8-17 ズルを推奨していいものか、どうか。
一応悩みはするんですよ。
久しぶりにハンスに頼んでいた仕事の成果を見てみる。
ほったらかしにしてしまっていたので、結構な本数がたまっていた。
とりあえず、取り出しては中身を確認していく。
いや、さすがに枯れた土地だけに目を見張るようなものは見かけない。
ニッケルや鉄、ボーキサイトが少々。
たまに金色に輝いて見えるのは黄鉄鉱だ。
石英の中に金が時折混じっている。
これは、確かに価値があるから後で鍛冶屋さんに抽出してもらおう。
他にも石炭は割と混じっている。
これを圧縮してダイヤモンドにできたら、すごいんだろうけど。
いや、まあ、そもそもダイヤに価値があまり無いんだった。
でも、工業的には使えるんだよなぁ。
例えばオリハルコンやミスリルの研磨には必須とされている。
だから、決して無価値というわけではないけど、宝石としての価値はあまりない。
少なくとも今のところはだ。
まあ、ダイヤモンドが出てきたわけでもないから、こんな話をしても意味ないんだけどな。
そういえば、ミリーからの手紙が定期的に届いてくるが、お菓子や飲み物の要求以外は世間話が大半だ。
だけど、1つだけ気になった内容がある。
大手キャラバンがハンスたちの見つけた水源を占有し始めたという話だ。
別にハンスたちには無限の水差しがあるから差し迫った問題ではないけど、水が貴重な蛮地で見つけたハンスたちに断りもなく占有するのはムカつくな。
稗とかを植えて畑を作っているらしい。
しかし、畑ねぇ。
俺は手紙をしたためて、ミリーにあるものを送る。
それをその大手キャラバンに渡してくれるように頼んだ。
当然育て方も一緒に懇切丁寧に記したものもつける。
どうなるか楽しみだ。
しかし、着るものは足りているんだろうか?
一応靴やらズボン、シャツなんかも送ってはいる。
暑さなどは平気かは前に書いてみたが、屋上で寝れば平気みたいな返答だったけど。
扇風機送るかなぁ。
それよりも、ハンスたちの家をいじってしまおうか。
いや、勝手にやるのはなぁ。
今度帰った時に相談しよう。
一夜明け、ベネットを迎えに行く前に倉庫に立ち寄った。
ジョンたちが出発するからだ。
2回目の遺跡探索だからな。
しかも今回は俺はついていかない。
いや、いつまでも後ろを付けて回るわけにもいかないんだから、受け入れないと。
とりあえず、出発前に渡すものがある。
「おはよう。
なんだ、もうみんな集まってたのか。」
ロドリゴが馬車を倉庫の前で止めて、荷物を載せてる。
ジョンたちはそれを手伝ってくれていた。
「グラスコーさん待ち。まあ、起こしに行きゃ済む話なんだけどさ。
別に急いでるわけでもないから。」
グラスコーは、倉庫の2階にある部屋で寝泊まりしている。
決して生活しやすい空間だとは思えないが、割と気に入ってるらしい。
気持ちは何となくわかる。
「そうか、とりあえずこれを渡しておく。」
遺跡の地下3階までの地図だ。
「……これ、あそこの地図か?」
ざっと見ただけで見当がつくのか。
ジョンは慌ててインベントリの中にしまってしまう。
「お前、こんなんあったら漁り放題じゃん。」
そうだろうか?
競合もひしめいているわけだから、必ずしも漁り放題ではないだろう。
遺跡の中をうろつく魔獣だって様変わりしている。
そう考えると、どこが退避できる場所かを知るくらいしか役に立たない。
「とりあえず、やばいときはその地図を頼りに隠れろよ。
場所もそれに書き込んで送ってくれば助けに行ける。
というか、まじでやばかったらって話は覚えているか?」
ジョンは、ちょっと思い出すそぶりを見せる。
「言ってたか?あー、うん。言ってた気がする。」
何とか思い出したみたいだ。
「いや、でもこれさ。
ズルじゃね?」
確かにチートだ。
この上もなく有利になるだろう。
「じゃあ、使わないか?」
そう聞くとジョンは悩む。
「そういうの教えておいて聞くの卑怯だぞ。
・・・・・・いや、いい。使う。
俺だけじゃないんだ。使えるものはなんだって使ってやるよ。」
相当悩んだようだが受け入れて貰えて何よりだ。
「まあ、ジョンが使わなくても僕は使うけどね。」
ノインは何かを読みながら、話に割り込んできた。
俺が書いたインベントリの使い方をまとめたものだ。
「こんなものを持ってたんですね。
驚きです。」
なんだよ、持ってたらいけないのか?
こいつなんかムカつくなぁ。
「ありがとうございます。
できうる限りの成果を見せましょう。
ご厚意に感謝を。」
そう言って、ノインは頭を下げた。
そこまで畏まられると、俺が小物っぽいじゃんか。
いや、小物だけども。
「い、いや、まあその……
頑張れ。」
そうとしか言いようがない。
ベーゼックがにやにやと俺を見て笑ってる。
そういえば、ベーゼックに話を聞かなきゃいけないことがあった。
俺はベーゼックをジョンたちから離れた場所に引っ張っていく。
「なんだよヒロシ。笑ったのを怒ってるのか?」
そうじゃない。
「マリドネル修道院って言うのはいったいどんな場所なんです?
あそこ、相当やばいですよね?」
とりあえず、ジョンにインベントリを渡しに行った時の話をしてみる。
「あぁ、うん。
やばいか、やばくないかで言えばやばいよ。
監獄って言葉は伊達じゃないから。
なんでも先代の院長のころはまともだったらしいけどね。
今の院長も就任当初は厳しいけど、まともだったらしいけど。
何がどうなれば、子供を食い物にするようになっちゃったのか。
下についているシスターたちも指導層と対立気味だね。
新入りはその狭間で板挟みになるらしいから、困ったもんだよ。
貴族の子弟には甘いらしいけど、そこら辺でまたいらぬ対立を呼んでいるし。」
それでなんで放置されてるんだろうか?
「教会は見て見ぬふりなんですか?」
ベーゼックは少し口元を抑える。
「じゃあ、仮に院長をやめさせたとしよう。
修道院の運営はどうなると思う?」
それは、財政を院長が握っているという事だろうか?
でもどこから金を引っ張ってきてるんだろうか?
「子供たちが散り散りになるよりかはましくらいの感覚だという事ですか?」
ベーゼックは口をへの字に曲げる。
「まあ実際あの修道院、シスターや孤児を抱えすぎなんだよ。
院長がどこから金を引っ張ってきてるかは分からないけど、運営を教会の方に投げられてもとても賄いきれない。
だから、ジョンがスカベンジャーをやるって言ってるわけだけど。
タダで人を養うのは、無償の愛だけでは足りないんだ。」
俺の心に突き刺さる。
そもそも、俺もただで養われていた側の人間だ。
多少の悪行には目をつぶって、見過ごすべきなんだろうか?
まあ、そういうわけにもいかないよな。
「まあ、ヒロシが抱える問題じゃない。
あくまでも教会が考えるべき問題だよ。
一応監査が動いているから、余計な口出しはしない方がいいよ?
見守ることも大切さ。」
ベーゼックの言うとおりではある。
あくまで俺が主体で動いてはいけない。
何かあった時に手を差し伸べられるように準備しよう。
ようやくグラスコーが起きてきたので、一行は出発していった。
ロドリゴが馬車なので、飛ばすわけにもいかない。
ゆっくりと門の方へと向かっていった。
アノーは、本日お休みという事らしい。
まあ、歓迎会があるので長期の仕事に出発されると困るんだよな。
とりあえず、出発はジョンたちの二度目の遺跡探索が終わって、戻ってきてからだ。
その間は、近くの村や町への商売でお茶を濁してもらうことになる。
俺は、ベネットを連れてアレストラばあさんに挨拶しに行く。
主な目的は、アレストラばあさんに専用インベントリを渡すことだけど、受け取ってもらえるだろうか?
他にも電池の話や家電製品の話をしようと思っている。
前回は大回りしていったので、実は馬車でもそれほど時間がかかるわけでもない。
往復3日で行き来できる距離にばあさんの工房はある。
なので、車なら実は1日で往復が可能だ。
とはいえ、そこまで急ぎのたびじゃない。
ゆっくり行こうと思う。
とりあえず、ベネットを迎えに行かないと。
一応事務所に顔を出すか。
「お疲れ様です。
そろそろ出発しようかと思うんですけど、何かありますか?」
一応黒板に帰ってくる予定の日を書き込んでおく。
まあ、大抵予定通りにはいかないんだけども。
「んー、行ってらっしゃい。
そうだ、ヒロシがいない間もアイス食べてていい?
お金はちゃんと払うからさ。」
そういえば、そういうの聞かれたことなかったな。
レイシャの性格から勝手に食べてるもんだと思ってた。
「構いませんよ。
売りものですから、ちゃんと払ってもらえばご自由に。
イレーネさんもライナさんも遠慮なく召し上がってください。」
ライナさんは、言われなくてもといったけど、イレーネは少しぼーっとしてるのか返答がない。
なんだろう?
「あ、いえ、分かりました。
行ってらっしゃい。」
何かいいことでもあったのかな。
ちょっとにやけてた気がする。
まあ、いいか。
俺は、車に乗り込みアルノー村へ向かう。
その前に、カールを大家さんの家に送り、マーナを車に乗せた。
しかし、こっちの夏は、とても過ごしやすい。
日本と違って窓を開ければ、涼しい風が舞い込んできてくれる。
そういえば、エアコンの使い方はアノーには教えてなかったな。
グラスコーには教えて置いたけど、すっかり忘れてたな。
暖房は意識してたけど、暑いと思ったら窓を開ければいいという事で存在を失念していた。
まあ、いいや。
戻ってきたら教えよう。
エアコンなぁ。
レイシャは欲しがりそうだ。
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