8-26 なんか女性陣の方が酒癖が悪い。
実際には割り切れるものではないにせよ、区切りはついた様子です。
ベーゼックとトーラス、それにグラスコー、アノー、ロドリゴ、ベンさん、そしてレイシャは飲み屋に行くという事で早々に退散してしまった。
残された、セレンとお子様3人組、それにライナさんとベネット、そしてイレーネを送らないといけない。
車の収容人数的には問題ないか。
お子様が3人含まれてるし。
しかし、俺の彼女は酒乱なんだろうか?
セレンを押し倒して、彼女の胸を枕にして寝てる。
セレンはセレンで、まんざらでもない感じでそれを受け入れていた。
とりあえず引っぺがそう。
「なんだよ、ヒロシ焼きもち焼いてんの?」
いや、焼きもちではないんだなこれが。
ジョンはそこらへん分かってくれるとは思えない。
まだお子様だし。
いや、お子様かどうかは関係ないか。
「とりあえず、お前らはセレンさんを運んでくれ。」
俺はベネットを助手席に乗せてシートベルトを締める。
イレーネとライナさんはとっくに車の後部座席についてくれている。
二人は乱れるほど酔ってない様子だ。
まあ、おしゃべりに夢中だから、まったく酔っぱらって無いわけでもないんだろうけど。
とりあえず、運転席に行こう。
バックミラーで確認するとノインとジョンがセレンの手足をもって、後部座席に放り投げた。
「ひどいぃ」
セレンは床に突っ伏して泣き始めた。
一応床面はクッションでおおわれてるから傷つきはしないだろうけど。
お前ら女性に対してそれはいくらなんでもひどいぞ。
「うるせえ!!ちゅっちゅ、ちゅっちゅキスしてきやがって!!
この酒乱!!」
ジョンが顔を真っ赤にして怒っていた。
いや、まあ気持ちは分かる。
いくら美人からでも、勝手にキスされたら困るよな。
ノインの方は、そそくさと座席についてシートベルトを締めている。
こっちの方も若干顔が赤いことを考えると被害には会ってるみたいだな。
ユウは心配そうにセレンのそばに座っている。
「ユウ、ちゃんと座席に座らせてあげて。」
流石に床に転がしっぱなしはまずい。
「はい。」
ユウがセレンを起こそうとすると、さすがにジョンも見かねたのか、セレンを起こして席につかせるのを手伝った。
そしたら、今度はユウにセレンがキスを始めた。
怒ろうとするジョンを制して、ユウはセレンに寄り添うように抱き着く。
それを見て、ジョンは仕方ねえなといった感じで席に着いた。
出発までにどれだけかかるんだ。
いや、俺も手伝えばよかったな。
「おい、ヒロシ!!さっさと出発しろよ!!」
俺に切れなくてもよくない?
とりあえず、道順で送っていく。
まずは、ライナさん、イレーネ、セレン、ジョン、ノインの順番だ。
ライナさんとイレーネの家に付いた後、そしてセレンの家につく前に酒乱の二人は吐き気を催してきたらしい。
途中で車を止める。
「大丈夫?」
酔いと車の揺れで限界を迎えたんだろうな。
「ごめん。」
ベネットは苦しいのか、泣きながら謝ってくる。
大丈夫かなぁ。
「よくあることだから気にしなくていいよ。」
セレンの方には、ユウがついていてくれているようだ。
俺とユウの目が合うと、お互い苦笑いをしてしまう。
とりあえず、吐き気が収まったところで、二人を収容しゆっくり車を走らせる。
なるべく、揺れない方がこういう時は助かるはずだ。
「今日はすいませんでした。
ごめんね、ジョン君、ノイン君。」
酔いがさめたのか、セレンは自分のしたことを思い出して頭を下げた。
「いいよ、俺も怒り過ぎたからお相子な。」
「僕も気にしてないですから。」
二人は気を使って、セレンを許した。
二人が家に入ったところで、ドアを閉めて再び車を走らせた。
「なんか、変な気分。
あんなに怒ったのに、笑えて来るのなんでだろう。」
ジョンがくすくすと笑いだした。
「分かる。
なんか、楽しかった。」
ノインもそれに同意した。
二人とも仲がいいねぇ。
修道院で車を止めてジョンを見送り、最後にノインの家だ。
あー、そうか。
ちょっと気が重くなってきた。
借り住まいらしく、小さい集合住宅がノインの家らしい。
俺は、車を止める。
家の前に一人女性が立っていた。
ノインの母親だろう。
「会いますか?」
どんな顔で挨拶すればいいか分からん。
いや、でも必要か。
俺が運転席から下りようとすると、ベネットが俺の手を握る。
「私も会う。」
大丈夫かな。
いや、確か誇りを汚すなと母親に言われてたんだよな。
なら、平気なのかな?
「分かった。
とりあえず、俺がドアを開けるまでは待ってね?」
そう言って、俺は運転席を離れた。
反対側に回り、俺は女性に頭を下げる。
そして、まずスライドドアを開けて、ノインを下ろした。
開けたくないなぁ。
気が重い。
でも、言ってても仕方ない。
俺は助手席のドアを開けた。
ベネットの手を取り、よろめくベネットを支えて助手席から下ろす。
「母さん、スポンサーになってくれているヒロシさんと、彼女のベネットさんです。」
ノインが母親に俺たちを紹介する。
凄い複雑な顔をされた。
まあ、夫を切り殺した女と、その女と付き合ってる男としてみれば、心穏やかじゃないよな。
それと同時に息子を悪の道に引きずり込んだように見えなくもない。
だけど、静かに頭を下げられた。
「息子がお世話になっております。
そして、ベネット様には格別のご配慮を賜り感謝申し上げております。」
ノインの母親の言葉は、ベネットにはきついらしい。
口元を抑え、今にも吐き出してしまいそうだ。
「敗者の妻として覚悟をしておりましたが、あなた様の証言により我が夫の名誉は守られました。
私も息子も、その御恩、終生忘れません。」
ベネットはその言葉を聞いて今にも泣き崩れそうだった。
そっと彼女を支える。
「あの方は立派でした。
私がしたのは、ただの証言です。
どうか、旦那様を誇ってあげてください。」
ベネットは絞り出すように応えた。
「はい、夫はわたくしの誇りでございます。」
まっすぐこちらを向いてくる。
この人はよほど強い人なんだろうな。
到底真似なんかできない。
俺もベネットも自然と頭を下げてしまっていた。
ベネットは二人が家の中に入ってもしばらく頭が上げられなかった。
でも区切りがついたというように、顔を上げるとすっきりした表情になっている。
「私、あの人になら殺されてもいいかな。」
またそういうことを言う。
「駄目に決まってるでしょ。」
そういいながら、ベネットの手を引いた。
「ごめんね。私はヒロシのものなんだから、勝手にそんなことしちゃだめだよね。」
そういいながら、チョーカーの飾りをいじり助手席に腰かける。
「そうだよ、ベネットは俺のものなんだから。」
そう言って、キスをする。
うわ、お酒臭い。
キスは、お酒を飲まない時にしよう。
「もう、ヒロシやめてよ。
口の中が変なんだから。」
お互い苦笑いを浮かべてしまう。
ドアを閉めて、運転席に戻る。
部屋に付くと、ベネットはソファに突っ伏す。
「あー、なんかお水か何かが欲しい。ミント、あったかなぁ。」
口臭が気になるのか、ベネットはミントを探すために自分の体をまさぐる。
「あ、そっか。
インベントリに入ってるんだった。」
そういうと、彼女はミントを取り出して口に含んだ。
「ベネット様お水。」
カールがグラスに水を入れて持ってきた。
その間、俺はマーナの食事を準備していた。
「ありがとうカール君。」
ベネットは起き上がって、水を飲む。
そして彼女はふぅっと、深いため息をついた。
「ねえ、ヒロシ。」
意を決したような声で呼びかけてくる。
なんだろうか?
「キスやり直そう。」
え?なんで?
「いや?」
なんで泣きそうになってるの?
よくわからん。
「いやじゃないよ。でも、なんで?」
俺の言葉にベネットは戸惑う。
「あんな状態のキスで終わらせるの嫌だから、かな。」
あー、あ、はい。まあ、分かるようなわからないような。
でも、それなら俺も歯を磨きたい。
「ちょっと待っててくれる?」
そそくさと俺は洗面所へ向かう。
歯ブラシを取り出して、ちゃんと歯を磨く。
そうしたら、ベネットも横に立ってきて歯磨きを始めた。
き、気合を入れすぎな気もする。
リビングに戻り、改めて向き合う。
「よ、よろしくお願いします。」
何をよろしくするんだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ベネットも向き合って頭を下げてくる。
少し顔が赤いのは恥ずかしいからなのか、酔っぱらってるのか。
とりあえず、いつも通りに唇を重ね合った。
なんだ、この中学生同士みたいなキスは。
カールとマーナも見てるし。
なんでリビングでキス始めちゃったんだろう。
始めて早々にお互い気まずくなって、キスをやめてしまう。
そしたら、急にベネットが笑い出した。
「ごめん、何やってるんだろうって思ったら笑えて来ちゃって。」
なんだかなぁ。
「何やってるもなにも、キスしたかったから?」
それはそうなんだけどとベネットは顔を抑えてじたばたし始める。
「まるで子供みたい。」
どうやら、ベネットも同じ感想だったみたいだなぁ。
「おっかしぃ。
はー、まだ酔ってるのかなぁ。」
まあ、可能性はあるけど、少なくとも俺は素面なんだよなぁ。
「お風呂は明日でいいよね。」
そして、ソファに横になってしまった。
やれやれ、ちゃんとベットに寝かせてあげないと。
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