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1-22 やっと行商人が来たよ。

「ヒロシ、こんなに良い物を貰って良いのか?」

 ハンスは戸惑い気味に言ってくる。

届いた衣類と靴を渡したわけだが、思ったよりも良い物だったらしく困惑してるんだろう。

「いや別にただで渡すとは言ってないだろう?行商人と取引を仕切れない分は俺が貰うって言ってるじゃないか……」

 そのことは事前に伝えてたはずなんだけどな。

キャラバンを離れる前にみんなに渡したい物があるって……

そのために道具やらななんやらの荷物は中堅キャラバンと合同で水場を使うころに、全部荷車に移している。

品質順に分類したり、多少の整理はしたけど。

 まあ、元に戻しておいた。

もしかしたら、行商人と一緒にキャラバンと離れる可能性もあるしね。

ちなみに、ジーンズとかを手に入れた手段については魔法を利用したとは伝えてある。

「しかし、ずいぶんといい縫製じゃないか……靴だって、見たことがないくらいしっかりしてるぞ?……」

 ハンスはかなり混乱している。

服にしろ履き物にしろ手作りが基本みたいだから、ミシンもなければ工作機械もないだろう。

街に行けば、どうなのかは分からないが……

話を聞く限り工場って概念はなさそうだ。

それならこれらの物品は相当高いものって評価をされるんだろうな。

「いや、実際はこれらはそこそこの品なんだ。みんなじゃなければ、高く売りつけたい所なんだけどね……」

 ミリーやテリーなんかは、早速着替えて、走ったり跳んだりしている。

おぉ、すげぇ身軽だな。

タンブリングみたいな機動で回転したりしてる。

さすがは、ハーフリング。

運動神経良いな。

「ヒロシ!これ凄い!!全然足痛くないよ!!」

 今までサンダルだったから、動きを抑えてたんだろうな。

ミリーの笑顔は晴れやかだ。

うん、俺の選択は間違ってなかったな。

「とりあえず、このズボンは目立ちそうだな。革ズボンを上に履いておくか……」

 ハンスがみんなに革ズボンを渡していく。

なるほど、確かにそれなら目立たないか。

色が落ちれば、そこまで目立たないと思うんだけどな。

「こういうズボンは、売ってないの?」

 一応確認してみよう。

「そうだなぁ。ここまで綺麗に縫われていたり、丈夫そうな布じゃないが。布のズボンはあるぞ?」

 チノパンみたいなもんか?

まあしかし、保温効果のあるインナーについての感想はないな。

安物だったから、あんまり効果無いのかな?

「ちょっと馬に乗ってくる……」

 ロイドは、この服装での乗馬感覚が気になったんだろうか?

早速とばかりに馬の元へ向かってる。

「ヨハンナ、動きにくくないか?」

 俺は、ちょっとヨハンナが気になった。

ジーパンって固いからなぁ……

動きにくいとか無いだろうか?

「大丈夫だよ。ちょっとぎこちないかもしれないけれど、すぐ慣れるさ……ありがとうね、ヒロシ……」

 笑顔で応えてくれてるけど、やっぱりはきづらいか。

うーん、スカートにでもするべきだったかなぁ……

もうちょっと資金があれば色々と用意したいんだけど、意外と超純水販売はたまらない。

 いや1日に一万二千円手にはいるって考えれば、十分な収入なわけなんだけどね。

それに頑張れば日中に10リットル、寝る前に気絶するのを前提に30リットルくらいは作り出せる。

出せるけど、辛いんだ。

一回それで試したけど、起きたときは頭くらくらするし体も痛いしろくなもんじゃなかった。

せっぱ詰まってるならともかく、基本怠惰な俺が毎日それをやるのは現実的じゃない。

小説とかなら、最大効率で金を貯めるんだろうけどね。

寝る前に10リットル、キャラバンの仕事からくる疲れと能力値ダメージの疲労が重なって丁度寝やすくなる。

その程度が限界だな。

おかげで、煎じ薬に頼らなくても寝られるようになった。

 しかし、いずれにせよ超純水販売だけじゃ、全然足らないよなぁ……

キャラバンの物品で一番高く売れるのはヨハンナの煎じ薬だ。

1包当たり、銀貨2枚、2000円とはなかなか豪勢なお値段なんだが薬事法的に問題ないんだろうか?

いや、売れるんなら知ったこっちゃ無いけどさ。

でも、これを量産して売るってのは無理みたいなんだよな。

どういう理屈かは知らないけど、同じ材料を使っても、まじない師のヨハンナじゃないと作れないらしい。

作り方を習って同じ手順を踏んでも、まじない師じゃないと駄目。

どういう理屈なんだか知らないけど、そんな怪しげな物よく買い上げてくれるもんだ。

なのでヨハンナが作れる1日4包くらいが限度だ。

さすがに、この量じゃ儲けが少ない。

ヨハンナに余計な苦労をかける事にもなるしなぁ……

でもって、家畜を売ろうと思ったら生きてる状態では商品にならないみたいだ。

買い取り不可。

 いや、そりゃ奴隷とか売れたらどん引きなわけだが……

そうそう、”収納”のインベントリにも、生物は入れない。

まあこうして考えると、中身を知れば知るほどチートって印象は薄くなってくる。

間違いなく文句なしで有用な能力をいっぱい貰ってるのは分かるんだが、いちいち足枷がある気がするんだ。

こうもっとすっきりとチートすげー!!とかってならないものか……

 いや、そりゃ俺が小説の主人公だとして、話を作るならそりゃ足枷いっぱい付けるけどさ。

俺は、どう考えても主人公って柄じゃないだろ。

まあだからといって、今の境遇を返上して元の生活に戻りたいとは思わないけどね。

「おーい!!グラスコーの旦那が来たぞー!!」

 ぐだぐだと愚痴を脳内で垂れ流していたら、ロイドが叫びながら戻ってきた。

どうやら、ようやく行商人が来たみたいだ。

あー、ちょっと気が重い。



 結構大きめの荷馬車に乗ってやってきたのは、やせ形の目つきの鋭い男だった。

鷲鼻だし、こう悪役面だよなぁ……

これで鞭もって奴隷でもたくさん連れてたら、間違いなく悪役で、俺が倒すみたいなお約束になるんだろうけど。

 いや、もしそんな人物でも俺は敵対しないけどね。

怖いじゃん。

「…………」

 ロバが引いてる荷車が止まっても男は降りてこない。

と言うか俺をじっと凝視してる。

なんだろう。

俺は、曖昧に笑うしかなかった。

「ハンス、また変なの拾ったな。」

 ため息をついて、やれやれといった感じで目をつむった後に馬車から降りてくる。

いや、まあ変な奴なのは間違いないけどさ。

しかし、いくら大きいとはいえ、この荷馬車だけなのか?

俺はてっきり何台も馬車を連ねてやってくると思ってたんだけどな。

「旦那、ヒロシは変な奴じゃないですよ。大事な仲間です。」

 ハンスの言葉に俺は何とも言えない顔をしてしまった。

「いや、大体お前が変なんだから、お前らの仲間なら変って事でいいんだよ。」

 なんかにこりともせずに言われるとむかつくな。

こいつ本当に商人なのかよ。

 いや、まあ媚びへつらう相手じゃないって事なのかもしれないけどさ。

「まあ、普通じゃないのは確かですね。ちなみに、ローフォンとアジーム達は、まだ近くだと思いますけど、どうします?」

 すでに水場から離れている中堅キャラバンはハンスが言うように、まだ近くにいると思う。

でも、連絡手段なんかあるのかな?

「そうだな、売りつける物はそれなりにある。呼べるなら呼んでこい。」

 偉そうだなぁ……

なんかだんだんムカムカしてきた。

不意にハンスが俺をなだめるように肩に手を置いてきた。

いつもの事って言いたいのかな?

「まあ、それよりも商品を見せてみろ。欲しい物はいつもの通りで良いか?」

 ロイドが馬の背に乗って、連絡しにいこうとする横で、グラスコーは商談を始めようとしてるみたいだ。

とりあえず、俺もその商談に立ち会おう。

荷車を押して、グラスコーの荷馬車の後ろに付けた。

どうせ大したもん持ってきてねえんだろと思いつつ、俺は無遠慮にグラスコーの商品を鑑定し始める。

 そして、俺は度肝を抜かれる。

マジックアイテム積んでるじゃねえか!!

しかも複数だ!

荷馬車の上にあるどう見ても汚い皮のリュックサックにしか見えないものは、いわゆるホールディングバッグだ。

 そのお値段、なんと金貨500枚。

日本円換算で500万円もする超高級品だ。

12kgくらいの重さはあって、中に入れられるのは225kgくらいしか入れられない癖に超高い。

 しかし、なんだこの端数?

もしかして、ポンド基準なんだろうか?

でも変換式なんか分からない。

もしかしたら、自動変換してくれるかな?

そう思って再度ウィンドウを見てみる。

 あーポンド表記とグラム表記が併記されてるわ。

 しかし、まあ、単位の呼称は違うだろうけどポンドヤード法に落ち着くのは自然の摂理だよな。

俺も、さんざんメートル表記はおかしいとか言ってたもん。

 しかし、そう考えると俺が今までキロ単位で重さを伝えていたのも、自動翻訳で中途半端なポンド数で伝わってたんだろうか?

度量衡に関しては、ちょっと注意しないとな。

 しかし、500万もするホールディングバッグが4つもあるって……

結構なやり手なのか、この行商人?

「何見てやがる。金取るぞ?」

 初めて笑ったけど、嫌らしい笑い方しやがるな。

「見てるだけで金が取れるほど、綺麗な顔じゃないと思うけどね。」

 思わず言い返しちゃったよ。

「確かにな。まあいい、好きにしろよ。」

 そういうと、運んできた荷車の上にのっけられた皮や羊毛を、じっくり見始めた。

何に驚いたんだが、ちょっと目を見開いたりするが、なんだろう?

なんか、おかしな物でもあったかな?

グラスコーが顔を上げ、俺をにらみつけてきた。

考えてること分からんから、言いたいことがあるなら言えよ。

「ちっ……」

 なんで舌打ちだ!!

 こいつむかつく!!

「ハンス、とりあえず皮はこっちからこっち、羊毛はこの山2つ。それを麦100ポンドと交換だ。」

 え?安くね?

どう考えても麦は倍くらい貰ってもおつりが来るくらいだぞ?

いやいや、まてまて、これから価格交渉するのかもしれないしな。

突っかかるのは早いかもしれない。


 あれ?


 ハンスが言われた商品をグラスコーの荷馬車に積んでいってる?

んで、ミリーやテリーもグラスコーの取り出した麻袋を受け取ってる?

なに?

あれで交渉成立なの?

「それと頼まれていた、槍の穂先と柄に使える木材だ。」

 あ、それがあるから、あんなに安かったのか。

びっくりした。

「ありがとうございます、旦那。前にお渡しした皮だけで足りましたか?」

 え? 前払いしてる?

「まあ、多少足が出たが気にしなくていい。前に矢尻の分に貰った羊毛で充当できたからな。」

 嘘付け!!

お前ぼったくってんだろ!!

俺は怒りの感情が抑えられなくて顔が真っ赤になっている。

「なんだ、ずいぶんと不満そうだな?」

 俺を挑発するようにグラスコーがのぞき込んでくる。

「ヒロシ……」

 ハンスが俺を抑えるように肩を掴んできた。

「ハンス、手を離してやれ。言いたいことがあるみたいだしな。」

 グラスコーは挑発するみたいに煽ってくる。

くそう。

なのに俺は、手を出せずにぷるぷる震えてるしかできない。

「お前は、俺のことを悪徳商人だと思ってるんだろうな。

 そりゃ間違ってない。

 他人からぼったくって儲けてる悪党だ。」

 分かってやってんのかよ、たちが悪い!!

俺の耳元で囁くグラスコーの声がうっとうしくてしょうがない。

「だけど、お前は一つ勘違いしてる。俺が特別なんじゃない。

 商人ってのはみんな悪党なんだよ。」

 俺の腕が思わず上がる。

だけど人をぶん殴る勇気なんか俺にはなかった。

結局、うなだれることしかできない。

「なんだよ!殴れよ!!殴られるのも商売のうちだ!!ほらかかってこい!!」

 なんだこいつ。

やっぱり殴ってやる!!

かっとなって駆け寄ろうとして、ふと周りが気になった。

怒りを覚えてるのって俺だけなのか?

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