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8-5 うまく付き合っていければいいと思ってるんですよ。

真実ほど人を傷つけるものはないんだぞ。

「デブだしだらしないし偉そうだし、嘘つきだし、何考えてるか分からないし、デブだし。」

 なんだとぅ。

 デブって2回言ったな、この。

 まあ、全部間違ってないけども。

「でも、近くで見ていたら、気づいちゃって。

 賢くて優しいんだなって。

 傷つけないために、いろいろと悩んでるんだなって。」

 少なくとも賢くはない。

「いや、それは勝手な幻想だから。

 単に軟弱なだけで、人を怒らせたくないから右往左往してるだけだから。」

 セレンは、少し迷ったように視線を彷徨わせる。

「そうかもしれないですね。

 私も、私が何を考えてるのか、よくわかりません。

 自分の中のヒロシさんに恋しちゃってるのかも。」

 セレンの言葉を聞いて、キュッとベネットが俺の腕をとる。

「でも、二人にはかなわないなって。

 私じゃ、ベネットさんにはかなわないし、それにベネットさんにも嫌われたくないなって思うし。

 だから、ここで殺されても、それでもいいんじゃないかなって思っちゃったんです。」

 俺は思わず頭を掻きむしる。

 そういう話を聞いて、俺がはいそうですかと切り捨てられると思ってるんだろうか?

 いや、切り捨てられないと思ってるから、そういう風にふるまっているのかもしれない。

 ただ、それをセレン自身が自覚しているかどうかも怪しいところだ。

 本当にやることがえげつない。

「ねえ、セレンさん。

 もし、これからもヒロシがあなたに手を出さなかったらどうなるの?」

 ベネットのいう事の意味は分かる。

 場合によれば、役立たずとして処分されるとか言われたらシャレにならん。

「分かりません。

 今まで、前例がないですから。」

 前例ないのかよ。

 下半身緩すぎだろ。

「えっと、それは女性も?」

 そうか、大崎叶という例がある。

 彼女は、配偶者が教会関係者だったんだろうか?

「あー、えっと女性の方は前例が一人。

 でも、それは正体がばれて排除されてます。

 というかその、担当者が相当あれだったので。」

 あれってなんだよ。

「いや、私あれと同じ扱いになるの?

 ちょっと、勘弁してよ。」

 セレンは頭を抱えてしまった。

 マーナが慰めるように鳴いて、セレンを舐め始める。

「やだ、大丈夫だから。

 うん。」

 セレンは、マーナをなだめるように撫でる。

 そこまで落ち込むような奴なのか。

「ちなみに、何があったか聞いてもいいですか?」

 あれという言葉が、滅茶苦茶気になる。

「その、当然ですけど文章でしか知らないですが、自身の容姿に自信を持ち過ぎてたみたいです。

 それで強引に押し倒そうとしたところを、恋人に割って入られて排除されたとか。」

 それは、うん。

 そうなるよね。

「それは、えっと大賢者カナエのことだよね。」

 ベネットは、なぜかそこが気になった様子だ。

 しかし、大賢者か。

 孫が大魔女っていう二つ名だから、大ってつけるのが習わしなのか?

「よくご存じですね。

 彼女が来訪者だと知っている人ってそんなに多くないんですけど。」

 いや、孫に会ってるからなぁ。

「教会とカナエの血族は関係悪かったり……」

 ベネットが危惧することが俺にもよくわかる。

 もしこれで血を血で洗う抗争とかしてたら、どうすればいいんだろうか?

「関係性がいいわけではないですけど、基本は触れないことになっています。

 というか、彼女たちは刺激さえしなければ穏便に済ませてくれますから。」

 つまり過去に刺激してとんでもないことになったって事なんだろうなぁ。

 まあでも、これで共生は可能だという事は分かる。

 これが何が何でも排除という組織なら、もっと嫌悪感や憎悪が見えるはずだ。

「まあ、セレンさん。

 現状は、これまで通りでお願いします。

 見たことや聞いた事は伝えてもらって構わないので。

 ただ、自分の身の安全は確保するように考えて伝えてくださいね。

 俺に正体をばらしたとか、そういうのは内緒で。」

 とりあえず、念を押しておこう。

「わ、分かりました。」

 彼女も渋々頷く。

 まあ、成果が上がらないまま、宙ぶらりんがつらいのも分かるけどな。

「もし、上の人が無理難題を言ってくるようなら、言ってね?

 私も力を貸すから。」

 ベネットの申し出に、セレンは苦笑いを浮かべる。

「二重スパイになれってことですか?」

 セレンに言われて、ベネットはそういう意味にとらえられると気づいて慌てた。

「あ、いや、そういうのじゃなくて。」

 慌てるベネットにセレンは分かってますよと笑う。

「ちょっと意地悪言ってみたくなっただけです。」

 とりあえず緊張は解いてくれたみたいでよかった。

 しかし、食事どうしようかな。

 

 とりあえず、ハロルドに作って盛られた軽食の類は全部尽きてしまっている。

 単純にパンとかベーコンみたいな食材はあるから作ればいいんだけども。

 面倒だよね。

 でも、今から居酒屋というのも微妙だ。

 よし、何か作るか。

「俺が何か作るけど、リクエストとかありますか?」

 二人は顔を見合わせる。

「何?」

 俺が料理するのがそんなに不思議なんだろうか?

「あ、いや、ヒロシが料理を作れるのは知ってるよ。

 だけど、私に任せてくれてもいいんじゃないかなって。」

 ベネットの言葉にセレンが驚いた表情を見せる。

「ヒロシさんって、料理できるんですか?」

 いや、そんなに手の込んだものは作れないけど。

「軽く、サンドイッチ程度なら作れるよ。

 まあ、不格好だからお客様に出せるレベルじゃないけど。」

 それくらいなら、どんなに不器用でもできると思うんだけどなぁ。

「サンドイッチはちょっと。

 あったかいものがいいです。」

 あったかいものね。

「分かった、ちょっと待ってて。」

 そういいながら、俺はキッチンに立つ。

「ねえ、ヒロシ、聞いてる?

 なに作るか教えて、手伝うから。」

 そういって、ベネットもキッチンに入ってきた。

「あー、いや、手抜きだから。

 スパゲティを茹でるだけだし。」

 そういって、俺は寸胴鍋にお湯を満たして沸騰させる。

 お湯を沸かすのが一番面倒な作業だ。

 お湯を出せるから、そこを省けるのはでかいよな。

 適当にスパゲティを鍋に入れて、その間にニンニクとキャベツとベーコンを取り出す。

「えっと、切ればいい?」

 そういいながら、ベネットがまな板と包丁を準備してくれた。

「ありがとう。ニンニクは刻んで、他は短冊切りでいいから。」

 なら、俺は炒める準備も進めておこう。

 フライパンを取り出して、オリーブオイルを引く。

 麺の茹で加減を見る。

 俺はこのくらいでもいいけど、どうだろう。

「ベネット、これくらいでいいかな?」

 俺は手のひらにスパゲティを置く。

「え?あ、ちょっと待って。」

 そういって、ベネットは口だけでスパゲティを食べた。

「うーん、ちょっと固い気がするけど、このくらいなのかなぁ。」

 うん、ちょっと固い位ならいいな。

 麵をざるにあげておく。

 ベネットに切ってもらった材料を炒めて、塩コショウを振っておいた。

 本当に手抜きだから、味付けはあとでペペロンチーノのもとを混ぜる。

 いい感じにしんなりしてきたら、麵を加えて軽く炒めた。

 最後にペペロンチーノのもとを混ぜる。

 ちょっとだまになりそうだから、ゆで汁を加えた。

 3人分だから、結構な分量だ。

 さらに盛り付けた後、カップも取り出してコンソメスープの素を入れてゆで汁で溶く。

 見栄え悪いな。

 ちょっと俺料理下手過ぎなんでは?

「な、なんかすごい。」

 セレンがあまりの見た目の悪さに、若干引き気味だ。

 はいはい、すいませんね。

 大したおもてなしできませんで。

「一応リクエストには答えたつもりだけどね。」

 そういうと、セレンは慌てて手を振る。

「いや、違うんです、手早くてプロの料理人かと思いました。」

 思わずにんまりしてしまう。

 褒められるとお世辞でもうれしい。

「褒めても、何も出しませんよ?」

 そういいながら、料理を食卓へと運ぶ。

 

 フォークの使い方はベネットに教えたけど、セレンはちょっと不慣れな様子だ。

 ちょっとまとめきれなくて、ちゅるちゅると啜ってしまっている。

「すいません。なんか上手に食べれなくて。」

 まあ、俺はそういう人見慣れてるから平気だし、ベネットも特に気にしてない様子だ。

「おいしく食べてもらえるなら、平気ですよ。

 どうですか?」

 味が合わないと言われたらどうしようかと少し心配してしまう。

「おいしいです。

 でも、これ匂いがきついかも。」

 あ、すっかり忘れていた。

 明日も接客するのに、ニンニク使いすぎたかもしれん。

 後で牛乳出しておこう。

「窓がないから、ちょっと暑いね。」

 ベネットは胸元をパタパタさせて、顔を仰いでいる。

「あー、うん、今開けるから。」

 実は窓はある。

 壁の一面を上げられるようにしてあり、そこに窓が設置してある。

 大きめのガラスだから壁だと思われたのかな。

 壁を上げ、窓を開く。

 夜風が気持ちいい。

「うわー、すごーい!!」

 セレンが喜びの声を上げる。

 夜の森が目の前に現れ、遠くに砦の明かりが見えた。

 なかなかいいんじゃないだろうか。

「ヒロシ、驚かせるの好きよね。」

 ベネットもちょっと驚いてたみたいだけど、余裕ありますよって感じで言ってきた。

「もちろん、人が喜んでくれるのは好きだよ?」

 そういって、俺は扇風機をベネットの方に向ける。

「ふぁう!!」

 突然の風に、ベネットが慌てる。

「あ、それ事務所にも置いてくれてたやつですね。

 やっぱりそれも、来訪者の力?」

 そういえば、あまりにもレイシャが暑さにやられていたので設置したな。

「まあ、お金かかるんですけどね。

 これそのものにも、動かすのにも。」

 あえて限界があることには言及しておこう。

 じゃないと無制限に何でもできると思われかねない。

「涼しいけど、いきなり向けるのは反則!!」

 髪が乱れてしまい、必死にベネットは整えようとしている。

 なんかおかしくなって笑ってしまった。

 つられて二人も笑う。

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