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8-12 余計なお世話かもしれないけど。

 いつもなら何かしらの音がすれば玄関に出てくるはずだけど、今日はレイナが出てこない。

 何かあったんだろうか?

「おーい!こっちこっち。」

 屋上からレイナが顔をのぞかせる。

「鍵空いてるから、入ってきて。」

 不用心だな。

 いや、何か呪文で仕掛けてるかな。

 《警戒》の呪文を仕掛けておけば、割と安心かもしれない。

 ともかくお邪魔しよう。

「失礼します。」

 むわっとむせ返る様な匂いがする。

 窓くらい開けろよ。

「あつー」

 レイナが汗だくになりながら、屋上から下りてくる。

 そりゃ窓を開けてないからなぁ。

「とりあえず、しょうがない窓開けようか。」

 屋上で何やってたんだろうか?

 まあ、室内よりか屋上の方が風が通って涼しいかもしれない。

「屋上で何やってたんですか?」

 窓を開けて、網戸を閉める。

「んー、手回しが面倒だから充電を直接できないかなぁって。

 バッテリーだっけ?

 あれの仕組みと風車の仕組みを調べてた。」

 なるほど。

 いや、でも手回しはジョシュにやらせてたのでは?

「弟子に重労働を科すのはやめたんですか?」

 むっとしてレイナが俺を睨んでくる。

「なんだいその言い方。温厚な私だって怒るよ。」

 温厚。

 いや、うん、まあ温厚かな。

 まあ、とりあえず俺たちも座らせてもらおう。

 ベネットと一緒にソファに腰かける。

「大体君、ジョシュに肩入れしすぎ。

 あの子のことなんか、別に私どうとも思ってないし。

 ただ、その。

 案外自分でやってみると面倒くさいなって思っただけだから。」

 なんで自分でやろうと思ったんですかねぇ。

 まあ、いいか。

「とりあえず、調べるのはいいですけど感電だけは注意してくださいね。

 それとバッテリーに繋がるコンセントがあるので、それ用の充電器ありますよ?」

 定格100Vで出力されるので普通の家庭用充電器で済む話だ。

「あー、そうなんだ。

 それならよかった。

 ちなみにどれくらい?」

 2000円くらいで買えるけど、いくらで売ろうかな。

「銀貨4枚でどうですか?」

 そういうと即座に金貨が差し出される。

「案外安いね。

 もっとするのかと思ったよ。」

 そういうレイナにおつりの銀貨6枚を渡す。

「しかし、暑いねぇ。

 窓を開ければ、涼しくなるかと思ったらそうでもないし。」

 レイナはソファに腰かけて、足をぶらぶらさせる。

「ヒロシ、扇風機は?」

 あぁ、うん。

 ここにはバッテリーからつないだコンセントもあるし、使えるか。

 俺は、扇風機を取り出して動かし始めた。

「お、いいねぇ。

 呪文で風を起こしてもいいけど、そういう道具があればもっと便利だよ。」

 部屋の匂いが新鮮な森の匂いに置き換わる。

「一応これも電気で動くんで、コンセント使わないとですけどね。」

 欲しいと思われるかもしれないから一応言っておこう。

 マジックアイテムでそういうのがありそうな気もするし、混同されると困る。

「あー、そうなんだ。

 じゃあ、バッテリーもたなくなるかもねぇ。」

 そこまで電気食うかなぁ。

 とはいえ、風力発電じゃ心もとないか。

「ちなみにさ。

 秘石で電気起こせないか試行錯誤してたんだけど、いまいち電圧が調整できないんだよね。」

 俺は思わず眉を動かしてしまった。

「出来るんですかそんなこと?」

 今まで乾電池をどうしようか悩んでいたが、それを解決できるならぜひ知りたい。

「え?あ、えっと……

 なにいきなり商人モードになるかな。

 怖いんだけど。」

 レイナに若干引かれてしまったが、もし秘石を電源にできるなら色々な家電製品を売りに出すことも可能だろう。

 ちょっと真面目にならざるを得ない。

「まあ、簡単に行っちゃえば何かの容器に秘石と水を入れて、魔法回路を書いた端子を2つ付ければ完成なんだよ。

 すごく単純。

 魔法が使えなくたって、端子は作れるし、誰にでもできるよ?」

 こともなげに言ってくれるが、それってめちゃくちゃすごいからな。

 誰でも電気が使い放題じゃないか。

 いや、まあ、秘石自体が希少品という問題はあるけど。

 どれくらい発電できるのかが気になる。

「一応ね、おばあ様から科学のイロハは教えてもらったけど、電圧を測る機械がないしどのくらい持つのか分からないし、使い物にならないんだよね。

 下手すると人死ぬし。」

 まあ、危険なのはわかる。

 でも、電圧計くらいは準備できるんだよなぁ。

「そのアイディア売ってもらえないですか?」

 レイナは胡散臭いものを見る目で見てくる。

「いや、これくらい誰でもできるし。

 売るほどのものじゃないよ。

 まあ、完成品が出来たら、ただで頂戴。

 それでいいよ。」

 ちょっとその言いざまに憤慨してしまったが、電気を利用できるものってマジックアイテムでも再現できなくはないのか。

 だから、大したことがないって気持ちになるのかもしれない。

 実際の発電量も気になるところだ。

「分かりました。

 もし、これで権益が発生したら、ご実家の方でよろしく扱ってください。

 それまでは俺が預かるという事で。」

 レイナは困惑顔だ。

「ねえ、ヒロシ、そんなに電気が使えるのって重要なの?」

 ベネットが脇を突いて耳打ちしてくる。

 正直分からないんだよなぁ。

「えーっと、まあ、うん。

 さっきの扇風機もそうだけど、俺の世界では電気がないと始まらないから。

 エアコンって言って、空気を温めたり冷やしたりする機械も電気だし。

 家にある照明も電気だ。

 レイナさんに渡してるタブレットも電気が必要だし、トランシーバーだって電気を使ってる。

 他にも暗視ゴーグルやIHコンロも。」

 まあ、それらしいマジックアイテムがいくつか思いつく。

 代用が可能と言えば可能か。

 後は、それに勝てるだけのコストパフォーマンスがあるかどうかだろう。

「まあ、私たちの呪文と同じだよね。

 それが一握りの人間が使えるかどうかの差、だよね。」

 おばあさまも言っていたとレイナはつぶやく。

「俺もいつ力を失うか分かりませんからね。

 こっちの世界でやりくりできるなら、やりくりしたいんですよ。」

 俺の言葉にレイナは頷く。

「あぁ、教会関連ね。

 ”魔王への鉄槌”だったかな。

 あそこしつこいもんね。」

 セレンのことを話しておくべきかどうか、ベネットと顔を見合わせてしまう。

「何、それらしい人がいるの?

 一応注意したいから、聞いておきたいんだけど。」

 レイナに内緒にしておくのは難しいか。

 かいつまんで話しておこう。

「なに?

 正体ばらしちゃったの?

 馬鹿なの?死ぬの?」

 何もそこまで言わんでもええやろがい。

 レイナの反応は、まあ、分からなくもないが。

「今まで引っかからなかったのがカナエさんだけだったみたいで、割とガバガバみたいですね。

 でも、やることはえげつない。

 正直、切り捨てることが出来なくて、俺も難儀してます。」

 そういうと、レイナはおばあさまは身持ち固かったからなぁ、と呟いた。

「とりあえず、急に世界征服とか、国を乗っ取るとかやらなければ平気だと思うよ。

 いつまでも、純潔を守っているようだと警戒されるだろうけど。

 ”楔となる娘”って言うのは、そんなに簡単に作れるものじゃないし。」

 ちょっと安心した。

 すぐに切り替えて、セレンは処分なんてやられたらたまったもんじゃない。

「でも、その子ポンコツ過ぎない?

 いきなり消されるかもしれないから、全部ゲロっちゃうって。

 意味がよく分からない。」

 別に命乞いされたわけではないんだよなぁ。

「ちょっとニュアンスがちゃんと伝わってるか心配になるんですけど。

 まあ、ポンコツっぽいのは同意しますけどね。」

 きっと根が善良すぎるんだろう。

 そこから行くと、育成した人間の問題だよなぁ。

「なるほど、ポンコツなところが可愛げがあるという事ね。

 本人はいい子なのかもしれないけど、それを意図して寄こしてきてるとしたらちょっと怖いよね。」

 レイナの言うとおり、計算だとしたら厄介だ。

 でも、それならそれでもう少しアプローチがあってもよさそうなんだよなぁ。

「まあ、大した脅威に見られてない可能性もありますけどね。」

 俺の言葉にレイナは少し悩んだ様子を見せる。

「例の会議でお母様にあったでしょ?

 何か言われた?」

 例の会議とは紙幣についての会議だろうか。

 あの時は俺は完全に蚊帳の外だ。

 一応技術的な説明をする係として、紙幣の偽造防止のための透かしをカバーする素材を紹介したに過ぎない。

「いえ、特に何も。」

 そういうとレイナの表情が曇る。

「お母様が何を言わないとしたなら、たぶん王国も注視していると思うよ。

 黙って、君が何をするのか確認していたんじゃないかな?

 今はまだ害がないと判断されてるだろうけど、今後も目立つようなことは避けた方がいいかも。

 少なくとも君本人が思うよりも注目されてると考えていい。

 まあ、どうなるか分からないけどね。

 一応私の方からは、お母様に洗いざらいしゃべってるから、少なくとも私に渡したものは知られていると思ってね。」

 怖いことをおっしゃる。

 と言っても、やましいことをしているわけでもないのだから、何も恐れる必要なんかないんだけども。

「じゃあ、変な野心はないことは伝えておいてくださいね?

 俺は、忠実な臣民ですよ。」

 俺の言葉にレイナは肩をすくめる。

「別に君に野心があるかどうかを判断するのは私じゃないし。

 それに君に野心があろうとなかろうと、君を利用しようとする人間は現れるよ。

 そこは分かってるんでしょう?

 大人しいふりして、結構君もえげつないし。」

 腹芸ができる人間じゃないんだけどね。

「買いかぶりすぎですよ。

 正直、気づかずに結構利用されてるんじゃないかとも思ってます。

 なんにせよ、俺を連れてきた神様が神様だから利用されないように頑張ったところで無駄だろうなとも思ってますから。

 正直、生きるのに必死ですよ。」

 そういうと、レイナは何か本を取り出してきた。

「この本じゃ、君何でもお見通しみたいなキャラなのにね。」

 例の俺とベネットをモチーフとしたロマンス小説だ。

 実は俺も読んでいる。

 中身は、ベネットが敵討ちで相打ちになったところを俺が黒魔術で復活させたことになっていた。

 そこに正義に燃えた騎士の息子がベネットを取り戻すべく、俺に挑みかかってくるという。

 どこまで俺を悪人にしたて上げれば気が済むんだ。

 いや、まあ言ったよ。

 軟弱な君に倒されるつもりはないとかさ。

 でも、そいつが襲ったのはベネットの方だ。

「おやおや、内容は二人とも知ってるみたいだねぇ。」

 にやにや笑いやがって。

「正直、私はヒロシのことをあんなにきつい態度取ったりしないのに、小説の中の私はヒロシのことが嫌いなのかな?」

 どうだろう?

 いわゆるツンデレっぽい感じもした。

「まあ、あれだよ。嫌いだと言っときながら、実は大好きってやつだね。

 そこからすると、少年騎士は報われない感じだけど、それがまたいいねぇ。」

 ぺらぺらとめくりながら、レイナは感想を言う。

 お前は、現実の報われない少年に目を向けろ。

「まあ、とりあえず授業をそろそろするから、ヒロシ君は早めにお仕事行きなよ?

 余計なこと言いそうだし。」

 しっしっ、と手を払われてしまった。

「じゃあ、明後日にはまた迎えに来るから。

 それまではいい子でいるんだよ?」

 そういいながら、俺はレイナに見せつけるようにベネットとキスをする。

「こんな場面ありましたね。

 確か。」

 頬を染めるレイナをみて、俺はからかうように笑う。

 そして驚いたような顔をしてるベネットの頭を撫でてあげる。

 驚かせてごめん。

「まあ、そういう本に興味があるってことは、まだ恋愛に興味があるって事でしょう?

 素直になった方がいいですよ?」

 そういいながら逃げるように俺は、外へ向かう。

「うるさい!!リア充爆発しろ!!」

 俺は、レイナの罵倒を背に車を走らせ始めた。

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