9-6 王都で商品を売り込む。
しばらく王都でのお話が続きます。
やばい首都に付く前に絹布の在庫が尽きそうだ。
なんでこんなに売れるんだろうか?
グラスコーにしろアノーにしろ、それなりに捌いているようだけど、俺の所で扱っている量がちょっと異常だ。
竜の友という宣伝効果があったにせよ、ちょっとこれは。
買い増しをするかどうか悩ましい。
いや、まあ同額を買い増しして様子見だ。
300万円を通常取引で購入し、その売れ行きを見て卸値での購入を増やすかどうか検討する。
有難いことに防刃服やLEDランタン、それにクッションやタオル、チョコレートの売り上げまでよくなっていた。
他の現地生産品や冷蔵庫やねじ式の銃剣、それに家具や針や糸もそこそこ売れている。
持ってきた在庫が尽きそうだ。
野菜の類も、そこそこ売れて大分インベントリがすっきりしてきた。
いや、その野菜、本当に消費しきれるのか心配になるくらい商店で買い上げてくれる。
大丈夫なんだろうか?
いや、他人の仕入れだし俺が心配することじゃないか。
対して、護衛のトーラスはのんびりしたものだ。
特に何か事件が起こるでもなく、ならず者に絡まれるわけでもない。
そりゃ暇だよな。
いや、いてくれるだけで、下手ないちゃもん付けられないという効果があるので大変助かる。
じゃあベネットが暇かというと、そうでもない。
なんだか、町の有力者の配偶者やら商店を経営している店長の奥さん連中と話をしていたり、化粧品や下着の売り込みをしてくれて、男ではなかなかできない営業をかけてくれている。
ぬいぐるみや木製のおもちゃなんかも、ニーズを読み取ってこんなのが流行りだとか教えてくれた。
事務所に問い合わせて在庫があれば買って送ってもらえたけど、残念ながらせっかくのニーズを満たせないのが不甲斐ない。
ここら辺のタイムラグは”売買”の能力でも埋められないんだよなぁ。
いや、ニーズばかりを追っかけると後で酷い目に会うとはよく聞くので、ここら辺はあきらめよう。
まあ、ともかく首都ベリルブルクはあと少しだ。
前回来たときは、ろくに見て回ることもできなかった。
少しは観光できるといいなぁ。
首都ベリルブルクは人口20万人を擁する大都市だ。
モーダルの優に10倍の人々が暮らしている。
王宮を中心に各地の貴族が代官を置き、王族に対するロビー活動が展開されている。
中には、当主自らが居住して領地経営は一族に任せてしまっているなんてお家も結構あったり。
なかなかに豪快だ。
「ベネットは、ここに来たことはあるの?」
ベネットは首を横に振る。
「初めて、こんな大きな街なのね。」
確かに大きく感じる。
だけど、実は面積でいえばモーダルと、さほど変わらない。
居留地みたいに広い演習場などは含まないとはいえ王宮もあり貴族の邸宅などもあるから、庶民はみんな高層建築に住んでいるのが普通だ。
日本とは違い、より低層に住むことがステータスになっている。
建築様式は、ゴシック調な気がするけど、あっちの世界とは違いゴート族が居たわけではないから王国風の建物というのが一般的だ。
上下水道が完備されており、青銅管で水道を管理しているから、非常に衛生的だ。
実験を兼ねて様々なものが都市計画に組み込まれている。
よほど王様は開明的な君主なのだろう。
普通は伝統やら何やらで、がちがちになりそうだもんな。
王家であるフランドル家はこの国が開かれてからの血筋で、何度か親戚同士の争いがあったものの血脈は途絶えてはいない。
という事になっている。
真相は知らない。さすがにそこら辺のスキャンダルを正確に把握するには情報が足らないし、仮に情報があったとしても大っぴらに口にするのはやばい。
何せ議会制政治が確立してないどころか国家は君主の持ち物であるという考え方で動いている国だ。
何をされても文句は言えない。
嫌だったら、出ていくしかないだろう。
まあ、そういう選択肢を選ぶことだって、将来的には可能になるかもしれない。
でも人を遠ざけて生活できるほど、俺も達観した性格ではないから大人しく従っておく方が賢明だよな。
「実は、僕は一度来たことがあるよ。
前の傭兵団にいたころかな?」
話の流れから、トーラスが思い出を語ってくれた。
「あの頃は、本当に儲からなくてね。
首都の近くなら儲かるだろうと駆けずり回ってたんだけど、全然相手にされないんだ。
宿も高いし、なんだこの田舎ものはみたいな感じで見られるし、あんまりいい思い出はないかなぁ。
あぁ、でも小さな劇場は楽しかったかも。
手ごろな値段で面白い芝居や曲芸を見せて貰えて、仕事のないときはしょっちゅう顔を出してたよ。
ここら辺の森は監視が厳しくてね。
暇をつぶすには、観劇するか酒を飲むかしかなくて本当に助かったよ。
今もあるのかな、あの劇場。」
懐かしむような感じで目を細めている。
「ちなみに、ヒロシはどうなの?」
ベネットは気になったのか、俺にも尋ねてきた。
いや、前回は碌に観光もできなかったからなぁ。
「ほとんど通り過ぎるような感じだったよ。
街の中では、馬車も走らせられないし辻馬車に乗って、商店を巡って目録渡してサンプル渡して、馬車に戻って品物を渡してそれだけで終わっちゃった。」
少なくとも、今こうして街を歩いて散策なんて雰囲気ではなかった。
「馬車というか車が入れないのは不便ね。
辻馬車が結構あるから、それを利用しろってことなんだろうけど。
あと武器の携帯が禁止って言うのも、慣れない。」
いつも背負っている大剣がないので、ベネットはなんだか落ち着かない様子だ。
馬も乗り入れられないから、グラネは馬具屋さんに預けてしまっている。
「僕は慣れたけどね。
いつもホールディングポーチにしまうようになったから、割と手ぶらでも気にならなくなったよ。
それに拳銃も出せるからって思うと安心感はあるかな。」
そういえば、トーラスは普段マスケットを背負っているけど、最近は邪魔になればホールディングバッグにしまっているのをよく見るようになったな。
「まあ、ホールディングバッグも持ち込み禁止って言うのには驚いたけどね。
こっちがあるから持ち込めたけど。」
そう言いながら、専用インベントリを叩く。
そっちは、やっぱり魔法ではないので感知できないようだ。
厳重な警備が敷かれてる街に武器を持ち込んでいるから、ある意味犯罪を犯しているような気分ではあるけど、別に悪用するつもりはないし勘弁してほしい。
まあ、見咎める人はいないから言い訳する必要もないんだけども。
しかし、こうして歩いてみるとほとんどの人が働いている。
王宮や貴族の邸宅にも使用人はいて、その使用人のための仕事というのも存在して当然だ。
とりあえず、洗濯ものが大量に干されている街路もあれば、洗濯ものを畳むだけの場所とかもあったりする。
鍛冶屋も複数あって、次々と製品が熱気を帯びたまま、道に積み上げられていた。
左官や大工も結構多い。
植物を扱う庭師なんかも結構いるようだ。
なかなか面白い。
人が多いから、モーダルと比べて活気があってダイナミックに感じる。
そんな彼らを相手に商店を開いている地区があり、そこも様々な専門店が並んでいた。
前回はここくらいしか歩いてなかったんだよなぁ。
「じゃあ、仕事を始めるんでトーラスさんとベネットは自由行動という事でよろしくお願いします。」
とりあえず、扱っているサンプルを見て、値段を伝え、目録を渡して、また来た時に注文を受け付け、商品を準備し、それを車まで取りに来てもらう。
正直、地味だ。
何の面白みもない。
「ヒロシ、私も手伝うよ。
入りづらいお店とかもあるでしょ?」
確かに、前回はそういうお店にも我慢して顔を出していた。
代行してもらえるなら、非常に助かる。
「じゃあ、僕も手伝おうか?」
いや、トーラスには、ちょっと頼みづらい。
「いや契約外の仕事だし、劇場でも見に行っててください。
ベネットは、ここのお店お願いできる?」
なんだか仲間外れにしているようで申し訳ないけど、そこはやはり公私混同はよくないだろう。
ベネットとは、いずれ結婚することを考えれば、俺の仕事を手伝ってもらうことを前提にお願いしようと思うけど。
流石に、友達とはいえ仕事を押し付けるわけにはいかない。
「じゃあ、何か面白いところがあったら探しておくよ。
仕事ばっかりじゃ参ってしまうだろ?」
有難い。
面白いお芝居というのも見てみたいから、とても助かる。
「分かりました。
じゃあ、夕方にここで落ち合いましょう。
何かあれば、トランシーバーで連絡してくれてもいいんで。」
街の中なら、圏外になることもないだろう。
「分かった。
じゃあ、頑張って?」
そういうと、トーラスは手を振って、劇場がある区画へと歩いて行った。
俺たちも手を振る。
ベネットにはお願いする店に見せるサンプルや目録を渡して値段の打ち合わせをする。
「わかった。
じゃあ、早速行ってくるね?
もし、注文が取れなくても怒らないでよね?」
そんなことで怒らないよ。
「大丈夫、怒ったりなんかしないし、怖そうな人が対応してきそうだったら声かけなくてもいいからね?」
分かったと言いながら、ベネットは小さく手を振る。
俺も手を振り返し、自分の担当する店へと歩いて行った。
まあ、とりあえず数が多いから1日では終わらないよなぁ。
専門店とはいえ商会は一緒で系列店だったりなんだろうから、統括してくれる本部みたいなところあれば助かるんだけどなぁ。
そしたら、一括受注して荷物の配送を委託すれば済む話なんだけども。
まあ、それはそれで現場を無視した納入とかっていう問題が発生するから、善し悪しではあるんだけども。
数が多くなれば、絶対管理した方がいいと思うんだよなぁ。
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