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10-8 先生の授業はいつも楽しい。

ベネットは意外と差別意識が強いです。

 先生の愚痴を聞きながら、授業を受けた。

 まだまだ触りの部分だからまだちんぷんかんぷんだ。

 基本的な部分は俺の知っているゲーム知識に合致する。だけど、その中身となってくると話が違う。

 そもそも、日本に魔法というものが存在しない。

 理屈を説明されて何とはなしに理解はできていたけれど、実際のその仕組みとなるとゲーム知識では得ることはできない。

 今まで、魔法だとか呪文という言葉を使っていたが整理して考えないと。

 そもそも、魔法というのは魔力を利用する技術全般を指す言葉だ。

 それに対して呪文というのは魔力を利用し様々な効果を発揮させるための動作や言葉を意味している。


 もちろん、これを万人が扱うことはできない。


 少なくとも、秘術系にしろ信仰系にしろ才能というものが必要とされる。

 前者は魔力を感じるための才能、後者は神からの寵愛だ。

 幸い俺は魔力を感じる才能があるので呪文を扱える。

 そういう呪文を使うものを総称して術者と呼ぶ。

 これは、信仰系の呪文であっても同じだ。

 じゃあ、それらの術者以外が魔法の恩恵を受けられないかと言えばそんなことはない。


 それがマジックアイテムやゴーレムの類だ。


 どちらも、製作には術者の手を借りなければならないし、中には術者でなければ利用できないものはある。

 だがそれらは例外だ。

 大半のものがあらかじめ作ってさえいれば、呪文の効果を得ることが可能だ。しかも呪文と違って永続的に効果を得られる作りのマジックアイテムも多い。

 じゃあ、それらの動力源が何かといわれれば魔力という回答になるだろう。


 で、魔力ってなんだよって話だ。


 ここからが正直ついていけない話だ。

 そもそも土台から科学というものに喧嘩を売ってる。

 そんなものがあったら、世界の法則が乱れる。

 いや、乱れた結果がこの世界なんだから、文句を言ってもしょうがない。

 もちろん魔法の関わらない部分ではもちろん物理法則は同じだ。

 というか、よくそんな世界で科学が発達したものだと思わなくもない。

「何のことは無いよ。

 一時的に魔力が世界から消えたことがあったからね。

 理由は不明だけれど、少なくとも呪文を使うことで消費されないはずの魔力が消えたのは確かなんだ。

 私も伝承に聞く程度の知識しかないけれど、それで一度滅びかけてるからね、この世界は。」

 俺の疑問に先生は真面目に答えてくれた。

「え? じゃあ、ドラゴンとか空も飛べないですよね?」

 そうだねと先生はあっさりと答えた。

「物理法則に反しているものは、ほとんどが絶滅しかけてたよ。

 今も生きながらえているのは、体内に残った魔力を利用して何とか維持していたという事らしい。

 実際、その時期の竜は無駄な翼を閉じて地面を這いずって生きていたんだとか。

 人間以上の寿命を持つ生物も、その時期に大分寿命が縮んでしまったらしいし繁殖も難しくなってしまっていたそうだよ。

 それが本来あるべき姿だって言う教会の人もいるけど、それが神の意志だったかどうかは不明だね。

 いずれにしろ、魔力が永久不変というわけではないのは確かだよ。

 だから電力を魔力に変換するという事は、そういう悲劇を繰り返さないという意味でも重要な研究なんだ。」

 なるほど。

 この世界の基礎に魔法がある以上、それが失われれば悲劇につながるというのは頷ける。

 そういう意味ではダンジョンというのも、邪悪と切って捨てるのも問題なのかもな。

「ちなみに習っていて思ったんですが、ほとんどの素材は秘石で代用が可能なんですね。

 魔獣の体を利用することで消費を抑えることはできるとはいえ、ほとんどは秘石頼りというのは驚きました。」

 秘石が何かといえば、魔力が結晶化したものと考えればよさそうだ。

 事実、これらを使えば再度呪文を準備し直すことも可能になる。


 1日に準備できる呪文は大抵術者のレベルによって決まる。

 各呪文に定められたレベルごとに何回と定まってくるわけだけど、秘石を消費すれば準備を再度することで用意し直せる。

 もちろん、高いレベルの準備をやり直すには、それに比例して秘石を消費しなければならないわけだから手軽に行えるって言うものじゃないけれど。

「効率は大分落ちるけれどね。

 そこら辺は、電力とかと似ていて、何でもロスなくエネルギーを引き出せるわけじゃない。

 だから、できうる限りそれらの能力を使っていた器官を用いる方が魔力を無駄にせずに済むわけだよ。

 それに製作期間も短くなる。

 まあ、面倒だし全部秘石を使えばいいだろうって人も多いけれどね。

 というか生態を調べなければ、それがなんに利用できるかという知識は得られない。

 それらをまとめようという動きもこれまでなかったから、お互い相手の知らない使い方を知っているような状態なんだよね。」


 なるほどなぁ。


 だから、まだ素材を集めてそれを売買するという習慣がなかったのか。

 結局魔法使い同士のネットワークがなければ、効率の悪いことはいくらでもありそうだ。

 後進の育成もままならないんじゃないかと思ってしまう。

 教育機関としては、大学やギルドが設置している学校というのは存在している。

 ただ、どれも高額の授業料が必要だ。

 ちょっと文字を習うというだけでも、なかなかのお値段を支払わないといけない。

 ましてや魔術の授業ともなれば個人的に魔術師に弟子入りして習わないといけない。

 大学は魔術師にとって研究をする場所であって、教育を受ける機関ではない。

 しかも先生みたいに高名な魔術師が大学に縛られるわけもなく、時々ふらっと現れては論文を置いていくような人が大半なんだとか。

 もう、最早魔術師同士のネットワークなんて言うのは望むべくもない。


 それでも先生はまだ社交的な方だ。


 幾人かの友人と情報交換をし、基礎的な教育についても腐心されている様子がうかがえる。

 コミュニケーションもしっかりしていて疑問については段階を踏んで教えてくれて、一緒に考えてくれるという教育者としては申し分ない人だ。

 中には本を与えて、知らんぷりなんて魔術師も……


 あれは、もはや例外か。


 レイナの場合は、弟子というよりも小間使いだとでも考えてたんだろうな。

 酷い話だ。

 まあでも、貴族のお姫様でもあるし、そのくらいの態度が当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけども。

 

 授業が終わり、メイさんの出してくれたマフィンと紅茶でもてなされた。

「もしかしたら、私がいないこともあるかもしれないけれど、授業はメイでも進められるから心配しないで。

 まあしかし、まさか死体を持っていこうとするとは思わなかったよ。」


 死体?


 何の死体だろうか?


 記憶があいまいだが、先代の西部守護を任された銀竜の遺体かな。

 多分、素材の話もあるし利用価値は高いんだろう。

 とはいえ先代とはいえ、守護を担っていた竜に対する仕打ちとしてはあり得ない話だ。

「本当に、この国の人間なんですか?」

 いや、そういう人間がいてもおかしくはないんだろうけども。

 腑に落ちない。

「あぁ、アーバレスはすっかり忘れられてたみたいだからね。

 不干渉をあまり貫きすぎると敬意を失ってしまうという事なのかもしれない。

 ただ、そうだね。

 帝国やサンクフルールの人間がかかわってないという確証もないか。」

 帝国というのは南にある国だというのは聞いた覚えがある。

 サンクフルールというのは、どこの国だろう?

「西の野蛮人どもがかかわってるんですか?」

 ベネットが忌々し気に吐き捨てた。

 穏やかじゃないな。

「野蛮人は言い過ぎだよ。

 この大陸ではフランドルを含めて三大国と並び称される国なんだし。

 文化的にも産業的にも後れを取ってるんじゃないかな。

 植民地競争には北のベレスティア連合に後れを取っているようだけれど、地力があるからね。

 王権もフランドルに比べて強いから蛮地がなければとっくに侵略されてたかもしれない。

 まあ、そうなればそうなったでまた図体がでかくなりすぎて分裂するんだろうけどねぇ。

 何べん同じことを繰り返すのやら。」

 そういえば、先生に見せてもらった世界地図に書いてあったかもしれない。

 蛮地を挟んで西側に大きな国があったように思う。

 そこがサンクフルールだったかな。

「いずれにせよ、国軍がなければもはや対抗できないだろうね。

 軍事系の貴族たちはそれを痛いほど理解しているだろうし、傭兵頼りはいずれ脱却しないとね。

 まあ、私はエルフだからどこが国を取ったところで関係ないんだけども。」

 俺はげんなりとした顔をしてしまった。

 近代的な戦争が近いんじゃないかと思うと胃が痛くなる。

「ベレスティアも奴隷貿易で儲けていて野蛮ですけど、サンクフルールはもっと野蛮です。

 植民地を搾取するのが大好きだし他の王家を奴隷扱いするし、すぐに戦争を吹っ掛けてくるし、最悪です。」

 そんなにアグレッシブなんだなぁ。

 まあ、植民地なんか持ったら反乱には悩まされるだろうし、対応が苛烈になるのは自然にも思える。

 フランドルだって、植民地には同じような対応なんじゃなかろうか?

 あくまでも、植民地レースに出遅れているから目立ってないだけだと思うんだよなぁ。

 他の王家を奴隷扱いというのは気になるけども。

 聞いてみるか。

「王家を奴隷扱いって言うのはどういうこと?」

 ベネットは口ごもる。

 代わりに先生が語り始めた。

「あー、うん。

 あまり女性からは言い出せない対応をしたんだよ。

 征服した国の王女を見せしめに処刑して、娘を妃の一人にしたんだけど。

 扱いがメイド以下だって話があるんだ。

 もっともメイド以下の扱いっていうのは嘘なんだけどね。」

 ベネットが面食らったような顔になる。

「嘘なんですか?」

 先生は驚くベネットの言葉に頷く。

「妃にされたところまでは本当。妃にした際に本人の合意がなかったというのは問題だったかもね。

 でも、扱いはちゃんとした妃の扱いだよ。

 複数の妃がいるせいで権力が分散しているし、敗戦国から人質扱いで嫁いだわけだから発言権や待遇は数段落ちるけれど一般人から見ればやっぱり羨むような生活をしている。

 だけどプライドが許さないんだろうね?

 本人が、奴隷扱いされてるって喧伝しているんだ。

 もちろん、フランドルも帝国も都合がいいので、サンクフルールの言い分には耳を貸してないけれど。」

 先生は苦笑いを浮かべる。

 ベネットは今まで本当だと信じていたことが嘘だと言われたせいで、困惑していた。

 先生の言葉が嘘だという可能性も考えているだろう。

 俺にだって、真実かどうかは分からない。

 時代が進めば、あるいはマスコミというものが発達してくるだろう。

 でも、そのマスコミだって真実を語ると誰が保証してくれるだろうか?

 結局のところ、真相などというのは本人に聞いてみなければ分からない。

 というか、本人にも分るかどうか。

 俺も先生と同じように苦笑いを浮かべてしまう。

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