表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/603

10-7 後始末もつけて。

一難去ってまた一難といった感じで雲行きが怪しくなってきます。

「はー、面白かった。今度はちゃんとヒロシの領地に呼んでよね?」

 ミリーは、キャラバンに戻るという事で荷物をまとめだした。

 臨時で作ったミリー専用のインベントリやラウレーネの鱗で作ったナイフは俺の手元に返されてしまった。

 ナイフはともかく、インベントリは持って行ってもらってもいいんだけどな。

「そんなに簡単に領地なんかもらえるもんか。

 今回だって、結構な散財をしたし、もっと儲けないと。」

 考えてみれば、修道院関係は全くと言っていいほど収入がない。

 スクロールを準備したり、ウォーターボムを準備したり、特注の武器を用意したりと何かと出費が多かった。

 まあ、その金のいくらかはこの世界を巡るわけだからまったくの無駄でもないし、教会にいい印象を与えただろうと期待はしている。

 だから、まったくの無益かといえばそうでもないが。

「ああいうことをするために、お金貯めてんでしょ? 頑張ってもっと儲けなよ、ヒロシ。」

 ミリーが清々しい笑顔を見せる。

 俺はそこまでの善人じゃない。

「違うよ。俺は、俺のために金を使ってるんだ。

 まあ、今回は楽しかったって言うのは確かだけどね。」

 ひねくれちゃってと、ミリーが声を出して笑い始めた。

「これ、ヨハンナさんに。こっちで見つけた薬草だから、よかったら使ってね。

 また、冬に会おうね、ミリーちゃん。」

 ベネットが、摘んできた薬草をミリーに手渡す。

「分かった。まあ、また何かあったらこっち来るかもね。

 私以外も。」

 いや、来てくれるのはうれしいけど、手軽に使われすぎるのもなぁ。

 何も起きてないから安全なのかなと思わなくもないし、実際それでセレンは助かったんだから使わない理由はほどんとなくなったわけだけども。

「まだうじうじ悩んでるの? さっさと送って?」

 そうだな。

 一番安全な送り迎えなんだから、ためらう理由はない。

「じゃあ送るよ。またな、ミリー。」

 そう言って、俺はミリーをインベントリに入れる。

 そして、ハンスたちの専用インベントリに移した。

 事前に今日帰るとは伝えてあるから、すぐにミリーが取り出されたのは確認できた。

 

 騒がしかったな。


 ちょっと寂しいと思うのは、多分気のせいだ。

「なんだか静かになっちゃったね。落ち着くと言えば落ち着くけど。」

 ソファに腰かけ、ベネットが足を投げ出す。

 確かに、ごたごたが終わったのでセレンとユウは自分の家に戻ったし、アレッタは修道院の再建に大わらわだ。

 ジョンもそれを手伝っている。

 しばらく、スカベンジャーは休業という事でロドリゴの遺跡定期便もお休みだ。

 ハルトとカイネも今日は顔を出して来ない。

 本当に静かだ。

 カールはマーナと遊んでいるから、誰もいないってわけじゃないけど。

 本当に久しぶりの静寂だろう。

 俺もベネットの横に座る。

 いつの間にか、手をつないで、そのままの流れでキスしてしまった。

「昼間っから?」

 確かに日が高いよな。

「ごめん、ちょっとたまってる書類を整理するよ。いろいろありすぎて、おろそかにしすぎてた。」

 勉強の方も、続けてはいたけどカリキュラムは遅れ気味だ。

 ちゃんと授業を受けないとなぁ。

「レイナ様の所にも顔を出さないとだし、やることはいっぱいあるんだよねぇ。」

 そういいながらベネットは、両手を上げて、グーっと背中を伸ばす。何かと忙しいのは俺も彼女も一緒だ。

 そういえば、官報のチェックも怠っていた。いつくらいから読んでないだろう?

 発行されればともかく購入はしていたけれど、結構たまってるんだよなぁ。

 とりあえず積んでいても意味がないので、古いものから順に読んで、いらなさそうな官報は捨ててしまおう。

 競売の情報なんかは、割と重要な情報でもある。不動産から、装飾品の類までいろんなものが競売に掛かれている。

 破産したものや税金滞納者のものまで様々だ。


 ちょっと気が滅入るのが奴隷も競売にかけられてるんだよなぁ。


 財産がないとそういうことになるのは仕方ないけれど、物のように売られる人がいるというのはちょっとやるせない。

 財産である以上買い手がつかないからと言って殺されてしまうってことは無いからましだろう。

 ただ病気にかかってしまうと治療はしてくれない。最低限の食事を提供してくれるのみだ。

 体力がないと、これからの時期は厳しいだろうなぁ。

 まあ、見ず知らずの人に同情していても仕方ない。切り替えよう。

 

 一通り、官報を読み終えて一息つく。

 気になったのは、水道の話だ。どうやら露天の水道を水道管に変える事業が始まるみたいだ。

 事業者の募集はあったけれど、水道管自体はどうするのだろう?

 そこら辺については記載されていない。


 ちょっと気になるところだ。


 ギルド経由でそこら辺を問い合わせておいてもいいかもしれない。

 実は、それについて前々から用意してあるアイディアがある。水道管用にウーズの皮をコーティングした鋼管を何本か試作している。

 もとより、俺はあくまでグラスコー商会の一員なのでアイディアを出したに過ぎないわけだけども。

 それでもグラスコーは面白そうだ位にしか口を挟んでこないので、自分が了承を取りつつ主導させてもらった。

 もちろん、水道管だけに使うつもりでは無い。他にも液体として輸送したいものや気体として輸送したいものにも使えるはずだ。

「ヒロシ、そろそろお昼食べるでしょ?

 カール君も呼んできて?」

 ベネットに声を掛けられ俺は官報から目を離す。

「分かった。

 ごめん、食事作ってくれてたの気づかなかった。」

 ベネットは俺の言葉に首を横に振る。

「お仕事だもん。午後は、倉庫に行ってから授業だよね?」

 ベネットの言葉に俺は頷く。

「まあ、倉庫に言って何かあったら予定変更になるかもだけどね。」

 流石に立て続けに問題は起こって欲しくない。何事もありませんように。

 

 よかった。本当に何事もなかった。

 警備の人に挨拶をして、事務所に入ればセレンも普通に仕事をしている。

 もちろんあれだけのことがあったんだから、内心穏やかかどうかは分からないけれど。

 少なくとも、仕事のミスが多くなったという様子でもないのだから変に気を回す方が迷惑だよな。

 ライナさんが先生の所に行くのであればといくつか手紙の配達をお願いされたくらいで授業に行くのに問題はなかった。

 手紙を届けつつ先生のお宅にお邪魔する。

「ようこそおいでくださいました、ヒロシ様。

 主人は現在外出中のため、今しばらくお待ちいただけますでしょうか?」

 メイさんが先生の不在を告げた。

 

 まじか。

 

 先生が家にいないなんてことはあるんだろうか?

 いや、前に居留地であったこともあるわけだし、まったく出かけないという事はないんだろうけど。

 先生以外の部屋に通されたのは初めて?

 いや、一度実験の時に別の部屋に通されたかもしれない。でも、接客用の部屋に通されたのは初めてだった。

 調度品はとても落ち着いていて、大家さんのうちに近い雰囲気があった。

 そういう意味で普通の部屋という気はするけど、それなりにお金かかってるんだろうな。

「何があったのかな? ラウレーネ様に関係することとか?」

 ベネットが少し不安そうに尋ねてくる。

 可能性がないとは言えなくもない。

「分からない。

 でも急を要する事態なら、先生かラウレーネから手紙が来ると思うから不安がる必要はないと思うよ?」

 俺はベネットを安心させようと笑う。

「そ、そうだよね。」

 ベネットは自分を納得させるように頷く。

 でも、ベネットはなんでそこまでラウレーネを心配するんだろう?

「そんなにラウレーネのことが好きなの?」

 そう聞くと、ベネットは困ったような顔をしてしまう。

「好きかって聞かれれば、好きなんだと思う。

 おとぎ話で竜とお話ができる女の子の話があってね。

 子供の頃はとても憧れてたの。

 ラウレーネ様は、そのおとぎ話に出てくる竜にそっくりだったから。

 勝手な思い込みだとは思うんだけれどね。」

 ベネットは恥ずかしそうに笑う。

「そっくりなの?」

 あんなおちゃめな感じなのかな?

「うん、とてもかっこよくて、でも普段はとても可愛いの。

 もちろん、ラウレーネ様は実際に私たちを守ってくれるわけだから、感謝するのは当然だとは思うんだけど。

 それ以上の気持ちがあるのも事実かなぁ。

 やっぱり変?」

 ベネットは少し恥ずかしそうだ。

 おとぎ話の影響で思い入れを感じてしまうのが子供っぽいと思ったのかな。

「変じゃないよ。子供の頃のあこがれって、大きくなっても影響するものだし。」

 俺にもそういうものは結構ある。

 アニメとか、漫画とかいろいろありすぎてどれになりたいと聞かれれば迷ってしまうほどだ。

 おしゃべりをしてお茶を楽しんでいると戸が叩かれてメイさんから声を掛けられる。

「お待たせしております。

 主人が戻りましたので、ご案内いたします。」

 戸をゆっくりと開き、優雅なお辞儀をする。

 

「いやぁ、参ったよ。

 ヒロシ君、防刃服だっけ? あれを龍人用に作れないかな?」

 先生はため息をついていきなりそんなことを訪ねてきた。

 いつもの先生の部屋はかなり乱雑に散らかっていた。

 何かをやり取りした手紙や報告書の類、銃やら剣やらがあちこちに散乱している。

「一体何があったんですか?」

 おそらく、サービスの効果で体型に合わせたオーダーメイドは可能だから龍人用にボディーアーマーや防刃服を用意することは可能だろう。

 でも、それが必要な状況ってなんだ?

「どう説明すればいいんだろう?

 こう、暴力的な嫌がらせで自分の要求を突き付けてくる輩って言うのはどんなときにもいると思うんだ。

 正面切っての戦いでは勝てないから本当に嫌がらせにしかならないんだけれど、それをされたくなければ要求を呑めって輩。」

 テロリストか。

 そういう類の言葉がないので、持って回したいい方になってしまうんだろうな。

「まあ、そういう輩が、この王国は竜に支配されている。

 その支配から脱却するために竜を廃滅する必要があるのだー!!みたいな話。」

 竜に支配って、王家が一応宣伝には使っているけれど、基本は不可侵条約だよな?

 そうだと聞いているけど。

「王権の源が竜にあるから、竜を倒せって短絡的な思考なんですかね?」

 そもそも竜の話なんてついこの間、降って湧いてきた話だ。王権への反発が竜に向かうのはちょっとおかしい気もするけど。

「まあ末端はそう信じているみたいだね。

 それまですっかり忘れていたのに、まるで急に真実を知ったみたいな感じで話していたし。

 忘れっぽいのは人間の悪い癖だね。」

 先生の言葉に俺は真顔になってしまう。まさしく、俺が忘れっぽい人間だからだ。

 その上騙されやすい気もする。

 気を付けないとな。

感想、ブックマーク、評価お待ちしております。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ