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10-16 来てほしくない時ほど来るもので。

信じたくなくとも起こってしまったことは覆せません。

 居留地には、暁の盾と入れ替わるように青の旅団が入り、市街地の警備を任されることになった。

 突然治安が悪化するようなことはないけれど、ちょっと不安だ。喧嘩っ早いことで有名だからなぁ。衛兵さんたちとも仲が悪い。

 それと、グラスコー商会の警備はカレル戦士団に依頼を切り替えることになった。

 今も、契約している暁の盾のメンバーは残ってくれているが、年明けには契約切れるしな。トーラスはまだ暁の盾との契約が残っているけれど、ほぼ仕事は入ってないそうだ。

 だから、しばらくモーダルでゆっくりすると言っていた。

 こうしてみると、いろいろ変わるものだなぁ。1年で目まぐるしく変わって、俺としては追いついていけない。

 水道の工事なんかも順次行われてるみたいだし、気づかないうちに変わっていくなぁ。

 ふと気になって、土木工事をじっと見つめてしまった。水路を迂回させ銅管を水路の中において、上から土をかけてる。

 結構な厚さの銅管らしく、重たそうだ。土を敷き詰めたら、突き固める道具で地面をたたき、作業が終わる。

 とはいえ、雪の降る中そんな作業をするんだから大変だよなぁ。

 いかんいかん、今日は腐った麦を復活させる予定だ。さっさと倉庫に行かないと。セレンからは、《再生》のポーションを受け取って、それをベネットに渡した。

 ラウレーネの翼も、あと二日三日で動かせるようになりそうだと聞いている。

 ちゃんとお礼を言わないとだしな。

 さっさと行こう。

 

 ドラゴンのこともあり、マーナを抱き袋で抱えながら行動しているわけだけど、最近大きくなったので肩が凝る。

 倉庫に付いたら、マーナを下ろして背中を反らした。

「ヒロシさん、そろそろマーナには歩かせた方がいいですよ?」

 セレンが笑いながら、マーナを撫でる。

「いや、雪が積もってるんで、歩かせていいのかなって悩んだんですよ。」

 そういうと、不思議そうな顔をされてしまった。

「狼は森に棲んでるんですよ。雪くらい平気じゃないですか?」

 そういわれるとそうか。今度から歩いてもらおう。

「とりあえず、早速作業しましょうか?」

 そういいつつ、俺はインベントリから麦袋を取り出す。

「《食料浄化》で食べれるようにはなりますけど、おいしくなるわけじゃないんですよねぇ。目方も減っちゃうし。」

 そう言って、セレンが呪文を唱える。すると、あっという間に袋が萎んでしまった。

「半分くらいですかね?」

 とりあえず、1日どれくらい復活させられるだろう。

「腐敗具合にもよると思います。後、4袋位まとめて浄化できると思いますよ?」

 そうなのか。

 とりあえず、言われるまま4袋取り出す。

「後、何回使えますか?」

「あと5回ですね。」

 という事は、2日24袋を浄化できるのか。

 結構な量が浄化できそうだ。

 1袋が大体30キロだから、1日720㎏くらいは食べれるようにできるのは強みだな。どれくらい目減りするかは分からないけれど。


 もちろん、この作業には別途費用を支払わないといけない。


 1回銀貨5枚程度の喜捨をしないといけないので、300ダールほどの費用が必要だ。

 もちろん、これは教会に納められる金額で、セレンにはその半分くらいが渡される。

 とはいえ魔法じゃなければ腐敗した食べ物を元に戻すなんてことはできないんだし、高いとは決して思わない金額だな。

 むしろ安い。

「とりあえず支払いは麦でもいいって、司祭様は言ってましたよ?

 また、相場が乱高下してるみたいですからね。」

 案の定か。ドラゴンの姿が見えないので、襲われるかもという不安もありつつ、それでも今日まで何事もない。

 じゃあ、平気なんじゃないかと気が緩む。

 特に今回は、早期に警戒態勢が取られた割に、被害の話が全くない。このままいけば、何事もなく終わりそうだ。

 ラウレーネの体調があと2,3日で回復しそうだというのは、市に連絡はしてあるけれどそれが発表されるのは、早くても明日の午後だろうな。

 そうなれば、また麦の値段は下落しそうだ。

 とはいえ、冬なんだからそんなに値段を下げていいもんでもないだろう。

 後で足らなくなって、値段が吊り上がる結果になりそうだ。

 それも市場の原理である以上、下手な介入はしない方がいいんだろうけども。


 不意にマーナが慌てたように鳴き始めた。

 俺は、背筋が凍る。

 マーナと意識を共有できるようになってから、マーナの焦りや恐怖を感じることができるようになった。

 やばい、恐れてきた事態が起こりそうだ。

「どうしたんですか、ヒロシさん?」

「避難場所、把握してますか? 早く移動してください。後、なるべく広い通りは通らないでください。」

 俺は作業を中断して、倉庫の外へ向かう。


 空を見上げた。


 まだ遠いが、確実に来ていることが分かる。マーナのおかげだ。向かってきている方向の門へ、スクーターを飛ばす。結局マーナを抱き袋で抱えているけど、今は非常事態だ。

 スクーターに追従させるわけにもいかない。

 というか、雪でスクーターが左右にぶれる。駄目だ、一旦スクーターを収まい、走って門へ向かう。


 もどかしい。


 こんなんだったら、ちゃんと走りこんでおくんだった。俺はどうにか門の前までたどり着く。

 それと同時に黒い影が通り過ぎて行った。

「ドラゴンだ!! 鐘を鳴らして!!」

 俺は乱れる呼吸に苦しみながら、叫んだ。

 衛兵さんが、あわてて鐘を鳴らす。

 それと同時に遠くで爆発音が響く。

 ブレスの音か?

 俺は、壁の上へと駆けあがる。

「おい!!貴様何者だ!!」

 見張り番の衛兵に呼び止められた。

「竜の友ですよ!! ヒロシと言います!!」

 そういいながら、俺は双眼鏡を覗く。

 火の手が上がり、その炎の中にドラゴンの姿が見えた。遠くて悲鳴や叫び声に混ざり、ドラゴンが何をしゃべっているのかは、分からない。

 だけど、何かを言っているのは確かなようだ。


 こういう時に大砲は役に立たない。

 既に門の内側だ。


 山なりに飛ぶ弾速の遅い大砲では周りに被害を与えるばかりで対処できないだろう。


 くそ。


 トーラスには、もっと早めに対物ライフルを渡しておくべきだった。

 ……今からでも遅くはない。

 買っておいたAW50を送ろう。

 ついでに、手紙を書いておく。

 確か、トーラスが住んでいる地区はドラゴンが襲っている地区とは若干距離がある。


 あそこは……


 大家さんが住む地区だ。


 震える手を抑えながら、俺は手紙を書き上げる。

 この際、悪筆なんか気にしてられない。

 他に誰に連絡する。


 くそ!!


 暁の盾がまだいてくれたら。

 そうだ、先生やレイナに状況を知らせよう。二人なら、呪文で対応できるかもしれない。

 とりあえず、知り合いには避難所に急ぐように手紙を出そう。

 事前に書いておいてよかった。


 でも気付いてもらえるかな? 不安だ。


 確か、イレーネやレイシャはモーダルを離れている。アノーやロドリゴもだ。

 ジョンやユウ、ノインはモーダルにいるはずだ。

 確か修道院が避難所になっているはずだから、ジョンは平気か。

 最悪、インベントリ越しの移動をすれば、大丈夫なはずだ。


 グラスコーは?


 大丈夫、少なくとも地区が違う。あいつも、インベントリ越しの移動ができるはずだし、何とかなるだろう。

 ハロルドにもそのことは伝えてある。


 くそ、じゃあなんで大家さんに渡しておかなかった。


 それにライナさんも、別に事務所のインベントリを持っているわけじゃない。

 自宅にいるだろうから、徒歩で避難所に行くだろう。

 無事であってほしい。

 ベンさんはグラスコーと近い場所にいるから、あいつに任せておけばいいだろう。

 ハルトは、カイネにインベントリを持たせている。こっちも地区が違うから平気なはずだ。

 他に忘れている人間はいないか?


 あぁ、カールだ。

 カールがまだ家にいる。


 迎えに行かないと。

「おい!あんた竜の友なんだろう?

 早く、ラウレーネ様を呼んでくれ!!もう治ってるんだろう?」

 誰何してきた衛兵さんが俺にすがるように言ってくる。

 双眼鏡を持っていたらしく、襲われている地区の惨状が見えたんだろう。

 だが、俺は首を横に振るしかない。

「後、二日は安静にしてないとまずい状態です。ともかく、それまでは自分の身は自分で守ってください。」

 愕然とした表情をされる。


 でも、事実だ。


 どうあれ、飲み込んでもらわないとどうにもならない。

 俺は、階段を降りて、自宅へと向かう。

 マーナを抱えていてはいざという時危険だ。並走するように、走り出す。

 雪に足を取られ、もつれながらだからマーナの方が早い。外で鳴き声がすればカールも気づくはずだ。

 あるいは、避難場所に向かってるかもしれない。

 ともかく、俺は雪をかき分けるように走ることしかできなかった。

 マーナが鳴くのを聞いたからなのか、カールがフード付きのコートを着て、外に出てきた。

「カール、分かってるな?マーナと一緒に修道院に逃げろ。広い道は歩くな。いいな?」

 そう告げて、俺はドラゴンのいる地区へと足を向けた。


 あぁ、馬鹿、俺は馬鹿だ。


 《飛行》の呪文があるじゃないか。なんで忘れてる。

 俺は前の俺とは違う。戦えるんだ。

 それに《竜化変身》を使えば翼を使うこともできる。


 今なら、戦えるんだ。


 俺は呪文を唱えて、竜化したオーガの姿に変身する。

 翼をはためかせ、空を翔けてドラゴンのもとへと向かう。

 見まがうはずもない。


 あのレッドドラゴンだ。


 以前よりも、一回り大きい気もする。腕も再生している。

 確かに、ドラゴンには再生能力を持っているのは事実だ。。だが、ラウレーネのように大きな損傷を受けていれば、回復までに年単位の時間を要する。

 この短期間に回復させるには《再生》のポーションが必要なのは変わらないはずだ。


 つまり、誰かがこのドラゴンを強化したという事だろうか?


 怖気づきそうだ。俺は戦えるのか?

 逃げ惑うしかできなかった俺が、あいつと戦えるのか?

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