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7-24 彼女と物件巡りとか、経験がなさ過ぎて実感がわかん。

 翌朝起きたら、ベネットがすでに起きて朝食の準備をしてくれていた。

 寝られたのかな。

 狭いところで、寝辛かったかもしれない。

「ねえ、ヒロシ。

 相談があるんだけど。」

 なんだろうか?

 無茶なお願いじゃなければいいけど。

「ヒロシの世界のことを知っておきたいんだけれど。

 方法はあるかな?

 できれば、文字や言葉も知りたい。」

 そうか、そうだよな。

 まず手始めに言葉を知りたいと思うのは当然か。

 俺がある程度教えられるかもしれないけど、あくまである程度だよなぁ。

 体系的に教えられるほど俺も頭はよくない。

 となると、やっぱりレイナかなぁ。

 でも、俺の世界のことを知りたいとなると、彼女でも無理だ。

 言葉を覚えたうえで、インターネットでも使ってもらわないと。

 いや、そういうことさせていいんだろうか。

 昨日だって、大分ショックを与えていたような気がする。

「駄目かな?」

 いや、駄目じゃないけども。

「俺はありがたいんだけど、ベネットに負担がかかるから。

 レイナさんなら、ある程度体系的に教えてくれるかもしれないけど、俺の住んでいた世界のこととなると別の方法を使わないといけないし。

 楽しい話ばかりじゃないよ?」

 いや、楽しみのために知りたいと言ってるわけじゃないから、この言葉は余計かな。

 でも、つらい思いをしてほしくはない。

「ちょっとずつやるから、見守っててくれないかな?」

 どうすべきだろう。

 いや、もし元の世界にベネットと二人で能力も何もかも奪われた状態で放り出されたら何もできないかもしれない。

 そのことを考えれば、知っておいてもらうのもありかな。

 言葉が通じないところに投げ出されたら、それこそ恐ろしいだろうし。

「分かった。

 とりあえず、住む場所が決まるまでレイナさんのところにお世話になろうか?

 その間にちょっとずつ文字を教えてもらうってことで。

 それでいい?」

 ベネットはうん、と頷く。

 

 とりあえず、物件巡りだ。

 1件目は、例の幽霊付き物件だ。

 一応念のために神父を呼んで、お祓いをしてもらう。

 と言っても、術者じゃないから幽霊を一時的に出てこなくさせるお香を焚いてもらうしかできないんだけども。

 いや、これはこれで便利か。

 ”鑑定”してみれば、このお香はちゃんと非実体の化け物や魔獣も退けてくれる。

 もし売ってくれるなら、購入しておいて損は無いはずだ。

「ありがとうございます。

 じゃあ、行こうか。」

 俺は神父に礼を言って、ベネットの手を引きながら建物に入る。

「なんだか嫌な感じ。

 窓が閉め切られてるからかな?」

 なんだかじっとり湿っている感じがするのは確かだ。

 でも、かなり広い。

 カールやマーナが居ても、十分に快適さが確保できそうだ。

 少々埃っぽいが、掃除をすれば綺麗になりそうではある。

 設備なんかは、まだ老朽化していないので補修の必要もなさそうだ。

 でも、ちらちらと視界の端に何か映るんだよなぁ。

 ガタンっと何かが落ちる。

「ひあぁ!!」

 びっくりして、ベネットが抱き着いてきた。

 それでこっちは驚くよ。

「大丈夫?もう次のところ行く?」

 ベネットは首を横に振った。

「だいじょ……大丈夫……これくらい平気だから……」

 顔色が真っ青だ。

 とても平気には見えない。

 倒せるとはいえ、気配だけとか、音だけだと対処できない分怖いんだろうなぁ。

「とりあえず、水回りを見たら出ようか?

 他は、入居するときに補修できるだろうし。」

 水回りが駄目だと厄介だ。

 補修したつもりで使っていたら、壊れて再度補修を呼ぶという事も多い。

 幸い、そこら辺のトラブルはなさそうだ。

「やだ、なんか聞こえる。」

 なんだろう。

 何が聞こえるって言うんだ?

 もしかしたら、俺には聞こえてないのかも。

「とりあえず出ましょう。

 感想とかは後で。」

 ベネットはがくがくと震えて首を縦に振った。

 意外と怖がりなんだなぁ。

 いや、まあ、これだけ怯えられると逆に冷静になってしまうのもあるのかな。

 ベネットが驚くことで俺は冷静でいられるのかもしれない。

 

 2件目は本当に郊外だ。

 まあ、とはいえ徒歩でモーダルに行ける距離だから、そこまで遠いわけでもない。

 問題は建物だ。

 木造で、ところどころ補修の跡が目立つ。

 よく言えば、自然豊かな落ち着いた空間と言えるかもしれないが、水も井戸があるだけで不便そうだ。

 排水なんかも、家の裏にある甕にためて、定期的に処理しなくちゃいけない。

 いや、まあそれくらいならできなくはないけども。

 不便だ。

「さすがに遠すぎるよね。

 その、別に何もせずにひっそり暮らすなら、ここでもありかなと思うけど。

 借りるとなると、ちょっとない気がする。」

 俺もベネットと同意見だ。

 もしこれが持ち家なら、自由にいじくるだけだけど。

 借りものだ。

 でも、そうなるとあの幽霊屋敷か。

「やるか。」

 うん、倒そう。

 そうすればすっきりするんだし。

「賛成、なんだかびっくりさせられてたお返ししたいし。」

 そういわれると八つ当たりみたいにも聞こえる。

 いや、まあ、結局何かしらの事情があるにせよ、話し合うつもりがあるかどうかは倒すときに聞いてみればいい。

 あの感じからすると、囁くものみたいだから聞くだけ無駄な気はするけども。

「とりあえず、レイナさんのところ行こうか?

 退治する日が決まったら、迎えに行くよ。」

 まあ、泊めてもらえることが前提で話しているけど、割と仲が良かったし問題ないよな。

「なんだか侯爵のご息女に、気軽に頼りすぎな気もするけど。」

 ベネットからすれば身分の差が気になるところなのかな。

 いまいち感覚がつかめない。

 まあ、相手の身分を知る前だったから気楽に付き合えているのかもな。

 出会いが、もしドレス姿でばっちり化粧をした状態であったなら、今のような接し方にはなってなかったかもしれな。

 でも、ベネットの遠慮具合は俺の違うような気もするし。

 俺がなんか大きな勘違いをしてなければいいなぁ。

 あー、でも突然訪ねられたら困るか。

 一応手紙を出しておこう。

 

 スクーターを二人乗りすることにもすっかり慣れてしまった。

 いつもとは違いベネットを乗せてるわけだけど、特に大きな違いはない。

 まあ、体の大きさとか腕の長さとかいろいろ違うわけだけども。

 そういうことを感じるくらいの余裕はあった。

 ちなみに、レイナに手紙を出したが返答としては、食事の提供をしてくれるなら構わないという返答だった。

 いや、それくらいはお安い御用なわけだけども。

 ちょっと普段の食事をどうしているのか気になってしまった。

 米や味噌、醤油なんかは送ってくれると言っていたが、まともに料理出来てるんだろうか?

 いや、まあ俺が勝手な偏見を持ってるだけかもな。

 ちゃんと調理しないと食べられないものだし。

 到着して、エンジンを切るといつものように扉から顔を出している。

「リア充爆発しろ。」

 日本語で、いきなり罵倒された。

「それ言いたかっただけだろ。」

 バレたかとレイナはにっこりと笑った。

「いや、正直ね。

 私、ベネちゃんには肩入れしちゃってる。

 幸せになって欲しいのよ。

 本人には言いにくいけど。」

 日本語なら通じないと思って本音を吐露し始めた。

「それは本人に聞かせてあげるべきでは?」

 俺はあえて帝国語で返す。

「いやですー。

 とりあえず中に入って。」

 レイナは帝国語に戻して、入室を促した。

 以前のように玄関を潜ったら、即書斎みたいな部屋じゃない。

 ちゃんとリビングがあって、日差しが入っている。

 奥の方は依然と変わらず本だらけなのだろうけど、こうして空間を分ければ圧迫感は大分薄れる。

「お久しぶりです。

 その、いろいろありまして。」

 ベネットは若干恐縮しながら頭を下げる。

 そういえば、俺はレイナにベネットの敵討ちが終わったことを知らせてはいない。

 でも、さっきの口ぶりからするとある程度知ってそうだったよな。

「一応噂になってるから知ってるよ。

 モーダルから近いからね。

 あと1、2週間したら、君たちの新刊が出るんじゃないかなぁ。」

 レイナはにやにやしながら、紙質の悪い本を俺たちに見せてきた。

 例のロマンス小説だろう。

 しかし、その本の俺は相当に性格が悪い。

 もはや悪役と言っていいレベルだ。

 今回の顛末がどう料理されるのか、ちょっと心配ではある。

 いや別に俺が謗られてるわけでもないから、気にする必要はないんだけども。

「そういえば、髪染めたんだね。

 以前の髪色もよかったけど、その色もお人形さんみたいで似合ってる。」

 それは、褒めてるのか?

 ちょっと、俺が髪染めしたから変だと思われてるなら俺の責任なんだよな。

「ありがとうございます。

 ヒロシに染めてもらったから、その、嬉しいです。」

 ベネットは素直に受け取ったみたいだけど。

 ううん。

「やっぱリア充じゃん。」

 そのにやにや笑いはやめなさい。

「あの、”リア充”って何ですか?」

 そりゃ繰り返し言われてたら気になるよな。

「んー、元の意味は妄想とかじゃなくて実生活が充実している人のことを指していて、幸せそうで羨ましいって意味なんだけど。

 そこから転じて、私みたいに妄想で生きてるのを見下す人間を指すようになったんだよ。

 あー、容姿に恵まれなくてお可哀そう、背が小さいのはご病気なのかしら。

 彼氏もいなくて、寂しいんじゃなくて?

 そういうのに、”リア充”滅びろとか言うようになったわけ。

 まあ、冗談だから真に受けなくていいよ。」

 あ、はい。

 相当恨みを抱えてるんだなぁ。

 そりゃベネットも微妙な反応になるよ。

 決してレイナが不細工だとは思わない。

 でも、わざとなのか性格故なのかずぼらな格好をしてるしな。

 そういう相手にそんなことないよ美人だよと言ってもこじれるだけだ。

「まあ、とりあえず祝福してもらっているという事だから、本当に気にしなくていいよ。」

 俺はベネットの背中を撫でる。

「あ、ありがとう、ございます?」

 そりゃ疑問形にもなるか。

「それで日本語の勉強をしたいって話だけど。

 割と難しいよ日本語。

 なんで勉強したいのかな?」

 レイナに言われて、ベネットは俺を見る。

「ヒロシのいた世界のことを知りたかったんです。

 それなら、ヒロシの世界の言葉を知っていた方がいいと思って。」

 まあ、いずれ分かると思ってたけど、レイナは今の言葉で気づいたようだ。

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