8-25 2回目の新人歓迎会。
宴会は楽しいなぁ。
だからって、何人乗れるかチャレンジみたいなことをしなくてもいいと思うんだ。
アノーが戻ってきて、そっちの車に男性陣がぎっちぎちになってしまっている。
なんで助手席を開けてまで後部座席に座ろうとする。
女性陣は全員辻馬車で移動することになってるけど、当初悪乗りしてレイシャまで乗り込もうとしてたからなぁ。
いや、まあ後部座席に7人で床に座るのを許容すれば余裕はある。
お子様二人を含んでるし。
「グラスコーさんは自分の車で行けばいいんじゃないですか?」
俺は床に体育座りしている。
なんか、いじめられてる気分だ。
「馬鹿お前、車運転するなら飲んだらまずいだろ?
帰りはお前の運転な?」
そりゃ俺は酒飲めないって言ってるけど、ひどくない?
「なんか、全然余裕じゃね?
もっと、人詰め込めそう。」
ジョンはもっと人を呼びたいみたいなことを言う。
「いいっすねぇ。この倍くらいはいけるんじゃないっすか?」
いや、さすがにそれは無理だろ。
アノーも悪乗りが過ぎる。
そもそも、角を曲がるたびに俺揺られるんだけど?
「いや、ごめんヒロシ。
まさかこんなことになるとは思ってなかったよ。」
軽い気持ちでグラスコーにトーラスが搭乗人数の話をしたらこんなことになった。
最初は広さの話題からだから、別に流れがおかしかったわけでもない。
だから、トーラスが悪いわけじゃないけども。
限界を知りたいというのは分かるが、今じゃなくてもいいだろう。
「どうせ帰りは別の店に行くことになるし、ここまでぎちぎちにはならないさ。
適当な店で夜を明かすだろうしね。」
ベーゼックは二次会を目当てにしてる雰囲気がある。
いや、まあ好きにしてくれ。
流石に屋内の席は無理だったので、テラス席を取らせてもらった。
近くにワンボックスを止めているから、なんかキャンプ場に来た気分だ。
俺はハロルドに迷惑じゃないか聞いたけど、問題ないですよと笑顔で返されてしまった。
通りは広いから馬車の邪魔にはならないと思うけど。
いいのかなぁ。
既に準備されていたのか、次々に料理が運ばれてくる。
話題になっていた冷製パスタや生ハムサラダなんかが並んでいる。
他にもピザは新しい具材を乗せたものが供された。
スモークサーモンだ。
ピザの他にもカルパッチョとしてもサーモンは使われていた。
流石にカルパッチョは生ではない。スモークされたものが利用している。
他にもウニのクリームパスタにタラのピカタなんて言う料理も出てくる。
俺が卸した新鮮なレタスが添えられていたり挟まれていたり、いろいろと活用してくれててありがたい。
定番のポテトフライもあったので苦手なものがあればそちらに逃げてくることも可能だ。
ポリッジなんかも2種類用意されて、ミルク仕立てのものとトマト仕立てのものがある。
いや、トマト仕立ての方はポリッジじゃない。
米だ。
だからリゾットだな。
宴会料理というにはちょっと華やかすぎる気もするけど、みんなガンガンお酒を飲んでるから、気にしてないんだろうなぁ。
いや、俺が気にしすぎか。
流石にこの人数だと誰が何をしゃべってるのかを把握することはできない。
ただ雰囲気的に、イレーネがやたらレイシャと絡んでる感じがする。
「ヒロシさん、炭酸水だけでいいんですか?」
そういいながら、セレンが俺のグラスに炭酸水を注いでくれる。
「帰りに車を運転しないといけないんで。」
なんか、炭酸水が苦く感じる。
ベネットが俺に寄っかかって、ちびちびと蒸留酒を舐めている。
ちらりとセレンを見て、にやっと笑う。
んー、おじさんはそういうのよくないと思うなぁ。
不意にセレンがベネットの後ろに回り込んだと思ったら急に抱き着いた。
俺に二人分の体重がかかる。
「もう見せつけるんだから、ずるいです。」
そういいながら、結構大胆なボディタッチを始めた。
「ちょ、何してるの?ずるいとかそういうのじゃなくて、やだ!!ヒロシタスケテ!!」
はいはい。
とりあえず、セレンのおでこにデコピンする。
「あう!!」
額を抑えて、セレンがベネットから体を離す。
「ひどい。」
恨みがましい目で見てくるけど、本気じゃなさそうだ。
「人の彼女に勝手に触っちゃ駄目じゃないですか。
女性でも許しませんよ?」
そうだそうだとベネットが加勢してくる。
「じゃあ、許可を貰えれば触ってもいいんですか?」
少し言葉に詰まってしまった。
「いや、許可なんか出さないですよ。」
セレンはニヤッと笑う。
「ヒロシちょっと迷ったでしょ?
駄目だからね?」
ベネットは慌てたように俺を揺さぶる。
「分かってるから、分かってるってば。」
ちょっと、二人が絡んでいるところを見て、興味がわいたのは内緒だ。
「モテモテっすね。ヒロシさん。」
そういいながら、アノーがやってきた。
「おっと、飲ませちゃ駄目だった。
しかし、あれですね。
こういう飲み会、毎度やるんですか?」
いや、これで2回目だ。
「まだ始めたばかりだから、続くとは限りませんけどね。」
人数が増えてきたら、難しくなりそうでもある。
「続くといいっすね。
こういうの、楽しくていいや。」
人懐っこい笑顔を浮かべて別の席へと移動していった。
「最初彼女募集とか言ってたから、もっといい加減な人かと思ってましたけど。
そうでもないですかね?」
セレンが俺に尋ねてきた。
「いや、あれはロドリゴさんがぶっきらぼう過ぎたんで、場を和まそうとしたんだと思いますよ?」
あとは本人に聞いてくれ。
そういえば、もう一人の主賓であるロドリゴさんはどうしてるんだろうか?
気になってみてみると、お子様3人の近くで笑いもせずにビールを飲んでいる。
そういえば、まともに話したことなかったなぁ。
「ちょっと行ってくるね。」
俺はビールをもって、ロドリゴさんのもとへ行く。
「お前らは飲んでないよな?」
そう言って、ジョンとノインのコップの中身をチェックする。
よし、ジュースみたいだな。
ユウは炭酸水なんだな。
「別にビールくらいだったら酔わねえよ。
だけどロドリゴさんが止めるからさ。」
仕方なしにジュースを飲んでいるらしい。
「ありがとうございますロドリゴさん。」
いや、というだけで他に言葉はなかった。
とりあえず、ビールを傾けると、グラスを持ち上げてくれた。
「どうですか、遺跡の方は?」
割と騒がしかったから、問題なく商売できていればいいけど。
「問題ありません。
いや、ヒロシさんのおかげですけど。」
俺のおかげ?
いや、俺はトラブルしか起こしてない気がするけども。
「あなたのおかげで、客付がよかった。
口下手だから、客引きできるか不安だったんです。」
なるほど。
同じグラスコー商会なわけだから、信用が引き継がれたんだな。
「セレンさんがテキパキ仕切ってくれたし、俺がいる必要はあったのか、無かったのか。」
やっぱり自信喪失からは立ち直れてないんだなぁ。
「大丈夫ですよ。
必要とされてないって思っていても、案外頼りにされてることもありますし。
後ろに控えてもらってるだけでも十分だったりしますよ。」
ロドリゴの見た目はいかついから、何か問題があれば後ろに立ってもらうだけでもありがたいと思える。
「見た目ばっかりです。
逆に女性のお客さんには怖がられてしまいますし。」
そこら辺は適材適所だと思うな。
「役割を分担して頑張ってください。
いろいろトラブルはあると思いますが、いざとなれば衛兵さんに泣きつくのだってありですから。
それと、ジョンたちの面倒もよろしくお願いします。」
そういうと、ジョンが脇を殴ってきた。
やめろ、なんでみんな弱点を的確についてくるんだ。
「保護者面してんじゃねえよ。
まあ、あれだよロドリゴさんは頑張ってると思うぜ。
少なくともまじめにやってるの分かるし。」
何が頑張ってるじゃ。
お子様が説教垂れやがって。
わしわしと頭をなでてやる。
「やめろよ!!」
まあ、励ましてるのは分かるからこれくらいで勘弁してやろう。
「まあ、なんにせよ相談してください。
そのためにもあれを渡してるんで。
俺だけじゃなくて、アノーやグラスコー、それと事務所にも手紙を送れるようにしましたから。」
とりあえず、グラスコー商会同士のやり取りは解放した。
「すいません。
うまく活用できてないみたいで。」
ロドリゴさんは戸惑い気味だ。
「いや、本当に些細なことでいいですよ。
あれが安かった、高かった、あれが不足している。
あの飯が旨かったでもいいんで。」
それが商売につながる情報でもあったりする。
俺が気付かなくても、誰かが気付く可能性はあるしな。
「分かりました。頑張ってみます。」
そうロドリゴさんが言うと別の場所で笑い声が上がった。
なんだろう?
トーラスとベーゼックが騒いでるみたいだな。
「じゃあ、失礼します。」
俺は頭を下げて、二人の方へ向かう。
近づいてみて、分かったのは猥談の類だという事だ。
俺は、回れ右して逃げようとする。
「ヒロシ君、何も逃げることないじゃないかぁ。」
ベーゼックがねっとりとした声で耳元でささやいてくる。
「そうだよ。
君だって、いろいろと経験していることだろう?
僕らに話してくれてもいいじゃないかぁ。」
素面でそんな話できるか!!
そもそも、下ネタのレベルが小学生レベルだぞ!!
聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ!!
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