9-15 いや、その、ごめんなさい。
趣味だけど、実用なんです。
本当です、信じてください。
ベネットの出した条件は、彼女の分配放棄だ。
その代わりタワーシールドを受け取る。
そして、残りの1万5000ダルは俺の分配から差し引く。
金額としては、妥当な分配だ。
なんだけど、なんだけど、なんでベネットは分配を放棄するんだ。、
これが俺が放棄するならいいんだけど。
「これは譲らないからね?
おもちゃを持たせたいのは分かるけど、それで苦労するのは私って言うことを忘れないで。」
いや、確かにそうなんだけども。
苦労かけちゃうんだけども。
「おもちゃじゃないんだ。ちゃんと実用性を持たせるから。」
とりあえず、今のままじゃ銃弾は防げないだろう。
そこで、セラミックプレートを張り付けたりケブラー繊維を挟んだりする予定だ。
そうすれば、ベネットの身の安全を、より図れる。
「実用性を兼ねるというんだったら、なおのこと私が払うのが筋でしょ?
何だったら、私が全部払いましょうか?」
やばい、余計に話がこじれそうだ。
「いえ、さっきのお話のままで結構です。
申し訳ございませんでした。」
カイネには、そんなやり取りが面白かったのか、笑われてしまった。
トーラスとハルトにはやれやれって目で見られるし。
いや、それでもこれは是非とも手に入れたかったんだ。
絵になるじゃん。
大きな武器を持って、浮遊する盾が身を守るとか、姫騎士っぽくて好きなんだよそういうの。
ベネットには絶対そういうの似合うし。
まあ、俺とベネット以外には分配量が変わるわけでもないから関係ない話だけどさぁ。
「ヒロシ、趣味に走りすぎだと思うぞ。」
ハルトに呆れられた。
うるさい!!
お前に言われたか無いわ!!
「いやしかし、これで俺も晴れて自由の身かぁ!!
金貨300枚分も手に入れたし、ここから俺の冒険が始まるんだな!!」
何言ってやがんだ。
ハルトが晴れやかに宣言するが、お前は俺のところで働くんだよ。
「忘れてもらっては困るんですけどね?」
とりあえず、契約書を突き付ける。
「あ、いや。
うん、頑張ります。」
こいつ大丈夫かなぁ?
明日、消えてても驚かないぞ。
「カイネちゃん、ちゃんと財布は握っててね。
男の人は何に使うから分からないから。」
ベネットがカイネの手を握り、力説している。
いや、俺そんなにひどい使い方して……
るなぁ。
船とか、死蔵しているようなもんだし。
とりあえず、カイネは気おされてこくこくと頷くしかできてない。
やめてあげて、俺が悪かったから。
「ところでヒロシ、ゴーレムコアなんかどうするんだい?
僕も存在は聞いた事はあったけど、まさかこれで何か作るつもり?」
目録を見て、トーラスが疑問を口にする。
ゴーレム本体は秘石に変わったが、なぜかゴーレムコアは残った。
一応、こういうのが素材として使える可能性もあるので、持ってきたけど、ちょっと先生に見せないと値段が分からないんだよなぁ。
これについては、分配を保留している。
「分かりません。
それで何かが作れるとも、作れないとも判断がつかないんで先生に見せるつもりですよ。」
査定では、これに値段はつかなかった。
何かに使えたらいいんだけどなぁ。
一応、他にも魔獣の体も回収している。
こっちも同様に値段がついてないのが不思議ではあった。
まあ、安く済むならそれに越したことはないんだけども。
「ヒロシさぁ。
なんでわざわざ全部見せたの?あれって中身とか確かめられちゃうもんなの?」
”収納”の中身が見られるのか気になっている様子だ。
「いや、中身は見れないですよ。
確かに、こっそり持ちだしちゃえばよかったですね。」
いや、でもさすがに手ぶらだと怪しまれるかなぁ。
それにいい考えだと思ったけど、これで飯を食ってる人もいることを考えると微妙か。
「とはいえ、組合の人たちの取り分って言うのもありますからね。
受付の人とかの給料が、あの金額に含まれることを考えたら、なるべくやらない方がいいかなって思いますよ。」
出来るからやるって言う発想はよろしくないよな。
「どうせ、組合長が大半持ってくんだろうし、別にいいんじゃねとか思っちゃうけどな。」
証拠もなしに言うのはよろしくないが、俺もそんな気はする。
だけど、組合長を締め上げたところで受付の人の給料が上がるわけでもない。
もし変えるなら、自分が組合長にでもなるしかないだろう。
でも、それで苦労してなったら今の組合長と同じことをしてしまいそうだけどな。
「どうなるかは知らないですけど、今回はたまたま思いつかなかっただけです。
でも繰り返してたらいずれ目を付けられるでしょうね。
証拠無しで裁かれる可能性もある世界で、そういうことはなるべく手を付けないのが賢明だと思いますよ。」
大人しく金を払っているうちは、そうそう無碍にされないだろう。
ハルトには、どうにもそこら辺が気にくわない様子だ。
気持ちは分かるけどね。
「なあ、ヒロシ。あんた年齢いくつなんだよ。」
急に日本語で話しかけられる。
「元は40ですけど何か?」
とりあえず、どうでもいいけど日本語で返す。
「うへぇ、おっさんじゃん。」
おっさんだよ。
だから、どうした。
「ハルトさんはいくつなんですか?」
質問され返すとは思わなかったらしく、ハルトは慌てる。
「22だけど。」
22であれなのか。
もっと若いかと思った。
「高校生くらいかと思いましたよ。」
やってる行動が、行動だもんな。
若い子ならしょうがないかと思ったけど、ちょっと引く。
「そこまでガキじゃねえよ。でも、やっぱおっさんって敬語なんだなぁ。」
こいつ分かってねえなぁ。
「敬語って言うのは、相手と距離を置きたい場合にも使ったりもするんですよ。
まあ、癖になってる部分もありますけど、親しい人とは普通にしゃべりますよ?」
にこやかに笑ってやろう。
「こわ。おっさんこわ。
でも、トーラスって人には敬語じゃん?」
あくまでもビジネスライクな関係だしなぁ。
でも、最近は結構打ち解けた気はするけど。
「癖が抜けきってないんでしょうね。
いずれにせよ、あんまり馴れ馴れしくするのはお勧めしませんよ。世の中例外って言う人種もいますけどね。」
俺は、グラスコーの顔を思い浮かべる。
「ちなみに言っとくと、ベネットは日本語勉強中なんで、あんまり変なこと言わない方がいいですよ?」
とりあえず、釘を刺しておこう。
ぎょっとした顔をして、ハルトはベネットを見る。
それに対して、ベネットはにっこり笑う。
ベネットにどこまで通じてるかは分からないけど、別に日本語は暗号でも何でもないんだぞって言うのは学んでおいて欲しい。
「ところで、ハルトさん。その服装何とかなりませんか?」
とりあえず、洗濯はしたのか汚れは取れている。
だけど破れやほつれは補修しきれてない。
「いや、うん。そのヒロシって他にも服扱ってる?」
まあ、商人だしな。
当然いろいろと扱ってる。
「じゃあさ、この街に温泉があるから、そこで選ばせてくれね?
宿でもよかったんだけどどうせなら広い脱衣所があるところの方がいいだろうし。」
出来れば、その情報は昨日の段階で知りたかったなぁ。
「構いませんけど、まず俺の仕事を終わらせてください。
これでも商人の端くれなんで、手ぶらで帰るわけにもいかないんですよ。」
ハルトの了承も得たので、俺はこの街にある商店に足を運ぶことにする。
ブラックロータスでは防刃服や防具の類、武器などがよく売れた。
もちろん通常の商品だって売れないことはなかったけど、比重は戦闘を意識した買い入れの仕方だなと思った。
マジックアイテムも割と高値で買い取ってくれたので、今回のダンジョンアタックで手に入れたものもまとめて処分させてもらう。
余剰分を再度分配した。
よし、ベネットも受け取ってくれた。
下手に感づかれたら、俺の分配を増やされかねない。
いや、どうせ財布は一緒になるんだから気にする必要はないんだけど。
気持ちの問題だ。
しかし、まあ、温泉か。
そりゃ、カルデラ湖の中にある街だもんなぁ。
温泉の一つや二つ、湧いていても不思議ではない。
まあ、作りは和風じゃなくて、洋風だからどちらかというと温泉というよりは女性向けの岩盤浴サウナみたいな雰囲気がある。
いや、一度友人と一緒に利用したことがあるんだ。
街中にある、岩盤浴が流行った時期に街中にできた岩盤浴のお店に入ったら、思いっきり女性を意識したつくりで、男二人で利用したら奇妙な視線を向けられた覚えが。
別に店側も男が使うことを意識してないわけじゃなかったんだろうけど、男二人で利用してくるとは思ってなかったんだろうなぁ。
あの居心地の悪さと言ったらなかった。
この温泉は単に作りが洋風というだけで、別に周りに男性もいるからあのときほどの違和感は感じない。
男女別々に入るという形になってるから、脱衣所は男ばかりだし。
とりあえず、早々に着替えて温泉に浸かることにする。
「あー、いいなぁ。硫黄泉かな?
なんか懐かしい気分になる。」
俺は思わずため息をついてくつろいでしまった。
「おっさん臭。変なにおいするだけで、熱いし俺嫌いなんだよな温泉。」
知らんがな。
お前が、脱衣所があるところがいいって指定してきたんだから、嫌いならとっとと上がればいいだろ。
ハルトは別段温泉に思い入れがないのは分かったがケチをつけられても困る。
ちなみに、トーラスは体を洗うと早々にサウナに行ってしまった。
「そういえば、髭剃りとかある?ナイフで剃ってると顔切っちゃうんだよなぁ。」
こっちがあっちの世界のものを手に入れられると思って好き勝手言ってくれるなぁ。
「それなら、銀貨3枚で売りますよ。シェービングクリームは、別途銀貨1枚です。」
ハルトは俺の言葉に顔をしかめる。
「高くね? ぼったくりだろ。」
こっちと元の世界とのレートを知らない様子なのに、ぼったくりと断言するのはなんでだろうな?
いや、まあ確かにぼったくってるが。
「ただで手に入るものじゃないし、いやなら今まで通りナイフで剃ったらどうです?
それほど困るものでもないでしょ。」
ハルトは舌打ちをして、あとで払うといったので髭剃りとシェービングフォーム、それとタオルもおまけにつけてやった。
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