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1-20 青春映画とか、苦手なんだよ。

 日が沈むとすっかりあたりは静かになった。

見た目がおっかないから、どんちゃん騒ぎでも始めるのかと思ったら意外と統制は取れてるみたいだな。

煮炊きする所以外は光もない。

結構大人数だと思ったけど中堅2つ程度なら、まだまだ水場に余裕はあるらしい。

 俺は、目利きができるというふれこみでキャラバン同士の物々交換に立ち会った。

保存の利かない内臓は、それでも貴重な食料だから割とこちらに有利な取引ができた。

っていっても、ぼったくりじゃない。

ちゃんとした取引の範囲だ。

 どうやら程度の低い山羊皮はハンスの制作じゃなく、こうやって手に入れた物品らしいのも分かった。

それと、ハンスが上手いこと交渉してくれたおかげで、山羊肉と豚肉を大量に交換できた。

 こう考えると、ハンスって凄いよなぁ……

交渉力もあって、統率力もあって、人格者で、星見もできて、皮なめしも上手い、その上強いらしい。

完璧超人だ。

 これでオークじゃなきゃ、どっかで成功してたんだろうな。

 そう、オークってだけで全部駄目らしい。

話に聞くと、オークって種族は人間から見て化け物扱いなんだとか。

しかも、国を作るほどの社会性はなく、ハンスみたいにものを考えられるのは例外中の例外……

ならず者ばかりで、その特性上、忌み嫌われている。

その上、邪神といえるような神様をあがめているらしくて価値観も共有しにくい。

ここまでそろっていて、受け入れてくれる人間がいるわけもない。

 逆にオークの方にとけ込めるかと言えば、ハンスの精神性では耐えられないだろう。

どこか遠くにオークの国があるって噂もあるらしいが、ハンスは行きたがらないだろうな。

 もし彼が人間であれば、王国の騎士として取り立てられてたっておかしくないって言うのに……

何で俺が悔しがってるんだろう。

見た目で差別されてるって感じてるからかな。

なんか変な共感を持っちゃってるのかもしれない。

 そもそも、最初にハンスを見たときに怖いと思ったじゃないか。

差別を許せないと思いながら、俺だってハンスを差別していた。

言えた義理じゃないよな。

 まあ、なんにせよ金だ。

差別なんか金で解決できる。

「どうしたヒロシ、怖い顔して。」

 ハンスがほろ酔い気分で声をかけてきた。

「いや、なんでもないよ。ぼーっとしてただけで……」

 何となく、ごまかすように笑ってみた。

「そうか……」

 ハンスが俺の横に座って空を見上げた。

「ぼーっとしてるって言うが、俺にはお前が苦しんでいるように見える。」

 意表を突かれて俺はあわてる。

日本じゃ、何考えてるか分からないってよく言われてたのに、こっちじゃ考えをずばずば当てられて困る。

「お前は、自由だ。俺たちのことなんか考えなくていい……」

 真剣な顔で俺を見てくる。

 俺は何も言えない。

「酔っぱらってるから、ちゃんと話せてるか自信はないが……

 お前が俺たちのことを気にする必要はない。

 罪悪感なんか持たなくていい。お前には可能性がいっぱいあるんだ。その足枷になる方が、俺は心苦しい。

 ヨハンナのように俺はお前の支えになってやることはできない。

 ロイドのように何かを教えてやることもできない。

 ミリーのように慕うこともできない。

 テリーみたいに友達になることもできない。

 だけどな、ヒロシ………俺はお前を応援するよ。お前のしたいように、思うがままにやってみろ。」

 そんなこと、急に言われたって困る。

 俺のしたい事ってなんだろうな。

「ハンス………ハンスは俺のことを誤解している……

 俺はそんなに若くない。見た目以上に年寄りだよ。夢を語るような年頃じゃない。」

 何で声が震えてるんだろうな。

 情けない。

「そもそも、俺の夢が悪いことだったらどうするんだ?

 悪事に荷担するようなもんじゃないか。」

 ハンスの目を見ることができない。

「それでも構わんさ。

 本当にお前がしたいことなら俺はお前に味方する。」

 軽々しい発言だと思う。

 だけど、本当に味方になってくれるような気もする。

「お前が元の世界でどんな人生を歩んでいたのかは知らない。

 共に過ごした時間はほんの少しだ。だから、騙されているとしたなら俺が悪い。

 悪事の片棒をかついだとしても、それは俺が悪いんだ。

 何をするのか決まってなくたっていいさ。迷いながら進むなら、それに付き合うのも悪くない。

 どんな道を選んだって良いんだ。」

 力強くもないし、酔っぱらって口を滑らせてる感じはする。

 ハンスも考えはまとまってないんだろうな。

「後悔するような道を選ぶかもしれない。」

 俺はどうしても前向きになれない。

「そうかもな……でも、その時は一緒に泣こう……」

 そっか、一緒に泣いてくれるのか……

なんだか、その言葉はしっくり来る。

 しかしまあ、なんだって俺はオークのおっさんと、こんな会話をしてるんだろう。

せめて美少女と、やってみたかったと心の中で悪態をつく。

そうでもしないとなんだか恥ずかしいやら情けないやら……

俺は青春映画とか、苦手なんだよ。

 何この展開。

くそう、どこかで笑ってる悪魔がいるに違いない。

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