9-1 インターネットを異世界人に使わせても平気なのか?
やっちゃったね。
秋だ。
実りの秋。
とりあえず、大麦やジャガイモの収穫時期だ。
と思っていたんだけど、ジャガイモは夏に収穫するものらしい。
春に植え、夏に収穫。
で、収穫した後にまたジャガイモを植え付けて晩秋に収穫するそうだ。
つくづく自分の農業知識がいい加減な事に気づかされる。
収穫の秋って何だったんだろう。
アルノー村では、どんぐりが落ちる頃なので、豚などを森に放して飼育を始める。
なんか農家って年中忙しいなぁ。
そんな忙しい中、ジョシュはいそいそとレイナ嬢宅へと食事を運んでいるらしい。
まめな性格だ。
春植えの小麦の育成が終わったものの収穫量はさほどでもなかった。
10㎏植えて、50㎏収穫できたから豊作だとドレンさんが興奮しているけど、そんなにすごいのかな?
とりあえず、春植えの小麦の作り方は資料にまとめてドレンさんに渡しておいた。
んで、むしろ秋は小麦の植え付けの時期でもある。
なので、当然それも体験させてもらった。
植え付け間隔や深さを調整するような器具を使い、均等に植え付けていく。
人手を抑え、いかに広く撒くか。
アルノー村の農業は、それに注力している。
今回は、ベネットも一緒に農業の手伝いをしてくれたので、村長さん一家も大喜びだ。
人手を抑えると言っても限界はあるからな。
しかし、こうなってくると、ほんとうにトラクターとかコンバインとか欲しくなってくるよなぁ。
広すぎる。
アノーやグラスコーは蛮地へ向かい、長旅を始めている。
ロドリゴは定期的に遺跡に行っては、ジョンたちのフォローをしてくれている。
スカベンジャーとして活動しているジョンたちの実績は、まあそこそこだ。
大きな失敗はないけど、大きな収穫もない。
でも、着実に実力を伸ばしている。
ただ、意外とレベルアップはしてないんだよなぁ。
そう考えると俺のレベルアップはおかしい。
明らかに補正入っているよな。
ベネットも結構レベルアップしている方だと思うけど、彼女の場合、かなり実戦経験が豊富だ。
大して戦いもしない俺とは違う。
まあ、レベルが上がることで困ったと思ったことはないからいいのだけども。
俺たちもアルノー村の収穫や植え付けが終わったら、首都を経由してブラックロータスに向かうつもりだ。
それなりに距離があるので、商売しながらだとひと月はモーダルから離れるのかなぁ。
「というわけで、レイナさんには前倒しで俺の世界の情報を知る手段を渡そうと思います。」
どいうわけという顔をされてるけど、まあわかるわけないよな。
考えてることは、口にしないと伝わらない。
農作業後は、レイナの家に泊めてもらうのが慣例化していて今回もお邪魔させてもらっている。
それで、ちょっと寝るまでの間リビングで歓談しているところで突然そんなこと言われても混乱しかしないだろう。
ちなみに、カールはとっくに寝ている。
マーナもリビングで寝息を立てていた。
「えっとですね。
順番に説明すると、ベネットが日本語を習得するまでは報酬を渡さないって話をしてたじゃないですか?」
それで何となく察してくれたようだ。
「つまり、授業を再開するまで期間が空くから報酬を先にくれるってこと?」
俺は、うんうんと頷く。
「ヒロシ、ちゃんと前置きしてから話そうね。」
ベネットが若干呆れたように注意してくる。
ごめん。
「勿論もらえるなら貰いたいし、私は全然かまわないよ。
というか、早く頂戴。」
両手を差し出されても、インターネットサービスはものじゃないから物理的に渡せないんだよな。
「タブレットを出してください。
それにサービスを付与します。
ちなみに料金が発生するので、支払いのほうよろしく。」
レイナは首をかしげながら、タブレットを取り出した。
それに、インターネットサービスを付与する。
ちゃんとつながってるな。
よしよし。
後はブラウザを開けば問題ない。
「これです。
ここのマーク見えますか?
これがついている間はインターネットと言われるものがつながります。
ここを押すと接続が切れて見えなくなります。
再度ここを押せばつながります。
で、つながってないとこんな感じの画面になりますが、つながっていれば更新を押すことでこの画面に戻ります。」
一応、解説書もあるので後で見ておいてもらおう。
「え?これで、ヒロシ君の世界のことが分かるの?」
俺は頷く。
「試しに、何かここに打ち込んでください。」
検索バーにカーソルを合わせて、レイナに渡す。
「えー、じゃあ作者さんの名前をっと。
おおぉ?
知らない漫画がある!!」
画面を目で追いながら、それがアマゾンなどで購入できると表示されていた。
当然買おうとするわけだけど、アカウントがないので購入できない。
「えぇ、買えないの?
ねえ、ヒロシ君、私これ欲しい。」
はいはい、お買い上げありがとうございます。
購入してレイナのタブレットに紐づける。
「やった!!
すぐ手に入るのが、タブレットのいいところだよねぇ。」
にこにこ笑いながら、漫画を読み始めてしまった。
なんだよ、結局漫画が読めれば満足なのか?
「一応解説本も置いときますんで、分からないことがあったら見てください。
それでも分からないときは手紙をいただければなるべく対処します。
まあ、俺の知らないこともあるかもしれないですけどね。」
そういうと不思議な顔をされてしまった。
いや、そんなに不思議かな?
「あー、そうだね、確かにそういうこともあるか。」
自分の使っている技術について、すべてを網羅していると思う人はなかなかいない。
レイナには心当たりがあるのか納得してくれた。
「そういうもの、なの?」
ベネットは少し納得がいってない様子だ。
「まあ、少なくとも俺は全部知らないってことだよ。
それでも、基本がわかっていれば何となく使えてしまうものなんだ。
というわけで、ベネットもこれ。」
そう言って、レイナと同じタイプのタブレットを渡す。
少しわくわくした様子でベネットはタブレットを受け取ってくれた。
「ありがとう。大切に使うね。」
なんだろう、この反応にいつもやられてしまいそうになる。
「ベネちゃんはあざといねぇ。
ヒロシ君は、もう落ちてるんだから、そこまでする必要ないと思うんだけどねぇ。」
あざといという言葉に、ベネットはちょっと戸惑っている。
わざとでも可愛いからいいんだけども、こういう反応をされてしまうとなおのこと可愛い。
「まあ、レイナさんはもうちょっとあざとくてもいいと思いますけどね。」
そう言いながら、ベネットを抱き寄せる。
「うるさいなぁ。
私だって、それくらいできるし。」
本当だろうか?
いや、案外できるのかもな。
俺は対象じゃないというだけのことだろう。
「ちなみに、ベネットはさっきので分かった?」
うん、と頷きながら少し戸惑いつつタブレットを触っている。
検索する言葉を迷いながら探している。
初々しいなぁ。
「それよりお風呂入らなくて平気なの?
二人とも汚れてるけど?」
確かにレイナの言うように、二人とも多少汚れが残っている。
「ちなみに、私は必要ないからね?
また、一緒に入りましょうとか言うのは無し!!」
ベネットはレイナをお風呂に誘おうとしたところを、遮ってレイナは拒否の構えを見せる。
確かに、一緒に入る必要はないよな。
「じゃあヒロシ、一緒に入ろう?」
人様の家で、そういうのは駄目でしょ。
「駄目。一人で入りなさい。」
俺の言葉にベネットは不満そうに頬を膨らませる。
「いいもん、一人で入る!!」
そう言いながらベネットはお風呂へと向かった。
「いいじゃん、一緒に入れば。」
レイナはちょっと呆れたように言ってきた。
家主がよくても、さすがにそこはちゃんとした方がいいと思う。
「人様の家で、羽目を外すのはさすがにまずいでしょ。」
流石に見境がなくなってしまう。
「さっきのでも十分羽目を外してたと思うけど?」
分かってない。
レイナは何もわかってない。
「まだ我慢している方ですよ。
いきなりキスしはじめても気まずくなりません?」
多少いちゃいちゃするのと本格的に致してしまうのとは全く意味合いが違う。
まあキスくらいなら許容範囲だけど、さすがにその先はまずい。
「あー、うん。腹が立つわ。」
他人がいちゃいちゃしてたら腹が立つタイプか。
それでも多少は許してもらえるだけ、ありがたく思うとしよう。
「でも、カール君なら、見られてもいいわけ?」
そんなわけあるか。
あー、いやこの間リビングでキスしたか。
「なるべく注意はしてますよ。
二人きりになるまでは、これでも結構我慢してるんですよ?」
なるほどねぇと言いながら、レイナはタブレットで顔を隠す。
なんだその反応は。
ベネットが上がったあと、俺もお風呂を拝借して体を洗い、ゆっくり湯船に身を沈める。
広い風呂って気持ちいいよなぁ。
あ、そういえばブックマークの仕方とか、使い方説明してなかったなぁ。
まあ、解説書に書いてあるからいいか。
とりあえず、二人の検索の仕方を見る限り問題なさそうだよなぁ。
火薬の作り方とか、毒ガスの作り方を検索するような危険な感じは少なくともない。
楽しく使ってもらえたらありがたいんだけども。
ゆっくり湯船につかっていたら、急に電子音が鳴った。
なんだろうか?
珍しくメーラーに通知が来ていた。
ほとんどメールのやり取りなんかしてなくて、いくつか持っていたSNSやイラスト投稿サイトのアカウントの通知くらいだ。
あとは殆どスパムばかりのはずで通知はならないはずなんだけど。
あー、仕様変更で時折メールがきたりすることもあるか。
それだろうか?
イラスト投稿サイトから別端末からの接続を知らせるメールだ。
ハッキングされた?
一応どこからアクセスがあったか通知があるわけだけど、表示がバグってる。
これは、こっちの世界からアクセスした際に表示されるものだ。
IPアドレスも俺の使っているサービスのIPだから、つまり。
俺は顔色が悪くなっているのを感じながら急いで風呂から上がる。
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