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8-19 彼女に特別なお願いをする。

頼むのであればやはり彼女しかいないわけでして。

 作った冷製パスタは、味が薄かった。

 添えた生ハムの薄切りのおかげで何とか食べられたけど、そのままだとトマトの酸味がきつい。

 塩をもう少し多めにふらないと駄目だなぁ。

 ちらりとベネットの方を見てしまう。

「んー、ん?

 んー……」

 やっぱりベネットも似たような感想なんだろうなぁ。

「ごめん、今度はもっと濃いめに作るよ。」

 思わずしゅんとしてしまう。

「大丈夫大丈夫、ちょっと薄めだけど生ハムがあるから、おいしく食べられるよ。」

 あ、はい。

 もう、本当ハロルドには頭が上がらない。

 微妙な味付けでも、生ハムがあればそれっぽい味に仕上がる。

 結構手間のかかる代物だから、それなりのお値段がするけど補って余りあるくらいおいしい。

 でも、なかなか買ってくれる人いないんだよなぁ。

 生肉っぽいから嫌厭されてるんだろうけど本当に生なわけではないし、衛生面も問題ない。

 もっと売れて欲しいんだけどなぁ。

「生ハム美味しいよね。

 もっと売れてくれてもいいのに。

 やっぱり見た目が駄目なのかな?」

 ベネットは、少し考えてくれているようだ。

「やっぱり料理として完成した姿を見せたほうがいいと思う。

 あれをどんって出されると、やっぱりひいちゃうかなぁ。

 おいしさを知っている人ならおいしそうって思うかもしれないけれどね。」

 つまり、スライスしてパッケージングするか、パンにはさんでサンドイッチで販売するべきか。

 うむぅ。

 ハロルドにお願いしておこうかな。

 食べ終わり、皿を片付けてウィンナーコーヒーの準備をする。

 その間にベネットはマーナにドッグフードを用意して、食事をさせてくれていた。

「あ、お皿は置いておいてね?

 ちゃんと決まりは守ろうね?」

 思わず皿洗いをしそうになったところで、ベネットに制止されてしまった。

「あ、はい。」

 とりあえず、コーヒーの準備に専念しよう。

 と言っても、インスタントコーヒーにホイップクリームを載せるだけなんだけども。

 実は生クリームも《水操作》で簡単にホイップ出来る。

 それでも結構な時間がかかるから、ちょっと手持無沙汰だな。

 あ、そうだ。

 購入者権限の話をしてなかった。

 ベネットに付与はしたけど、ベネットが知らなければ何の意味もない。

 コーヒー飲みながら説明しておこう。

「コーヒー入ったよ。」

 食後のマーナを撫でまわしているベネットに声をかけて、テーブルに運ぶ。

「白い。」

 まあ、コーヒーって言ったら真っ黒なものをイメージするよな。

 どこもブラックにたっぷり砂糖を入れているものしか見ない。

 この国では異国の飲み物として割と有名ではあるけど、俺としてはとてもなじみがある。

 残念だったのがミルクが入ってないことだ。

 俺はミルクたっぷりのカフェオレとかの方が好きなんだ。

 その点で言えば、ホイップクリームをたっぷり乗せたウィンナーコーヒーはベストな回答と言っていい。

 ホットだから、夏場に飲むと汗かいちゃうけども。

「これ、どうやって飲むの?それとも、スプーンで食べるの?」

 まあ、みんな最初はそう思うよな。

 これ、どうすればいいんだって。

「人によるんじゃないかなぁ。

 俺は、ちょっと上のクリームを食べて、しばらくしたらコーヒーに混ぜて飲んじゃう。

 最初から混ぜちゃう人もいれば、最後までクリームを食べちゃう人もいるよ?」

 そういいながら、俺はスプーンでホイップを食べる。

 うん、これはちゃんと甘い。

 成功成功。

 ベネットは、ちょっと悩んでいたが、ホイップがどんどんコーヒーに沈んでいっているのを見て、あわててクリームを口に運ぶ。

 一瞬固まった後、黙々とクリームを口に運び始めた。

 やがて、コーヒーの液面が出てきたところで全部食べてしまったことを後悔している様子が見て取れた。

「はい、クリーム追加ね。」

 そう言って、俺の方で余っているクリームを乗っけてあげた。

「あ、ありがとう。」

 そう言って、ベネットはクリームをコーヒーに溶かしていった。

 俺もクリームを溶かしてコーヒーを飲み始める。

 やっぱり食後のコーヒーは至福だなぁ。

 インスタントでもやっぱりコーヒーはおいしい。

 ベネットもため息を漏らしてる。

 おいしく飲んでいただけて幸いだ。

「んー、クリーム入りのコーヒーってどうなのかなって思ってたけど、おいしい。

 何も入れないのよりも好きかも。」

 そこの嗜好が合致してくれるのはうれしいな。

 ダメダメ、忘れてしまうところだった。

「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。

 今度はハロルドさんの店で飲もう。

 それと、話そうと思ってたことがあるんだけどいいかな?」

 相変わらず話のつなぎ方が下手だなぁ。

「ん?何?」

 とりあえず、改まった感じになったのでちょっと姿勢を正してしまう。

「えーっと、実はベネットに購入を代行してもらえるようになったんだ。

 それで、その……」

 どう言えばいいだろう。

 好きに買い物していいよというわけではない。

 いや、別にそれは構わない。

 ベネットの性格からして無茶苦茶な買い物はしないだろうし。

 俺が期待しているのは、ベネットの視点で買い物をしてほしいという事だ。

 特に俺には女性の視点が欠けている。

 そこで、思わぬ見落としがあるかもしれないからだ。

 それをどう説明したものか。

「あぁ、あれ?

 あのすっごい指輪がいっぱい出てきた。」

 そう、それなんだけど。

「あれ、私が扱うのはちょっと……

 怖い。」

 それは困った。

 いや別の人に、お願いしてもいいんだけど。

 でも、怖いか。

「使いすぎちゃいそうで怖い?」

 ベネットに尋ねると、少し迷ったようなしぐさを見せる。

「それも、もちろんあるけれど、ヒロシの世界のものがこの国を……

 世界を壊してしまいそうな気がして。

 そんなことないとは思うんだけど、ちょっと身構えちゃう。」

 そうか。

 そういう感想が出てきてしまうのか。

 だとすると、なおさらベネットにお願いしないといけないような気がしてきてしまう。

「ヒロシは、私に何を期待してるの?

 別に、私は特別な存在じゃないよ?

 欲張りだし意地汚いし、頭がいいわけでもないから。

 責任取れないよ?」

 それを言ったら俺も同じなんだよなぁ。

「とても責任が取れる能力じゃないよ。

 俺だって無理。

 それなのに、ベネットに責任取れなんて言わないよ。」

 ベネットはそれでも困っているみたいだ。

 無理強いはできないよな。

「ごめん、忘れてくれていいよ。

 なんだか、俺も怖くてベネットに半分投げ出そうとしてたのかも。」

 いや、このいい方は卑怯だ。

 これじゃ、ベネットは我慢してでもやってくれると思う。

「ベネット……」

「ヒロシ、分かってるよね?

 言葉って、取り消せないんだよ?

 私は、あなたのものなんだから、あなたは私に責任を持たないといけないんだから。」

 じっとベネットが俺を見つめる。

「私が決めることじゃないの。

 ヒロシが決めることだよ。」

 そうか、俺がいつも言っていたことだ。

 誰にどんなことを頼むのか。

 何をしたいのか、その結果起こる事の責任は全部俺にある。

 だから、俺が決めなくちゃいけない。

「お願いします。」

 俺は一言だけ漏らす。

「分かった。」

 ベネットは静かに頷く。

「まあ、でも、そんなに身構えなくてもいいよ。

 俺の方でもベネットが買ったものを確認はできるし、危なさそうだなって思ったら話し合おう。

 それに届くまでに結構時間がかかるからね。

 いざという時、買い忘れてて失敗したなぁって思うことも結構あるし。」

 そういいながら、ベネットに売買の仕方をレクチャーし始める。

 カテゴリーや絞り込みの説明をして、リストの順番の買え方なんかも説明する。

 ちょっとベネットはあたふたしているけど、事前に使い方をまとめたテキストデータがあるから印刷して渡そう。

 そうだ。

 購入画面は共有されてたりするんだろうか?

「じゃあ、試しに買い物しようか?

 俺は俺で買い物をするから、ベネットは欲しいものを買って欲しい。」

 そう言って、一旦購入リストを閉じる。

「分かった。な、何でもいいの?」

 ちょっと不安そうにベネットが訪ねてくる。

「もちろん。」

 俺は、ベネットがおかしなものを買うとは思ってない。

 問題は、俺は何を買うかだなぁ。

 再び画面を開いて、購入するものを品定めする。

 出来れば、ベネットに贈れるものがいいけど。

 宝飾品や服は違う気がする。

 かといって食べ物でもない気がするんだよな。

 ソーイングセットでも買ってあげよう。

 こうしてみている間も、ベネットはベネットで操作をしている。

 とりあえず、あちらの画面は見えてないから多分共有はされてないんだろうなぁ。

 とりあえず、購入手続きをするとびくっとベネットが反応した。

 なんだろうか?

 しばらく待っていたら、こちらでも電子音が響く。

 ベネットが購入手続きをしたことを知らせてくれたみたいだ。

「何買ったの?」

 ちょっと尋ねてみた。

「そっちでは見えないの?」

 逆にこっちが何を買ったか見えないのか気になる。

「うん、こっちではベネットが何かを買ったというのは分かったけど何を買ったかまでは分からない。

 ただ、承認しないと決済始まらないから決済しておくね。」

 とりあえず、次からは承認なしで決済できるようにしておこう。

「ちなみに、ヒロシは何を買ったの?」

 ベネットが聞いてくる。

「針と糸のセットかな。

 ベネットが使えるものがいいと思って。」

 そういうと、ベネットはショックを受けた様子を見せる。

「え?どうしたの?」

 なんかまずかったかな。

「ううん、私はその……私のためのものを買っちゃったから……」

 いや、それくらいなら別に。

「その……これなんだけど……」

 銀色の飾りがついたチョーカーだ。

 画面をひっくり返すようにすると、他の人にも見せられるんだなぁ。

 いや、似合うしいいと思うけど。

「ヒロシに、付けてもらいたくなっちゃって。つい。」

 恥ずかしそうに顔を背ける。

 なんだろう、こう。

 可愛いなこんちきしょうめ。

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