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10-2 早すぎ。

レベルが上がれば上がるほど1レベルの差が大きくなっていく感じですね。

 ミリーには、ブラインドサイトゴーグルとディスプレイスメントコートを着てもらっている。

 両方ともベネットの持ち物だけど、マジックアイテムの特徴として着用者のサイズに合わせてくれるという便利な機能があるから体格の違うミリーでも問題なく着用が可能だ。

 その上で、ハルトには常時、内部の人の動きを逐一伝えてもらえるようにトランシーバーで通信も繋いでいる。

 事前に《魔法の目》で探りを入れているし、アレッタに協力してもらい《連鎖する目》で入れる部分は俺の目でも警戒している。

 さらに駄目押しで、《透明化》の呪文もミリーには掛けてあるから、これで駄目ならもう手の施しようがない。

 それでも、失敗しないかどうか不安でしょうがなかった。

 《透明化》の呪文は数分なのだが、それが切れないか不安で仕方がない。

「ただいま。」

 ポンっと背中を叩かれ、俺は変な声を上げてしまった。

「ヒェッて、ヒロシ大丈夫?」

 ミリーが笑いながら、後ろに立っていた。

 まったく足音すら聞こえないから、俺としてはびっくりするしかできない。

 周りも、全く気付いてなかったらしく驚いた様子で固まっている。

「正直、これは過剰装備だったかなぁ。

 何の面白みもなかった。」

 そういいながら、ミリーはブライドサイトゴーグルをベネットにかぶらせ、ディスプレイメントコートを手に持たせる。

「早い。」

 俺の言葉にミリーは自慢げに笑う。

「あそこまでお膳立てされたら、あとは時間くらいでしょ?

 一応、院長とやらの顔を拝んできたけど、多分あれが親玉で間違いないよ。

 後はバホメットらしき人物は見当たらなかったかなぁ。

 院長に傅いてた副院長と会計士は人間っぽかった。

 で、これが裏帳簿、手紙、日記、ついでに怪しいポーションいくつかと綺麗に並べられた宝石があったから持ってきたよ?」

 頼んでいないものまで持ってくるのはどうかとは思うが、ポーションというのには興味があった。

「まあ、気づかれてないとは思うけど、ちょっとここに留まるのは気分的に落ち着かないし帰ろっか?」

 ミリーはさっさと塔の下へ向かっていってしまう。

 仕事早すぎるよ。

「か、帰りますか?」

 ベネットもハルトも茫然自失といった様子だ。

 

 とりあえず、家に戻り早速、ポーションと宝石を“鑑定”にかける。

 一つは麻薬だ。

 呪文などによる普通の選別だと《治癒》のポーションにしか見えないし、実際怪我などが治る。

 ただ依存性が高く、意志力にダメージを与える。

 それと媚薬的な効果も期待できるという代物だけど、とりあえず体にはよろしくない。

 もう一つは、記憶を奪うためのポーションだ。

 《記憶結晶化》の呪文が込められており、通常の手順では作り出せない。

 これは、ゲーム知識に照らし合わせてできないというだけじゃなく、マジックアイテム作成のための授業の時に学んだ内容とも合致するからだ。

 それだけ高度な呪文であるわけだけど、そう考えれば院長の強さはそこまで高くはないのかもしれない。

 マジックアイテム化した手段は分からないが、院長が《記憶結晶化》を使えるというわけではないからだ。

 まあでも、弱いとも限らないけども。

「うげぇ、まじで?」

 ミリーが宝石を覗き込み、うんざりした顔をしている。

 その宝石には、奪った記憶が刻まれている代物だ。

「趣味わるぅ。

 なんなのこのおっさんども。」

 ミリーが宝石を俺に投げ渡してきた。

 趣味が悪いと称される内容が延々と映し出されている。

 すいません、私も悪趣味です。

 いや、でもさすがに被害者が知り合いである可能性を考えると俺も気分が悪くなる。

 こういうのはフィクションだけにとどめておいてくれ。

「それって、結局何なの? 見て楽しむもの?」

 俺は首を横に振る。

「人の記憶だよ。

 このポーションを飲ませて、浮かんでくる魔法陣に指を突っ込めば記憶の結晶を取り出せる。

 取り出しすぎれば廃人になるし、記憶の整合性も取れなくなっていく。

 砕いてしまえば取り戻せないけど、ポーションをもう一度飲ませて捻じ込めば思い出させることもできる。

 まあ、これは悪用することを前提にした話だけどね。」

 上手く使えば、トラウマの治療に使えたりしそうでもあるけど。

 心理学を学んでいるわけでもないので、確かなことは言えない。

「じゃあ、これを体験した人の記憶なわけだ。アレッタって人、可哀そう。」

 俺は、その言葉に絶句してしまった。

 あの人の記憶だったのか。

 ふと見ると、ベネットがその記憶をじっと眺めている。

「……ヒロシ。これをあの人に戻すの?」

 ベネットは顔を青ざめさせている。

 ど、どうするべきなんだろう。人の記憶だ。

 それを握りつぶしてしまっていいんだろうか?

 もし自分がそうされたと考えたら、とてもじゃないが受け入れがたい。

 でも、じゃあこんな体験を思い出したら、果たしてアレッタはどうなるだろう? 受け入れられるか?

 いや、無理だろどう考えても。

 下手したら、自死を選んでもおかしくない。

 いずれにせよ、こんなことを続けさせておくわけにはいかない。

 早急に教会に訴えるべきだろう。

 でも、誰にだ。

 本当に、ノックバーン司教は信用できるか?

 下手すると、ベーゼックですら疑わざるを得ない。

 誰もこんなことが行われてると気づいてなかったとするのは無理がある。

 誰かは、知ったうえで見過ごしているはずだ。

 一つ方法は思いつくが、やるなら俺だよな。

 

 セレンがモーダルが戻ってきた段階で早速ノックバーン司教との面会を求めた。忙しいところに無理をさせてしまって申し訳ないが急を要する事柄だ。

 調べてわかったことは軽く伝えて早急にノックバーン司教だけと話したいと伝える。

 当然こちらも一人だ。


 俺だけ。


 それを念押しした。

 したがって面会するのは森の奥といういつもと違う場所になってしまう。

 仕方ない。

 これくらいしか人払いをできる手段が思いつかなかった。

「まさかこんな辺鄙なところに呼び出されるとはな。それで、話というのは?」

 ノックバーン司教は胡散臭げに俺を見る。

「修道院のお話です。

 これだけで大分話は通じるかと。」

 二人の間の切り株に俺はあらかじめ資料を置いている。

 じっと司教は俺を見据える。

「まるで丸腰をアピールしているみたいだな。

 見ているだけでこっちが寒くなる。

 何か羽織り給え。」

 そういいつつ、司教は置かれた資料に目を通していく。

 眉間のしわが深くなる。

 この人はいつもそんな表情だが、嫌悪感でさらに険しい表情になった。

「これを知っている人物は君、だけじゃないだろうな。

 まったく、教会もここまで腐ってしまうものか。

 いや元々が腐ったものをより集めて、何とかしようとしたのが始まりだ。こんなものなのだろうな。」

 酷く落胆した様子を見せる。

 記憶を記録している宝石をじっと見つめる。

 そして、すべてを見終わると強く握って砕いてしまった。

 手のひらに突き刺さって痛いだろうに表情一つ変えない。

「こんなものは証拠として必要としない。」

 微妙な言い回しだ。

 今回は、ベネットも連れていないしトーラスもいない。

 トーラスが別の仕事中というのは、わざと俺の方から教会側に伝わるようにしている。

 つまり身を守るとすれば俺だけで何とかするしかない。

「私を疑うのは結構だが、そこまで無防備であるとアピールするとわざとらしすぎる。それでは、警戒心を持った人間には裏を勘ぐられるぞ。」

 司教にため息をつかれてしまった。どうやらこの人は白みたいだな。

 ハルトには、敵意を向けてくるかどうかという事をあらかじめ見張っておいてもらった。

 それに反応しないという事は、少なくとも現時点では手出しをしてくるというわけではないというのが分かる。

 俺を騙して何とかしようという意識もないだろう。

「試すような真似をしてすいません。相手が相手ですので。」

 何せ本来はあり得ないポーションを作り出す相手だ。

 表に見える相手も淫魔という人を操るのに長けた悪魔で、警戒するなという方が無理がある。

「外部の者については、私が動こう。

 ただ、悪いが戦力が足りん。修道院については、後回しになってしまうだろうな。」

 いや、それだけで十分だ。

「では、修道院で何が起こっても教会は動かないという事でよろしいですか?」

 それは、外部からの介入をさせるなという要請でもある。


 司教は頷く。


「もし君が、あれと同じものを見つけたならばすべて処分してくれたまえ。

 先ほども言ったが馬鹿どもを追い詰めるのに、あれを必要とするほど呆けてはいない。

 悪魔と結ぶような腐った輩については、私が動こう。

 たとえ神が許し給もうとも私が許さん。」

 その言葉には凄みのようなものは感じられない。

 ただ、淡々と語るだけだ。

 ただ、強い人だなとは感じてしまう。

 俺には、人の記憶を握りつぶすなんてことはできない。

 それが例え、その人が思い出したくない記憶であってもだ。


 だって、その人には分からないからだ。


 取り戻してみるまでは、それが知りたくなかった真実であるかどうかすらも。

 もし、そんなことをしたと分かれば誹りは免れないはずだ。

 それでも、この人は構わないと決断したわけだ。

 もちろん、道理から言えば破棄するのが最も適切だろう。

 場合によれば、それを利用した脅迫すらあり得る。

 何も記録に残さず、すべて廃棄してしまうのが一番いい。

 だけど、それが何なのか分からなくなったことによっておこる批難は、全て指示をしたノックバーン司教に向けられる。

 よく責任を取れという言葉が使われるが、これが責任を負うという事だと思う。

 責任というのは取るものじゃない。問題が発生すれば、責任を負わされている人間はすでに被害を受けているはずだからだ。

 そういう可能性を背負うのが責任を負うという事だと俺は思っている。

「分かりました。

 私が持ちうるすべてにかけて、あれはすべて破棄します。

 首謀者に逃げられたときは、バックアップよろしくお願いしますね。」

 俺の言葉に、司教は静かに頷いた。

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