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8-9 人が命懸けで取ってきたものをちょろまかそうとはいい度胸だ。

こういう時に鑑定の能力というのはとてもありがたいものですね。

なので、どう考えてもチートです。

 朝食を済ませ、割り当てられた場所に行き、スタンクからいつものように接客がかかりの子を雇う。

 今日は本当に何もなかった。

 つつがなく、日が暮れてしまう。

 いや、何かトラブルが起こって欲しいわけじゃない。

 ジョンたちがまだ出てこない。

 予定としては、昼くらいには出てくるはずなんだけど。

 一応念のために門に行き、砦の衛兵さんに話を聞くがまだジョンたちが出てきたという話は聞かなかった。

 丁度その時、遺体が発見されたという事で布をかぶされた担架が運ばれてくる。

 背格好からして、ジョンやノインではないのは分かる。

 顔を見れば、ベーゼックでもない。

 少し安堵するが、嫌な気持ちになるのは仕方ないだろう。

 まさか、ずっと門で張り込むわけにもいかない。

 とりあえず、今日はいったんコンテナハウスで過ごそう。

 

 そういえば、今日は二人とも似たような服装だ。

 ジーンズにサマーセーター、ベネットが生成りのセーターなのに対して、セレンは緑と黒の市松模様。

 似た服なのに、印象は全然違う。

 多分、今日帰るつもりだったからジーンズにしてたんだろうな。

「大丈夫でしょうか?」

 セレンが夕食に出したサンドイッチを口にしながら、ぼそりと呟く。

 俺も落ち着かない。

「ヒロシ、具体的にどうするか考えた方がいいと思う。」

 ベネットは冷静な様子だ。

 確かに焦っても仕方ないよな。

 こういう時、やっぱりベネットは頼りになる。

「明日の昼までに戻ってこなかったら、救助に向かう。

 一応、地下1階から2階までってジョンには言っておいたから、もしそこにいないようであれば別の救助要請を出す。

 でも、まだ騒ぐような遅れじゃないし持たせている食料の量から考えれば3日くらいは何とかできるはずだ。

 というか、俺、慌てすぎかもな。

 一日二日のずれはおかしくないって話は聞いてるんだからゆっくり待とう。

「明日は、店を出さずに門の中で待つ、という事でいいかな?」

 ベネットはやさしく微笑む。

「じゃあ、救助に行くときには私も付いていくから。

 きっと大丈夫だよ。」

 初めてのことだらけだから、本当に何が正解か分からない。

 でも、ベネットが居てくれて本当によかった。

 一人だったら、もっと変なことしてただろうな。

「私も、お手伝いさせてもらってもいいですか?」

 セレンは遠慮がちに言ってくる。

 いや、もちろん、来てもらえれば非常に助かる。

 もちろん、そんな事態にならないのが一番だけど。

「その時はよろしくお願いします。

 まあ、案外笑って出てくるかもしれないですけどね。」

 もしもの時は、スタンクにも依頼を出すか。

 とりあえず、明日に備えよう。

 

 予定していた時間を過ぎてしまったので、今日は二人とも昨日と同じ格好だ。

 予定ぎりぎりに服を用意しているわけでもないだろうけど、これから滞在期間が延びることも考慮してるんだろうな。

 ベネットは単語帳に目を落として、黙って時間を過ごしている。

 セレンは経典を読み、神様に祈りを捧げている。

 俺は落ち着かなくて、うろちょろしてしまう。

 祠の奥から話し声が聞こえてくる。

 割と甲高い少年たちの笑い声だ。

「お!ヒロシ!!

 ごめんごめん、ちょっと遅れちまった!!

 でも大漁だぜ!!」

 割と小ぶりの宝箱をもって、ジョンが駆け寄ってくる。

「まあ、確かに大漁だよ。

 でも、正直疲れたよ。」

 ベーゼックはお疲れの様子で、地面にへたり込んでしまう。

 ユウとノインは別の宝箱を左右から持って運んできた。

 どれだけの量を運んでくるんだ。

 これは、次回から専用インベントリを渡した方がいいな。

「なんだよ、ヒロシ泣いてんのか?

 無事に帰ってきたんだから、喜べよ。」

 いや、まあ確かにな。

「悪い、泣く場面じゃないよな。

 おかえり。」

 そういうと、セレンも心配してたのかジョンに抱き着いた。

「おかえり。

 ごめん、私も心配しちゃってた。

 無事でよかった。」

 ぎゅっと抱きしめて、ジョンの頭を撫でまわす。

「いや、セレンさん?

 なんで?」

 考えてみれば、ジョンとの接点はあまりない。

 来た時に挨拶をしたくらいだろう。

 でも、セレンは結構ジョンに思い入れがあったようだ。

「セレンさんは、もともとシスターだから、ジョンのこと気にかけてたんだよ。

 最初は、スカベンジャーになるのにも、大反対だったんだぞ?」

 どうやら、ジョンもセレンのことを理解したらしい。

「そっか、その。

 ありがとう?」

 困惑気味にジョンはセレンに礼を述べた。

「ずるいよ。

 もう、私のことはほったらかしかい?」

 ベーゼックは羨ましいのか、突っ伏したまま抗議し始めた。

「むしろあなたは、なんでそんなに無様なんです?

 ちょっとは大人らしくできないんですか?

 子供たちが立ってるのに、しゃんとしなさい!!」

 なんか、最初の接し方がまずかったのか、セレンはベーゼックに厳しい。

「うへぇ。勘弁してくれよ。

 せっかく、修道院から離れたのに、こっちでもお説教は喰らいたくない。」

 ベーゼックはたまらず俺の後ろに隠れる。

 そんなやり取りが面白かったのか、ノインとユウも笑っていた。

 まあ、なんにせよみんな元気そうで何よりだ。

 

 しかしまあ、商人とはがめついものだ。

 ジョンたちの戦利品の買取を依頼したら、誤魔化しやら難癖やらのオンパレードでうんざりした。

 俺が正面に立ってなきゃもっと侮ってきてたろうな。

「こっちの目だって節穴じゃない。

 なんで+1の斧が中古の斧みたいな扱いになるんですか?

 駆け出しの魔術師でもわかる理屈だ。

 しかも、見た目の品質だって中古には見えない。

 むしろそっちの方が節穴なんじゃないですか?」

 俺はさすがに腹が立って、居丈高にふるまってしまった。

 買い取り業者は指定されているので、俺が買い取ったんじゃ税金が高い。

 でも、魔法の品物を一般の装備品扱いされるくらいなら、そっちの方がましだ。

「じゃ、じゃあ、他で買い取ってもらうんだな。

 一応出る時にチェック受けてるんだから、税を逃れようとしても無駄だぞ?」

 ふざけやがって。

 誰にでもこんなことをするのか?

「おい、ヒロシさん。

 何をそんなに怒ってるんだい?」

 後ろから声を掛けられる。

 確か毒を飲んで苦しんでたやつだったかな。

「ふざけたこと抜かしてるんで腹を立ててるだけですよ。

 そんな値付をするなんて、あんた商売人として最低だ!!」

 思わず叫んでしまった。

「ほう、そりゃ聞き捨てならねえなぁ。

 前からおかしいと思ってたんだ。

 妙に買取が安い気がしてたんだが、まさかお前、俺らもだましてねえよなぁ?」

 なんか、ぞろぞろとスカベンジャーが集まってきてる。

「い、いや、まさかそんな。

 単なる手違いですよ。

 そ、そうですよね?」

 今更こっちに助け船を求めるのか。

 ふざけてんなぁ。

「手違いだって言うんなら、もう一度精査してもらいましょうか?

 アライアス伯の許しがあるからって調子に乗ってると、あとで泣きを見ますよ?」

 俺はにっこりと笑う。

 悲鳴を上げて、買取商人は再計算を始めた。

 本来なら多少の誤差は許してたんだが、これは許しがたい。

 出してきた見積もりに、1ダール単位でケチをつけてやった。

「俺の見立てに文句があるなら言ってください。

 理由付きで反論させてもらいますから。」

 結局俺の言い値で買い取らせた。

 まあ、別にこっちが吹っ掛けたわけではない。

 適正な価格であるはずだ。

 これで儲けが出ないなんて言ってくるなら、商売やめた方がいい。

「ヒロシさん、俺らの買取にも付き合ってくれねえか?」

 どうやら不信感が募っていたらしい。

 次々とスカベンジャーがやってきては、買取が安すぎて売ってなかった品物を持ってくる。

 俺はその都度、”鑑定”を行い適正な買取価格を提示していった。

 やってくうちに分かったことだけど、この買取商人、ずぶの素人だ。

 碌な鑑定もせずに適当に品物を見て、適当に値段を付けてる。

 よくもまあ、それでやってられたもんだな。

 元々はどんな商売をしていたかは知らないけど、せめて呪文を使える人間か鑑定のためのマジックアイテムくらい用意しとけよ。

 呆れる。

 

 合計で12万ダールの儲けだ。

 4人で分けるから、一人3万ダール。

 初回でこれほど稼げるのは珍しい。

 すっかり忘れていたが、こういう時は店を借り上げて祝いの席を立てないとな。

 1日余分にかかりそうだ。

「ヒロシ、やるじゃん。」

 買取を済ませて外に出ると、ジョンが脇を突いてきた。

「次からは、お前がやるんだからな。」

 いつでも俺がいるわけじゃない。

 ジョンがこういう交渉事をこなさないといけないんだ。

「任せろよ。

 ユウもいるし、大体お前の言ってた理屈は分かったから。

 まあ、上前跳ねようとしてくる奴は大体顔見りゃわかるけどな。」

 偉そうに。

 まあ、ともかく金を渡そう。

「ほら、ちゃんと分配してくれ。」

 金貨ばっかりなので、結構重い。

「お、おも。」

 ジョンの筋力じゃ荷が勝ち過ぎるか。

 まあ、金の重みを身をもって知るにはいい機会だよな。

「ヒロシ、とりあえずどこか店に入らない?

 もうくたくただよ。」

 そうだよな。ベーゼックの言う事はもっともだ。

 若い3人はダンジョン探索の疲れを見せてはいないけれど、いい歳のベーゼックは大変だっただろう。

 さっさと店を見つけないと。

 でも、もう一晩過ごすのか。

 ベネットとセレンに申し訳ないな。

「ヒロシ、いいお店見つけてきたから行きましょう?」

 どこに行っていたのか、ベネットが駆け寄ってきて引っ張られてしまう。

「ちゃんとお酒以外も出してくれるお店だから、安心してください。」

 セレンも、俺の背中を押してくる。

 いや、主役は俺じゃないから。

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