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9-19 改めてチートだと感じさせられる。

学歴コンプレックス

 ラウゴール男爵と会見をした後、絹布を大量に予約された。

 いや、まあこちらとしてはありがたいことだけど、当然値引き交渉された。

 もちろん、購入量によって値引きをするのは、こちらでも当然ある話だから応じないとは言えない。

 とはいえ、まだ物もそろわないうえで値引きしますと約束するわけにもいかない。

 後日改めて、物が揃ったらその時に値段を交渉しましょうという事で話がついた。

 モーダルから、ラウゴール男爵の領地まではさほどの距離でもないし、水運によるネットワークもある。

 その時に聞いた話だが、紙幣によるインフレ懸念もあって絹布の購入が流行っているとのことだ。

 いや、その。

 じゃあ、あんまりバカスカ売らない方がいいよな。

 下手に数を流通させると、商品価値が下がって購入した人たちが損をする。

 卸値で追加購入するか悩んだけど、断念しよう。

 ついでにグラスコーに値引き交渉されていることや、モーダルにつけば絹布がある程度まとまって手に入るとは伝えた。

 どうやら、アノーやグラスコーの方でも絹布が人気になっているらしく、はやめに納入してくれとお願いされる。

 困ったなぁ。

 いや、売れれば売れるだけ俺の懐は潤う。

 だけど、だぶついた時のダメージが購入した人に及ぶのは本意じゃない。

 今のところは、絹布に対する需要が高いので値引きについては5%までとグラスコーからは釘を刺されてしまった。

 本当に使いきれるのか?

 どう考えても投機目的になってるよな?

「大分お疲れみたいね。難しい話?」

 助手席のベネットが運転席で唸ってる俺を心配するように声をかけてきた。。

「難しい話。正直、下手をすると大量の人を死に追いやる危険性がある。

 しかも布切れ一枚で殺せてしまう。」

 空恐ろしい。

 とりあえず、少量を継続的に供給するのが一番安全なんじゃないだろうか?

 おかしな値動きにならないことを祈るしかない。

「まるで魔王様みたいね。」

 あながち間違ってない。

 世界に仇なす魔王になろうと思えばなれてしまう。

 ”売買”の能力というのはそれだけ恐ろしいものだという事を改めて実感してしまった。

「そういえば、最近カイネちゃんと料理してるね? 腕前はどうなの?」

 とりあえず、話を逸らそう。じゃないとこっちの精神がやられる。

「うーん、とっても一生懸命だよ?

 器用ではないけれど、丁寧にお料理するから、そのうち美味しいお料理ができるかも。」

 そっか。まだ発展途上という感じなんだな。

 

 男爵領が固まっている地域での取引は特にパッとしない。

 確かに絹布は売れるが、目立った取引はできなくて、マジックアイテム類は一切手つかずだ。

 いやまあ、大怪我をするようなこともなければ術者もいないような土地で売れるはずもないんだけども。

 今は、ハルトを連れて貴族への挨拶やら商店を訪れて御用聞きをして、商品を受け渡したところだ。

 カイネとベネットは郊外に出しておいたコンテナハウスで料理についてあれこれしている。

 トーラスにはその護衛をお願いしていた。

 ついてきているのは、マーナとハルトだけだ。

 コンテナハウスに向かう道すがら、ハルトは腑に落ちない様子でついてきている。

「なんでこんな地味なことしてんの?

 もっと、マッチとかライターとか、胡椒とか売ればいいのに。」

 あー、うん、そこらへんは定番だよな。

 ハルトはなんでそれを使って派手に儲けないんだと言いたいんだろうな。

 ちなみに、日本語で聞いてきている。

 ここら辺、ちゃんと注意するようになったのは望ましいな。

 ともかく俺の方針を伝えないといけないと思うので、ちゃんと説明をしよう。

「マッチはありますよ?

 まあ、非常に高価で安定性も低いから出まわってないけれど。」

 なら、売れるじゃんという表情だな。

「それで、俺が例えばマッチを売ったとしましょう。

 品質や値段は一方的に有利になる。

 じゃあ、発明や改良をしている人はどう思います?」

 考えればわかることだ。

「えー、いや。それを参考にして、頑張っていいもの作るとか?」

 そうなってくれればいいな。

「儲かるという保証もないのに?

 タダで開発することはできないし、こっちの品質を越えられる可能性もあるかどうかも分からないのに?」

 それを押してまでマッチを作る意味などあるだろうか?

 ハルトもその意味を理解してくれた様子だ。

「でも、それってつまり儲かるわけじゃん。

 独占できて、ヒロシは潤うだろ?」

 俺はハルトの言葉に頷く。

「そう、儲かる。一人勝ちです。

 きっと巨万の富を得ることも可能になるでしょう。

 それで?」

 儲けてどうするんだ?

「え?いや、引きこもる。」

 なるほどね。

 ハルトはそういう人間か。

 なるほどなるほど。

「そう簡単に引きこもらせてもらえるかなぁ。

 富を集めたという事は、それを狙われるようになるのと同じ意味になりません?

 この世界でそれがいかに危険かは貴族を見ていて感じないですか?

 彼らは、いくらでも庶民から収奪できるんだ。

 法律だって作り放題だ。

 やろうと思えば、金持ちを縛り首にして、その財産を奪うなんていつものことみたいに思ってそうでしょう?」

 実際そういう態度をとられている。

 ハルトも肌で感じているはずだ。

「じゃあ、金で傭兵を……」

 そこで、ハルトはベネットやトーラスの存在に気づいた様子だ。

「味方は多ければ多いほどいい。

 こちら側が、どういう利益を与えられるか。

 相手から、どれくらいの譲歩を引き出せるか。

 こちらが、どれくらい相手に歩み寄れるか。

 何も武力は行使するためにばかりあるものじゃない。

 見せ札でもあるんですよ。」

 随分と偉そうな話ぶりだけど、俺程度でもこのくらいは思いつく。

 正直誰でも思いつくんじゃないだろうか?

「あくどいおっさんだな。」

 あくどいだなんて心外な。

 俺くらい良心的な商人はいない。

「まあ、実際は上手くいくとも限らないですけどね。

 こっちの世界の人たちはとても優秀だ。

 思ってもみないことで足元をすくわれることだってあるだろうし、全く歯が立たないことだってある。

 所詮俺は高卒の盆暗だから体よく利用されている方が多いんじゃないかな?

 そんな奴が派手に儲けて浮かれてたら、そりゃ当然狙われる。

 目立たないようにするのも、善良に見せかけるのも小心者の生存戦略ですよ。」

 なんだか、ハルトが意外そうな顔をする。

「え?ヒロシって高卒なの?

 有名大とか出てるかと思った。」

 買いかぶりすぎだ。というか年齢というギャップを感じる。

「高卒ですよ。俺の時代は大学行くのは限られた人間だし、俺みたいな怠惰な人間は専門行くか、働くかの二択でしたよ。

 ハルトさんの年じゃみんな大学行くのが当たり前なんでしょうけどね。」

 そういうと、ハルトは下を向いてごにょごにょ言い出した。

「俺、大学Fランだし、中退しちゃったし、ニートで、彼女に振られたし。」

 いやいや、暗い過去を聞きたいわけじゃないんだけどなぁ。

 しかし、大分こじらせてるな。

「ガチャで破産しそうだったり?」

 何故それをって顔をされるけど、想像はつく。

 あの金遣いの荒さと中二臭さを感じる言動から考えれば、はまってそうなのはわかる。

「まあ、俺も似たようなもんですよ。

 でも、せっかくチャンスがもらえたんですから、ちょっとは頑張ってみませんか?

 半人前なんだから人並み以上に努力をしないといけないでしょうけどね。」

 啓蒙セミナーでももうちょっとうまくやりそうだけど、俺にはこれくらいが限界だな。

 ハルトには胡散臭いものを見るような目で見られてしまった。

「正直、あの神様を信用する気にはならないんだけど。

 モーラだっけ?

 聞いた事もないし、ロキってあのロキだよね?」

 さすがにロキは知ってるんだな。

 創作物ではよく名前の出てくる神様でもあるし、いろんなアレンジがされて活躍されてる。

「まあ、正直俺も警戒してますよ。

 幸せの絶頂に達したところでどん底に叩き落されるんじゃないかと警戒はしてます。

 そう思いつつ、なかなか手の上から脱することはできないですけどね。

 踊らされてる感じは常にしてます。」

 俺の言葉にハルトはげんなりした顔をする。

「もうちょっとこう、優しい女神さまに拾われたかった。」

 いや、無理だろ。

 むしろ、モーラ様は優しいと思うぞ。

 能力や性格で選別せずに、こんな人間でも拾い上げてくれるんだから。

「あー、えっとモーラ様は優しいお方だとおもいますよ。」

 とりあえず、俺は口に出しておく。

 ハルトはまだイケメンだから不敬が許されるかもしれんが、俺は表面でも取り繕っておかないといつひどい目にあわされるか分からんしな。

「そうかなぁ。

 滅茶苦茶分かりづらい能力のせいで無駄に苦労している気がする。」

 多分、それはモーラ様のせいじゃないと思う。

「”鑑定”を俺もハルトさんも持ってますけど、見えるものが全然違いますよね?

 俺の能力があんな感じで表示されるとは思いませんでしたよ。」

 びっくりしたのは、俺は特殊能力を得るチャンスを逃しているという事が分かったことだ。

 本来なら、複数の特殊能力を得る枠が空欄のままで学習待ちだという内容がハルトの”鑑定”では見えた。

 この間のレベルアップで槍の才能が7になったけど、これについても本来なら技というものがいくつか習得が可能なはずだ。

 ノックバックというのが技らしく特殊能力とは違うというので、特殊能力の枠を圧迫しているわけでもない。

 つまり技と言うのは、魔法能力に対する呪文のような扱いなんだろうか?

 まあ、それは置いておくとして他に3つほど特殊能力を覚えられるらしい。

 うーむ。

 俺が知っているゲームからすると特殊能力が多すぎる。

 ゲームで分けられていたクラス能力とキャラクターの個性を出すための特技がごちゃ混ぜだし。

 それとそもそも、漢字二文字の特殊能力は、あからさまに他の特殊能力と違う気がする。

 何故、槍の才能や急所攻撃なんかと同じ扱いなんだろうか?

 明らかにチートだよな。

 まあ、考えても仕方ないか。

 ハルトと見え方が違う時点で俺の理解がそう見せていると考えるべきだろうしな。

「俺もびっくり。

 そもそも、10と100が一緒って。

 3レベル以上だと単に桁上がりしてるだけってわかった途端に戻っちゃったし。

 わけわかんねよ。」

 本当に、”鑑定”は意味がよく分からない。

 そこまで表記がぶれてるとすると、俺のマジックアイテム”鑑定”も怪しくなってくるなぁ。

 今のところ、苦情は受けてないからいいけども。

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