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10-5 気が抜けてるわけではないんだろうけど。

人の存在価値って言うのはそんなに単純なものじゃないと思ってます。

 しかし、さすがに10人分の料理は大変だ。

 途中で、ハルトを呼んでブロック肉をミンチにさせたり玉ねぎをみじん切りにさせたりしたけど、それでもタネこねるのに腕がパンパンになる。

 いや、“下拵”のおかげで大分助かったことは助かったんだけど、ハルトの一言がなければもう少し楽に済んでたよな。

 食卓も4人掛けのテーブルに、ソファに合わせたローテーブルを合わせても10人の料理は乗っけられないし、出来上がったら、順次食事をとってもらうことにした。

 俺とベネット、それにセレンが最後に残る。

 狭いから、食事をとってもらったら寝室やカールの部屋に退避してもらった。

 風呂も順次入ってもらうって形だから今は誰か風呂に入ってるんだろうか?

 もちろん、風呂の準備はハルトに任せた。

 まったく、いの一番でハンバーグ食いやがって。

 あいつにはいつか制裁を加えてやらんとならんな。

「人間って、どんなことがあっても食事できちゃうものなんですね。」

 セレンがハンバーグを突きながら、そんな言葉を漏らす。

 正直、それは人によるとしか言えない。

 本当にショックで食事が喉を通らないってこともあるわけだし、だからってセレンが受けた仕打ちがショックではないという事でもない。

「でも、よかった。純潔を失っていたら、私の存在価値なんて何もなくなってた。」

 俺は一瞬怒りそうになってしまった。

「セレンさんの存在価値は純潔だけじゃないと思いますよ。

 もしそんなことを言う奴がいるなら、俺はそいつのことを許しません。

 一発殴ってやりますよ。」

 俺は黙々と、ハンバーグを平らげる。

「たとえ王様でもですか?」

 セレンは、冗談めかして言う。

「殴るのが無理でも、なにがしかの損はさせますよ。

 人の価値に純潔であるかどうかなんて重要なことじゃない。

 そんな事に拘るより、もっとその人を見ろという話です。」

 なんだか、本当に腹が立つ。

 ベネットが俺の脇をついてきた。

 食べ終わった直後にそれはやめて。

「そういう愛の告白に聞こえるようなことやめてよ。

 それに、守れたんだから大切にしたいって気持ちも分かるでしょ?」

 ベネットが、苦笑いを浮かべて頬杖をつく。

 それは、確かに。

「俺が言いたいのは、そういう事じゃなくて。その……」

 分かってると言って、ベネットは俺の鼻をつつく。

「あー、もう本当に敵わない。羨ましいなぁ。」

 セレンが、ハンバーグを頬張りながら、むすっとした顔になる。

 器用な子だ。

 まあ、しかしいずれにせよ、この落とし前、悪魔どもにはちゃんと支払ってもらおう。

 

 ハルトとカイネにはいったん帰ってもらい、おれは売買で装備の発注を済ませる。

 届き次第、準備を行う。

 その間三日。

 準備中に相手から何かしらのちょっかいがあるかとも思ったけど、とりあえず表向きに異変はなかった。

 もちろん、相手がまったく手出しをしてこなかったわけじゃない。

 《魅了》した人物を何人か送り込んできてはハルトの“案内”に引っかかり、そのたびに捕まえては《魅了》を解くというのを繰り返す。

 どうやら客だった男も《魅了》していたらしく、修道院の人間以外も手駒に加えているようだ。

 さっさと対処しないとまずいな。

 3日という短い期間だけど、精神的には緊張しっぱなしで長く感じる。

「ヒロシさん平気ですか?」

 アレッタがお茶を注いで、俺の前においてくれた。

「大丈夫です。

 思ったよりもお手軽に人を使うなとは思いましたけど、対処不能なほどじゃないです。」

 《魅了》されているという事で来る人間はたいてい俺のことを悪人と思っているわけだが、罵詈雑言くらいは特に気にもならなかった。

 《解呪》の呪文で、あっさりと解除できたことを考えれば院長のレベルはさほど高くはないことも伺える。

 だからまあ、言うほど疲れてはいないんだけども。

 ミリーやハルトはゲームに興じてるし、ベネットとセレンはカイネをモデルにしてコーディネートの話をしてるし、ユウはカールにおとぎ話を聞かせて、こんな本を作ってくれみたいなことをやってる。

 みんな思い思いのことをし過ぎてて、全然緊張感ないんだよな。

 というか、一応俺の家じゃなくてもハルトの能力でカバーできるはずなんだけど、あいつは夜に帰っては朝に押しかけてくる。

 カイネとイチャイチャするなら自分の家でやってろと思うんだが、何が面白いんだか俺の家に入り浸ってるんだよなぁ。

 こっちが、いろいろと考えたり悩んだりしてるのをよそに、楽しそうに遊びやがって。

 なんか俺だけ、気を張りすぎか?

 まあ、俺もマジックアイテムの作成やらゴーレム作成の勉強をしたり、マーナを構ったり、グラネの世話をしたりと一つのことにかまけているわけではない。

 商売の話もあるので、市場に顔を出したり居留地に納品に行ったり、港で変な魚を貰ったり。

 ジョンなんかは文字の勉強をしつつも見回りをしてくれているから俺だけ働いているって感じではないけども。

「なんだか、みんな思い思いに過ごしているので、あんなに思い詰めてたのが馬鹿みたい。

 悲劇のヒロインみたいに自分に酔ってたんですね。」

 アレッタはため息をついて、くつろいだようにお茶を飲み始めた。

 いや、起こった出来事は決して軽いことではないんだけども。

 その負担が少しでも軽減してくれているなら、ありがたいことだよな。

 ジョンの勉強を手伝ったり、コーディネートの話に加わったりすることで、気分がまぎれたという部分もあるのかな。

 あー、なんだかキャラバンにいたころを思い出す。

 人はやるべきことややりたいことをやっていると、そちらに集中していくもんなんだな。

 

 作戦決行の日がやってきた。

 準備は完璧だと胸を張れるかと言われると正直微妙だ。

 なにがしかの見落としがあってもおかしくはない。

 だから、俺はさっきから何度もインベントリを開いては、周囲にあれはどうだろうこれはどうだろうと聞いて回っている。

 セレンは結構な量の聖水を準備してきてくれたおかげで割と詰め替えるのが大変だった。

 瓶だと当てづらいからあるものを使う。

 それに移す準備はそれなりに掛かった。

 なんかベネットはその作業が遊びみたいだって喜んでたけど。まあ、手伝ってくれたんだから全然文句はない。

 他にもいくつか用意したものがあるのでうまく機能してくれるとありがたいな。

 作戦内容についても、みんな意識を共有してもらっている。

 重要なのは、首謀者である院長を逃がさないこと。

 脅迫の種に足りかねない記憶の結晶をすべて持ち出すこと。

 三日の間にセレンには伝えてあったし、ここにいる全員が記憶の結晶が人の生き死ににかかわりがあるという意識は共有できていると思う。

 だから、そこは大丈夫なはずだ。

 しかし、本当に何か忘れ物があるんじゃないかとそわそわしてしまう。

 リーダーとしては完全に失格だ。

 もっとどんと構えてないといけないはずだけど。

「大丈夫、何かあれば私が何とかするからさ。

 それにヒロシだけが逃げられないんだから、そこだけはしっかりと考えてればいいよ。

 胸を張って!!」

 そう言って、ミリーにばしっと背中を叩かれる。

 なんだよ、俺よりよっぽどリーダーぽいじゃないか。

 もう、ミリーに任せてもいいかな。

 俺は人の下で仕事をしている方が向いてる気がするんだよなぁ。

 まずもって決断力がないし。

 でも、そういうわけにもいかない。

 今回の件は、俺がミリーに手伝ってくれとお願いしていることだ。

 俺がやるべきことをやらないでどうする。

 頑張ろう。

「ヒロシ、移動始まったぞ?」

 そういいながら、ハルトは見取り図の礼拝堂に数を書きこんでいく。

 その数字は徐々に増えていき、ぞくぞくと修道院の人間が礼拝堂に集まっていっているのを示してくれているわけだ。

 院長はいまだ院長室にいる。

 どれくらいで人が集まるかについては一応シミュレートしていた。

 大体、今の人数で50%といったところだ。

 全ての人が入るまであと数分といったところだろう。

 その前に院長が動くと厄介だが、そこの部分はどうにもならない。

 何をきっかけで動き出すから分からないからだ。

 じりじりと時間が過ぎていく。

 みんなの装備に不備は無いか気になって一つ一つ確認してしまう。

 ベネットは、いつものコートとゴーグル、そしてアームガードやレッグガードの他に防弾繊維を仕込んだ胸甲も身に着けてもらっていた。

 そして、大きな盾を構えてもらっている。

 ブラックロータスで手に入れたフローティングタワーシールドだ。

 突入時には構えたまま前に立ってもらう。

 そうすることで魅了を妨害しようという腹積もりだ。

 戦闘に入ったら、手を離して武器を抜いてもらう。

 そこまでは想定済みだ。

 当然、これにも防弾繊維とセラミックプレートを仕込んである。

 まさかいきなり銃が使われることはないだろうとは思うが、念のためだ。

 ハルトとカイネには防刃服とボディーアーマーを渡してある。

 ミリーは防具をつけることを嫌がったが無理やり着させた。

 セレンは修道服の下に防刃服と防弾チョッキを着てもらっている。

 これは、いざという時の誘導のため、教会関係者がいることを示したいからだ。

 本当は、全員にヘルメットかヘッドバンドヘルムをつけさせたかったが、前者は視界を妨げるし、後者も専用の眼鏡がないと視界がゆがむ。

 しかも、セレンは修道服の上にヘルメットはまずいという事で、みんな頭には何もつけていない。

 それが心配でたまらない。

 まあ、そうは言いつつ、俺も防刃服と防弾チョッキなわけだが。

 ボディーアーマーだと呪文の文様を描くのに苦労する。

 なので、できうる限りの重武装だ。

 気になるのは、ハルトの“案内”で検出された銃の存在だ。

 ハルトの知識によるものなのか、それとも何らかの制約なのかは分からないが、それがピストルなのかフリントロックなのか判別できないところが気になった。

 頭に当たると非常に危険だ。

 防ぐ方法については、いろいろと検討はしているけどもライフルとか出ないことを祈りたい。

 普通の滑空銃身とライフルの線条銃身じゃ貫通力が桁違いだからな。

 あれが有効とも限らない。

 ただ、おそらくこちらの世界のライフルならば弾込めは時間がだいぶかかるはずだ。

 ベネットの盾で受け止めてもらうか、ミリーのバレットガードで弾いてもらうのが一番いいかもしれない。

 ちなみに、ミリーには俺のオリハルコンダガーを渡している。

 あれで、弾いたりできるのかな?

 ミリーは自信満々に平気平気と言っていたけれど、ちょっと心配。

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