》みたいな攻撃呪文を習っておくんだった。《火球》や《炎の泉》ではレッドドラゴンにダメージを与えることはできない。
銃弾が数発撃ちこまれるが、12.7mmの銃撃でも鱗を砕く程度で、さしてダメージにならないようだ。
くそ!!
何時までも追いかけるわけにもいかない。
眼下の街はいたるところで建物が倒壊している。
あまりの高熱に補助で使われている木材や中の家財などで火の手が上がりつつある。
ともかく、消火活動をしよう。
追いつけない相手を追うよりも、人命救助が優先だ。
ドラゴンが壁を越えて人が住む場所から遠ざかったからなのか、大砲の音がようやく響き始めた。
駄目だろうな。
ああいう使い方では、当てることすら難しいだろう。
1日で使える水をすべて使い果たし、ようやく街を舐めるように広がる火災を鎮火できた。
惨憺たる状況だ。
《竜化変身》も途中で途切れてしまい、気を失いそうになってしまう。
変身が解けても傷も一緒に消えてくれるわけではないから、元の体に戻ると損傷に耐えられなくなる。
解ける前に《治癒》のポーションを飲んでおくべきだったな。
俺は、インベントリに巨大な槍を納め、《治癒》のポーションを飲み干す。
街区が丸々焼き落され、建物が崩れて多くの人が押しつぶされている。
泣き叫ぶ人や乾いた笑いを浮かべる人、無表情にたたずむ人。
混乱に乗じて盗みを働くものや、逆に人を助け出そうと働く人もいる。
現実感がない。
ただ、もっと早く飛べばよかった。
そうしていたら、もっと人を助けられたんじゃないだろうか?
いや、違う。
ラウレーネが傷つき、守護が出来なくなっている時点で動くべきだったんだ。
何をやってたんだ俺は。
馬鹿じゃないか。
何をダラダラしてたんだ。
探し出して、予備的に打撃を与えておけばよかった。
そうすれば、少なくともラウレーネが復帰するまでの時間を稼げたかもしれない。
砕かれたレッドドラゴンの鱗が目に留まる。
俺はそれを懐に納めた。
そのあとは、さ迷い歩き大家さんの家の前までやってきてしまう。立派だった邸宅は、完全に崩されていた。
俺は、必死に瓦礫をどけていく。
……どれくらいの時間がたっただろう。
血の匂いがした。
無残に胸や腹を潰された大家さんと執事のロバートさんの遺体を見つけた。
恐怖心がわく。
死体に対する本能的な恐怖だ。
そう思ってしまう自分が、信じられない。自分で探してたんじゃないか。
なのに、見つけたとたんに怖がるなんて。
俺は馬鹿なんだな。
「おい、あんた。それ、家族なのか?」
誰だろう、見たこともない人が俺に声をかけてくる。
俺は首を横に振った。
「大家さんです。部屋を借りてたんですけどね。いろいろとお世話になってたのに、助けられなかった。」
不思議なものでも見るような目で見られた。
まあ、そうだよな。所詮、俺と大家さんは大家と店子の関係でしかない。
何を必死になっていたんだろう。
「とりあえず、市の役人が遺体を回収すると思うから目印を立てたら帰んな、兄ちゃん。
ひどい顔してるぜ。」
そいう言われて、俺は自分の顔に触れる。
いや、涙が流れているわけでもない。
俺は、薄情な人間なんだろうな。
「ありがとうございます。」
俺は声をかけてくれた人に礼を言って、アドバイス通りに目印を立て、大家さんとロバートさんの遺体に布をかけた。
そこまで死体を見たくないのかと、俺は苦笑いを浮かべてしまう。
駄目だ、帰ろう。
カールのいるであろう修道院へと足を向ける。
その途中、混乱した街の様子が目に飛び込んでくる。
窃盗を働くもの、人を攫おうとするもの、女性に暴力をふるおうとするもの。
それに対抗するように武装した人々が争い始めている。
衛兵たちがそれを納めようと必死に駆けずり回る中、市中警備を任されているはずの青の旅団が公開処刑をする場面にまで出くわしてしまった。
嫌な予感がする。
カールは無事だろうか?
あいつはゴブリンだ。下手をすれば、それだけで殺されてもおかしくはない。
なんとか、マリドネル修道院までたどり着けた。
避難してきた人たちでごった返している。カールは、いるだろうか?
「おい!!ヒロシ!!こっちだこっち!!」
そう言って、ジョンが俺に手を振ってくる。
俺は人をかき分けて、ジョンのもとへ急ぐ。
「すいません、どいてください。お願いします、通して。」
思わず突き飛ばしたくなってくる。
だが、そんなことをすれば混乱が広がりかねない。
イライラが募る。
そんな俺を見かねてジョンの方からやってきてくれた。
「カールは奥にいる。
今、外に出てたらやばいからな。」
小さい声で耳打ちをして、カールの無事が確認できた。
俺は、ほっと胸をなでおろす。
修道院の宿舎に通され、何とかカールと再会できた。そこで、俺は体の痛みに耐えきれず、倒れこんでしまう。
セレンとアレッタに抱えられ、今はベットの上で横になっている。
《治癒》のポーションで傷は癒えているわけだけど耐久力への一時ダメージもあり、まともに体が動かせない。
しばらくは安静にしていろと言い渡されてしまった。
「師匠、ドラゴンと闘ってくれてたんですね?」
看病のためなのか、ユウが俺のそばにいてくれる。
でも、なんで知ってるんだろう?
「いろんな人が見てたそうです。師匠が龍人に変化して戦ってくれたって。」
なるほど、考えてみれば隠しもせずに派手に戦ってたからな。
そりゃ、注目もされるか。
「全然敵わなかったけどね。」
実際、まともなダメージを与えたのは、トーラスの一撃くらいだ。
でも、考えてみれば後先考えなさすぎだった。ベネットにあんなこと言ってたのに、あとで怒られそうだなぁ。
いや、もしかしたら。
そう思ったとたんに通知が来た。
ベネットが先生のインベントリに納められている。
そうだよな。先生に言えば、ベネットにはいずれ伝わるよな。
俺は、ベネットをインベントリから解放する。
彼女は、完全武装状態で現れた。
俺の姿を見て、ブラインドサイトゴーグルを跳ね上げると瞬間的に怒りの表情を浮かべ、その後に悲しむ顔を見せて、喜びと安堵の表情が入り混じる。
それでも言葉を飲み込み、俺の傍らに膝をつく。
ゆっくり、いとおしそうに俺の頬を撫でてくる。
ようやく、言葉が見つかったのか、ベネットは口を開いた。
「ヒロシ、平気?」
俺は頷く。
「大家さんが亡くなってしまった。部屋の契約どうなるんだろうね。」
そういえば、甥御さんはどうなったんだろうか?
無事ならいいけど。
でも、無理難題吹っ掛けられそうだよなぁ。
「いいよ、何とかするから。だから今は眠って。」
そう言って、ベネットは俺の頭を撫でる。途端に眠気に襲われ、俺はまどろんでしまった。
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