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8-3 ダンジョンデビュー

まあ、誤解されることをやっているのは否定できないですよね。

 午前中にカールを大家さんに預けて、馬車に揺られる。

 ジョンたちのデビューの日だから、みんなそれなりに緊張している。

 何事も初めての体験って言うのは緊張するものだ。

 後ろには、一応商売をするためにホールディングバッグを載せてある。

 前回とは違い、それ以外に荷物は載せていないがホールディングバッグ以外もインベントリ経由で出せるから商売に支障はない。

 人を乗せるためにちょっと偽装を抑えてスペースを確保するためだ。

 ベネットには、乗馬してついてきてもらっている。

 で、なぜかセレンが俺の隣に座っていた。

 マーナを膝にのっけて、じーっと、薬指に着けた指輪を見ている。

「なんですか?」

 指輪を見ているのは分かるけど、理由までは推察できない。

「いえ、いい指輪だなって。」

 そういいつつも、ちょっとむすっとしている。

「まさか二番目でもいいとか、べたなこと言わないですよね?」

 俺の言葉にベネットが反応している気がする。

「私は一向に構いません。」

 俺が構うんだよ。

「セレンちゃん、ヒロシより私の相手をしてくれないかなぁ?

 同じ神に仕える者同士、仲良くしようよ。」

 ベーゼックが話に割り込んできた。

「あなたみたいに不真面目な人は嫌いです。

 ヒロシさんみたいな、一途な人だからいいんじゃないですか。」

 じゃあ、浮気したら一途じゃなくなるだろ。

 どっちにしろ、縁がないんだよ。

 酷いことを言ってる気はするけど、しょうがない。

 こればっかりは曲げられないからな。

「報われない恋なんかしない方がいいよ?

 他に目を向けた方がいいよ。」

 そうそう、ベーゼックの言うとおりだ。

 セレンはマーナを撫でまわしながら何かをぶつぶつ呟いている。

 いや、まあ、店で売り子をしてくれるのは助かるから、放っておこう。

「何?どうしたの?

 ちゃんと言わないと聞こえないよ?」

 ベーゼックがしつこく絡む。

「うるさいですね!!ちょっと黙っててもらえます?」

 セレンはベーゼックに噛みつくんじゃないかって程の剣幕で怒り始めた。

 怖い。

 マーナもびっくりして、身をすくませてしまう。

「可愛いね。怒った顔も素敵だよ。」

 ベーゼックは懲りずにセレンを口説こうとしている。

 凄いな。

 まあ、ナンパの成功率っていうのは低いらしいから、そこまで粘るんだろうけども。

「ひっぱたきますよ!!」

 流石にベーゼックも殴られたくないから、後ろに引っ込んだ。

「なんなんですか、あの人は!!

 もう、本当に腹が立つ。」

 まあ、なんだかんだ以前よりセレンって言う子が分かったような気はする。

 割と気が強い子だよな。

 見た目がか弱そうだから勘違いしがちだけど頑張り屋だし、正義感も強い気はする。

 俺についていきたいという事で、イレーネが科した課題とかもちゃんとクリアしてきていた。

 それだけに拒絶しにくいんだよなぁ。

 実際、事務だけじゃなくて商品知識や商取引についても明るい。

 接客は、やや苦手というか、我慢が効かないところがあるけど見た目のアドバンテージがあるからな。

 俺なんかよりずっとうまくいくと思う。

 それだけに、教会の影がちらつくのが残念だ。

 仲のいい友達としてやっていけたらいいんだけども。

 そういうわけにもいかないんだよなぁ。

 本当に無理かどうかは、セレンの上の人次第ではあるけども。

 不意にベネットが近寄ってきて、俺をじーっと見てくる。

「なに?

 まさか浮気してないかとか思ってる?」

 俺はむすっとした顔をする。

「そうじゃないけど……」

 寂しそうな顔されると困る。

「じゃあ、不安がる必要はないよね?」

 俺は、指輪をしている手を見せる。

「う、うん。」

 ベネットは、俺の指輪を見た後、自分の指輪を見て落ち着いたようだ。

 可愛いなぁ。

 微かに呟いているセレンの声がするけど、割り込めないじゃないとか、どうすればいいのって言う感じの言葉が聞こえる。

 こっちは困ったもんだという感想しか出てこない。

 

「お、兄ちゃん久しぶりじゃないか?

 今回は人数が多いね。」

 ジョンがあからさまに表情を曇らせる。

 まあ、見るからに怪しいもんな。

「今日は、スカベンジャー志望を連れてきたんですよ。

 俺がスポンサーなんで連れてきました。

 何かあったらよろしくお願いしますよ。」

 ちらりとおっさんがジョンたちを値踏みするように見る。

「言っとくけど、あんたの世話になるつもりはねえよ。

 失せろ。」

 それを聞いておっさんはにやりと笑う。

「そういう子は多いよ。

 まあ、実力があれば俺が出る幕はないさ。

 頑張ってくれ。」

 腹芸はよそでやって欲しいなぁ。

「兄ちゃんの方は店を開くのかい?」

 もちろんそのつもりだ。

 でも、そうだなぁ。

「できれば店番できる子が居れば助かるんですけどね。

 えっと、そういえばお名前聞いてませんでしたっけ?」

 もしかしたら、聞いてたかもしれないが忘れてる。

「スタンクだよ。ヒロシさん。」

 俺の方は名前を知られていたようだ。

 それとも名乗ったのかな。

 自分の記憶力に自信がない。

「スタンクさん、よろしくお願いします。」

 俺は握手を求める。

「こちらこそ。それで店番できる子供が欲しいって事かい?」

 まあ、そういうことだ。

「金額次第かね。1日銀貨10枚、それに飯の世話をしてもらうって言うのでどうだい?」

 スタンクは俺の手を握りながら、価格を提示してきた。

 そのうち、どれくらいが子供の取り分かは分からないけど、払えない額じゃない。

「二人程お願いします。

 許可を取ってくるんで、店の前で人を選ばせてください。」

 なんだか奴隷を購入する気分になってくる。

 まあ、似たようなものだけども。

「分かった。

 まあ、全員見てもらうのが早いな。」

 そういいながら、スタンクは立ち去って行った。

「趣味悪りぃな。

 あんなのと付き合わない方がいいと思うけど。」

 ジョンは本能的に忌避感があるみたいだ。

 まあ、分からなくもない。

 

 俺たちが店の準備に取り掛かったところで、スタンクが子供たちを引き連れてやってきた。

 男の子もいれば女の子もいる。

 一応全員みすぼらしいとはいえ、皮鎧を身に着け、短剣を携えていた。

 そこだけなら、ジョンと大差はない。

 だけどみんな、目が死んでる。

 希望が見いだせない様子が見て取れた。

 でも、ひどい扱いをされているようにも見えない。

 それなりの食事はとっているのか、痩せこけているわけでもない。

 ただ、生きるのには精一杯なんだろうな。

 何となく、俺は一人一人を鑑定ていく。

 数人鑑定した段階でみんなレベル1なのは分かる。

 だけど、それぞれ能力値が違う。

 明らかに前衛向きじゃない子や逆に適正はある子も存在する。

 適当に知力が高い子を選ぼう。

 そう考えていたら一人の女の子が目に留まる。

 びっくりした。

 この子、秘術系の術者じゃないか。

 やばい、こんな表情をしたら感づかれるか。

「ヒロシさん、この子が気にったんだね。」

 そういう趣味はねえ。

「気に入るって言っても、ジョンたちのグループに入れたいと思ったって意味で、気に入ったってことですよ。

 変な意味にとられるから勘弁してもらえませんか?」

 思いっきり嫌な顔をしてやろう。

 ジョンが俺の脇をついてくる。

「どういうことだよ。あの子、何か才能でもあるのか?」

 俺に耳打ちをして訪ねてきた。

「秘術系の才能がある。魔法使いだよ。」

 俺が耳打ちしてやると、ジョンが目を見開く。

「なるほどねぇ。

 まあ、引き抜きには応じてこなかったんだが、ヒロシさんの頼みとあっちゃ断れない。

 金貨5枚でどうだい?

 それとこの子たち全員にジュースをおごってもらいたい。」

 高いのか安いのか。

 いや、まあ安いって言っていいよな。

 この子の価値がそんなもんであるはずがない。

「スタンクさん、あとで文句言われても困りますよ?

 いいんですね。」

 俺の言葉にスタンクはむしろ肩の荷が下りたような表情を浮かべた。

「構やしませんよ。

 これが商売ってもんだ。」

 俺は金貨を取り出して、スタンクに渡した。

「ほらユウ、今日からお前はあの人たちの仲間だ。

 仲良くしてもらいなさい。」

 そういうと、スタンクはユウと呼んだ女の子に金貨2枚を渡す。

 女の子はとても不安そうだ。

「別に、俺は奴隷商じゃないから、気にくわなかったらすぐに戻ってもいいからね。」

 俺はそう付け加えた。

「は、はい。よろしくお願いします。」

 女の子は、少し怯えながら頭を下げた。

「びくびくしてんじゃねえよ。

 これから、一緒に行くんだから気合い入れろよ。」

 ジョン、お前はやさしくしてやれ。

「ジョン、君って女の子に厳しいよね。」

 ノインもやや呆れ気味だ。

「んなことねえよ。

 ただ、その……」

 ジョンは口ごもってしまう。

 大丈夫だろうか。

「はいはい、みんな仲良くやろうね。

 よろしく、ユウちゃん。

 みんないいやつだから、不安がる必要はないよ?」

 そういうと、ベーゼックが優しくユウを撫で始める。

 お前の守備範囲はどこまでだ。

 まさか、狙ってないだろうな。

 でも、ベーゼックの対応は正解だったらしく、ユウは落ち着きを取り戻してくれた。

「それで、店番はいらないのかい?」

 そうそう、いつまでもスタンクを拘束していくわけにもいかない。

「じゃあ、その子とその子をお願いします。

 料金は銀貨10枚でしたね。」

 一応目星は付けていた。

 二人とも知力も意志力も高い。

 だけど魔法の才能も、恵まれた体力もない。

 むしろ、店員には向いているだろう。

「毎度あり。

 やっぱり人を見る目があるみたいだね。」

 スタンクはそういいながら、立ち去って行った。

 雇われた子と、ユウを残して他の子どもたちは整然と付き従っていく。

 なんか、おぞましさを感じるけど妙な凄みを感じてしまう。

 ふと、後ろから突き刺さるような視線を感じる。

 ベネットとセレンが俺を睨んでいる。

 セレンが抱っこしているマーナにも睨まれている気分だ。

「だから、違いますからね?」

 改めて強調しておく。

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