8-14 孤児院も楽じゃなさそうだ。
次の日、修道院までアノーに送ってもらい、また流してもらった。
これ便利だなぁ。
運転手雇いたい。
さすがにカールとかに運転させる気にはならないな。
体格とか考えると無茶がある。
だから、雇うなら人間だろうけど。
ううん。
まあ、トーラスやベネットにも運転を覚えてもらうのはありかなぁ。
さて、ジョンに会いに来たわけだが、とりあえず広場に行こう。
修道院の子供たちが避難している場所だと聞いているし、適当な子に聞けばいいだろう。
そう考えてたんだけどなぁ。
なにげなく、広場に入るとそこにはシスター服の女性が子供を鞭で叩いているところに出くわした。
「ジョンはどこにいるのです!吐きなさい!!」
俺は思わず、鞭をふるう手を握ってしまった。
「何をするんです!!」
割と高齢な女性だ。
いや、まさか院長本人じゃないよな。
「これは、失礼しましたシスター。
しかし、あまり暴力はよろしくないかと。」
俺は、一旦手を放して頭を下げる。その間に子供は逃げて行った。
「あなたが、ジョンをたぶらかした男ですか。
何をやらせているか知りませんが、余計なことを。」
なんか気軽に鞭を振ってくるので、思わず取り上げてしまった。
ベネットの剣撃に比べると、全然遅いんだもの。
「な!!返しなさい!!」
えぇ、また振るうだろ。
とはいえ、盗まれたと言われたらかなわない。
素直に返そう。
「いえ、いきなり振られるとどうしても反応してしまいまして。
申し訳ありません。」
そういって、鞭を差し出す。
何度か俺を見た後、やっぱり振るってきた。
当然掴んじゃうよなぁ。
当たればいたんだから嫌だよ。
「神が下す痛みです。
受け入れなさい。」
何言ってんだろう、この人は。
「申し訳ありませんが、私はあなた方の神には仕えておりません。
モーラ様に怒られてしまいます。」
あえて異教徒であると名乗ろう。
「この不信心者が、地獄に落ちろ!!」
グリグリと鞭を引っ張ってるけど、女性の力じゃなぁ。
「おい、ヒロシ。何やってんだよ。」
後ろから不意にジョンから声を掛けられた。
「あー、いや、お前に渡そうと思ってたものがあったんだけど。
どうしたもんだろう?」
ジョンはため息をつく。
「副院長様、すぐ戻りますのでお時間をいただけませんか?」
珍しくジョンが敬語で話す。
それだけの隔意が、この女性とはあるんだろうなぁ。
「どの口が言うのですか!!この恩知らずが!!」
鞭を離し、ジョンを叩こうとする。
まあ、そんな攻撃ジョンにあたるはずもない。
「疲れるだけですよ、副院長様。
いつもみたく人質でも取らないと、当たりませんよ?」
うわ、最低だな。
人質とって、避けられないようにしてるのか。
「あの、鞭、いいんですか?」
シスターが息を切らしたところで、尋ねてみた。
「か、返しなさい。」
息も絶え絶えに鞭を奪い取っていった。
「必ず、院長室に来なさい。
来なかったら、分かっているわね?」
シスターの言葉に分かってますよといった感じで、ジョンは頭を下げた。
それで納得したのか、立ち去ってしまった。
「あの人は、いつもああなのか?」
あれじゃたまったもんじゃない。
「いんや、機嫌のいい時はやさしくしてくれるよ。
機嫌のいい時はね。」
どうやら、その機嫌のいい時って言うのは、ジョンにとっては嫌なことがあるときみたいだな。
「んで、なんだよヒロシ?
渡したいものって、またあのだせえ奴じゃないだろうな?」
うるせえ、そのだせえって言うのやめろ。
「ロゴ入れてやろうかと思ったが、さすがに小さすぎて無理だ。」
1つのインベントリにつないだ、4つのイヤークリップを渡す。
激しく動いても落ちないように、しっかり耳で括りつけられる作りになっている。
「おい、女に送るようなもん寄こすなよ。
気持ちわりぃ。」
いや、一応シンプルなデザインだから男がつけても、それほど違和感ないと思うけどなぁ。
「ちゃんと説明してやるから聞けよ。」
これがホールディングバッグのようなものであること。
4つで1つのインベントリを共有していること。
重さ2tまでであれば、中に入れられること。
一つ一つ説明すると、とても長くなる。
「覚え切れるか!!」
ジョンがキレた。
「だから文字覚えておけって言ってんだよ。
今言ったの、このぺら紙一枚に書いてある内容だからな?」
先ほどまでの説明を書いた紙を渡す。
ジョンが舌打ちをする。
「悪かったな、読めなくてよ。
一応、ノインに文字を教わりに行ってたけど、まだちんぷんかんぷんだ。」
お、偉いじゃん。
「まあ、それが院長には気にくわないみたいだけどな。
新しくできる工房に俺を送り込みたがってるけど、文字を覚えると反抗するとか頭おかしなこと言ってるしよ。
文字なんか覚えなくたって、反抗するっての!!」
新しい工房ってうちが出資する工房の話かなぁ。
孤児の受け皿になるのはうれしいが、そういう変な思想は勘弁願いたい。
「ちなみに、その工房で働くのは嫌なのか?」
ジョンに尋ねてみた。
「いや、手に職付けるのは悪いことだとは思わねえけどさ。
他の子に回してやって欲しいんだよな。
この間、張り紙されたって言ってたじゃん。
あれ張ったシスター、どうやら俺がお気に入りだったらしい。
だもんで、優先して働ける場所を探してくれてたみたいだけど、有難迷惑なんだよなぁ。
もう別の仕事見つけてるって言えないのがつらいわ。」
なるほどなぁ。
「それとなく、味方のシスターに話してみたか?」
ジョンは俺の言葉に渋い顔をする。
「さすがに心配されるだろ?
セレンさんみたいにさ。
いや、でも、話しておくべきか。」
まあ、話しづらいという事もあるか。
「言いにくかったら、俺から説明するよ。
適当な喫茶店とかでさ。」
スポンサーなんだから、それくらいやらせてもらってもいいだろう。
「変に気を使わなくていいよ。
俺が何とかするのが筋なんだから、俺が何とかする。
というか、変に話がこじれたらまずいから、何か相談があれば言うよ。
あー、そうか。
そういう時も文字が分かるといいのか。」
文字の重要性をひしひしと感じているようだ。
広場で暇をつぶしアノーが戻ってくるまで待ち、次は先生のところまで運んでもらう。
しかし、結構買い込んでるな。
なかなか面白いものを買い込んでいる。
美術品や宝石なんてものもあって、薬の類も結構あった。
アノーはアノーで、やっぱり得意な取扱商品があるんだろうな。
「いやー、今までなかなか手が出せなかった彫像とかも買えていいっすね。
繊細な商品だと持ち運ぶだけでも結構気を使いますからヒロシさんのホールディンがバッグは大助かりですよ。」
しかし、こういう嗜好品って言うのは売り先がないと厳しいだろう。
「役立ってくれてるならありがたいです。
目の付け所が違って俺としても参考になりますよ。」
やっぱり人がたくさんいたほうがいいな。
勉強になる。
「ヒロシさんは勉強熱心っすね。
まあ、商人がそういうところに目がいかなくなったらおしまいだから、俺もヒロシさんから学ばせてもらいますよ。」
まあ、仲間でもあるけど、ライバルでもあるもんな。
俺も頑張らないと。
能力のおかげで駄目な俺でもなんとかなっているけど、無くなった時のことも考えて立ち位置を確保しないと。
じゃないと単なるお荷物になってしまう。
「そろそろつきますよ。
どうします?
俺の仕入れは終わりなんで待っておきましょうか?」
どうしようか。
待っててもらうか。
「すいませんがよろしくお願いします。
よければどうぞ。」
そう言って、俺は缶コーヒーとドーナツを取り出す。
「え?いいんすか?
いただいます。」
ちょっと缶コーヒーには戸惑い気味なので、蓋を開けて渡す。
「コーヒーがこんな形で飲めるなんてちょっとびっくりっすね。」
臭いを嗅いで、それがコーヒーであることは認識できたみたいだ。
そのうち缶詰も開発しないとな。
「よかったら、感想ください。
じゃあ、行ってきます。」
そう言って俺は、車を降りた。
いつものように先生の部屋に通されていつもの如く話が進む。
最初は呪文を習うだけのつもりだったけど、思わず話にのめりこんでしまった。
先生の話題は豊富で、それでいて俺が分からないような話は出てこない。
どれだけ話の引き出しがあるのだろう。
「なるほど、レイナちゃんがそんなことをね。
確かに回路としては単純だ。
引き出せる電圧は、ここの記述を書き換えるだけ調節できるよ。
まあ、幅が広いからちょっとした工夫は必要かもしれない。
んー、電圧の測り方は抵抗を段階的に並べていけばいい気はするけど。」
そういいながら、先生は図面を書いていく。
「一応テスターは買えるんですが、やっぱりこちらの技術で作れる方がいいですよね。」
俺の言葉に先生も頷く。
「そうだね。
中身を知らずに使っていると手痛いしっぺ返しを食らうから。
とはいえ、何もかもを知っているつもりで、意外と簡単なことほど知らないことも多いよ。
しかし、モーターか。
磁力と電力の関係性は知っていたけど、こんな単純な構造でこんなことができるとはね。」
先生は、そういいながら分解した扇風機を眺める。
一応、これは俺が先生に提供したものだ。
電気を利用すればこういうことができるという事例としては便利だからだ。
ちなみに、分解は先生の呪文で一発だった。
しかし、そう考えると呪文って謎だよな。
俺は全然わからずに使ってるから、先生の言葉通りに手痛いしっぺ返しを食らいそうだ。
一応、それなりに理論を学んでいるけど、使い方は分かれど原理が分からない。
丁度プログラムを勉強している時のようだ。
and、not、or、それらの回路は分かる。
プログラムの構文は分かる。
でも、その間がない。
いや、考えてみるともっとひどいか。
呪文回路の原理が全く分かってないからな。
分かるようになる時は来るんだろうか?
無理そうだから、考えるのやめよう。
「ちなみに、秘石一つでどれくらいの電力を引き出せるんでしょう?」
そう尋ねると、先生は本を引っ張り出してきた。
「なかなか科学の知識は身につかなくてね。
カナエちゃんの本に頼りきりだよ。」
そういいながら、先生は計算していく。
「この大きさなら、おおよそこんなものかな?」
ワット毎時の数値が書かれていた。
すごいな。
しかし、この電力量ってどのくらいのものなのだろう。
とりあえず、電力量を測るとき、一般家庭で使われる電気量を年間や1日単位で引っ張ってくるのを思い出して調べてい見た。
ネットって、こういう時便利だよなぁ。
そこからすると、一般家庭の年間消費量に匹敵していた。
まじか。
2万円で年間消費量を賄えるとかとんでもないぞ?
凄いエネルギー量だ。
「まあ、これにばかり使われるようになったらあっという間に枯渇してしまうだろうけどね。」
俺は、改めて自分の馬鹿さ加減に気づかされた。
そうだよ。
前も思っていたじゃないか。
秘石自体が希少品なんだから、電力発電にバカスカ使っていたら、マジックアイテムの作成に使う分まで消費してしまう。
そうなれば、秘石自体が高騰してしまうはずだ。
そうそううまくはいかないか。
いや、でも待てよ。
モーターは電力で回るけど、外部の力を加えれば電力が発生する。
逆もできるのでは?
「何か面白いことを思いついたみたいだね、ヒロシ君。」
先生はにやりと笑う。
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