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9-18 なんか色々と調子が狂う。

ヒロシはいろいろと後に引きずるタイプです。

 車を飛ばして、ブラックロータスから離れた町にたどり着く。

 宿を借りて食事をすませ部屋に入ったら、ベネットに押し倒された。

 唇の端が切れていたけど、そこを念入りに舐めまわされる。

 いや、癒しの手だったら指で撫でるのでいいんじゃないかな?

「ベネット、怒ってる?」

 俺が尋ねるとベネットは俺に馬乗りになったまま、首を横に振った。

「怒ってないよ。」

 本当かな?

 俺がカイネを買い取る話とか、聞いていて気分のいい話じゃなかっただろうし。

「カイネちゃんの件は、その少し嫉妬しちゃったけど。ああいうヒロシも、嫌いじゃないよ?」

 左様でございますか。

「でもヒロシ辛そうだったし、苦しそうだったし、わざと殴られるし。

 人のためにあそこまでする必要あった?」

 必要か否かを聞かれれば、なかった気もする。

 正直、ハルトとカイネの関係に余計な干渉をするのはお節介だ。

 ただ、俺の気持ちが落ち着かなかった。

 それだけの理由だ。

 後、俺がいい人に見られたいという部分もあるのかもしれない。

 少なくとも、カイネには悪い人間とは思われてないはずだ。

 浅ましいな。

「いい人に見られたいからやったんだとか、浅ましいとか、そういうことを考えてるでしょ?

 浅ましいよ。

 確かに、そうだと思う。

 ヒロシも私も同類。」

 そう言いながら、ベネットは俺の手を両手に包んで、ぎゅっと握りしめる。

「でも、私のこと、嫌いになったりしないよね?

 なら、ヒロシもヒロシのことを嫌いにならないで。

 私は、ヒロシのこと大好きだよ。」

 ベネットは、俺の手を胸に抱く。

 思わず恥ずかしくなって、目をそらしてしまった。

「私を見て、ヒロシ。」

 ベネットは、体を傾けて顔を近づけてくる。

 俺は、その顔をじっと見る。

 

 翌朝、朝食でみんなと顔を合わせると、トーラスが盛大にため息をついた。

「やってられないよ。

 ひとり身の僕に当てつけばかりされたら、たまったもんじゃない。」

 慌てて、繋いでいた手を離す。

 ハルトは何のことだか分からない感じで、カイネを抱きしめたままきょとんしてる。

「もう好きにしてくれ。

 そのうち僕も彼女作るから。」

 トーラスは面倒くさそうに、手を振りトーストにかぶりついた。

 マーナが慰めるようにトーラスの足元にすりついている。

「分かってくれるのは、お前だけだよマーナ。

 いっそ、僕と付き合わないかい?」

 いや、狼と恋愛とか冗談だろう?

 いや、ファンタジーの世界なら、ここから女の子になるとかって展開もないわけじゃないだろうけど。

 今は、ただの獣だぞ?

「冗談だよ。

 さすがに、狼を相手に恋愛したりしないよ。」

 いや、まあ、そういう趣味の人もいるから一概に否定はできないけど。

 ちょっとほっとしたのは内緒だ。

「すいません、ちょっと高度過ぎてわかりませんでした。」

 俺の言葉にトーラスは渋面を作る。

「そういうのよくないと思うよ。

 ところで、これからの予定はどうするの? 順調そうに見えるけど、寄り道とかするのかい?」

 まあ、どこかに寄る余裕はある。

「そうですね。ラウゴール男爵にご挨拶に行くのはありかも。

 ちょっと予定を変えますか。」

 そう言って、地図を指し示す。

 ハルトを見ると、蚊帳の外だと思ってるのかカイネといちゃついている。

 カイネは気づいているようで、ハルトの名を呼び地図の方を向かせようとしていた。

 本当こいつ駄目な奴だなぁ。

「え?なに?地図なんか出して、何してんの?」

 ようやくこっちを向いたが、意味はまだ把握してないみたいだ。

「移動先を変更します。

 この地図を作られた方にご挨拶しに行くことにしました。

 ついては、あれで設定している行先も変更してくださいねって話ですよ。

 分かりますか?」

 分かったと頷いたけど、なんだかラインズのことを思い出すな。

 頼むから、しっかりしてくれ。

 あいつと同じ末路とかたどられたら、俺は今度こそ立ち直れなくなりそうだ。

 

 運転をハルトに任せてみたが、これがまあ荒い。

 急加速に急減速、カーブを曲がる時は必ずタイヤを鳴らす。

 あほかな?

 他に馬車や歩行者がいなかったからよかったものの、乗ってて気分が悪くなることこの上ない。

 かといって、このまま運転させないわけにもいかないので、カイネと席を変わり助手席で指導することになってしまった。

 何が悲しくて、男の隣に座らなきゃならないんだ。

 もう本当に勘弁してくれ。

 制限速度が無いからって、アクセルベタ踏みだしカーブが目前に迫るまで速度を緩めない。

 よくこれで免許取れたな。

「ハルト様、止めてください。

 吐きそうです。」

 カイネが根を上げて車を止めさせ、吐いたところで自分の運転がいかにひどいものか、ハルトは自覚した様子だ。

「俺ってもしかして運転下手?」

 皆が頷かざるを得ない。

 とりあえず、みんなの運転を見せようという事で、ハルトを助手席に乗せて、順番に乗り継いでみた。

 しかしまあ、うるさい。

 あれが見えるこれが見える、ブレーキが早いんじゃないか、アクセル遅いんじゃないかといちいち文句を垂れた。

「うるさい!!ちょっとは黙ってて!!」

 ベネットがついに切れて、怒鳴った時はびっくりした。

 彼女がここまで怒るのも珍しいな。

 どっちかというと怒りを内に秘めるタイプだから、ちょっとうら、いや、怖かった。

 しかし、この中で一番運転が上手いのがベネットなんだよなぁ。

 静かに加速して、無理なく減速、流れるようにカーブを曲がる。

 元々舗装がよろしくない道なのに、まるでアスファルトの上を走っているような錯覚に陥りそうだ。

 もちろん、サスペンション周りをいじってあるから振動が抑えられているというのもあるんだけれど。

 その運転に、よくもまあケチをつけられるもんだ。

 とりあえず、日も暮れてきたので街に泊まるか、コンテナハウスにするか決めよう。

 そろそろハルトにも見せたほうがいいだろうしな。

「そろそろ止まりましょうか?

 今夜は、あれを使おうと思うんで。」

 トーラスとベネットには意図が通じたらしく、二人とも頷いてくれた。

 まあ、ハルトとカイネにはまだ伝えていないので、何のことかさっぱりな様子だ。

 そりゃそうだよな。

 秘密だもの。

 

 適当な空き地に止めて、早速コンテナハウスをインベントリから出す。

 ハルトがスゲーとか言ってるが、こういう反応は別に嫌な気持ちにはならない。

 人は褒められれば照れはしても、嬉しいと思うものだ。

 しかし、5人だと狭いかもなぁ。

 ベネットと俺は車で寝るかな。

「ヒロシ様は、とても凄い魔術師なのですね。」

 カイネが感嘆の声を上げた。

 もっと褒めていいのよ。

 まあ、借り物の力だから、それでえばり散らすのは違うか。

「魔法じゃなくて、神様がくれた能力ですよ。

 ハルトさんの力と同じものだから、すごい魔術師というのは間違いかな。」

 そう言っている間にハルトは遠慮なく中に入っていった。

「すいません。」

 あまりのハルトの行動にカイネは恥ずかしそうにうつむき謝ってきた。

「君が謝ることじゃないから。

 とりあえず中に入ろうか?」

 もう苦笑い浮かべるしかないわ。

 

 夕飯はハルトのリクエストで米を炊くことになった。

 いや、お前米だけあればいいのか?

 正直な話、おかずなしでご飯だけってわびしいぞ。

 いや、塩振って食えなくもないけども。

 いいお米なら噛めば噛むほど甘みがって言うけど、それはあくまでお米のおいしさを感じるための手段であっておかずがないのを我慢して食うものじゃない。

 いや、本当にいいお米はそれだけで一膳食えちゃうけども。

 正直、こっちの米はさすがにそのレベルじゃない。

 一応炊飯器も買ったから、楽に炊こうと思えば炊けるけどさ。

 おかずどうしようかなぁ。

 ベネットやトーラスに米飯を進めるのもなぁ。

「ヒロシ、私はレイナ様のところで慣れてるから。

 それと、私がおかず作るね?」

 ベネットは見かねて台所に立ってくれた。

「ありがとう。

 じゃあ、俺はお米炊くから。」

 そう言って、米を研ぎ炊飯器にセットした。

 研いだ水はもったいないので、《水操作》で分離して糠と水に分けておく。

 ベネットはてきぱきと料理を進め、圧力鍋なんかも駆使していくつかのおかずを用意してくれた。

 一つ目がマスの香草焼き、2つ目が豚と豆のワイン煮、3つ目はレタスと玉ねぎ、そしてトマトのサラダだ。

 サラダには卵を酢と油、そして塩と少々の胡椒を混ぜたソースをかけている。

 というか、それマヨネーズでは?

「そのソース、誰かに習ったの?」

 そう尋ねると、ベネットは頷く。

「レイナ様にマヨネーズって言う名前のソースだって聞いたけど、どうかな?」

 そう言って、ベネットはスプーンでマヨネーズを俺の口元に運ぶ。

 あー、うん。

 マヨネーズだ。

 ちょっと温いから、卵の味が際立っている。

 どっちかというと卵ソースという方が正しいのかなぁ。

 でも、マヨネーズと言ってるしなぁ。

 とりあえず、そのことは目をつぶろう。

 歴史的に見れば似たようなソースがどこかで生まれているかもしれないし。

 料理を並べるのを手伝い、俺とベネット、そしてハルトの前に皿にのせたご飯を出した。

「え?お茶碗じゃないの?」

 ハルトはライスだと不満みたいだな。

 いいよ、茶碗に盛ってやるよ。

 俺は黙って炊飯器に戻して茶碗に移し替え、箸も出してやる。

「久しぶりの米だ!!いただきまーす!!」

 嬉しそうにハルトはご飯を掻きこむ。

 だけど、すぐに微妙な顔になってきた。

 だろうな。

 思い描いた米のイメージが肥大化していれば肥大化するほど残念な気分になる。

 これでも結構気を使って炊いたが、それでも日本の品種とは若干違う。

 とはいえ、ご飯に豚と豆のワイン煮が合うな。

「おいしい。」

 俺はベネットに笑顔を向けてしまった。

「ありがとう。」

 ベネットは、嬉しそうにそう返してくれた。

 その様子を見て、早速ハルトはマスの香草焼きやワイン煮を口にしながら、ご飯を食べる。

「ベネットさんの料理うま。

 これ、ご飯に合う。」

 ハルトの言葉にベネットは自慢げだ。

 トーラスとカイネはパンだけど、そっちにもあってるのか食いつきは上々だ。

 うん、本当においしい。

 ただ、なんかカイネが焦っているように見えるのは何だろうな?

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