8-23 船って高いなぁ。
船の値段が適正かどうか判断がつきません。
詳しい方がいらっしゃったらご教授願えると助かります。
カールを迎えに行ったら、大家さんに呼び止められた。
少し思い悩んでいる様子だ。
「ヒロシさん、少しご相談があるのだけれどよろしいかしら?」
なんだろうか?
ベネットと俺は顔を見合わせた。
「な、なんでしょうか?」
まさか、部屋を退去してくれとかじゃないよな。
「買っていただきたいものがあるのよ。
あなたにとって必要なものかは分からないのだけれど。」
買ってほしいものかぁ。
「お話を伺わせてください。
これでも商人の端くれですから。」
まあ、信用に足るかと言われると微妙だけども。
「恥ずかしい話なのだけど、わたくしには不肖の甥が居ますの。
働きもせずプラプラして、どこかに借金をこさえては泣きついてくる。
いえ、泣きつくならまだ可愛げがあるのだけれど、まさかあんなことをするとは思わなかったわ。」
大家さんは我慢ならないという感じで震えを抑えていた。
「それは、その。
お察しします。」
それと買ってほしいものと関係があるんだろうか?
「土地の抵当を二束三文で売り払ってしまってね。
全てではないけれど、買い戻さなければ困るような場所をいくつも。
まったく誰にそそのかされたのか。」
つまり、買い戻すための金が要るという事だろうか?
「そこでね。
申し訳ないのだけれど、船を買ってほしいの。」
船?
「もう何年も動かしていない船だけれど、それなりの大きさがあってね。
できれば50万ダールで買い取って欲しいの。」
50万ダール。
5000万円ってマジか。
高すぎる。
「無理かしら?」
大家さんもさすがに高すぎると思っているんだろう。
仕方ないかという雰囲気が感じられた。
「少しお時間をいただけますか?
後、その船自体を見せていただくことは可能でしょうか?」
とても即座に返答できる代物じゃない。
それに、現物がどんなものかも知らないから、値段が妥当かどうかも分からない。
「そうね。
申し訳ないけれど、検討してみてちょうだい。
それと船の場所なのだけど……」
停泊場所を聞いて、いつでも見学していいと返答を貰った。
でも、それほど悠長な話じゃないだろうな。
家に戻り、ちょっと呆然としてしまっている。
ベネットが料理してくれてる間、金庫の中身を確かめてみた。
今、インベントリにある金額と金庫の中にある自分の貯蓄をはたけば何とかならなくはない。
だけど、そうすると生活費が賄えなくなるし家賃も払えなくなる。
はい買いますって言える金額じゃないよなぁ。
そもそも、船なんて操縦したことも運用したこともない。
ましてや、こっちに来て船に乗せてもらったこともないんだぞ?
おいそれと手を出していい代物じゃない。
どうしたものか。
「ねえ、ヒロシが居た世界の船も高いの?」
ベネットは船の値段というのがピンと来ていない様子だ。
料理を食卓に並べながら疑問を投げかけてくる。
「高いよ。
それこそちょっとした大きさの船で50万ダールなら安いくらい。
もっとも鉄でできていて、こっちの世界の船とは全く別物だけどね。
見てみる?」
そういうと、ベネットは頷く。
急に見せたら、また驚かれるだろうし無難な船の動画にしよう。
「こんな感じ。」
ベネットからすれば、帆もなく動いているのが気持ち悪かったりするだろうか?
いや、こっちの世界の船というのがどんなものか詳細を知らないので何とも言えないけど。
「帆がないし、櫂もないのにどうやって動いてるの?」
とりあえず、スクリューの仕組みを見せる。
ちょっとベネットが固まってしまった。
いや、そこまで驚くことかな?
「ごめんね。
ちょっと、うん。
映像って言うもの自体が不思議だったけど、魔法か何かと思えばいいよね。
うん。」
ちょっと落ち着こうとして、ベネットは深呼吸した。
「とりあえず、ヒロシの世界の船がすごいことは分かったわ。
魔法の船みたい。
それと比べたら、普通の船じゃ高いわよね。」
ベネットは納得したようだけど、実は別に帆船だからって安くなるわけでもない。
実際、帆船を木造で作るとなれば普通に億かかったりする。
もちろん、枯れた技術であることで職人が不足していることで高騰している部分もあるだろうけど、大きさによるとしか言えない。
いずれにせよ、船の大きさ次第だよなぁ。
「とりあえず、冷めちゃうからご飯にしようか?」
しかし、また買えなくもない値段というのが嫌らしいよなぁ。
寝室でベネットと二人きりになる。
カールもマーナもいない。
お風呂も入ったけど、なんか妙にそわそわしてしまう。
「ねえ、ヒロシ。
これ、付けて欲しい。」
ベネットが届いた、チョーカーを取り出してきた。
黒い革のひもに銀の飾りのシンプルなものだ。
でも、なんか妙にドキドキしてしまう。
チューカーを手に取り、ベネットの首に巻く。
なんだかそのまま押し倒したい衝動に駆られてしまった。
いやいや、駄目だ。
そういう事ばかりをしてたら、見境がなくなってしまう。
「似合ってる?」
ベネットの言葉に俺は頷く。
はにかんで笑うので、また衝動が俺を突き動かしそうになる。
とりあえず、俺の方にもソーイングセットが届いているから、それを渡そう。
「これ、よかったら使って。」
針と糸のセットで、糸を上から下ろせば、穴を通さなくていい針だ。
「不思議な形。
色もいろいろあるね?」
嬉しそうで何よりだ。
「ところでさ、ヒロシ。
私、サービスって言う項目もみたんだけれどインターネットって言うのがさっきの動画とかを見るためのサービス?」
そうとも言えるし、そうじゃないともいえる。
どう説明しよう。
とりあえず、現物を出すか。
俺は、パソコンをインベントリから出して机の上に置いた。
「まあ、さっきのはここだけを見れるようにしてたんだ。」
そう言ってモニターを指し示す。
「え?
こんなに大きなものが必要なの?」
そこも説明しないとな。
「そんなこともないよ。
レイナさんにも渡しているタブレットがあるだろう?
あれでも、動画は見れる。
ただ、インターネットに接続するサービスは別に必要なんだ。」
どうにかパソコンとインターネットプロバイダ、両方揃ってインターネットが見れるようになることは理解してくれたと思う。
「じゃあ、なんでヒロシはこんなに大きなものを買ったの?
値段、高いんだよね?」
どう説明しようか。
「えっと、まずパソコンが大きいのは無理に詰め込まないためなんだ。
レイナさんの持っているタブレットはあの大きさでこのパソコンと同じことをさせようとしている。
だから、若干割高なんだ。
大きさが関係ないなら、同じことをするためにパソコンかタブレットを選べと言われたらパソコンの方がいい。
って言えばわかる?」
いまいち分からないみたいだ。
ベネットは困惑の表情を浮かべている。
「とりあえず、レイナ様と同じものを買ってくれない?
私じゃちょっと選べそうにもないし。」
まあ、そうだよな。
使ってみるのが一番いいか。
「分かった、購入しておくよ。
ついでにサービスも手続しておくね?」
ベネットは安心したようにため息をつく。
いくら好奇心が強いからと言っても、まったく知らないものに触れるのは怖いよな。
製品はレイナと同じものでいいだろう。
とりあえず、家族プランというのがあるから、インターネットサービスはそれに加入しておく。
翻訳サービスもとりあえず付けておこう。
まだ、日本語が分かったとは言われてないし。
「とりあえず、これはしまっちゃうね。」
そう言って、パソコンをインベントリに納めた。
「なんだか、世界が変わっていく気がする。」
ベネットが呆然と呟いた。
そういえば、俺も初めてインターネットを知った時も、そう思ってたな。
いろんな人にインターネット越しに知り合いになれると思ってたんだ。
まあ実際は俺の性格からしてそんなに知り合いは増えなかったわけだけども。
考えてみると俺はこっちに来てから知り合いが増えたな。
人見知りする性格は相変わらずだけど、グラスコーとかに振り回されてるから、知らず知らずに関係が増えていった。
ただ、考えてみると知り合い同士の交流って難しいんだよな。
「ねえ、ヒロシ。
関係ない話なんだけど、私とラウレーネ様がお手紙をやり取りとかできないかな?」
今まさに考えていたところだ。
そして、電子音が鳴った。
だよねぇ。
君はいつでもそんな感じだ。
痒い所に手が届くのはいいけど、次々レベルアップしていくから怖くて仕方ないよ。
”収納”君。
「今できるようになったよ。」
とりあえず、それぞれの専用インベントリに荷物の配送を相互にできるようになった。
ただ、相手のインベントリは覗くことはできない。
そこら辺の配慮はあるんだな。
まあ、収容容量の増加は相変わらず自重してないから、ついに3桁。
128tにまで増えてしまったが。
何故か収納枠は32のままだったのは、多少自重したのか?
とりあえず、送り先のリストはこちらで制限を書けることも可能で、現状は誰ともつながっていない状態だ。
ホワイトリスト形式なのは助かった。
これがブラックリスト形式だったら、あとから外して仲間外れみたいな感じになるし。
「とりあえず、誰と連絡したい?」
ベネットに尋ねると、ラウレーネとレイナに連絡ができるようにしたいという事だから、そこを許可する形にした。
「荷物を送ることもできるって……やだ、なんでわかるの?……」
記憶をいじくりまわされる気持ち悪さをベネットも味わったようだ。
さっき知らなかったことが脳裏に浮かぶ。
これって、結構気持ち悪い。
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