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8-24 彼女に借金をして船を買うとか、最低じゃないか?

お金を借りて船を買うって……

 翌日、港に大家さんが所有する船を見に行った。

 なんでも旦那さんが最初に手に入れた船らしい。

 船長は雇えず自分で操船したそうだ。

 その時にはすでに結婚していて、無事に帰ってこれるかすごく不安だったと大家さんは話してくれた。

 今は陸の上にあげられ寂しく佇んでいる。

 形としてはスクーナー船に見えた。

 大きな帆が特徴だ。

 操船するのが難しそうだなぁ。

「これが50万ダールかぁ。

 高いね。」

 ベネットが素直な感想を漏らす。

 確かに近くの造船所で聞いた船の相場から考えると50万ダールは高い。

 これが新造船なら分からない値段でもないが、かなり古い船だ。

 そもそも、俺がこれを購入しても、どう使ったものか。

 川では使えなさそうだし、海に浮かべないと台座がなければ横転してしまう。

 まさか船乗りに知り合いがいるわけでもない。

 運用するなら、それなりにお金がいるだろう。

 ただ見たところ、大きな損傷はないから、買ってすぐに運用することは可能かもしれない。

 それだけ大事にされてきたって事だろうな。

 この乾ドックだって、年間で結構な負担があるはずだ。

 俺なら、これをインベントリに納めておくことは可能だ。

 経年劣化からも防げる。

 いや、感傷のために買うには値段が。

 悩むなぁ。

「ちなみに、お金はあるの?」

 ベネットが俺に尋ねた。

「あるにはあるけど、ちょっと生活に支障が出そう。」

 何か使い道があればいいんだけど。

「倉庫に使えないかなぁ。」

 ふとベネットが漏らす。

 確かに、コンテナハウスのようにしまっておいてもその中のものを取り出すことができるし、そこにしまうことも可能だ。

 そういう意味では大きな倉庫を買うのと似たような感覚で運用できなくはないな。

 いや、でもさすがに。

「ねえ、私の貯蓄を使ってもいいから買わない?」

 ベネットの言葉に俺は顔を歪める。

「確か、10万ダールくらいあるよね?」

 確かにあるけど、それに手を付けるのは違う気がする。

「ベネットには何のメリットもないじゃないか。」

 ベネットは俺の言葉に首を横に振る。

「そんなことないよ。

 これで、知らない場所に行ってみたい。

 ヒロシが人を雇うとか、そういうことができてからでいいから。

 私を乗せてくれない?」

 そのために10万ダールは高すぎだろう。

「それに、さっきも言ったけど大きな倉庫として使えるならきっと仕事の役にも立つよ?

 私の旦那様の役に立つなら、無駄遣いじゃないと思うな。」

 言いくるめられそうだ。

 どうするか。

「ねえ、ベネット。それなら俺がベネットから借りるという形ならどうだろう?

 ちゃんと利子も払うよ。

 それなら俺も、何とか納得が出来そうだ。」

 ベネットがくすくすと笑う。

「ヒロシは、そういうところで意地っ張りだなぁ。

 いいよ。

 じゃあ、年利3%でどう?」

 こちらの世界では随分と安い金利だ。

 というか無利子に近い。

 でも、ありがたく乗らせてもらおう。

「分かった。

 じゃあ、年利3%で5万ダールを借りるという事でいいかな?」

 流石に貯蓄全てを借りるのは申し訳ない。

「仰せのままに、旦那さま。」

 金を借りる方が偉そうなのは納得がいかない。

「大切に使わせていただきます、奥様。」

 俺も恭しく頭を下げた。

 

 手紙をしたため、大家さんに購入の打診をした。

 返事を待ってお金を準備しよう。

 当然、期日前の証書を含まないと賄えない。それでもいいかという事も問い合わせておいた。

 まあ、不動産の売買なら、それでも問題ないだろう。

 お昼過ぎに倉庫に顔を出すとジョンたちが帰還していた。

 みんな渋い顔をしている。

「そんなに落ち込むことはねえよ。2万ダールなら上々だぞ?」

 グラスコーが慰めるように言う。確かに2万ダールなら十分だ。

「いや、横取りされたりとか脅されたりとかでむかついてんだよ。

 つけられてるとは思ってもみなかったぜ。」

 どうやら、順調と言えば順調だったらしい。

 途中から、見知らぬグループがしゃしゃり出てきて、獲物を奪われたり勝手に部屋を漁られたりで実入りが悪かった。

 俺がスカベンジャーに聞き取りをした時も結構聞いた話だ。

 でも、買い取り業者を相手に俺が派手に暴れたことで、ジョンたちが目をつけられた可能性もある。

 ある意味で俺のせいかもしれないなぁ。

「言っとくけど、ヒロシのせいじゃねえからな?

 んな顔すんな。

 とりあえず、変なのにつけられてねえか確かめなかったのは俺のせいだし。

 次から気を付けるよ。」

 お前はやさしいなジョン。

「まあ、派手にやりゃ狙われるのは仕方ないさ。

 そういう商売だって割り切らんとな。」

 グラスコーがにやにやしてるのはムカつくな。

「言われなくても分かってます。

 まあ、とりあえずくよくよしている暇はないんで頑張りますよ。」

 何せ借金する予定だしな。

 頑張って稼がないと。

「とりあえず、ジョンだけじゃなくて僕たちも注意します。

 それと、これなんですけど、本当にお金になるんですか?」

 ノインがかばんに詰めた血みどろの塊を差し出してきた。

 なんでそれをインベントリにしまっておかないかなぁ。

「魔獣の素材はインベントリにしまっておいてくれよ。

 臭いがひどいぞ。」

 俺がそういうと、ユウとノインが顔を見合わせる。

「さすがに、これを保存食が入っているものに混ぜる気にはならないって話になったんです。」

 ユウが申し訳なさそうに言ってきた。

 あぁ、そうか。

 最近、そこら辺の抵抗感が薄れてきてた。

「分かった。

 とりあえず、こっちのインベントリにしまうから。」

 そう言って、一旦バッグごとインベントリに納め、バッグだけ取り出す。

 きれいさっぱり中身が消えて、血痕も残っていない。

 インベントリを確認すると先生に教えてもらった錬金術やマジックアイテムに使える部位がきっちりと確保されている。

「とりあえず、これは売り上げが立ったらボーナスで渡すから。」

 まず先生の所に持って行って、マジックアイテムなどにしてもらい買い取って、それを売る。

 利益の半分がグラスコー商会の会計に組み込まれ、残り半分がジョンたちの取り分だ。

 それなりに売り上げが見込める。

 魔獣の死体には今のところ税金はかけられてないし、今が一番お得だ。

 そのうち税金がかかったり争奪戦やらが起こって、利益率がガンガン落ちてくんだろうなぁ。

「そういえば、グラスコーさんは魔獣の死体が金になるの知らなかったんですか?」

 前にバーナビーに支援をしていた時とかに話題にならなかったとしたら不思議だ。

「そういう発想はなかったな。

 先生に聞いておけばよかったぜ。」

 そうなのか。

 まあ、魔獣に忌避感がある事を考えれば、俺がおかしな発想をしてたと考えるべきだな。

 あれ?

 そういえば、ベーゼックが静かだな。

 後ろの方で何かを読んでいるけど、遺跡で見つけた本だろうか?

「あぁ、おっさんはあの本見つけてから暇がありゃ読んでるよ。

 何が書いてあるんだかは俺にはさっぱりだけど。」

 ジョンは投げやりに言う。

 まあ、文字が読めなければ聞くしかないしなぁ。

「私はおっさんじゃない。

 できればお兄さんと言いなさい。

 いや、しかしなかなか興味深いね。

 こんな帝国以前の書物があるなんて、とても面白い。

 内容はとても陳腐だけどね。」

 どうやら労働者の日記らしきものらしい。

 今日は上司に殴られた、休みが少ない、あれを食べた、これを飲んだ。

 女を口説いたという内容らしい。

 日付や天気なども書かれているので、歴史的資料としてはとても価値があるのだとか。

 そりゃ、ジョンじゃなくてもさっぱりだな。

 何が面白いんだって思われるよ。

 そういえば、そろそろトーラスが門につくころかな。

 ちらりと見ると、ベネットとセレンが何やら話している。

 チョーカーをいじってたり、こそこそしゃべってるなぁ。

「ベネット、そろそろトーラスを迎えに行こうと思うんだけど?」

 声をかけると慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。

「うん、行こ。」

 嬉しそうに俺の腕にしがみつく。

「何話してたの?」

 気になって聞いてみたけど、秘密とはぐらかされた。

 

 トーラスがくたくたな様子で馬車から下りてきた。

「おかえり。

 大分疲れてるみたいだけど平気?」

 ベネットが少し心配そうに声をかける。

「ただいま。

 いや、仕事自体は順調だったんだ。

 途中でオーガの群れに襲われてね。

 最悪だよ。

 銃剣が無かったら危なかったかもしれない。」

 銃剣を着けた銃で円陣を組むとかなり強力な陣形になるらしい。

 おかげで死者は出さなくて済んだそうだ。

「こいつを思いついてくれたヒロシのおかげだよ。

 みんな扱いにも慣れてきたし、今後はみんな銃兵になってくんだろうね。」

 俺のおかげと言われるとちょっと面はゆいが、役に立ってくれているならありがたい。

「とりあえず、歓迎会があるんでトーラスさんも参加してください。

 ハロルドさんの店なんで、おいしいものたくさん出ますよ? 」

 トーラスの顔がほころぶ。

「いいね。ハロルドさんの所の料理は僕も好きだよ。

 もちろん、ヒロシのおごりだよね?」

 抜け目ないなぁ。

「はいはい、こっちで持ちますよ。」

 そういいながら、車に案内する。

「新しい車だねぇ。

 四角い。」

 とりあえず、スライド式のドアを開けて、後部座席を見せる。

「結構広いね。

 何人乗れるんだい?」

 横向きシートに3人、後ろ向きシートに2人、それに運転席と助手席で合計7人が乗れる。

 荷物を載せるスペースを考えてそういう配置にしたけど、本来は座席はもっと増やせた。

「とりあえず、椅子に座れなくてもよければ10人くらいはいけるんじゃないですかね。」

 危険なのであまりやりたくはないけど、緊急時ならそれくらいはいけるはずだ。

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