表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/603

9-10 同胞ではあるんだけどなぁ。

好感度は最低からスタートです。

 男の身なりも問題だったので、大衆食堂に入る。

 マーナが店に入っても、注意されることはなかった。

 味は期待しないでおこう。

 ただ、メニュー出されたんだよな。

 グラタンだとかサンドイッチだとか、割とメニューが豊富だ。

 ここら辺の店はみんなそうなんだろうか?

 まあいいや。

 とりあえず、紅茶を頼んでみる。

「ミルクティーになさいますか?レモンティーになさいますか?」

 おぉ?

 ミルクティーだと?

 こっちの世界で初めて聞いたぞ?

「えっと、いや、ストレートで。」

 畏まりましたと店員さんはにっこり笑って奥に行ってしまった。

「あんた名前は?」

 男は名乗りもせずに聞いてくる。

「自分はヒロシと言います。

 グラスコー商会というところで従業員をしています。

 お名前をお聞きしても?」

「ハルトだよ。

 太陽のように十字に点々。」

 十字に点々?

 ……一斗缶の斗か。

 変わった名前だなぁ。

「それで、ご質問の通り私は日本人ですが。

 ご用向きは何でしょう?」

 多分来訪者だよな。

 相手も俺を”鑑定”しているはずだし、こちらもしておこう。

 名前はフルネームじゃなくて、陽斗とだけ表示されている。

 能力値は俺と似たり寄ったりだ。

 とても優秀ではある。

 ただ、魔法能力がない。

 《水操作》みたいな小魔法は使えるみたいだけど、盗賊系のクラスなんだろうか?

 罠解除や開錠の能力はあるし、急所攻撃ももっている。

 でも、HPや攻撃力は戦士並みに高いし謎だ。

 特殊能力は……

 ”案内”と”下拵”? なんじゃそりゃ。

 あー、どうやら”鑑定”は標準装備みたいだなぁ。

「なあ、俺を助けてくれないか?」

 ハルトは下をうつむきながら、頭を下げてきた。

 またあやふやな要求だな。

 ダークエルフの女の子が心配そうに背中を撫でてる。

「具体的におっしゃってください。

 助けられるか助けられないかなんて、内容を聞かないと判断がつきません。」

 そういうとハルトはこの世界への恨み言を俺にぶつけてきた。

 やれ飯がまずい、やれトイレが汚い。

 布団がない、ネットもない。

 周りは自分を奴隷扱いだと、憐れみを誘う言葉が並べ立てられる。

 ただ、どうにも引っかかる。

「それで、横の女の子は何なんですか?」

 さっきから、しゃべりもせずにハルトに寄り添っている。

 多分、親愛の情があるのは分かるけど、どういう関係なのかが分からない。

「あぁ、奴隷だよ。

 ヒロシも連れてるじゃないか?」

 ハルトの発言に俺は一瞬、思考が停止した。

 は?

 奴隷?

「え?横の女って奴隷じゃないの?」

 ハルトは日本語に切り替えて聞いてきた。

 殺すぞ。

「人の彼女を奴隷扱いをやめてもらえないですかねぇ?」

 日本語で返しつつ俺は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

 なんだ、その信じられないみたいな顔は!!

 どうせ俺はぶ男だよ!!

 ベネットみたいな美人に相手してもらえるのが不思議なのはわかるが、いきなり奴隷呼ばわりとか、こいつ!!

「まあ、話をまとめましょう。

 あなたは、暴虐無人なふるまいでパーティーから追い出されて、路頭に迷ってる。

 ついては、自分のスポンサーになれと。

 さらに人を探してパーティーを結成させろと。

 アホですかあなた。」

 フランドル語に戻して、ハルトの話をまとめた。

 ちょっと腹が立っているのもあるが、ハルトの要求は過大なのも事実だ。

 そもそも、人を集めるのがどれだけ大変か分かって言ってるのかな?

「い、一度だけでもいいんだ。

 じゃないと、Eランクから抜け出せない。

 スポンサーがつかないとまともなダンジョンに潜れないんだ。」

 どうせこういう輩は一度で終わるわけがない。

 関わるだけ損だという気もする。

 だが、特殊能力が気になる。

 なんか、単純に二文字で表現される特殊能力はたいてい裏がある。

 改めて内容を確認しよう。

 ”案内”とは望みの場所まで”案内”する能力で、音声ガイダンスや矢印表示が出るらしい。

 また、”案内”先が複数ある場合は座標軸表示がされて、その場所までの距離が表示される。

 その中の一つを選べば、そこに”案内”してくれるのか。

 カーナビみたいだな。

 ただ、引っかかるのは望みの場所というところだ。

「せっかく異世界に来たのに、碌な能力ももらえないし。

 なんだよカーナビとか、”下拵”えって。

 料理人にでもなれってのかよ。」

 何も泣くことないだろ。

 料理人って発想が出てくるなら、それで頑張ればいいのに。

「”案内”の方は出入り口とか、知ってる場所しか指定できないんですか?」

 俺の言葉にハルトは首を横に振る。

「金貨とか、武器の名前とかを入れると表示される。

 だけど、実際その場所に行ってもなかったりすることもあるし、きっと外れスキルなんだよ。」

 その場所に行っても、無かったりする?

「ちなみに、場所の横に数字とか出てますよね?」

 ハルトは出てたかなと考えこみ始めた。

 お前、自分の能力ちゃんと把握してるか?

 この分だと”下拵”というのも、把握してなさそうだな。

 とりあえず、文言としては材料を捌くことができるとし書かれていない。

 いや、逆にこれって。

 それしか文言が無いのがおかしい。

 材料を捌くってなんだ。

 どんなものを対象に材料というのか。

 捌くって言うのがどういう状態なのかさっぱりだ。

 自分の能力なら、いろいろと情報が出てくるんだろうけどなぁ。

 想像だけど、たぶん魔獣を瞬間的に捌けたりするんじゃなかろうか?

 そうだとすると、とんでもない戦闘スキルに早変わりするぞ。

 とりあえず、そんなことを考えている間も、ハルトはまだ悩んでる。

「ちなみに、この場所はこんな数字になりますけど?」

 試しにここの座標を紙に書いてみせた。

「あぁ、こんな細かい数字だったかも。意味わからん。」

 意味わからんって、お前なぁ。

「多分、これだけだとするなら、高さの情報が処理できてないんでしょうね。

 地面のずっと下とか、逆に遥か空の上とか。」

 ハルトの顔がゆがむ。

「やっぱり外れスキルじゃねえかよ。」

 聞いててイライラしてくる。

 使える使えないは、お前次第だと突き放したくなってくるな。

 思わずため息をついてしまう。

 先ほどから、Eランクがどれだけ過酷かは聞いた。

 追放されたり、怪我をしたものがグループから弾かれ、Eランクに落とされるケースが多く、それ以外だと孤児やまともな仕事ができない人が身を費やしているそうだ。

 報酬も安く、スポンサーもいないから組合に見つけたものを安値で売るしかない。

 それは大変だなと俺も思う。

 しかもシーカーをやめる権限も失う。

 少なくとも、ランクをD以上にして一度でも遺跡探索を済ませないとやめさせてもらえないんだとか。

 逃げ出すことは可能だが、お尋ね者になる上に身分もないから身を隠すことすら困難だという。

 そもそも、食いっぱぐれているからシーカーをやっている。

 やめてどうなるというものでもないだろう。

 それはとても可哀そうだ。

 そんな奴に奴隷にされている子がだ。

 正直ハルト本人はどうにでもなってしまえと思うが、こんな奴に奴隷にされるなんてたまったもんじゃない。

 それでも、離れるでもなく寄り添ってる姿を見ると純粋に同情してしまう。

「なあ、ヒロシ。

 なんでもするから、助けてくれよ。」

 なんでもするって言って、実際何でもする奴なんか見たことねえよ。

「じゃあ、契約書でも書いてもらいましょうか?

 少なくとも、5年。

 俺のもとで働くという契約でどうです?」

 なんでこの言葉に明るい表情を浮かべる。

 まだ、契約の文言も言ってないんだぞ?

「助けてくれるんだな?

 やったぞカイネ!!

 俺たちは助かるんだ!!」

 ハルトの能天気さに頭が痛くなってくる。

 突然、バンっとベネットがテーブルを叩いて立ち上がる。

「なんであなたはそんなに単純なんですか?

 ヒロシがどんな契約を結ぶかも言ってないのに!!

 あなたは無責任すぎる!!」

 突然の剣幕にハルトは、プルプル震えてる。

「ベネット、落ち着いて。

 俺もそんなにひどい契約にするつもりはないから。」

 おそらく、別に彼女は俺がひどい契約を結ぼうとしていると思っているわけではないだろう。

 無警戒なハルトに腹を立ててるんだ。

「ただ、少なくとも彼女が言ったとおり、ろくでもない契約を結ばされるって可能性は頭の片隅に留めておいた方がいいとは忠告しますよ。

 正直、俺はあなたに同情してません。

 今回助けるといったのは、あなたの持つ能力に興味があるからだ。

 それを俺に使わせてほしい。

 それと、お前横の女の子のことをちゃんと考えてやれよ。

 奴隷だからって何してもいいと思ってんじゃないだろうな?」

 本当は俺だって切れ散らかしたい。

 それだと収拾つかなくなるしな。

 ぐぅっとお腹の鳴る音がする。

 少なくとも俺じゃない。

 ベネットやトーラスでもない。

 ハルトとカイネと呼ばれた女の子を見る。

「すいません、二日も食べてないので。」

 カイネが初めて口を開いた。

 

 好きなものを注文していいと言ったとたん、ハルトが調子に乗って、いろいろと注文しだした。

 サンドイッチやらシチューやら、コートレットやら。

 好きに頼んでいいとは言ったが、お前に食わせたいんじゃねえんだよ。

「あぁ、こっちでもうまいものがあるんだなぁ。

 カイネ、旨いか?」

 普段、どんなもん食ってたんだよ。

 あの黒芋か?

「でも、コメ食いてえなぁ。」

 米って……

「ハルトさん、あなた日本でそんなにご飯食べてました?」

 俺もサンドイッチをつまみながら尋ねた。

 旨いな。

 期待していなかったけど、ここのサンドイッチはなかなかだ。

「え?いや、菓子パンばっかだったかも。」

 菓子パンオンリーはそれはそれでおかしなチョイスだな。

「でも、いざ食えないってなったらやっぱり食いたくなるじゃん?」

 気持ちは分かるが、まずこっちの食事に慣れてからの話だろ。

 それに言ってるだけで、別に米じゃくてもバクバク食ってるし。

 とはいえカイネも結構食べてるから、まあいいか。

「逆に聞くけど、ヒロシは飯どうしてたんだよ。」

 どうしてたって、まあ買えるからなぁ。

「まあ、俺のを見てるんならわかるでしょ?

 いつでも買えますし、こっちの食事を満喫してました。」

 そこら辺の余裕の差なのかな。

「え?”売買”ってそう言う能力なの?」

 こいつ、ほんとうに無警戒だな。

 ベネットの目つきが鋭くなってハルトは、ひっ、と声を上げる。

 失礼なやっちゃなぁ。

「君、あんまり口軽いとベネットに殺されるよ?」

 トーラスが茶化すように言う。

「いや、逆らわないっすよ。100レベルの人なんかに。」

 100レベル?

 こいつ、気軽に飛んでもない数値を出してきたな。

 俺は、改めてベネットのステータスを確認する。

 いや、以前と変わってない、10レベルだ。

 ベネットも俺の方を見てくる。

感想、ブックマーク、評価お待ちしております。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ