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10-15 色々と忙殺されてるなぁ。

日常に忙殺されると警戒心が薄くなってしまうものですよね。

 結局決算が終わるまで缶詰にされた。

 文字が書ける人間はもれなく動員だ。アノーやロドリゴも文字が書ける。ハルトも何のかんの言って書ける。

 グラスコーは度々脱走を図るが当然逃がさない。

 ともかく、決算だ。

 今年は、ライナさんだけじゃない。

 エキスパートのイレーネを筆頭にレイシャもセレンも存分に能力を発揮してくれた。

 んで、思いっきり怒られる日々だった。ベネットに書いてもらった帳簿はミスもないのに、それ以前の俺の帳簿がひどすぎた。

 いやだって、いろいろあったじゃん。計算が合わないことだってありますよ。

 許してください、勘弁してください。

「ヒロシってやっぱダメ人間なんだな。」

 ハルトがうれしそうに呟く。

 いや、お前も頑張ってくれたから今回は許すよ。

 ドラゴンが襲ってくるかもって言う情報がもたらされたのは、その最中だ。市から直接役人が訪れて、避難場所や事前の連絡体制についてあれこれ指導していった。

 ほとんどベンさん任せだったけども。

 ありがとうベンさん。

 後で、ちゃんと聞きます。

 というわけで、1週間が矢のように過ぎ去っていった。

 

「なんだよ、年末前に終わっちまったなら、そんな急ぐことなかったじゃねえか。」

 そういいながら、グラスコーはぶちぶちと文句を垂れている。

「だから、今年は私も打ち上げに参加できるんでしょうよ。

 でも、今年は楽だったわね。去年の書式が使えたのがよかったのね。

 ありがとうヒロシ。」

 ライナさんに褒められた。

 決算の最中は怒られっぱなしだったけど報われた気分だ。

「あれは、いいですね。ギルド側にも喜ばれると思います。

 タイプライターも、とてもよかった。やっていて心が弾みました。」

 イレーネはなんか嬉しそうだなぁ。

 セレンやレイシャはうんざりしながらイレーネを見ているけども。

「指が40本くらいあるんじゃないかと思った。どうりで上手いわけよね。」

 えーっと、レイシャさん何が上手いんですかね?

「まあ、あとは年会費を納めるだけで終わりですよね? お疲さまでした。」

 俺は書類と年会費を納めた金庫を閉じる。

「そういえば、イレーネとレイシャは旅行か? ドラゴンがうろついてるかもしれねえから気をつけろよ?」

 グラスコーが珍しく気を使ってる。

「母に挨拶に行きます。それと、例の件よろしくお願いしますね?」

 例の件って、なんだろう?

「分かってるよ。準備は進めとく。」

 なんか、グラスコーと約束事でもあるのかな?

 まあ、いいか。

「アノーさんと、ロドリゴさんは田舎ですか?」

 俺の振りに二人とも頷く。

「今年は余裕があるから、ちょっと顔を出しておこうと思ったんすよ。

 まあ、ドラゴンが怖いんでさっさと行ってさっさと帰ってきますけどね。」

 アノーはいつもの調子で答えてくれたけど、ロドリゴは何にも言わない。ただ頷いただけだ。

 でも、ボーナスが出たのでどことなく嬉しそうだ。

「私は修道院のお手伝いですよ。年末くらいゆっくりしたい。」

 不満気にセレンはワインを口にする。

「いい子にしてたら、お年玉上げますよ。」

 そういうセレンは噴き出す。

「子ども扱いですか。まあ、楽しみにしてます。」

 そういえば、去年はベネットにそういわれたなぁ。

「ライナさんは家ですか?」

 そう尋ねるとそうねと答えられた。

「子供がいると遠出はできないもの。それにドラゴンでしょう?

 前は、こっちに来なかったけれど、今回は来たって言うのじゃシャレにならないもの。

 ちゃんと避難できるようにしておかないとね。」

 そういえば、ライナさんの家族と会ったことがないなぁ。

 年明けには挨拶に行くか。

「そういえばベンさんはどうするんですか?」

 去年は確か倉庫にいたような気がするな。

「今年も倉庫にいると思うぞ。警備の傭兵もいるし詰めなきゃいけない理由もないんだけどな。

 そういうヒロシは今年はどうするんだ?

 去年は田舎帰りずらしただろ?」

 確かに年末ではなくて、年明けだったなぁ。

「時機を見ますよ。ハルトさんも連れて行かないとですし。」

 ハルトが怪訝な顔をする。

「ん? なんで俺がヒロシの田舎に行かないとならないの?」

 前に説明した気がするんだけどなぁ。

「ハルト様、お仕事です。」

 カイネがハルトの耳元で囁く。

「あ、そっか。」

 思い出したようにハルトは頷いた。

「蛮地に資源が眠ってるかもしれないんで、それを探してもらう予定ですよ。」

 ハルトが何者かという事はおぼろげながらに伝えてある。

 鉱山を探す山師みたいなものだと言ってあるけど、普段はふらふらしているから詐欺師の異名としての山師と勘違いされてそうだ。

 一応、アライアス伯の領地とはいえ硝石の鉱脈は見つけさせているので、実績は積んでる。

 けど普段の態度がなぁ。倉庫に顔を出しても、何か手伝うわけでもなくおしゃべりしては帰っていくの繰り返しだから、ライナさんの視線が冷たい。

 いや、これはこれで役に立っているんだけどね。ちゃんとお願いすれば仕事してくれるし。

 

 久方ぶりに暁の盾に顔を出す。居留地は何やら引っ越しの準備が始まっていた。

 市との契約が切れるのかな?

 団長の部屋に通されると、難しい顔をしている団長に出迎えられた。

「まさかトーラスまで引き抜かれるとは思わなかったよ。ちょっと計画が崩れそうだなぁ。」

 渋ーい顔をされてそんな切り出し方をされれば、頭を下げるしかないよな。

「すいません。事前にお話ししておくべきでした。」

 そういうと、団長は手を振る。

「いや、まあいいんだ。トーラスの腕を考えれば、前線で使いつぶしていい才能じゃない。

 それでも、いろいろと無理難題を押し付けざるを得ないって言うのが実情でな。これも俺がちゃんとやれてないって証だ。」

 ため息をつかれたけど、暁の盾はやっぱりモーダルでは一番の傭兵団だと思う。

 まず何よりも組織力がある。団員だって、見た目に反して礼儀正しい。

 護衛任務や警備任務もそつなくこなしている。

 双璧を成すと言われてる青の旅団が見た目通り荒くれ者の集まりなのと比べれば、やっぱり頭一つ抜け出している感じはする。

「俺は、暁の盾は優れた傭兵団だと思いますよ。まず何かあれば、お仕事をお願いしたいと考えてしまうくらいです。」

 お世辞じゃなく、まじめにそんな感じになってしまう。

 一つの所に依存しすぎるのはよくないので、なるべく依頼を分散させて入るけれど。やっぱり最初に考えるのは暁の盾だ。

 その上で、どうしても暁の盾と比較してしまう。

「そう言ってくれるのはありがたいがな。とはいえ、モーダルともそろそろお別れだ。国軍に参加しないかという誘いが来てな。」

 国軍?

 王直轄の軍という事、だよな?

「お、おめでとうございます。」

 団長は、俺の言葉に苦笑いを浮かべる。

「まあ、そういう反応になるよな。王国直属の騎士ならともかく国軍ってなんだよって話だろうが、最近の流行りさ。

 騎士のように武力を自前で用意させるわけでもなく傭兵に金を払うでもなく、常設の軍隊を用意しようって言うんだから物好きというかなんというか。

 まあ、お隣さんが圧迫掛けてきてるし、唯一蛮地を挟まない領地を取られてるからな。

 陛下としても、本気で奪還したいんだろう。」

 そんな地域があったんだな。知らなかった。

 すっかり他国とは蛮地を挟んでるか山脈に隔てられているのだとばっかり思っていたから、知らない情報に慌ててしまう。

「ヒロシは知らなかったのか?

 まあ、その若さなら知らなくてもおかしくないか。もう30年くらい前の話だったしな。

 サンクフルールと帝国がそこを通って国中を荒らしまわった。

 その後、分け前で決裂した隙を付いて反攻を仕掛けて、どうにか蓋みたいになってる領地を残して奪還に成功したわけだ。

 で、今度は逆にこっちから攻め入ろうって話も出てる。

 今のところ机上の空論だがな。

 いずれにせよ、そのくらいの気概がないとまた同じような憂き目にあいかねないからな。」

 平和を求むるなら戦争に備えよ、か。

「じゃあ、今回の引っ越しって言うのは?」

「陛下のご下命だ。

 俺は男爵位を賜るし、小隊長連中は王国直属の騎士になる。

 とはいっても、領地は海外の僻地だからほとんど代官任せになっちまうけどな。

 それとは別にちゃんと給料を現金で支払ってくれるってことだから、悪い話じゃない。」

 まさしく栄転だろう。

 でも、なんか団長は浮かない顔だ。

「悪くはないんだが、仕切りがな。軍事を任されていたバウモント伯を差し置いて、若い騎士が国軍を率いるらしい。

 表面上は、バウモント伯が軍の長だが、副官の騎士がすべてを取り仕切るそうだ。

 まあ、そこはいい。問題は、そいつがベネットに一騎打ちをやらせた野郎でな。」

 俺は、思わず頬を引きつらせてしまった。

「女の尻に隠れるような野郎の下に付くのは気にくわんが、国軍の構想や軍隊の作り方って考え方には納得させられた。

 なので、俺も明日にはここを発つことになっちまうわけだが。

 最後に話せてよかったよ、ヒロシ。」

 そう言って、団長は俺に手を差し出した。

「ご活躍、期待しています。何かあれば、お手紙をください。できうる限り、お力添えいたします。」

 俺は、団長の手を握る。

「頼りにしてるよ。それと、ベネットのことをよろしくな?」

 団長は気持ちのいい笑顔を浮かべてくれた。今後も、何か縁があれば協力したいな。

 まあ、出来ることは商人の真似事くらいしかできないけれども。

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