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9-17 茶番だよなぁ。

実は、ある種のテストも兼ねています。

 ブラックロータスでの取引も終わり、俺たちはモーダルへと向かう。

 ハルトも同乗する予定だが、こいつ車を運転できるだろうか?

 一応、ベネットとトーラスには運転をしてもらって問題ないのは確認している。

 ハルトも運転できるようなら、1日中移動って事も可能になるかもしれない。

 あともう一つ確認しておきたいことがある。

 出発前に、聞いておこう。

「うぉ、自動車じゃん!!こんなのも買えるのかよ。

 いいなぁ、俺も欲しい。」

 ハルトは自動車ではしゃいでるが、こっちの世界にもあるのを知らないのかな?

「確かにこれは、あっちの奴ですけど、こっちでも普通に自動車ありますよ?

 金貨1000枚分かかりますけど。」

 なんか、ハルトの顔が明るくなったり暗くなったり、反応がいちいち面白い。

「えーっと、ちょっと待って。

 こっちの世界の自動車もガソリン車なの?」

 俺は首を横に振る。

「なんでも火の精霊を呼び出して、エンジンの中に住まわせてるんだとか。燃料は、アルコールだというからディーゼルエンジンに近いんでしょうね。

 軽油が使えるのか、ちょっと気になるところです。」

 ここら辺の話は面白いらしく、ハルトは明るい表情をする。

「とりあえずマジックアイテムみたいなものだから、とても高いと。

 とはいえ、こっちであっちの自動車を使うとなるとガソリンがないので、それもあっちから取り寄せないといけません。

 だから、初期費用はあっちの世界の方が安く、ランニングコストはこっちの方が若干安いという感じですね。

 とはいえ、こっちの奴は30キロが上限みたいなんで、性能はあっちの方が断然高いですよ。

 まあ、こっちはこっちで水陸両用だったり、結構ごつい作りで頑丈そうではありましたけど。」

 むしろ、装甲車に近い感じはした。

「どっちの方がいいんだろう。

 でも、スポーツカーってこっちじゃ走らせにくいだろうしなぁ。」

 せやな。

 舗装ちゃんとしてないし。

「ちなみにハルトさん、運転できます?」

 ハルトくらいの年齢なら、免許を持っていてもおかしくはないよな。

 まあ、どこに住んでたかによっても変わるけど。

「一応、オートマなら免許持ってるよ?

 あー、でもこっちに来た時に財布もなかったんだよなぁ。

 どうしよう。」

 ハルトは、免許不携帯を恐れているみたいだ。

 いや、別に免許なくても、こっちではだれも咎めないんだけどな。

「仮に、こっちで免許が必要になったら、取り直さないとですよ。

 今のところは取り締まられてないんで、気にするだけ無駄だと思いますけどね。」

 そんな下らない話はどうでもいいと言わんばかりにマーナが欠伸をした。

「まあ、とりあえず乗ってください。しばらくは俺が運転をします。」

 そう言って、みんなに乗車を促す。

 

 ブラックロータスと外輪山の切れ目をつなぐ橋を渡りながら、俺はハルトに尋ねた。

「ハルトさん、”案内”でモーダルって場所は出ますか?」

 とりあえず、地名だけで検索に引っかかるだろうか?

 ちなみに、乗車位置は助手席にハルト、後ろ向きの座席にトーラス。

 横向き座席にベネットとカイネが座っている。

「いや、出てこない。

 2㎞くらいが限界だから、場所が分かんないと。」

 うん、そこは予測がついていた。

 だから、俺は主要な都市名を書いた地図をハルトに渡した。

「へぇ、こっちの世界の地図まで売ってんの?」

 ”売買”で何でも手に入ると思われると困る。

 それは、こっちの人の手によるものだ。

 ラウゴール男爵には、お礼を兼ねて、またお邪魔しないとな。

「違いますよ。

 それは、とある男爵様から賜ったものに、俺が手を加えたものです。

 まあ、印刷はできるんで破くのは構いませんけど、落すのはやめてくださいね。

 下手に流出すると問題ですから。」

 いくら軍事機密は省かれているとはいえ、主要な街道や河川、都市が記された地図はやはり有用な情報だろう。

 軍事的にも、民間用としても、やすやすと公開していい情報じゃない。

 でも、詳細な地図があればハルトの”案内”はとても役に立つ気がする。

「あぁ、そうなんだ。

 お、出てきた。なんで?」

 多分、緯度や経度の情報がハルトの目に、もたらされたからだと思う。

「座標軸の問題だと思います。

 どれだけおおざっぱな地図でいいのかはわかりませんが、その地図は緯度経度まで記載されてますから、能力がそれを読み取ってくれたんだと思いますよ。

 どうやら”下拵”は使用回数で上がるタイプの能力で、”案内”の方は思いつきで試行錯誤するとレベルアップするタイプじゃないかな。

 あくまでも予測ですけど。

 そういう意味で、いろいろと考えておくといいと思いますよ。

 これしてくれたら楽なのにとか。」

 どういう伸び方をするのかは、その人次第って気もするしな。

 勿論のことだが俺の方でもあれできないかこれ出来ないか聞きながら、思考誘導するつもりだけども。

 そんなことを考えていたら、後ろから突然トーラスの吹き出す声が聞こえてきた。

 ベネットの本当に?、と疑問を投げかける声も聞こえる。

 一体何を話してたんだろう?

 まあ、休憩をするときにでも聞いてみるか。

 

 どうやらハルトは浪費癖があるらしい。

 一旦車を止めて、森の中で休憩をとった時に確認を取った。

 なんでも昨日の今日で+1の短剣と+1のチェインシャツを購入したんだとか。

 いや、別にチェインシャツはいいよ。

 身を守りたいって気持ちは分かるから。

 だけど、+1の短剣って。

 お前あれだけポキンポキン短剣を折っておいて、なお高い短剣を買う理由ってなんだ?

 確かに、強化を施した武器は頑丈になるし手入れがいらなくなるからとても便利なのはわかる。

 でも、硬さに関係なく一定の損傷が加わると説明したはずだし、+1の短剣でもあっさり折れる可能性があった。

 そこのところは分かってるのか聞きたいところだが、問題はそれを止めなかったカイネの方だ。

 ハルトが持っていた金は全部使い果たしたわけだから、服の代金やら宿代なんかは全部カイネ持ちだ。

 もちろん、奴隷だから主人の金を預かっているという形にはなるが、少なくとも危機感を感じてしかるべきだろう。

 とりあえず、そのことはいったんおいておいてハルトに確認を取ろう。

「まさか、その短剣であれ使うつもりじゃないですよね?」

 ベネットに散々絞られた後なのでハルトはしゅんとしている。

「使わない。他のナイフとかでもいいかなって。」

 なるほど。

 まあ、そこは考えてたんならいいや。

「じゃあ、これ渡しておきます。」

 そう言いながら、斜め掛けのベルトにいくつも刃物をしまえる鞘がついた物を渡す。

 計10本ほどナイフなどがさせる作りだが、そこに俺が見繕った100均の包丁も納めておいた。

 それを見たハルトは、うわだせえみたいな顔をしていたが実用性を考えればそれで十分だろう。

 それが不満なら自分でナイフを買えばいい。

「ハルトさん、カイネちゃんと話しても?」

 ハルトはあからさまに警戒心を見せる。

「いいけど、俺も見てるからな。」

 別に構わないというか、むしろ聞いてろ。

「カイネちゃん、なんで君は止めなかったんだい?

 短剣を買うのは、彼の能力を考えれば無駄な浪費だ。

 それは分かっていたんだろう?」

 まあ、奴隷が主人をいさめるなんて発想はないよな。

 ただ、見てるとうつむいて少し罪悪感を感じているようにも見える。

「別に、それはそれで構わないよ。

 お金を浪費して、困窮するなら俺が金を貸してやってもいい。

 ただ、慈善事業じゃない、利子も取るし、借金のかただってとる。

 つまり、君を買い上げることをしたっていい。」

 俺はわざといやらしい笑顔を浮かべる。

「な!! お前ふざけんなよ!!」

 ハルトが俺の襟首をつかんでくる。

「金がないって言うのはそういう事だ。

 それに奴隷の君は、金で売り買いされる存在だ。

 君に拒否権なんかないんだよ。」

 あくまでも俺は、ハルトにではなくカイネに語り掛けた。

「そんなこと、俺が許さねえ!!」

 ハルトは怒り狂っているが、俺を殴ろうとはしてこない。

 言ってることはかっこいいけど、じゃあ実際どうするんだと。

「カイネ、君がやったことは自分の身をハルトから遠ざけるという事でもある。

 いいんじゃないか?

 こんな甲斐性なしに飼われるより俺のもとにいた方が安全だし幸せだと思うよ。」

 カイネは取り乱し、涙をこぼし始めた。

 うわぁ、つれぇ。

「勝手に人の幸せを決めないでください!!

 私は、ハルト様のものです!!

 今が幸せなんです!!」

 分かってるよそんなこと。

「なら、君はしっかりとハルトの手綱を握るべきだ。

 奴隷としてじゃなく、君自身が考えてハルトを支えてやるんだ。

 正直、奴隷の主人としてはハルトは失格なんだよ。

 奴隷のままだと側にいられなくなるぞ?」

 俺の言葉の意味は分かってもらえただろうか?

 とりあえず、一度言っておかないと分からない気がしたから、お節介を焼いてしまった。

 次の瞬間ハルトに思いっきり殴られた。


 痛ったぁ。


 ……しょうがない。これくらいは必要経費だ。

「ハルト様、やめてください。

 違うんです、ハルト様!!」

 カイネには俺の意図が伝わったらしく、ハルトに取りすがり俺への攻撃を止めてくれた。

「何が違うって言うんだ!

 こいつ、殺してやる!」

 いきり立つハルトと俺の間にベネットが立つ。

「ヒロシ、茶番は済んだ?

 それとハルトさん、それを本気で言ってるとするなら私が受けて立つわ。」

 ハルトは静かに怒りを抑えているベネットにビビったのか、腰が引けた。

「ヒロシも、ちゃんと説明する!!

 ちゃんと言わないと、ハルトさんも理解できないわよ?」

 怒りの矛先は、俺にも向けられてるみたいだなぁ。

 まあ、そうだよな。

 ベネットからしたら不愉快極まりない話だったし。

 俺は、深いため息をつく。

「そもそも、俺にはベネットがいるんだから不埒な目的で女の子を欲しがる理由なんかないです。

 さっきのはあくまでもたとえ話で、ハルトさんが借金を変なところに作れば、そうなる未来もあるよと言いたかっただけです。

 変なことを言ってすいませんでした。」

 俺は頭を下げた。

「これで納得できたかしら、ハルトさん?」

 納得できようとと出来まいと、ベネットの様子を見てたら頷かざるを得ないだろ。

「ひゃい。」

 ハルトは情けない声を出して、拳を下げた。

 トーラスは、笑いをこらえるのに必死な様子だ。

 確かに茶番だよなぁ。

 何やってんだろう俺。

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