10-6 作戦決行。
戦闘回です。
《魔法の目》で修道院内を探る。そろそろ全員が集まりそうだ。
院長を迎えに副院長が廊下を歩きだした。
よし!!
俺は《次元扉》のスクロールを取り出して、全員を院長室の前に飛ばす。
もちろん、俺自身もだ。
左右に伸びる通路に砂の詰まった箱を呼び出し封鎖する。
バホメットには、その身体能力から障害にはならないだろうが人相手ならば十分だ。
想定外なのは、院長のそばについている会計士と無関係そうな修道女がいることくらいだろうか?
ともかく、突入だ。
ベネットが盾を押し出し扉を強引に弾き飛ばした。
「随分と手荒い入場ね。」
俺は、若干横によけて院長の姿を確認し、手にしたスクロールから呪文を解き放った。
《次元錠》という、瞬間移動を阻害するための呪文だ。
「何者だ貴様たち!!院長の命を狙ってきた不心得者か!!」
そういうと会計士の修道女がいきなり背後からマスケットを取り出してぶっ放してきた。
やべえ。
フローティングタワーシールドで銃弾が弾かれ派手な火花が飛び散る。
ともかく、視界を塞がなきゃ不味い。
俺は、閃光手榴弾を投げた。
だが、投げた瞬間、院長が俺を《魅了》で操作しようとしてきた。
妙な圧迫感を感じたせいで、目をそらすのが遅れ閃光で目がつぶれる。
くそ。
ただ、視線が塞がれたことで《魅了》の効果は途切れた。
澄んだ金属音がする。
どうやら銃撃が続いているらしい。
俺は、《水操作》を使い、銃弾を防ぐようにドームを作る。
徐々に視界が戻ってきた。
という事は再び《魅了》にさらされる可能性が高い。
俺は、再び閃光手榴弾を取り出す。
「閃光防御!」
そういいながら、俺は手榴弾を投げた。
今度は、しっかりと目を覆っておいた。
まだ視界がぼやけている。
何丁かのマスケットが床に投げ出されていた。
つまり、ホールディングバックか何かに隠し持っていたという事だろう。
俺は、《竜化変身》を使い、ハーフドラゴン化したオーガへの変身する。
体が大きくなり、全身を鱗が覆う。
残念ながらこれで防具は体に溶け込んでしまうから、銃は喰らってしまうだろう。
だが、十分だ。
銃を使っていた会計士を槍で弾き飛ばし、窓の外へと吹っ飛ばした。
幸い、1階だ。
死ぬことはないだろう。
問題はもう一人だ。
セレンが駆け出し、修道女を抱えて扉の外へと誘導してくれた。
《魅了》されている可能性もあるが、今は目の前に集中しないといけない。
「何度も目つぶしとは、やってくれたものね。」
そういうと、老いた院長の体が若返り背中から大きな翼が生える。
その変化と同時に院長の両脇を固めるようにバホメットが姿を現した。
巨大なハルバードを携え、片手には巨大なラッパ銃を構えている。
いわゆるブランダーバズ、散弾をばらまく銃だ。
どこに隠れていたんだかは知らない。
確か地下にいるはずだったが、大きな音に呼び寄せられたんだろう。
しかし、こうも巨体が揃うと大きな院長室でも狭苦しい。
バホメットは容赦なくブランダーバズをぶっ放してきた。
もっとも、それじゃあベネットのフローティングタワーシールドを貫通することはできないし《水操作》でつくった水の壁もはじけさせるのがせいぜいだ。
二発目を準備するのは面倒とばかりにバホメットはブランダーバズを放り投げる。
「人間風情が私に逆らうとは片腹痛い。
目が見えなくとも貴様らを殺すことなど、造作もないわ!!」
急激に室温が上がる。
だが、させるものか。
俺は《解呪》で院長の呪文を霧散させる。
「な!!」
院長が驚きの声を上げると同時に部屋の外から、いくつものおもちゃが飛び込んでくる。
いわゆるウォーターボムという奴だ。
時間経過で弾けて、中の水が飛び散るというおもちゃだ。
当然、それらが複数投げ込まれれば部屋全体に水がばらまかれる。
じゅうっとまるで焼けた鉄板の上に水を垂らしたような音が響いた。
「聖水!!」
院長が怯む声と同時に院長に向かってベネットが突っ込んでいく。
当然、バホメットがそれを塞ぐように立ちはだかるが、振るわれたハルバードが到達する前にベネットは膝をつき、床を滑って剣を回転させて股を潜った。
ざっくりと膝を切られたバホメットは膝をつかざるを得ない。
俺は、旗竿に身がまうばかりの大きな槍をインベントリから取り出し、その状態のバホメットに振り下ろした。
当然ハルバードで防ぐだろう。
だが、今の俺は巨体を持ち、人をはるかにしのぐ膂力を持つハーフドラゴンオーガだ。
その巨体に見合う槍に生半可な防御なんか無駄だ。
ガツンっと音が響き、肩に槍が食い込む。
そして、続けざまに槍を突き出した。
バホメットは押し付けられたハルバードを押し戻そうとしていたために、俺が槍を引けば当然腕を跳ね上げてしまう。
そうなれば、がら空きの胸を守ることはできない。
深々と巨大な槍がバホメットの体に深々と突き刺さる。
悪魔はこちらに一時的に呼び寄せられた存在だ。
打ち倒されれば地獄へと送り返される。
当然、ここまでの深手を負ったバホメットは現世とのつながりを保つことができなくなり、地獄へと帰っていく。
ふと横を見れば、ミリーとハルトに翻弄され、もう一体のバホメットは徐々に体力を削られているのが分かる。
「ほら、どうしたの?その程度?
遅い遅い。」
ミリーは戦闘中も騒がしくバホメットを挑発しながら、ダガーをひらめかせながら急所をえぐる。
「うひ!!やばいってこいつ。喰らえ喰らえ!!」
ハルトは逃げ回りながら、ウォーターボムを投げ続けていた。
時折高速で振るわれるハルバードに引っかかりそうになるが、ミリーのサポートもあり、ハルトもなんとか致命傷は追わずに善戦していた。
カイネはサポートをするように呪文を使い、バホメットを翻弄する。
《みぞれ交じりの嵐》で動きを鈍らせたり《治癒》で傷つくハルトを支える。
楽勝とはいかないだろうが、3人に任せても問題ないはずだ。
俺は、ベネットの加勢へと向かう。
院長の周りには、いつの間に呼び寄せたのか地獄猫が2匹が現れていた。
おそらく院長が連れていたという犬の正体だろう。
ベネットの華麗な剣捌きを、あざ笑うように地獄猫は身をひるがえして避けつつ攻撃を加える。
だが、堅牢なベネットの装備を貫通出来ないのか、地獄猫の攻撃も有効打にはなっていない。
その様子は、一見すれば互いに踊っているようにも見えるが、一瞬のスキが命取りになりかねない踊りだ。
危うさを感じる。
その均衡を破るために院長が再び呪文を使おうとする。
当然、俺はそれを阻止するために院長の呪文を《解呪》した。
「くそ!!姑息な戦術を使いやがって!!もっと正々堂々と戦え!!」
知ったことか。
悪魔に姑息って言われたくないね。
魔術師なら、俺の《解呪》を上回って見せればいいだけの話だ。
しかし、院長の呪文に対抗している間は地獄猫に手出しはできない。
ベネットが決して劣勢というわけではないが、決め手に欠いている状態だ。彼女としても、地獄猫をかいくぐり、院長にとどめを刺したいところだろう。
ベネットと地獄猫は何度か攻守が入れ替わり、激しくぶつかり合う。
俺の《解呪》のストックも切れかけだ。何とか打開策を見出さないとまずい。
そう思っていた時に、ウォーターボムが投げ込まれた。
聖水がバシャバシャと音を立てて飛び散る。
バホメットを倒したのか、ミリーとハルト、そしてカイネが加勢に来てくれた。
その後ろからセレンと部屋にいた修道女もウォーターボムを投げつけている。
聖水であることは分かっているので院長は大きく飛び退ったが、地獄猫には位置の関係上避けきれなかった。
その若干の怯みが突破口になる。
ベネットは流れるように、剣を滑らせ地獄猫の一匹を両断すると院長に一太刀浴びせた。
だが致命傷には至っていない。
背後から、もう一匹の地獄猫が突っ込んでくるが、フローティングタワーシールドで弾かれる。
そこに駆けつけてきたハルトが包丁を抜いて地獄猫に突き刺した。
バラりと解体され、地獄猫が現世から解き放たれた。
驚いたのは、包丁が折れていないことだ。
てっきり、100均の包丁だからぽっきり折れると思ってたんだけどな。
「や、やめて……
お願いだから、何でもするから、お金もあげる!!私はいろんな人とコネだってあるのよ!!何なら爵位を上げましょうか?」
斬られた肩をおさえて、腰を落として後ずさりながら院長は命乞いを始めた。
おかしな真似をされないように俺は《解呪》の準備をする。
「なんでもするなら、消えて?」
大きくベネットが剣を振りかぶるとまるで太陽がきらめくように刀身が輝きだした。
悪を討つ一撃だ。
まるでお手本のような綺麗なフォームでベネットはとどめの一撃を院長に叩きこんだ。
神の威光を示すその一撃は院長の体を飲み込み、一片たりとも現世にとどめることを許さなかった。
戦闘が終わればひと段落ではない。
もうひと仕事ある。
院長が隠し持っている記憶の結晶とポーションの回収だ。
流石にそろそろ騒がれる頃合いだろうし、回収はミリーにお願いした。
俺は腰を抜かして這う這うの体で逃げ出そうとする会計士を捕まえて、今回の件をどう片付けるかを言って含ませる。
おそらく、魅了も解除されたのだろう。
彼女は従順に従ってくれた。
曰く、院長が悪魔と入れ替わった。
それを彼女が告発し、教会から討滅隊が送られてきた。
それが我々である。
曰く、悪事を働く前に発見できたので大した問題は起きない。
後任はすぐに送られてくるので普段のように過ごすこと。
途轍もなくおおざっぱだ。
だが、これくらいがばがばじゃないとつじつまが合わなくなる。
記憶はすべて破棄するのだから、外部の人間が言うことは全て噓であり誹謗中傷の類であると処理されなくちゃいけない。
むしろ、このがばがばさが、外部の人間への牽制にもなる。
当然俺を含めて全員顔を隠した。
じゃないと噂の種にされかねない。
あくまでも、俺たちは教会が遣わした討滅隊という体を保させてもらおう。
しかし、驚いたのは副院長だ。
何かが抜け落ちたような顔をして、膝から崩れ落ちてしまった。
あるいは、彼女にだけは記憶を抜くという処置はされてなかったんだろうか?
そう思うと、気の毒な気がした。
元は、どんな人だったのかは知らない。
あるいは同情するような人じゃないのかも。
それでも、そのすべてを失ったような顔を見ると、途轍もない罪悪感を持たざるを得なかった。
トランシーバーで回収が終わったよとミリーから報告があったので、修道院を後にする。
あわただしく修道院を出て自宅に戻るとすっかり夜が更けてしまっていた。
食事を終え、一息つくと皆もそれなりに疲れていたんだろう。早々に眠りについてしまった。
ただ、セレンと俺、そしてベネットにはまだやることが残っていた。
セレンに記憶の結晶を砕くのを手伝ってほしいと言われたのだ。
もちろん、人の目に触れてはいけない。
ベネットと俺の寝室に招き入れて二人でセレンのやることを見守る。
「なんですか、やですね。
何も特別な事なんかしませんよ?」
そういいながら、一つ一つを覗き込みながら、セレンは記憶の結晶を金槌で砕いていく。
あぁ、そういう事か。
俺も記憶の結晶を覗き込み、一部始終を目撃する。
気分のいいものじゃない。
そうした後、その記憶の結晶をセレンに倣い金槌で砕く。
「何も見るのまで付き合わなくてもいいのに。自己満足ですよ?
きっとすぐに忘れちゃう。」
セレンはそういうけれど、忘れることなら俺の右に出る奴はいない。
なら、俺は適任だろう。
ベネットも同じように結晶を覗き込んでは、砕いていった。
後は3人ともただ黙って、記憶を見ては砕くことを繰り返す。
思ったよりも量が多い。
人の記憶の多さに、俺はため息をついた。
それだけ、巻き込まれた人が多かったという証拠でもある。
でも、砕いてしまえは跡形も残らない。
少なくとも、覗いた人間の脳裏以外には。
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