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9-4 お貴族様の晩餐会に呼ばれた。

タイツって近世のイメージなんですが間違ってないでしょうか?

 アライアス伯の領都はアライアスだ。

 実は大抵の都は爵位名そのままという事が多い。

 呼ぶときは、アライアスのみやこかアライアス伯の街と呼ぶ。

 街だと行政区分の町と混同してしまいそうだけど、そこは文脈で判断しろって事になる。

 中には凝った名前の街もあったりはするけど、そういうのはたいてい新興の領地なのだとか。

 そのアライアス伯の街に着いたところで、俺たちは足止めを食らった。

 商売をするのは自由だが、しばらく滞在するように宿泊している宿に使者が来て伝えてきた。

 これは、伯爵様自らの命令なので、逆らうわけにはいかない。

 理由は何でも、竜の友を歓待したいとか何とか。

 何のことだと思えば、どうやらラウレーネに送った治癒のポーションについて、彼女からアライアス伯に礼をしてほしいと依頼があったそうだ。

 いやマジか。

 本来であれば、モーダルに使者を送りアライアス伯の街へと招待するという予定だったらしいのだが、俺が旅に出てしまっていたから入れ違いになってしまったそうだ。

 使者の人には申し訳ないけど、俺がアライアス伯の街に来ていたのでこれ幸いに拘束されてしまったというわけだ。

 おかげで街では注目の的だし商売がやりづらい。

 まあ、とりあえず商店に卸すだけして買い入れは別の街でやるしかないな。

 とはいえいつまで拘束されるんだろうか?

「大丈夫?不安そうだけど、平気?」

 宿の部屋の中、やることもないのでそわそわしてしまっているのをベネットに見とがめられてしまった。

「平気、ではないかなぁ。」

 こういうのには慣れてない。

 まあ、権威づけのために仰々しくやるのは仕方がない。

 ラウレーネがそれを意図したとは思わないけど、礼をしてくれと依頼されたら貴族は見栄を張らないといけないだろう。

 問題は巻き込まれる側は庶民なわけであって、不安になるなというのが無理がある。

「レイナ様にはお手紙書いたんでしょ?」

 ベネットの言葉に俺は頷く。

「晩餐会に呼ばれるだろうから、正装を用意して置けって。

 女性も同伴させる必要があるからベネットの分もあるといいって言われたけど。」

 ベネットの顔が引きつる。

「ドレス仕立てておいて正解だったね。

 でも、お相手が居なかったらどうなってたんだろ?」

 もし同伴してくれる相手が居なかった場合は、あちらで女性を用意してくれるんだとか。

 男爵家の女性が選ばれることも多いらしい。

 そのことをベネットに伝えると、露骨に安堵した表情を見せた。

「よかった。

 婚約者じゃなかったら、きっと強制されてたよね。」

 何せベネットも庶民だから、そうなる可能性は高い。

 俺はベッドに座るベネットの横に腰かける。

 お互い不安なのか、自然と手を重ね合ってしまっていた。

 部屋の戸が叩かれる。

 びくっとお互い手を引いてしまった。

 慌てて、戸を開けると宿の人が伯爵の使者から受け取った手紙を差し出してきた。

 その手紙にはレイナの言っていたような文言が書かれている。

 婚約者がいると同伴者を辞退し、指定された日に正装にて参上しますと返答しなければならない。

 文字が下手なので、思わずワープロで打ちたくなったが、そういう誤魔化しはしない方がいいと思いなおし、なるべく丁寧に手紙をしたためる。

 書き机に向かい、慎重に文字を確かめるように書き上げていく。

 明後日と指定されているので、服を準備しないと。

 参ってしまうな。

 でも、そんなこととは関係なしにグラスコーからも手紙が来た。

 例の絹布の件でアノーと俺、グラスコーの3人が、各色10本ずつ持つという事で合計90本分納入しろという指示が来た。

 当然、納品書を事務所に送らないといけないし、品物もアノーとグラスコーのインベントリに送らないといけない。

 大した作業じゃないけど、ちょっとてんぱってる状態では辛いものがあった。

 手紙を書いていた時の緊張のまま、納品書を書いてしまったのでワープロを使えばよかったのに手書きしてしまった。

 ミスとか無いよな?

 しかし、90本も買い上げてくれたおかげで投資額の3倍の金額が手に入る。

 問題は、回収した資金をどうするかだ。

「ベネット、さっきの事とは関係ないんだけど、相談してもいいかな?」

 ベネットが俺の横に椅子をもってきて座る。

「お仕事の話?」

 一人で決めるべきかな。

 でも、ちょっと不安もある。

「甘えてしまって申し訳ないんだけど、絹布の話なんだ。

 前に説明したことがあったっけ?

 卸値で購入する場合は購入量の下限が決まっていて、納入までに時間がかかるって。」

 俺の話にベネットは頷く。

「それで、グラスコーさんが今回買い上げてくれた金額を全部使えば卸値で買える最低限度の数が購入できるけど、納品は1月後になってしまう。

 買うべきかな?

 それとも、通常の取引で買い増していくほうがいいかな?

 少し悩んでるんだ。」

 もしくはベネットから借りたお金を返した方がいいだろうか。

「んー、難しいね。

 でも、私なら卸値で買っちゃうかも。

 晩餐会で当然贈り物をするわけだし、アライアス伯閣下に献上すればそれなりに宣伝になると思うから。

 でも、ヒロシもそこら辺は分かってて悩んでたんだよね?

 売れるかどうか不安。

 それならいっそ、私にお金を返そうとか思ってた?」

 見透かされてるなぁ。

「もちろんヒロシが決めることだけれど、私に返すのは全然後でもいいんだよ?

 少なくとも1年は返済不要です。」

 釘を刺されてしまったなぁ。

 よし、卸値で買っておこう。

 もし売れ残ったら、ベネットのためのドレスに仕立ててしまうか。

 

 正装と言っても庶民にできうる限りでいいという事なので、シャツにタイツとチョッキとジャケット、それと靴を購入した。

 こういう時に、街にある商店は目ざとい。

 当然すぐに服を買いませんかという打診が来たわけだ。

 もちろん、古着だ。

 なので、多少きつい。

 体型がぴったりというわけにもいかないから、タイツなんかは特に厳しい。

 なんでタイツなんだとか思ってしまうが、これが正装なのだから仕方ないだろう。

 後でゴムかなんか仕込むかなぁ。

 とりあえず、着づらい。

 晩餐会前にご挨拶をさせていただき、献上品を側仕えの方に託し、今は広い会場に通された。

 テーブルマナーは知らないので、慣れない挨拶の後は周りに合わせて同じ行動をし続けるしかできない。

 料理、おいしかったんだろうか?

 正直、味が分からん。

 周りは皆、貴族や騎士、その家族ばかりなので正直話題がかみ合わない。

 なので曖昧に笑い、不勉強を詫びることしかできない。

「ヒロシ殿は珍しい商品をたくさん扱っておられるが、それらはどこで手に入れられておいでなのか、お聞かせ願っても?」

 あー、はい。

 そこは気になるよなぁ。

「海外から伝手を頼りまして、手に入れている品でございます。

 また、元々蛮地の出身ですからそちらからも少々。

 それが皆様には物珍しく映るものも、あるかもしれませんね。」

 蛮地の名を出すと途端に蔑んだ視線が飛んでくるのは、仕方ないとはいえ慣れない。

 とはいえ、その名を出してしまえば詮索の手もやむから、こちらとしては利用しない手はない。

 その後はあれは手に入るか、これは手に入るかという話がたびたび出され、私はこれを持っているあれを持っているという自慢話大会が開催された。

 いやー、皆さんお金持ちだ。

 農民からどれだけ搾り取ってんだよと少し暗い気持ちになってしまう。

 まあ、仕方ない。

 それが貴族というものだ。

 ちなみに、俺に声をかけてくるのは、貴族の中でも最低位の男爵くらいで、それ以上の地位にある子爵や伯爵たちは見向きもしない。

 一応、気にはなるのは配下の人が伝言ゲームで質問を投げかけてくるが、それだとちゃんと伝わっているか不安ではある。

 ちなみに晩餐会自体、急に決まった事らしく参加してきた貴族は少ないらしい。

 庶民の俺としては格式が上がりすぎると困るから全然かまわないし、所詮庶民に礼をするような晩餐には興味ない人が大半だろう。

 質素だという事で不満を漏らす人もいるが、十分豪華だし十分堅苦しい。

 そもそも、着席してのパーティーってのが慣れない。

 舞踏会とかならまた違う雰囲気になるんだろうか?

 まあ、参加したいとは全く思わないが。

 

 晩餐の最後に、《治癒》のポーションの代金がアライアス伯ヒューバルト様ご本人から直々に手渡された。

 その上で、感状までつけてくれるんだから、庶民としてはこれ以上ない名誉だ。

 謹んで、受け取らないと処罰されても仕方がない。

 というか、定価の倍もする代金を出してくるあたり、貴族の見栄って言うのは恐ろしいものだ。

「美しき姫の名を聞いてもよろしいか?」

 不意にヒューバルト様の興味がベネットに向いたらしい。

「お褒めいただき感謝申し上げます。

 わたくしの名は、ベネットと申します。

 姫と呼ばれるほどの身分はございませんので、娘とお呼びください。

 目の端に御止めいただくだけでも、幸甚の至りでございます。」

 ほうっと、ヒューバルト閣下は目を細めた。

「よき御仁と出会ったようだな。

 幸せになりなさい。」

 閣下の言葉にベネットは頭を下げる。

 どこまでご存じかは分からないけど、少なくとも悪い感情は抱かれてないみたいでよかった。

 しかし、伯爵自ら声をかけるって言うのは珍しいんじゃなかったっけ?

 大抵間に人が挟まると聞いていたから、俺としては焦りすぎて固まってしまっていた。

 ともかく、これで一連の催しは終了だ。

 死ぬかと思った。

 これから後は、庶民相手に取引をする行政官とのお話がメインになるし、落ち着いて話せそうだ。

 

 正装のままだと動きにくいなぁと思ったけど、好機を逃すわけにはいかない。

 とりあえず、行政官を仲介者として、今回の晩餐会に顔を出した貴族のご婦人に絹布を売り込む。

 リボンやショールなどを送り、返事を待ってさらに絹のアクセサリを購入してもらったり絹布を買い上げてもらった。

 色は白が安いために一番最初に売り切れ、ついで赤、そして紫色は1つを残して看板になってしまう。

 これは、やっぱり卸値で購入して正解だったな。

 感触的にはもっと売れそうだ。

 他にも糸や針なんかも売れる。

 そして、意外なことに野菜が結構売れた。

 どうやら、晩餐で出された料理の中にこの時期には珍しいレタスや生のキャベツがあり、話題になっていたそうだ。

 全然気が付いてなかった。

 最初は変な注目のされ方をして辛いなぁと思ってたけど、こういう見返りもあるのだと分かればむしろ感謝しかないな。

 しかし、タイツは厳しい。

 早く着替えたい。

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