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1-1 オークのおっさんに拾われました。

不慣れなので、色々いじるかもしれません。

 気がつけば俺は見知らぬ土地に立っていた。

訳が分からない。

服装は、部屋で過ごしていたジャージ一式だけで靴も履いていない。

周りは荒涼とした平地だ。

地平線が見える。

「あ……な……なん……」

混乱しかできない。

いくら何でも突然すぎる。

それは心の中では望んでいた。

別の世界で人生をやり直したいだとか、くだらない妄想に耽っていた。

だが、突然見も知らぬ景色が目の前に広がったらそりゃ混乱しかしないだろう。

いや、この思考も混乱している。

そもそもこの現象がフィクションにあるようなシチュエーションとも限らない。

夢を見ているだけかもしれない。

何度かそういう夢を見た記憶もある。

起きよう。

きっと、馬鹿げた夢に違いない。

手を動かして、体を捻ってみたりつねってみたり。

 不意に誰かが近くにいることに気づく。

思いっきり驚いて俺は振り向いた。

そこに立っているのは、豚の頭を持った化け物だ。

挿絵(By みてみん)

「ひっ!!」

 槍を片手に持ち俺を見下ろす大男に俺は恐怖し、地面にへたり込んだ。

ファンタジーでは定番のオークという奴だろうが、間近に迫る質感に俺は恐怖した。

ぎゅっと目を閉じて、震え上がった。

夢なら早く醒めてくれ。

「おい」

 誰かに声を掛けられた気がして目を開ける。

そこには他に人など見あたらない。

凶相といえる恐ろしげな顔のオークしかいない。

「おい、あんた大丈夫か?」

そのオークが俺の肩に手を置いて、そういった。

俺は硬直することしかできない。

日本語で声を掛けられたのもそうだが、優しい声音と見た目とのギャップに反応できない。

「あー、言葉が通じてないかな?これは困ったな……」

 考え込むように、槍を肩に担ぎオークは顎に手をやる。

「あ、いや、分かります。」

 思ってもみない対応に俺は少し安堵したのか言葉を漏らした。

「お、そうか。そいつはよかった。」

 オークは笑って頷いた。

妙に仕草が人間臭い。

いや、別に頭が豚なだけでオークじゃないのかな?

豚獣人?

考えてみれば、オークって言っても色々だよな。

豚頭がオークって言うのも間違えた知識なのかも。

「とりあえず、帝国語が通じてよかった。あんたどこから来たんだね。」

 オークは一応表情を和らげているつもりなのか笑って声を掛けてくれる。

だが、元々厳つい顔なので全然怖いわけだが……

それでも害意はないことは理解できた。

しかし、それよりも帝国語という言葉が気になる。

俺としては日本語で声を掛けられているつもりなのだが。

「えっと、帝国語って……」

質問をして、少し彼の唇の動きに注目してみる。

「いや、今しゃべってる言葉だぞ?ここら辺じゃよく使われてる言葉なんだが……」

彼は不思議そうに応える。

何を言ってるんだという感じだろう。

だが、注目していた俺は少し驚いた。

おそらく、彼は日本語をしゃべっているわけではないようだ。

発音と唇の動きがリンクしてない。

もちろん、細かい違いが分かるわけではないが、長さが明らかに違う。

俺は心の中で歓喜が溢れてくるのを自覚する。

もしこれが夢でないなら、俺は異世界に来たはずだ。

 しかし、頬をほころばせる前に喜びを押さえ込む。

都合がよすぎる。

夢の可能性が高い。

この喜びのまま目が覚めたら俺は……

いや、別に不都合はなかった。

いつものように目が覚めていつものように気分の悪さにのたうつだけのことだ。

夢なら夢でいいじゃないかと諦めがついた。

問題は、この夢が俺にとってどこまで都合がいいのか悪いのか、考えた方がいいだろう。

とりあえず、言葉が通じたこと。

初めてであった人物が問答無用で襲ってくる相手ではないこと。

どちらも俺にとっては運がよかった。

夢で運がいいというのもおかしいが、現実だとするなら間違いなく喜ぶべき偶然だ。

「もしかして、魔法か何かを使ってるのか?」

 考え込んでる俺に彼は少し心配そうに声を掛けてくる。

だが、俺は心配そうな声音で囁かれた魔法という言葉に意識を奪われた。

この世界は魔法もあるらしい。

「あ、いや、魔法というかその……」

内心の喜びを抑えつつ、言葉を濁した。

そもそもこの世界の魔法がどういう扱いなのかも分からない。

迂闊に魔法ですとか、魔法ってなんですかと聞くのは不味いだろう。

でも、上手く言葉が出ない。

「……なるほどな。あんた来訪者だな?」

「来訪者?」

いきなりの言葉に俺はオウム返しに呟いた。

「俺も詳しい話はしらんのだが、何でも他の世界から偶然紛れ込んだり、神様や悪魔に無理矢理連れてこられる人のことを来訪者と言うんだよ。」

 彼は、俺を安心させるためなのか冗談めかした仕草で話してくれた。

「ちなみに、この世界にやってきた天界の御使いや地獄からの使者なんかも来訪者って言うからややこしいんだが……」

 彼はそれ以上は詳しくないのか、言葉に詰まる。

しかし、その話が本当だとするなら、さらに俺は幸運だろう。

特別珍しい存在なら、彼も軽々しくは話はしないはずだ。

つまり、来訪者とはどの程度の頻度なのかは知らないが、前例のない存在ではないのだろう。

俺は隠し立てすることをやめようと考えた。

「えっと、多分ですけど、その来訪者という奴だと思います。」

俺の言葉に彼は、納得した。

「それなら言葉が通じるのも納得だ。大抵こっちの世界に来るときは神様からのご褒美なのか、《言語理解》の能力が付与されるのが普通だからな。」

 うんうんと頷く仕草は少しオーバーアクションだ。

彼は、俺を安心させたいんだろうか?

「と、ところでここはどこなんでしょう?」

 それでも俺はどこかぎこちないしゃべり方しかできない。

ここのところ、人とまともにしゃべってなかったからだろうか、どうもスムースに喋れない。

元々おしゃべりが得意な方じゃないが、完全に不審者にしか見えない。

いや、来訪者って時点で不審者だよな。

「ここは、フランドル王国の西に広がる蛮地さ。流浪の民くらいしかいない土地でね。」

 彼は快く地理的な説明をしてくれた。

この場所が無主の土地であることや定住するには向かない気候のこと、当然そこにいるのは流浪の民で非常に好戦的な人々であることなどだ。

話を聞いていく内に俺は少し怯えた。

彼が槍を持っている意味を改めて認識したからだ。

「まあ、そんな土地だから自衛は必須でね。特に俺はオークだから人から見れば化け物だろう?」

おどけた仕草で彼は肩をすくめる。

「えっと、オークなんですか?」

「あぁ、そうだよ。あんたの世界のオークと同じかは知らんが……」

 だんだんと凶相にも慣れたのか、彼がおどけて見せているのが分かった。

彼は彼なりに気を使ってくれてるのだろう。

怯えていた気持ちがほぐれる。

「いや、その僕の世界にはオークという種族はいないんですが……」

軽い気持ちで創作でのオークの特徴を伝えた。

「あぁ、いや確かに俺たちは雄しかいないし、他の種族と交配するしか繁殖できないのは確かなんだが……」

 彼は苦笑いを浮かべる。

「人は食わんし、理性がないわけじゃないから安心してくれ。それに他の奴らは知らんが、俺は人を無理矢理襲ったりしないぞ?」

 本当なら多少疑うべきなのだろうが、俺は彼を疑う気が起きなかった。

彼の声が穏やかなのもそうだが、仕草や態度で安心させようとしてくれているのが分かるからだ。

もし騙されているとしたなら、諦めるしかない。

「それに細いエルフよりかは太めのドワーフの方が好きだなぁ……何回か求婚してみたが全てお断りされたんだが……」

自虐的な笑みを浮かべつつ彼は頭をかいた。

「稼ぎもろくにないわ、ぶ男だわ。そりゃ嫁には来てくれねぇのも道理なんだがね。」

「あー、いや……その……」

俺は、思わず否定してみようとしたが、言葉が出てこない。

「慰めの言葉はいらんさ。余計に惨めになる。それよりも、ここで一人でいたら危ない。俺たちのキャラバンに来ないかね?」

彼は笑いながらそういってくれた。

「よ、よろしくお願いします。」

人の良い彼に俺は少し気後れしながら頭を下げた。

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