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9-22 気軽に貰っとけばいいとか。

養子になるって言うのは、そこまで気軽なものじゃないのは現実でも変わりありませんよね。

 結局大家さんには返答できずに帰ってきてしまった。

 いや、重すぎる。

 とりあえず負債の詳細と収入の内訳を教えてもらったが、まあ大変そうだった。

 あの家の維持費やロバートさんへの給金、それ以外に親族への援助とかを合わせるとよくてトントン。

 下手をすると赤字が膨らむ計算になってしまう。

 その上で、甥御さんが持ち出した土地の抵当がかなり致命的なところを持ち出されていたらしく、取り戻すのに結構苦労したらしい。

 おかげで俺が出したお金は底をついてしまったそうだ。

 よくもやってくれたなって気分になるのはしょうがない。

 新興の商家だから家名に価値はないけれど、一時期は大分羽振りもよかった。

 だから誤解もあるのだろうけど、甥御さんも無茶してくれるよな。

 そんな甥御さんに相続させるくらいなら、俺に任せたいという話ではあると思うんだけど。

 正直養子になるメリットは俺にはない。

 大家さんにしても意味があるとすれば、甥御さんに対するけん制くらいの意味合いしかないだろう。

 言ってみれば、名目上の相続人を作り親族に資産を勝手にいじらせないという事だ。

 俺の側に、あえてメリットをひねり出すなら大家さんが健在であればそう呼べなくもないものもある。

 没落した商家の名を手に入れられるというものだ。

 例え没落した新興の商家だとしても名を名乗れるのはそれなりにステータスでもある。

 グラスコーなんかは、あれだけの才覚があっても家名が無いことで苦労している面が少なくない。

 人を集める時に、家名があるとないとじゃ大違いだ。

 貴族相手にも、グラスコーってどこのどなた様扱いされかねない。

 ただ、これが大家さんが亡くなった時には問題が噴出する。

 それまでは親類縁者が大家さんを支えるという形でまとまっていたものが、途端に遺産を誰が引き継ぐかでもめる原因になってしまう。

 そもそも、養子になれるといったって俺は赤の他人。

 血のつながりはないのだ。

 遺産にたかってきた、ならず者扱いされてもおかしくはない。

 ましてや蛮地で暮らしていた素性の知れない男だ。

 その上ゴブリンの奴隷までいるという、どこからどう見ても怪しい奴だ。

「ベネットさん、ヒロシ何を唸ってんの?」

 夕食後の食卓で俺が唸っているのを見て、ハルトは小声でベネットに尋ねてる。

 聞こえてるんだけどな。

「いろいろとね。

 大家さんの家を継いでほしいって。」

 ベネットが事細かに大家さんの立場や関係性をハルトに説明してくれた。

 でも多分ハルトに言っても通じないと思う。

 現代の感覚じゃ、家名を継ぐって言うことの重みが違いすぎる。

「へぇ、土地持ちから土地貰えるんだしいいんじゃないの?」

 貰っとけばいいじゃんくらいの感覚なのはわかってたけど、口にされるとイライラする。

 怒りを鎮めようと俺は目を閉じる。

 土地と言っても運用が大変なのは大家さんを見てれば分かる。

 そこら辺を切り盛りしてくれる親族もいないんだろうな。

 そういう意味で、ナバラ家の親類縁者には期待が持てない。

 それにグラスコーの商会で従業員をしている人間が家名を継ぐとなったら、それはそれで問題だ。

 せめてグラスコーが家を起こしてくれないことには収まりが悪いだろう。

 いつまで従業員を続けるかという問題もあるけど、少なくとも1年でやめるとかいう話にはならない。

 明らかに学ぶべきこともあるし、庇護されている部分も多い。

 逆に言えば、その恩義も返してない。

 そう考えるととてもこの話は受けられないな。

 むしろ、その甥御さんをまともにする方向性で関与すべきじゃないだろうか?

「なんか、家を乗っ取るとか、乱世の英雄っぽくてカッコよくね?」

 ハルトの中では、そういうのがかっこいいのか。

 言わんとすることは分かるけどな。

「だったら、せめて男爵家かなんかを乗っ取らないとそれっぽくはないでしょ?

 田舎の資産家が持ってる土地目当てじゃよくて詐欺師、悪ければ犯罪者にしか思えないですよ。」

 俺は、半眼になってハルトの意見に反論した。

 ハルトは確かにと唸る。

「それはカッコ悪いなぁ。」

 ハルトにしみじみ言われると自分のたとえが正しかったのかどうか悩むけれど。

 まあ、とりあえず養子の話は無かったことにしてもらおう。

 あるいは保留しているという形でとどめておいてもらってもいい。

 それなら、甥御さんへのプレッシャーにもなるはずだ。

 

「ははは、なかなか大変そうだねぇ。

 来訪者にダークエルフの奴隷に家督争いに巻き込まれる。

 なかなか波乱万丈じゃないか。」

 先生は愉快そうに笑う。

 街に戻ってきた挨拶を兼ねてベネットと一緒に先生のお宅を訪ねたわけだが、いろいろと話をしているうちにハルトのことや大家さんの話を洗いざらい話してしまっていた。

 ついでに、竜の友って言う大袈裟な称号についても話している。

「まあ竜の友というのは私の発案でもあるから、迷惑だったらごめんね。」

 どうやら、ラウレーネや他の守護竜たちに協力をしたものに、国の側が宣伝目的で作った称号らしい。

 もちろん正式なものではない。

 何か特別な地位や褒賞が与えられるわけでもないので、名誉称号だ。

 とはいえ、恩恵が皆無かと言われるとそんなこともない。

 おかげで、商売は非常に有利に運んでくれた。

 下手にグラスコー商会と名乗るよりも、竜の友ヒロシと名乗った方が通りがいい位だ。

 まあ偽物が出てきても証明することもできないから、それを利用するような輩のせいで迷惑をこうむる可能性も無きにしも非ずだけども。

「いえ、むしろこちらとしては、あの程度の支援しかしてないのに申し訳ない気持ちです。

 必要なものがあればいつでも行ってください。

 ラウレーネには感謝しかありませんので。」

 実際、俺がこうして行動ができているのもラウレーネのおかげでもある。

 もし彼女がいなかったとしたら、俺はいまだにびくびくしていただろう。

「しかし、ダークエルフの奴隷ねぇ。

 出身地と言っている森にはダークエルフの集落があるのは確かだ。

 とはいえ、そこに住む氏族とは交流がなくてね。

 何があったのやら。

 エルフって言うのは、みな閉鎖的だから事件が起きてもなかなか把握できないんだ。」

 可能性としては、氏族内での権力争いで負けた側という可能性があると先生は教えてくれた。

 その話のついでというようにエルフとダークエルフの間には確執があって、現在でも諍いが絶えないと教えてもらえた。

「もちろん、エルフだからダークエルフとは相容れないというほどのものじゃないよ。

 時には協力もするし、個人的には信用できる子や交流のある氏族なんて言うのもあるからね。

 ただ、どっちにしてもあまり開放的ではないから、関係性が分かりづらいというのはあるよ。」

 カイネに関しては、彼女自身が語らない限りは分からなさそうだなぁ。

「しかし、まあ。またいろいろと持ってきてくれたものだね。

 私だけじゃ作り切れないくらいだよ。

 他の魔術師たちも素材については苦労しているから、そちらに融通してもいいかな?

 もちろん、それなりに対価は用意するよ?」

 俺たちがブラックロータスで手に入れた素材以外にも、ジョンたちが手に入れた素材も多い。

 それらを全部マジックアイテムに変えてからでは、対価を得るまでに時間がかかってしまう。

 現金に換えてもらえるなら、渡りに船だ。

「よろしくお願いします。

 ちなみになんですが、先生。これで、ゴーレムを作る事ってできるんでしょうか?」

 ちょっと気になって、別にとっておいたゴーレムコアを取り出す。

「ほぉ、なかなか大きなゴーレムコアだ。

 大きすぎて、ちょっと使い勝手が悪いかもねぇ。」

 先生は、ゴーレムコアの大きさに驚いている。

「自分としては、船乗りの代わりにゴーレムを乗せられないかと考えていたんですけども。

 王都にある美術館で見た、案内用のゴーレムみたいなものなんですが……」

 先生なら知っているかもと思って、俺が見た美術館のゴーレムの話をしてみた。

「あれね。

 じつは、あのオートマトンは私が作成したものだよ。

 あの大きさなら、これを分割して20体くらいは作れるかなぁ。」

 20体も作れるのか。

「ちなみに、1体の値段って言うのはどれくらいかかるんですか?」

 どれくらいだったかなと先生は資料を取り出して試算してくれる。

「ゴーレムコアを除けば、1体5000ダールくらいかなぁ。

 船乗りにするなら木製だろうけど、強化もそれなりにかけないといけないし、値段は安くならないよ?」

 5000ダールかぁ。

 船員の給料が1日銅貨3枚程度で非常に安いことを考えれば、水夫を雇った方がいいと思われるかもなぁ。

「後、教育をしなくちゃいけないから1年くらいは使い物にならないかもね。

 でも、食べ物はいらないし海に落ちてもすぐには沈まないし、便利と言えば便利かなぁ。」

 確かに先生の言うとおりだ。

 追加でボーナスを渡す必要もない。

「ちなみに、ゴーレムを作る技術を学ばせていただくことってできますか?」

 先生は嬉しそうに笑う。

「勿論だよ。ヒロシ君もやっと学問に目覚めてくれたようでうれしいね。」

 いや、その。

 すいません、実用を考えてるだけなんです。

「他にもマジックアイテムの作成についても学ばないかい?

 せっかく、これだけ素材を集められるのに自分で作らないとかもったいないよ?

 きっと楽しいよ?」

 うわ、泥沼にはまりそうだ。

「いや、その……

 あくまでも、実利を考えてのことですから。」

 先生にはきっかけなんて何でもいいんだよぉと滅茶苦茶笑顔で言われてしまった。

 つくづく先生は、人にものを教えるのが好きなんだろうな。

「あの、私もマジックアイテムの作成について学ばせてください。」

 ベネットも、自ら志願してきた。

「おやおや、仲睦まじいね。

 まあ、それなりに時間はかかるだろうし、他にも学びたいことがあったら言って。

 ちゃんとカリキュラムを組むからね。」

 俺が学べる枠はもうひと枠ある。

 実は、これについてはあるのかどうか分からない。

 だが一応聞いてみよう。

「リザーブマジックのファイヤーワークスという技術について知りたいんですが。」

 思いっきりゲーム内での呼称を言ってみた。

「リザーブマジックを知ってるとは、なかなか渋いね。

 でも、ファイヤーワークスというのが男の子っぽいというか。

 ヒロシ君が、攻撃呪文に関連する技術に興味を持つとは思わなかったよ。」

 意外そうな顔をされてしまった。

 いや、攻撃呪文の一つや二つは当然持っておきたい。

 だけど、リザーブマジックに関しては、別の狙いもあった。

「ファイヤーワークスとは、炎に関連する呪文を保持し続ける限り、小規模な爆発を引き起こせるというもので間違いはありませんよね?」

 ゲームの仕様上はそうなっている。

 つまり、呪文を使わない限り、延々と爆発を引き起こせる。

 つまり内燃機関を動かし続けることが可能という事でもあった。

「ほほう。なるほど、そういう事か。なかなか面白い着眼点だよ。いいね、面白い。」

 先生は俺の質問から、俺の意図を読み取ったようだ。

「ありがとうございます。

 他にも、引き起こされる爆発は魔術ではなく、純粋な物理現象だとも聞いていまして。

 それならば、ゴーレムなんかにも有効かなと。」

 俺の言葉に先生は頷いている。

「やはりヒロシ君は、勉学をすべきだと私は思うよ。

 切り口がなかなかユニークだ。」

 褒めてもらうのはうれしいが、それは買いかぶりだ。

 あくまでも、俺がゲームで知った知識でものを語っている。

 それがたまたま、この世界でも通用しているに過ぎない。

「申し訳ありません。ほとんどの知識は借り物の知識でしかないので、お褒めいただくわけにはいきません。

 表面をなぞるくらいしかできずに本当に恥ずかしい限りです。」

 そんなことを言う俺に先生は首を横に振る。

「カナエちゃんもよくそんなことを言っていたよ。

 でも、少なくとも私はそれを恥ずべきことだとは思わないよ。

 知識というものは、先人の積み上げてきた功績だ。

 それを利用するのを恥だというなら、この世に生まれたすべての知性は恥ずかしい存在という事になってしまう。

 学ぶことは恥ずかしいことじゃないし、それを生かすのも恥じゃない。

 恥じることがあるとすれば、先人の功績を認めないという時だけだと私は思うよ。」

 そういいながら、じゃあ早速授業を始めようと先生は宣言をする。

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