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8-18 いったい何を話してたんだろう?

 レイナ嬢宅についても誰も出てこない。

 なんだろう、珍しいな。

 俺は扉を叩く。

 マーナが俺の周りをまわってじゃれついてくる。

 何かがぶつかる音や倒れる音が響く。

 なんだいったい?

 マーナもびっくりして、身をすくめている。

「ヒロシ、ごめんね。出るの遅れちゃった。」

 ベネットが息を切らせて扉を開く。

 慌てて出てきたらしく、若干服が乱れてる。

「どうしたの一体?」

 リビングからはレイナが俺の方を見てる。

 なんか頬を赤らめて、何やら瓶を持っていた。

 ワインボトルかな?

 割と細めの瓶だ。

 と言っても片手で握りしめるには若干太いかな。

 とりあえず容量の少なさからすると、お高いワインなんだろうなぁ。

 お昼に飲んでたんだろうか?

 いや、別にお昼にワインくらいは飲むだろうし、それが慌てる理由にはならないと思うんだけど。

 俺は思わず首をひねる。

「な、何でもないよ。

 ちょっと、えーっと、秘密のお話をしてただけだから。

 ちょっとお酒入っちゃったから、それに夢中になっててね。

 あ、ごめんねマーナ、びっくりさせちゃったね。」

 なるほど。

 女性同士ならそういう話もするか。

 なんか、びっくりしてたマーナをやたらなだめるように撫でてるのは気になるけども。

「そっか、分かった。

 聞かないでおくけど、忘れ物とかない?」

 一応確認しておこう。

「うん、大丈夫。

 もし忘れても、また取りにくればいいし。」

 それもそうか。

「じゃあ、レイナさんお世話になりました。」

 俺が挨拶をするとひぇっとか声を上げる。

 なんだその化け物でも見るような目は。

「あ、いやごめん。

 その、何でもない。」

 なんでもなくはないだろ。

 レイナの反応を見るに、俺に関係する話なのは間違いなさそうだ。

 いや、何話してたんだいったい。

 俺の性癖とか話してないだろうな。

 ベネットをじっと見る。

 彼女は目をそらした。

「人の恥ずかしいところとか、暴露してないよね?」

 ベネットはしてないしてないと、首を横に振る。

 信用ならんな。

 まあ、無理に聞き出してもこじれるからやめよう。

「ならいいけどさ。

 いくよ?」

 そう言ってベネットの手を引く。

「うん、お邪魔しました。」

 そういいながら、扉越しにベネットはレイナに頭を下げた。

 レイナは若干お疲れ気味に手を振っている。

 

「ねえ、ヒロシ怒ってる?」

 いや、別に怒ってはいないけど。

「怒ってないよ。」

 車を運転しながらだから、ベネットの方を見て言えない。

 これだと、本当は怒ってるように見えるかもな。

 一応路肩に止めて、ちゃんと言おう。

「本当に怒ってない。

 ベネットが話さない方がいいと思う事なんだろうし、それについてとやかくは言わないよ。

 いつだって君は俺の味方でいてくれてたんだから。

 まあ、気にならないかと言えば気にはなるけどね。」

 俺はベネットの方を見て笑う。

 そしたら、急にキスをしてきた。

 なんかいつも主導権握られてるな俺。

 マーナが見てきてるのは何だろう?

 こいつ、興味あるのか?

 いや、そんなことないよな。

「えへへ。

 ヒロシ大好き。」

 酔っぱらってるんだなぁ。

 ワインの味が若干残ってる。

「はいはい、私めも姫様を大変お慕い申し上げてますよ。」

 そういいながら、運転を再開する。

 そういえば、ハロルドと奥方様の話をベネットにはしただろうか?

「そういえばベネット、ハロルドさんの奥さんが奥さんじゃ無かった話したっけ?」

 ベネットは首を横に振る。

 そっか。

 まあ、ハロルド本人が特別隠している様子もないし話しておこう。

 とりあえず掻い摘んで説明した。

「そ、そんな関係だったんだ。」

 ベネットも意外だったらしく目をぱちくりさせる。

 まあ、驚きだよな。

 どう見たって夫婦だと思う。

「まあ、こちらから立ち入る話でもないし、何かするって事でもないけど一応共有しておこうと思ったんだ。」

 他にも修道院の話や大手のキャラバンにあるものを送った話をしておいた。

「修道院の話は良いけど、キャラバンは、なんで嫌な奴に援助みたいなことするの?

 荒れ地でも育つ植物を渡してあげるって意味がよく分からないんだけど。」

 ちょっと内緒にしておこう。

 どうせ5年先、10年先の話だ。

「大した話じゃないよ。

 どうせ荒れ地を開拓するなんて、大変な目にしか合わないし。

 じゃあ、そこで育つものをあげておいた方が後々感謝されるんじゃないかなと思ってね。

 大きいところなら逆らうよりか、協力した方がいいでしょ?」

 ベネットは首をかしげる。

「ちょっとヒロシにしてはお人よし過ぎない?

 多分、そういう連中は感謝なんかしないわよ。」

 ベネットは何かうすうす気づいているみたいだな。

 なんか、笑みがこぼれてしまう。

「悪い顔してる。

 本当、黒髪の王子様っぽい。」

 流石に心外だな。

 あそこまで人格歪んでないと思うけどなぁ。

「どうせなら、イケメンになりたかったよ。」

 ちょっと拗ねてみた。

「私、ヒロシの顔好きだよ。」

 本当かなぁ。

 最初はあれだけ睨まれたから、嫌いなんだと思うけどなぁ。

「最初はね、見分けも付かなかった。

 でも、ヒロシの顔をよく見て、かすかに笑ったり涙を見せたり、怒ったり喜んだり、いろんな顔をするんだなってわかってから、なんで気付かなかったんだろうって。

 この人はこんな顔だったんだなって、初めて分かった。

 だから、私ヒロシの顔好きだよ?」

 なんでこの子は、そんな恥ずかしいことを平然と言うかなぁ。

「ふふ、照れてる照れてる。」

「照れてない。」

「嘘、照れてる。」

「……はい、照れてます。」

 もう、なんか不毛だ。

 素直に負けを認めよう。

 ここに他人が居たら、俺殴られてると思う。

 

 何度か休憩を取り、川のほとりや森の中で楽しく過ごす。

 マーナと駆けまわった、ベネットの馬を世話したり野草を摘んだり、動物の声に耳を澄ませたり。

 商売から離れて、こうやって過ごす時間って大切だな。

 ただ、会話がどうしても食べ物の話に集中しがちだ。

 今夜何食べるとか、明日の朝はトーストにしようとか。

 二人とも食べることが好きだというのもあるけど、ベネットに好き嫌いが無いのも大きい。

 俺が食べたいといったものは大抵受け入れてくれるから、それに甘えてしまってるなぁ。

 ウィンナーコーヒーや冷製パスタの話をしたら、興味津々だ。

 というわけで、今晩は俺が冷製パスタを作る。

 んで、食後はウィンナーコーヒーという事になった。

 残念ながら、俺じゃハロルドには勝てない。

 なので、手抜きで作るわけだけど、そこは許してもらおう。

 味の違いは、今度行ったときに試してもらうことにする。

 そういえば、ベネットは馬を連れている。

 今回は、預けてなかったんだな。

 神の籠と言われる空間に納めておくことができるとはいえ、ストレスにもなるだろうと馬具屋さんに預けることも多いのに珍しい。

 ふと、そういえば名前を聞いてなかったことを思い出す。

 コンテナハウスでお世話するときに聞いてみよう。

 

「ベネット、この子の名前って聞いた事あったっけ?」

 そう切り出すと、ベネットは少し不思議そうな顔をする。

「話してなかったっけ?

 グラネって言うのだけれど、ヒロシに紹介してなかったのかな?」

 ベネットも自信なさげだ。

 でも、名前を呼んでいるところも見たことがない。

 いつも、おいでとか、いい子とか。

 そういう風に名前で呼ばずに可愛がっている所しか見てない気がする。

 しかし、グラネか。

 こっちにもニーベルングの指輪みたいな物語があったりするんだろうか?

「俺も忘れてただけかもしれないけど、ちゃんと覚えておくよ。

 でも、神話か何かからとったの?」

 そういうとベネットは頷く。

「美しいヴァルキュリアの愛馬の名前からあやかってね。

 さすがにスレイプニルじゃ大仰すぎるし。」

 なるほど、確かに。

「よろしくね、グラネ。」

 改めてグラネのお腹をブラッシングして名前を呼ぶ。

 だけど、気安く呼ぶなといった感じで頭をかじられてしまった。

 

 冷製パスタは《温度操作》の呪文があるおかげで、とても楽に作れた。

 普通なら、お湯を沸かす時間や逆にパスタを冷やす時間が大切だったりする。

 だけど、俺は沸騰したお湯をすぐに出せるから、IHヒーターで温度維持をするだけで済むし、冷やすのもボウルに氷水を用意して、一回り小さいボウルを用意するなんてことをしなくてもいい。

 直接ボウルをキンキンに冷やしてやればいいんだからとても簡単だ。

 氷も簡単に作れるので、市販のトマトスープを味見しながら調整してそれを凍らせてやればいい。

 後は、それをおろし金で削ってやるだけだ。

 ハロルドの作ってくれた生ハムを添えてやれば、そこそこ見栄えもいいだろう。

 色のアクセントに摘んだ野草を添えてやればとてもそれっぽく見えた。

「すごい。」

 ベネットにキラキラした目で言われると、ちょっと不安になる。

 見た目ばっかりで不味かったりしないよな?

 特に冷たい食べ物って、塩気が感じにくいから妙に薄くなったりもする。

 そこら辺を調整する技術が無いから、ちょっと心配になってしまった。

「褒めてもこれ以上はできないからね?

 後でおいしくないって言われても、責任は持たないから。」

 情けないけど、予防線を張ってしまった。

「とりあえず、食べてみないと分からないなぁ。

 ね?

 早く食べよ?」

 ベネットが、俺の作った冷製パスタを食卓に運んでくれた。

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