8-7 ダンジョン周りもいろいろ忙しい。
ダンジョン周りのお仕事って結構多い気がします。
当然、それに伴うトラブルも。
店を出す許可を貰いに行ったら、排水の処理と給水塔に水を追加して欲しいという依頼が来た。
どうやらユウに水魔法のレクチャーをしていたのが伝わったらしい。
もちろん、ただで請け負うわけもない。
それなりのお値段が戴けるという事なので早速処理を行う。
まず、排水は汚物を沈殿させ、別の水槽に移すという手順が踏まれる。
こっちに移した水は洗濯などに使うそうだ。
まあ、洗濯って結構水使うからな。
もちろん、排水自体は汚れを完全に落としているから臭いや味がしたりはしないけど、やっぱり心理的に飲み水にはしたくないよね。
次に給水塔の水を追加した。
結構カツカツだったらしく、体を拭くのにも苦労したらしい。
一応、樽で水を持ってきてもらえるらしいんだけど、川の水だ。
むしろすでに入っている水の方が臭いがする。
ここに水を追加したくないなぁ。
「どうします?いったん水を抜いて掃除します?」
担当の衛兵さんはお願いできるかという事だったので、追加料金を貰って掃除をした。
門の前には負傷者が結構いたので、俺が掃除をしている間にベネットとセレンは救護室でお仕事となってしまった。
いや、これはこれで儲かるんだけども。
いいのかなと思わなくもない。
給水塔を、塩素付けにした後ブラシで綺麗にして泡立てた水で綺麗に濯ぎ、水をたっぷり注いでいく。
割とレベルが上がってるので、作り出せる水の分量も多い。
これで一安心だろう。
「魔術師を雇用する予定とか無いんですか?」
少し疑問に思ったので衛兵さんに聞いてみた。
「そこまでの予算はないよ。
なに煮沸して使えば飲んでも腹を下さんだろ。
まあ、それ言うと排水を処理してもらった水の方が綺麗にも見えるがな。
魔法が誰にでも使えたらよかったのに……」
まあ、気持ちは分かる。
そこら辺が、この世界が技術発展しない理由の一つなんだろうな。
一握りの才能だけが世界を動かしてしまうと、それ以外のところがおろそかになってしまう。
もちろん、才能がある人が伸びるようにしなければ新しいものは生まれないけど、そこはやっぱりバランスだよな。
まあ、こんなことで世の中のことを語ろうとすること自体おこがましいか。
「お待たせしました。
行きましょうか?」
頼まれた仕事が終わったので、二人を迎えに行く。
ベネットは眼鏡に髪を後ろで結んでいる。
白いワンピースに、胸元や腰のあたりに黒いレースがあしらってある。
ひざ下までのスカートだからちょっと歩きにくくないかな。
あとちょっと血や汗で汚れてしまっているのが気になる。
やはり白は厳しいなぁ。
対照的にセレンの緑色のスカートやブラウスは汚れが目立ちにくい。
茶色いレースで飾られているのでアクセント的にもおかしな感じはしない。
足元は、二人ともオーソドックスなローファーを履いている。
いや、ローファーって言葉は20世紀に入ってからできたんだっけ?
まあ、それ似た靴だ。
それぞれ飾りや刻印が違うからそこで個性を出すんだろうな。
ただ、汚れが目立つ。
やっぱりむき出しの地面だと足元汚れるのは避けようがないよね。
あぁ、そういえばこういう場所でハイヒールを履くんだったか。
うーん、それもちょっとなぁ。
「今度は靴?
もう汚れてるから、あんまり見てほしくないなぁ。」
ベネットが恥ずかしそうに足を引いてしまう。
「ごめん、気になって。
まあ、地面がこれじゃしょうがないよね。」
考えてみれば、俺のスニーカーもどろどろだ。
一応水で汚れを落としたりしてるけど、そろそろ買い換えないとなぁ。
「でも、俺そんなにじろじろ見てるかな?」
ちょっと注意しないと。
気付かれてたら、ちょっと失礼かもしれない。
「んー、どうかなぁ。
私は、ヒロシの見ているものを追っちゃったりするから。」
ベネットは恥ずかしそうにそっぽを向く。
「私はベネットさんに言われるまで気にしてませんでした。
そんなところ見てるんだって、驚いたくらいですよ。」
あー、それならいいんだけど。
なんだろう、覗き魔みたいだからやっぱり注目するのは控えよう。
いや、透視や盗聴しているのに今更だろうという気もしなくもないが。
割り当てられた場所に行くとスタンクがすでにやってきてた。
「今日はどうかね?
昨日の子たちなら、暇だが。」
うん、とりあえずお願いしよう。
落ち着くといったって人手があって困ることはない。
赤字の懸念はないし。
「お願いします。
ただ、昼食の当てがないので、出来ればお昼も買ってきてもらえないですかね?」
まさか、全部なくなるとは予測してないのでお願いできるなら頼みたい。
「じゃあ、追加で銀貨5枚だ。
どうだい?」
まあ、そのくらいは良いだろう。
仲介を頼むんだから、割高でも仕方がない。
「お願いします。」
とりあえず、何が来ても文句は言うまい。
目の回る忙しさではないけれど、順調に売り上げは伸びていく。
錬金術アイテムの売れ行きも伸びていて、ポーションなんかも売れるから儲けは結構でかい。
頼んだお昼は、ハムだけのサンドイッチと若干粗末だけど、量はそこそこあるから納得しよう。
マスタードの入ったバターがアクセントになっていて、不味くはない。
「ちょっと固いのが難点ですね。パンってこんなに固く焼けるんだ。」
セレンが素直な感想を漏らしてる。
「おい!!お前!!」
いきなりけんか腰の客が来る。
「お前のところで買ったパンで仲間が腹を壊したぞ!!どうしてくれんだ!!」
は?
いつの話だ?
昨日か?
「あの、お客様、いつのお話でしょう?」
そう尋ねると、男は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「さっきだよ!!さっき!!とぼけてんのか!!」
いや、誰から買ったんだよ。
「あいにく、本日は品物を切らしてまして。
軽食の販売は行ってないんですが?」
そういうと一瞬黙った。
こいつ。
どこの差し金だ。
「じゃ、じゃあ昨日のだ!!昨日の飯が当たったんだ!!」
それ言ったら、ここら辺の店、全体に迷惑がかかるぞ。
場所入れ替わってんだから、どこの軽食で当たったんだか分からなくなる。
「お客様、お腹を壊した方はどちらにいらっしゃいますか?
治療をさせていただきたいんですが?」
ベネットがにこやかに笑う。
「そ、そんなことできるのかよ。」
そういう男にベネットがにっこり笑う。
「もちろんです。
ウルズ様が私に力を貸し与えてくれてるのですから。
ですから、早く連れてきなさい。」
最後はどすの利いた声になってた。
ひぇっと情けない声を上げて、男が脱兎のごとく逃げ出した。
まあ、実際病気でもベネットの能力で《病気治療》が1日2回まで使える。
わざわざ腹下しに使うものではないけど、大抵の病は直すことは可能だ。
そういう意味で、ベネットの存在というのはでかいよな。
「ありがとう。
まさか、あんなべたな因縁の付け方をしてくるとはね。」
周りもいつものことみたいな反応をしている。
「戦場でもたまにいるわ。
ついてくる商人に因縁をつけて、金を巻き上げようとするの。
いろんな傭兵団が入り混じるから、ああいう輩も混じるし。
一応、そういうのが出ないか監視するのもお仕事だったりしたのよね。」
どこにでもいるもんなんだなぁ。
「まあ、こういうところだと実際に食当たりとかはありそうですよね。
これは、大丈夫かな。」
セレンが少し心配そうに言う。
やめてくれ、俺もさっきそれと同じもの食べてるんだから。
「そういえば、信仰系の呪文に食品を清める呪文ってなかったっけ?」
ベネットがセレンの方を見る。
「忘れてました。」
セレンは目をそらす。
いや、そういえば俺も忘れてた。
そんな呪文もあったなぁ。
ゲームの中じゃ腐った食べ物を食べなくちゃいけない状況なんて、面倒くさくて出さなかったけど。
あれ、なんで用意されてたんだろうか?
「まあ、いいけど。
お腹下したら言ってね。
本当に治してあげるから。」
そういいながら、ベネットは子供たちの頭を撫でる。
あぁ、そういえば頭をなでると嫌がるかと思って控えてたけど、ベネットはよくやるし問題ないみたいだな。
「そういえば、マーナはどうしたの?さっきまで、そこにいたわよね?」
あれ?
本当だ。
どこに行ったんだろうか?
「ごめん、ちょっと探してきていい?」
そういうと、セレンはサンドイッチを口に詰め込んで、戻ってきてくれる。
「いっへらっさい。私が戻りますんで。」
物を口に含みながらしゃべるのははしたないですよ、セレンさん。
まあ、ありがたいからとっとと探しに行こう。
参った、どこ行ったんだろうか?
店の間とかではなさそうなので、森に入ってマーナの名前を呼んだ。
すぐにワンっというか、キャンっというような声が聞こえる。
「なんだ、こんなところにいたのか。」
どうやら獲物を捕らえたらしく、自慢げに俺に見せてくる。
こういう時どうするべきだっけ。
確か食べたふりをした後、食べきるまで見守るんだったかな。
とりあえず、見よう見まねでやってみよう。
うーん、野鳥を捕まえるとか、どれだけ身体能力が優れてるんだ。
とりあえず、毛をむしるようにして食べたふりをする。
そのあと、マーナに獲物を渡す。
しかし、うーん。
大丈夫かなぁ。
今までドックフードしか食べさせてこなかったんだけども。
いや、そういえば畑に連れて行ったときは兎とか狩ってたな。
じゃあ、平気か。
とりあえず、リードを付けて戻ろう。
ほったらかしにすると、どこまで行くか分からないしな。
マーナは俺に素直に従ってついてくる。
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