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8-4 ちょっとしたネタ晴らしのつもりが……

軽いジャブのつもりが思いっきり突き刺さったらしく、思った以上の反応が返ってきたという感じです。

そりゃ、いきなり全面降伏されたら驚きます。

 ユウの能力は抜きんでていた。

 俺が教えた《魔弾》も《盾》も教えればすぐに習得できてしまった。

 小魔法の類は元々使えてはいたらしい。

 ただ、スタンクにはその才能が理解できなかった様子だ。

「すげえじゃん。

 ユウだっけ、お前才能滅茶苦茶あるよ。」

 ジョンの言葉にユウは少し恥ずかしそうに笑う。

 《水操作》の使い方も教えたらすぐに使えるようになった。

「ありがとうございます、師匠。」

 あぁ、そうか。

 俺が師匠なんだな。

「もっといい先生もいるから、ひと段落着いたら紹介するよ。」

 とりあえず、俺じゃ荷が重すぎる。

「そっか、そういう理由だったのね。」

 ようやくベネットも納得したのか、安心したようにため息をつく。

 教えている間、ずっとベネットが俺を後ろから抱きしめていた。

「小さい女の子をどうこうするような趣味はない。

 ずーっと言ってたよね?」

 ごめんと、ベネットが謝るので許してあげよう。

 とりあえずユウには、防刃服だけを着させるようにジョンには言っておいた。

 皮鎧が、呪文の発動の邪魔になる。

 そこら辺の注意はしておいた。

 俺はなんだかんだ慣れてしまったので、軽い鎧くらいは平気だけど。

「じゃあ、そろそろ行ってくるぜ。

 初めてだから、何も持ってこれないかもだけど、ちょっとは期待してろよ。」

 そういいながら、ジョンたちは門の向こう側へと向かっていった。

「頑張れよー!!」

 ジョンの背中に声援を送る。

「ヒロシさん、ちょっともう限界だから、手伝ってください!!」

 後ろから、セレンの悲鳴が上がっている。

 いや、振り向きたくないなぁ。

 そういうわけにもいかない。

「はいはい、ちょっと待っててくださいね。」

 子供たちもフル稼働で徐々に対処が遅れ始めてる。

 どうやら、携帯用の固焼きビスケットが人気な様子だ。

 他にもロープやらタオルやらがよく売れる。

 相変わらず、客は秘石を投げてよこすから計算が面倒だ。

 まあ買取がない分、まだましだな。

「お待たせしました。はい、こちらの商品ですね?」

 ベネットも俺の横で、応対をしてくれている。

 何とかこれで余裕も出てくるだろう。

 他にも、ハロルドの店で作ってくれた包みピザやホットドックの類も売れていく。

 これはもう、ハロルドにも専用インベントリを渡した方がいいな。

 というか、他の店は何やってんだろうか?

 忙しすぎて周りを構っている余裕はなかった。

 まあ、前回ほどきつくはないから、子どもたちには感謝だな。

 昼過ぎには少し客足が途絶える時間帯ができたので、順番に昼休みを取った。

 これなら何とかなるな。

 

 夕方になり、客足がまばらになる。

 そろそろ店じまいしよう。

 ハロルドが作ってくれた料理は殆ど完売してしまった。

 明日からはもっと落ち着くだろうな。

「ありがとう。

 ささやかだけどお礼だよ。」

 そういって、俺は店の手伝いをしてくれた子たちに銅貨とジュース、それに残り物のホットドックを持たせた。

 ありがとうと言って、立ち去ってしまう。

 こうしてみると、スタンクがずっと拘束しているってわけじゃないのは確かなんだよな。

 逃げようと思えば逃げられるし、迎えに来ている様子もない。

 つまり自発的にスタンクのもとに帰って言ってるわけだ。

 逆に言うと、そこがおぞましさの原因でもあるんだよなぁ。

 いや、あんまり深く考えるのはよそう。

 余計なことをほじくり返してしまいそうだ。

 それよりも、今晩の宿をどうしよう。

 ともかく、ジョンたちが戻ってくるまでは店を開け続けようと思ってるし二晩はどこかに留まらないといけない。

 選択肢は2つだ。

 適当な宿に泊まる。

 もう一つは、そうコンテナハウスだ。

 それをセレンに見せるべきか否か。

 俺はベネットの方を見る。

「今晩どうしようか?」

 なぜそこで頬を赤らめる。

 そうじゃない。

 とりあえず、額にチョップを入れておく。

「違うから、泊まる場所の話。」

 最近ヒロシが冷たいとかぶー垂れてるけど、そんなことないだろ。

 俺は十分かまってあげてるつもりだけどな。

「とりあえず、宿じゃなくて、あれを使うってこと?」

 俺は頷く。

 ベネットはセレンを見る。

 セレンは、不思議そうに俺とベネットを見ていた。

「何の話ですか?宿じゃなくて、テントで泊まるとか?それとも朝まで居酒屋?」

 あぁ、そういわれれば選択肢は三つか。

「いや、違います。

 驚かせるかもしれないですけど、着いてきてください。」

 うん、いい機会だ。

 セレンにも俺の力の片鱗を見てもらおう。

 少し森の奥の方で開けている場所を探す。

 

 

 うん、ここなら大丈夫だろう。

 少しセレンが不安げなのは仕方ないよな。

 こんな何もないところで何をするのかも知らされてなかったら怖いと思うのも当然だ。

 まあ、出せば出したで驚かれるだろうけども。

 俺は、インベントリからコンテナハウスを取り出す。

 前に作ったものよりも若干広めだ。

 ハンスたちに渡したものと同等くらいと言えばいいかもしれない。

 半透明な状態から、実態を持ち静かにコンテナハウスが現れる。

 感覚としてはどすんっと音がしそうなものだけど、地面に設置する場合はそういう音はしない。

 空中に出現させれば落下するので当然音が鳴るけど、どこか壊れるかもしれないからそれをやるつもりはない。

「え?あ、ま、魔法?」

 セレンは驚き、そういう結論を口にする。

「いや、俺は来訪者なので、その能力ですよ。」

 しれっと俺の正体を明かす。

 いや、知ってるとは思うけど、たぶん白を切るよな。

「ら、らい、えっと……その……」

 俺の予想に反して、セレンはしどろもどろになっている。

 てっきり、来訪者なんですかって驚くかと思った。

「ごめんなさい、無理です。」

 セレンはぺこりと頭を下げる。

「ヒロシさん、私が教会のスパイだってわかったうえでやってますよね?」

 もちろん。

 否定するまでもない。

「まあ、とりあえず中に入りましょうか?」

 俺は玄関を開けて入室を促す。

 前回の奴と違い、若干床を高めにしてある。

 入り口は以前の高さで足ふき用の砂も用意してある。

 中は以前と広さが変わっていない。

 これは、厩舎を拡張するためでもあり、室内にシャワーを設置したためだ。

 他にも、外側に向けて監視カメラも設置してある。

 マーナが少し不安げに鳴く。

 見たことがない部屋だから少し不安なんだろうか?

 それとも、抱き上げてるセレンの不安が伝播してるんだろうか?

「すごい、ですね。」

 固唾を飲み込むように息をのみ、セレンは言葉を絞り出す。

 もしかして危害を加えられないか警戒されてるんだろうか?

 そういうつもりはなかったんだけども。

「とりあえず、座って話しましょうか?

 聞きたいこともあるでしょう?」

 とりあえず、着席を促し、俺もソファに腰かけた。

 ベネットは俺の隣、セレンはマーナを抱えて向かいに座る。

「さっきも言いましたけど、私、教会のスパイです。

 というか、来訪者専門の部署に所属してます。」

 なんで自分からわざわざ正体をばらすんだろう。

「それと、その……

 来訪者相手の切り札でもあります。

 純潔を捧げた相手の能力を打ち消せるんです。」

 そこまで話しちゃうって、ちょっとこっちが焦る。

「いやいや、それなんで話しちゃうんですか?

 一応言っときますけど、俺は聞かなかったことにします。

 じゃないと、君の命の危険だってある。

 裏切り行為だってわかって言ってるんですか?」

 セレンは若干気の抜けた顔をする。

「いえ、てっきり消されるのかなと思って。」

 なんでだよ。

「ちょっと待ってください。

 一応言っておきますけど君に危害を加えるつもりはない。

 どうせ君を殺したところで新しい人間が送り込まれるだけだろうし。

 むしろ、君には適度な情報を渡して教会との関係を構築したかったんだ。

 俺は別に教会と敵対するつもりはないよ。」

 ようやくセレンは勘違いに気づいたようだ。

「冷たくされてたからてっきり。」

 いや、そりゃ冷たくしてはいたけどさ。

「悪いけれど、純潔云々はこちらとしても困る。

 能力を打ち消されるリスクって言うのもあるけど、俺は浮気をするつもりはない。

 それだけは分かっていて欲しい。」

 なんか傷ついた顔をされると困るんだよなぁ。

「その上で適切な距離を保ってくれるなら、ある程度の利益を提供するのはやぶさかじゃない。

 教会のその、来訪者専門部署だっけ?

 それとも協力してもいい。

 もちろん、全面的にというのは難しいにしてもだよ。」

 これ以上ない譲歩だと思う。

 これで拒否されるなら、もうどうにもならない。

「えっと、もしかしてヒロシさん、私が仕事だから好意がある振りをしていると思ってますか?」

 俺は眉をひそめてしまう。

 いや、実は付きまとううちに本気になったとか、そんな妄想じみた話あるわけないし。

 無いよな?

 ちらりとセレンがベネットの方を見る。

 俺もベネットを見る。

「なんで私を見るかなぁ。

 そりゃ、気づくでしょ?

 ヒロシは鈍感って言うつもりはないけど、ちょっと色眼鏡で見過ぎだと思う。

 本気でセレンさんがヒロシが好きだって、私は分かってたよ。」

 むすーっと、頬を膨らませる。

「私は本気なのかどうか、ちょっとわからないです。

 そういう風に教育を受けてたから。

 相手に気に入ってもらえるよう振舞う訓練は受けてましたし。

 そのためには、相手に好意を持つのが一番だから。」

 改めて、教会のえげつなさが感じられる。

 自分の気持ちが本物なのかどうか、それすらもあやふやなんだろうな。

「でも、私下手糞なんですよね。

 ちょっと過剰になっちゃうし、嫌なことがあるとそれに振り回されるし。

 最初は、ヒロシさんのこと嫌いでした。」

 いや、まあ心当たりがないこともない。

 嫌われるような言動してたしな。

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