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10-4 聞きにくい事甚だしい。

割と深刻な事態ですが、何とか前向きに対処できそうです。

 治療は無事に終わり、とりあえず落ち着いたとレイシャが事務所に戻ってきた。

 ベネットは若干ぐったりとした様子で、あとから事務所に来る。

「服は着せられたし、もう大丈夫だと思うよ。

 なかなか楽しめたけど、ヒロシ愛されてるねぇ。」

 レイシャはにやにやと笑いながら俺の肩を叩く。

 いや、いったい何があったんだ。

 ベネットに聞くわけにもいかないし、どうしたもんだろうか。

「ヒロシ、とりあえず二人は私たちのうちに匿いましょう。じゃないと少し不安。」

 確かに、悪魔が相手だと考えると一人にするわけにもいかない。

「ちょっと手狭になるけど平気?」

 もし、二人を匿うとなるとユウとジョンも匿わないとまずいだろう。

 ノインとベーゼックはまだ平気だろうけども。

 いずれにせよ、転移除けのお香は焚かないとまずいだろうな。

 あれ、結構高いんだよなぁ。

 いや、四の五の言えないけども。

「うん、とりあえず悪魔を倒すまでは多少の不便は我慢する。」

 ベネットはそういいながら、俺の袖をつかんでくる。

 一体何があったんだろうか?

 ともかく、方針を固めよう。

「すいません、ライナさん車を借りて平気ですか?」

 ほぼ私用のような使い方だから、一応断りを入れておかないと。

「そんなことに断りなんかいらないわ。

 好きに使ってちょうだい。」

 ライナさんは快く許可を出してくれた。

 

 いくら広い家だとはいえ、さすがに女性2名に子供二人だと寝室に困る。

 家につくまでにアレッタとセレンは目を覚ましたから、俺が寝室まで運ばなければいけない状況にはならなかったが、一応彼女たちからも事情説明を受けないといけない。

 当然ながら子供たちに聞かせるわけにもいかないから、カールの部屋に避難してもらった。

 居間には、俺とベネット、それにハルトとカイネ。

 ミリーとアレッタ、セレン、7人もいるから本当に狭い。

 俺は立って話を聞いた。

 二人は何が起こったのかを詳細に包み隠さずに話してくれた。

 話しにくい内容もあるにはあったが、それでも言葉を選びながらではあるけれど全部話してくれる。

 ほぼ俺が想定していた通りのことが起こったと分かるわけだけど、とてもアレッタを責める気にはならない。

 だって考えてもみろ。

 彼女は本当に普通の人間だ。

 特別な能力は持ってない。

 それが悪魔に魅入られたら、逆らえるわけもない。

 それでも、やってしまったことは悪魔に別の女性を捧げるという彼女の倫理観からすれば許しがたいことを行ってしまったわけだ。

 魅了されたから仕方ないじゃ本人の気持ちは収まらないだろう。

 でも、そういう出来事は往々にしておこるものだ。

「シスターアレッタ。私は気にしていません。

 結果的には私の純潔も守られましたし、あなたはできうる限りのことをしてくれました。

 むしろ、私が気が付かなければいけなかったんです。

 だから、そんなに自分を責めないで。」

 そんなセレンの言葉もやはり慰めにはならないのか、アレッタはつらそうにうつむく。

 涙を必死にこらえ、静かに嗚咽している。

 こういう泣き方をされるのが一番心に突き刺さる。

 これが自分の悲劇を嘆く泣き方なら、泣き止むまでそっとしておこうという事で話はまとまる。

 もしくは何かを必死に訴えて泣くなら、その要求に応えれば済む話だ。

そのどちらでもない……

ただ自分を責めて悔いる泣き方には、どう対処すればよいのだろう。

 多分、直接的な原因である悪魔を討ち滅ぼしても、彼女の心は晴れないはずだ。

 つくづく、自分の不甲斐なさを感じてしまう。

 こんなことが起こるかもしれないと事前に対策を取らなかった自分に腹が立つ。

 ベネットの時だってそうだ。

 俺は結局、ことが起こるまでのうのうと生きていた。

 何の手立ても打たずに過ごしてしまっている。

 もちろん、現実的に考えればやり直しをしている人生ではないし、予言のようなものを得ているわけでもない。

 打てる手だって、結局俺一人ではそんなに多くはない。

 駄目だ、言い訳しか思い浮かばなかった。

「よし!懺悔の時間は終わり!!

 次は、悪魔どもをぶちのめす話をしよう!!」

 ミリーの力強い宣言がされた。

 タイミングとしては非常にありがたいが、ちょっと強引過ぎじゃないかなぁ。

「いきなりだな。

 いや、でも実際どうすんの?

 相手のこと何処まで知ってるんだよ。」

 ハルトは追いつけず、ミリーに突っ込みを入れた。

「ヒロシ、何か考えてるんでしょ?」

 ミリーが俺に話を振ってきた。

「一応、俺が知っている情報を話します。

 その上で、作戦を立てたいと思いますが、いいですか?」

 皆に異論はないようなので、淫魔とバホメットの能力について一通りレクチャーした。

 要点は二つ。

 

 淫魔の魅了は目を見なければ防げる。

 

 悪魔は転移が得意だから、転移を防がないといけない。

 

 後は強さとかそういうのはあまり重要じゃない。

 悪魔だといったところで実体を持つ相手だ。殴れば死ぬ。

「修道院で洗脳されている人が巻き込まれる可能性があります。

 そこをどうするかですけど。」

 俺の言葉にアレッタが手を上げた。

「週に一度、礼拝の日があります。

 その時に、孤児を含めて全員が礼拝堂に集まります。

 最後に院長が来ますので、その時が一番安全かと。」

 嗚咽を漏らしながらも、アレッタはしっかりとしゃべる。

 礼拝の日は、3日後だ。

「悪魔には聖水が効きます。

 私がなるべく数を準備しますから、利用してください。」

 セレンが心強い提案をしてくれた。

 聖水か。

 確かゲーム的には、悪魔に有効な武器であるのは間違いない。

 でも、それを効果的に当てるとなるとなかなか難しい気もする。何か手段を考えないといけない気がする。

 ……手立てがないこともないか。

 今回は急ぎだ。早急に手配しよう。

「ちなみにハルトさん。悪魔相手にあれは使えますか?」

 “下拵”による解体が使えるなら、こんなに簡単な話はない。

 だが、ハルトは思い悩んでいる様子を見せた。

「人と、そんなに変わらないんだよな? 使えるかな。

 いや、その。

 材料とか食材としてみれば発動できるって確信は持てるんだけど。

 人は、ちょっと。」

 顔を青ざめさせている。

 人をあんなにバラバラにできると考えたら、確かに難しく感じる部分はあるかもしれない。

 期待はしない方がいいな。

「場合によれば、武器や防具を分解してください。それだけでも助かる事もありますから。」

 多分、ハルトの能力は人にも使える。

 特に制限というものは記載されていなかったし、人と魔獣にそれほどの差なんかないだろう。

 あるとするならば、ハルトの心理的な枷なのだと思う。

 そうだとするなら、その枷を外させない方がいいはずだ。

 他に、確認しておかないとまずいことはあるだろうか?

「他に障害になりそうなものはありますか?」

 アレッタに尋ねる。

「犬を二匹連れ歩いています。今思うと、何かあの二匹も何か力を持っているかも。」

 犬。

 確かに、犬はハルトの“案内”でも引っかかってはいた。

 単なる番犬だと思っていたけれど。

 それが実は別の生き物って可能性はあるだろうか?

 俺は、ゲーム知識を探りながら、そんな方法が無いかを検討する。

 あるな。

 《変身》の呪文を無制限に使える悪魔なら自身を無力な犬に見せかけるという手段が無いわけではない。

 それだと、バホメットや淫魔の反応があったのが不思議ではあったけど、それは一時的に変身を解いていたという事なのかな?

 ともかく思ったよりも戦力が多いかもしれない。

「私にも戦わせてください。」

 アレッタが思いつめたように声を張り上げた。

 無茶苦茶なことを言う。

 出来るわけがない。

「それは、一発ぶん殴ってやんなくちゃ気が済まないってこと?」

 ミリーがアレッタに尋ねた。

「いえ、そういう気持ちもありますが、何もできない自分が許せないんです。

 少しでも自分の手で、何かできないかって。」

 気持ちはありがたいが。

 だけど無理をさせて、何かあったら責任が持てない。

「何もできてないわけじゃないでしょ?

 礼拝の日が何時かを教えてくれたし、犬の話もしてくれた。

 ジョンやユウを見守ってもらわないとこっちも全力出せないよ。

 できないことをやろうとするんじゃなくて、自分ができることをちゃんとして。

 役に立てないじゃなくて、これなら役に立てるって思えることをしてよ。

 それで十分だよ。そうでしょヒロシ。」

 ミリーはにっこり笑って俺の方を見てくる。

 俺は黙って頷くくらいしかできない。

「なんで頷くだけなのよ。

 そうだぞ、ミリーの言うとおりだって肯定するくらいできないわけ?

 もういいよ。

 お腹空いたから、何か食べよ?

 どうせ時間は開くんだし、それまで何も食べないってわけにもいかないんだしさぁ。」

 そういいながら、ミリーは自分の家のように台所へと向かっていってしまう。

「何か用意するね? リクエストとかある?」

 ベネットが苦笑いを浮かべつつ、ミリーの後を追う。

「あ、俺ハンバーグ食いたい!!」

 ハルトが、調子に乗ってリクエストをした。

「え?ハンバーグって何?」

 怪訝そうな顔をして、ベネットが台所から顔を出す。

 あれ? 無いのか、ハンバーグ。

「え?ハンバーグ知らないの?

 ひき肉を使った、ステーキって言えばいいのかな?」

 ハルトがべらべらとしゃべりだしたので、一旦口を塞ぐ。

「俺がレシピを知ってるから教えるよ。遠い異国の料理だから。」

 こいつ、本当に余計なことをする。

 とりあえず、俺も台所に行こう。

「なに、ヒロシの世界の料理なの?

 あの子、危なっかしいから、ちゃんと見張らないと駄目だよ。」

 ミリーがにやにや笑いつつプレッツェルをかじりながら、そんなことを小声で言ってきた。

「そうなんだ。まあ、どこか遠い国の料理っていう事なら問題ないかもね。

 作り方を教えて、ヒロシ。」

 ベネットはエプロンをつけながら、俺にレシピを訪ねてくる。

「ごめん、次から気を付ける。作り方は、そんなに難しくないから、よろしくね?」

 そういいながら、俺はハンバーグの作り方を検索し、必要な材料をインベントリから取り出す。

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