10-13 兵器って高いよなぁ。
ヒロシはどんくさいです。
「それで、どうしましょう?
元々は俺のいた世界の兵器です。売り払って、元の世界に戻すって言う方法も取れます。
破棄って言うのもできなくはないです。
というか破棄するのが一番安全なのかな?
法的なことを言うと発見者のものになりますけど、彼らに渡すって言う選択肢はないですよね?」
間違いなく、今回と似たようなことをしでかすだろう。
となると、破棄なのかなぁ。
もったいない。
「ヒロシ君、気にせず売り払っていいよ。」
先生は事も無げに言うものだから、ちょっと俺は慌てた。
「いいんですか?結構な額ですよ?」
俺の様子に先生は面白そうに笑う。
「君は大金を一気に使えばどうなるか知っているだろう?
その代わりと言ってはなんだけれど、資金の提供は取りやめさせて欲しい。
結構な金額だからね。」
まあ、確かに結構な金額だ。
これを貴族の見栄で膨らませると、結構痛手だろうなぁ。
「というわけで、みんな新品の武器については目にしてないという事で決着させたい。それでいいよね?」
先生は釘をさすように、ベネットとレイナを見る。笑顔だけど有無を言わせないような雰囲気があるな。
「私は、別にいいですけどね。
ただ、少なくとも使用された武器については提出してくださいね? じゃないと、今回の事件自体を説明できなくなるんで。」
レイナはため息をつく。
ベネットは黙ったまま、視線を彷徨わせている。色々と聞きたいけど、怖くて聞けないという感じなのかな?
「ごめんなさい。聞かなかったことにしていいですか?」
ついに断念したのか、忘れることにしたようだ。
「んー、金額を聞きたいけれど、聞くと怖いってところかなぁ。」
先生は興味深げに言うけれど、それはそうだろうなぁ。俺もベネットに伝えたくない。
なら最初から見せなければよかったのに、と言われれば、まったくもってその通りだ。
結局、悪いことをしている自覚があるだけに、共犯者を作りたかっただけのような気もする。
つくづく、俺は意志薄弱だなぁ。
とりあえず、手に入れる資金は別枠で管理しよう。
所持金の枠も、多分タブ分けみたいに分けられるだろうし。
「じゃあ、後始末よろしく。我々は何も見てない。いいね?」
先生の言葉に全員頷く。
「さて、そっちは片付いたとして、問題は犯人捜しだよねぇ。何をしたいんだか。
でも、生きて捕まえてくれてありがとうヒロシ君。とても捗りそうだよ。いろんな意味でね。」
いろんな意味ってどんな意味だろう?
あんまり考えたくない。
ともかく、兵器を処分してしまおう。
ちょっと手放しで喜べる金額はオーバーするけれど、今回の件と修道院で使った金額は余裕で回収できる。
とはいえ、どうしたものかなぁ。
適度な金額は消費した方がいい気はする。
まあ、当然ながら売買のレベルが上がったけれども確認はまた今度でいいよな。
「しかし、すっかり夜も明けてしまったね。急に呼び出したけれど、平気かいヒロシ君。」
先生の言葉でカールのことを思い出す。マーナもほったらかしだ。
これは、一度家に戻らないとまずい。
「ベネットちゃんは、しばらくこっちに残っていて欲しいんだけれど。どうしようか?」
どうしようかと聞かれても。
「俺だけ、いったん家に帰ります。何かあれば連絡ください。」
そういう選択肢しかないよな。
《再生》ポーションを回収しないといけないし。
俺はベネットの手を取る。
「くれぐれも気を付けて。何が起こるかは分からないから、いざという時はちゃんと自分の身を守ってね。」
そういうとベネットは小さく頷く。
「ごめんね、ヒロシ。ああいうヘマはもう二度としないから。」
ヘマではないんだけれど。
「ベネットが焦った気持ちは分かるし、ヘマだとか言うつもりはないよ。ただ、君を大切に思ってるだけだから。」
あぁ、もうこれもイチャイチャしているように取られるんだろうなぁ。否定はしない。
思いっきりイチャイチャしたい。
名残惜しいけれど、いつまでもこうしてはいられない。
一旦手を離す。
「彼女の身の安全は私が保証するよ。レイナちゃん、ヒロシ君を頼むね。」
先生の言葉にレイナは若干うんざりした顔をしつつ頷く。
「どうせ貴族連中に連絡を取らないとですし、お母様の所にもいかないとですから、ついでです。」
そういうと俺に触れてレイナは《瞬間移動》した。
レイナ宅の居間に戻るとあわただしくレイナは準備を始める。多分、着替えて貴族相手の交渉ごとに乗り出さないといけないんだろうな。
「ヒロシ君、今度モーダルの部屋教えてよ。そうすれば、そっちにも送れるようになるし。
帰り一人で大丈夫?」
なんだ、その働くお母さんみたいなセリフは。
思わず、俺は顔をしかめてしまった。
「ごめんごめん、大の男に言うセリフじゃなかったね。あー、それと出来ればこれをモーダルの市庁舎に持って行ってくれる?
例の暴れん坊に襲われる可能性もあるしね。」
レイナは不吉なことを言う。
いや、可能性は無いわけじゃない。ラウレーネが居てくれたおかげで何とかなってたのだし、場合によればそんなこともあるか。
「もはやあれは、交渉とかそういうことができる状態じゃないから。腕をもがれたことが相当屈辱だったみたいだし。
逃げるか、倒すか、どっちかしかないと思う。」
レイナはため息をつく。
「会ったことあるんですか?」
そういうとレイナは頷く。
「ラウレーネ同伴でね。
いろいろと恨み言を言われてたけど、あれはもう理性残ってないよ。
自分から襲い掛かったくせに、反撃されてそうなったと思ってないし。他の色彩竜はまだ話を聞いてくれる分だけまだマシなのかなぁ。
結果として今回みたいに人間と結託したりもするから、厄介と言えば厄介だけど。
そういう意味で、あれ使えたら便利だったんだけどなぁ。」
対空砲を想定してるのかな。
確かにあれはあれば使いたくなるだろうな。人相手でも。
「あ、言いたいことは分かってるよ? 提出する武器についても、壊してから提出するから。」
慌てて、レイナは手を振る。
いや、気持ちは分かるから別にそれを責めるつもりはない。
「気にしないでください。結局、あれって弾薬がなければ使えない金属の筒でしかないですし。
デモンストレーション用にいくつか取っておくべきでしたかね。」
俺の言葉にレイナは首を横に振る。
「多分見せても私みたいに欲しがるだけだから。実際被害があったことは遺体を見せれば十分だよ。」
確かに。
あの遺体の惨状を見せれば十分納得できるだろう。
というか、あれ見せられるのか。義務とはいえ、ちょっと同情してしまう。
慣れない雪道をなるべく急いで車を走らせる。
これ、スノーモービルかなんかの方が安全か?
どうにか家にたどり着くと、居間でカールがカップラーメンを食べていた。
あ、そうか。
一応非常食は置いてあるものな。
しかし、お前は本当にカップラーメン好きな。
「おかえりご主人様!マーナにも餌をやっておいたよ?」
おお、マーナの食事も忘れてなかったのか。
確かにえさも非常食置き場に置いてはいたけど。
教えてないのに世話をしてくれるとは、非常に助かる。
「ありがとう、カール。マーナ、ただいま。」
そういえば、グラネはベネットが一緒に連れて行ったんだっけ?
世話とか大丈夫かな?
あそこに厩とかあるんだろうか?
後で手紙で聞いておこう。
「倉庫、行かないとかな。明日は休むか。」
緊張が途切れたのか眠気が襲ってくる。
倉庫に一応顔を出し、起こった出来事を伝えて明日は休むと伝えた。
帰って、速攻で寝てしまう。
おかげで変な時間に起きてしまった。
明日は休むと伝えてはあるので、ベネットに手紙を書いてそのことを伝えた。
ついでに、グラネの状態を尋ねる。
返事は、しばらくすると届いて厩があることや世話をしてくれる龍人の馬丁さんがいるという事だ。なんか不思議な気分になる。
いや、確かゲームでは馬と竜が交配した種もいたはずだから世話する施設があっても不思議ではないのか?
竜の繁殖力というのも謎だよなぁ。
竜同士の繁殖力は高くないという話は聞いたけれど龍人は結構いるし、ゲーム設定が間違っていないならドラゴンは全ての種と子孫を残せる。
実は一定年齢を過ぎれば《変身》の能力を手に入れて、自在に種を変更することが可能だ。
そうすることで、竜の因子を残せるというのがゲームの設定だった。
けど、それはこっちの世界でも同じなんだろうか?
興味は尽きない。
いや、余計なことを考えるのはよそう。もう一度寝て明日は早めに起きて調整し、明後日には仕事に復帰しないと。
というか、どうしたものかなぁ。資金が有り余るとは思わなかった。
無理やり寝たので、思った以上に早起きしてしまった。
市庁舎に届ける手紙もあるし、朝食を取ったら早めに届けよう。
朝が早いので、辻馬車はまだ走ってない。自転車に乗って、市庁舎に向かう。
道すがら、街を眺めていると人だかりがあるのに気づく。確か、そこは穀物商人たちの倉庫があった場所だったか?
とりあえず自転車をしまって、話を聞いてみるか。
「何かあったんですか?」
なんか女性が多い。
「ここの商人が古くなった麦を焼いたって噂になってね。
焼くくらいなら、私たちに寄こしなさいよって押しかけてるのよ!!」
かなり興奮気味で、口々に訴えている。
いや、そんな馬鹿な。今年は豊作だとはいえ、麦は保存の利く食料だ。
そんなに簡単に破棄したりはしないだろう。
「何かの間違いじゃないんですか?」
疑うのは当然だよな。
「それが、商人本人は否定してないのよ!!」
えー、そんなことあるか?
そんな疑問を抱いていたら、こわもての男たちが棒をもって女性たちを排除し始めた。
「うるせーぞばばあども!!貧乏人に食わす麦なんざない!!」
「お前らに食わすくらいなら、目の前で焼いてやるぜ!!」
そういいながら、実際に麦を燃やし始めた。大分古いせいか、大分きつい匂いがする。
あー、これは貯めこみすぎて処分に困っていたパターンか。
それにしても、わざわざこんな悪趣味なことをしないでも。そんなに相場下がってたかな?
いや、これから多分上がるんだよなぁ。後で、グラスコーに連絡しておくか。
とりあえず、巻き込まれた振りをしておばちゃんたちが棒で殴られないようにフォローしておく。
「いって!!」
そんなことをしてたら、思いっきり背中をぶったたかれた。
「に!兄ちゃん邪魔だよ!!どきな!!」
「すいません、すいません、帰りますんで。」
俺はペコペコ頭を下げて、その場から退散した。
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