8-6 チラチラ見ちゃってごめんなさい。
流石に女性二人と同じ屋根の下にいて何も感じないほど朴念仁じゃありません。
食事の後、食器を洗って片づけを済ませた。
ベネットが私がやると言ってくるけど、これくらい大した量じゃない。
言っている間に終わってしまう。
「もう、家事の担当決めましょう?
任せてたら全部やらせちゃうことになる。」
いや、まあ、魔法で色々と手抜きできちゃうからやったけど。
それに部屋ではベネットに任せきりだったし。
そこまで熱心に家事をしてるわけでもないんだよなぁ。
「ヒロシさんは、ちょっとおかしいですよ。
料理始めたり、片付けしたり。
男性でそこまでする人いませんよ?」
セレンもちょっと呆れ気味だ。
まあ、一人暮らしが長かったからなぁ。
やらないと汚いままだったし。
「じゃあ、料理を作ったら、片付けは任せるよ。
その代わり、料理してもらったら片付ける。
これでいい?」
ちゃんと決めておかないと揉めそうだし、決めておこう。
まあ、忘れてベネット任せにならないように注意しておかないと。
「分かった。」
なんでそんなに不満そうなのさ。
「とりあえず、これ、匂い消しに。」
そういって、俺は牛乳を出す。
「後、食後のビールとかいりますか?」
二人は顔を見合わせる。
「欲しいかも。」
素直でよろしい。
ビールに軽くナッツを用意して、ソファでくつろぐ。
因みに俺は、炭酸水を飲んでいる。
流石に暑いので野草茶は冷まして飲まないとつらい。
しかし、二人ともお酒強いよなぁ。
若干心配になる。
既に3杯目だ。
「そういえば、ビシャバール家のお話が出たってことは、あの本の著者は本物なんですね。」
そういえば、ベネットの行軍記の著者にばっちり名前が出てたなぁ。
まあ、本物じゃなくて偽物が名前を騙ってると疑る人が出てもおかしくはないか。
何せ侯爵令嬢だもんな。
「うん、まさかとは思われるだろうけど、ご本人だよ。
とても気さくでいい方だから、もし教会と敵対してたらどうしようと思っちゃってた。」
いい方か。
いや、悪人だというつもりはないけど、高貴な感じはしないよな。
「ヒロシさんは別の意見みたいですね。」
にやにやしながらセレンが訪ねてくる。
いや、別にそんなに違うというわけでもない。
「俺以上にだらしない人だなと思ってるだけですよ。
ベネットもそこは同意してくれると思う。」
そういうと、ベネットも頷いた。
「どんな人なんです?
侯爵令嬢なんて言ったら、すごくお高くとまったイメージしかわかないんですけど。」
セレンの言葉にうーんっとベネットが唸る。
「全然逆です。
庶民的というか身なりには気を使わないし、礼儀作法もいい加減。
いや、びしっと決める時は決めるけど、普段はむしろおどおどしてるかな。」
酷い言いざまにベネットはちょっと言い過ぎと言ってくる。
でも、言いすぎかなぁ。
「まあ、お金を持ってるからお客様としてはありがたいかなぁ。
ちょっと珍しいものを持っていくと結構飛びついてくれるし。」
少なくとも少額の商品で出し渋っているところを見たことはない。
「ヒロシは、ちょっと言いすぎ。
繊細な方なんだから、ちょっとは気遣ってあげていいと思う。」
繊細って言葉が出てくると思ってもみなかった。
「そこは、意見が食い違うみたいですね。
面白い。
でも、どんな人なんだろう。
教会だと、極悪人扱いだけど関わるなって強く言われてるんです。
正直、どこまでが本当でどこからが嘘なのか分からなくなっちゃう。」
色々教会の中もあるんだろうなぁ。
「まあ、会ってみるのが一番早いと思いますけどね。」
セレンは俺の言葉に渋い顔をする。
まあ、関わるなって言われてるのに会いに行くのも躊躇われるか。
「ところでベネット、あれから何か変化あった?」
気になるのは、弟子のジョシュとどうなったかだ。
「変化なんかあるわけないでしょ?
むしろ悪化してる気がする。
ジョシュ君が来ると変に緊張しちゃってた。」
意識し過ぎという奴か。
まあ、そういう時期もあるだろうなぁ。
「もしかして、そのジョシュ君って子と、恋仲になりそうなんですか?」
まあ、そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。
「なんだか恋愛にトラウマがある様子で、無意識で遠ざけてたみたいなんですよ。
そこで俺が余計なことを言ったみたいで、今に至ると。
ジョシュ君には申し訳なく思ってます。」
レイナ様にもでしょ。とベネットが俺の脇腹をつかんでくる。
痛い痛い。
「叶うといいですね、ジョシュ君の想い。」
セレンは切なそうにつぶやく。
「まあ、俺も同意です。」
余計なことは言うまい。
「とりあえず、そろそろシャワー使いますか?
順番はお任せします。」
一応更衣室もあるから、服を脱ぐのに見ないように目をそらしたりする必要はない。
そういえば、着替えとかどうしてるんだろうか?
ベネットは道中パンツルックにチェニック、それに麦わら帽子をかぶっていた。
眼鏡をかけているので、素朴な感じになってしまっているけど、プロポーションがいいのでなんだかおしゃれにも見える。
ブーツもちゃんと膝上の奴を履いてるから、全体的に見るとかっこいいという印象を受ける。
セレンの方は、スカートに夏用のシャツを着て、鮮やかな緑色のスカーフを撒いている。
足元のサンダルもそこそこおしゃれなデザインだ。
日よけの麦わら帽子にも、兎のモチーフが編まれていて、なかなかかわいい。
そんなおしゃれ着を何着も用意できるものなのかな?
まあ、そこそこ荷物は持っていたけど。
ベネットの方は、インベントリがあるからそちらに入れてしまえばいいけど。
販売をするときはエプロンしちゃうから、おしゃれする必要なんかないでしょって思うのは、男だからかな。
いずれにせよ、ここに置いていってもいいことだけは伝えておこう。
「とりあえず、ここに置いた荷物はすぐに持ち出さなくても平気なんで、隅に置いといてくださいね?
必要だったら、これを出さなくても個別に取り出せますんで。」
ベネットがこそこそとセレンに耳打ちをする。
「分かりました。じゃあ、私からでいいですか?」
どうぞどうぞ。
タンクのお湯は満タンにしておいたし、順番は影響ない。
セレンがシャワー室に入っていったところでベネットが、俺に寄りかかってきた。
「言っちゃおうかなぁ。
どうしようかなぁ。」
耳元でささやかれるけど、なんだろうか?
「私ね。さっき何をセレンさんに話してたと思う?」
いや、さっぱり分からない。
「ヒロシは、荷物の中身を覗いたりしないから平気だよって言ったの。」
そ、そうか。
いや、かばんに入っていれば、かばんって表示だから中身を覗かなければ中身を確認できないけど。
やろうと思えばできる。
「でも、案外ヒロシは私たちの服装チェックしてるよね。
そんなに興味がある?」
いや、それはおしゃれだなとか、あれが流行りなのかとかチェックしてるだけなのであってやましい気持ちはないとは言いませんが、少しだけです。
俺はだらだらと汗を流す。
「大丈夫、分かってるから。
からかっただけだよ。
でも、下着とかまで興味ありそうなのは意外。」
いや、それもなぁ。
商売上の理由からなんだけども。
「ちなみにベネットは俺の世界の下着、どんなものなのか想像つく?」
その言葉にちょっと興味を示したようだ。
試しに見せてみようか。
「美容にも関係してくるし、胸の形を保つためにも下着って重要視されてるんだ。」
そういいながら、売買のリストを見せる。
様々な柄の下着や機能を説明している画面を移していく。
「もちろん、広告が含まれるから本当にこれらの効果があるのかは分からないけどね。」
機能やデザインを見て、これ欲しいという反応になった後、値段を見て高いという感想がもたげるのが手に取るように分かる。
「あと、サイズも様々だからピッタリなサイズなんかだとオーダーメイドになったりする。」
俺の言葉にベネットは唸る。
「でもお高いんでしょう?」
それがなんと今なら。
とは言えないんだよなぁ。
ぶっちゃけ高い物を安くすることはできない。
むしろ、商売するならここから上乗せになってしまうだろう。
「ベネットだけに着させるなら、俺がいくらでも出すけど。
他の人にも着させるとなるとね。」
値段を乗り越えて、需要を喚起できるのか。
そこは気になるところではある。
「なるほど、そういう意味があったのね。」
いや、純粋にベネットの下着姿が見たいという欲求もあったけどね。
そう思ったら、ベネットが俺の目を見てくる。
「そこは知ってるから言わなくていいよ。」
はい。
シャワーを浴びた後、疲れていたのか就寝してしまった。
目覚めはよかったけど、見た夢が問題だ。
下着の話をしたのか半裸のベネットに迫られる夢。
何をしてるんだ俺。
そこまで俺は飢えてるんだろうか?
とりあえず、顔を洗おう。
「お、おはよう。
ヒロシ。」
ベネットが顔を洗っていて、鏡越しに驚かれる。
「私おかしいのかな。
ヒロシがいっぱいいて、もみくちゃにされる夢見ちゃった。」
なんでいっぱいいるんだ俺。
「夢って意味が分かんないよね。」
俺の言葉に、ベネットは頷く。
顔を洗って戻るとセレンが顔を覆って、テーブルに肘をついていた。
「どうしたの?」
ベネットに尋ねる。
「セレンも夢見たんだって……その……」
言いにくそうだなぁ。
「俺が夢に出てきたとか?」
ベネットが首を横に振る。
「私とヒロシに、その、いろいろされる夢だって……」
何しやがったモーラ。
なんか楽しそうな笑い声が聞こえるような気がした。
ちなみにマーナは暢気に欠伸をしている。
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