1-18 見苦しいけどおっさん泣きました。
今日も今日とて、山羊の内臓を洗浄だ。
水が豊富に使えるうちに処理をしないと食えない。
俺が来るまでは、水場がないかぎり内臓は捨てることになっていたらしい。
と言うか、まあ、なるべくなら水場でまとめて解体が基本で、道中潰すのは緊急時の対応だったのだそうな。
俺がいれば、内臓を腐らせずに保存できるので、この間の解体は例外だったそうだ。
とはいえ、内臓を貯めっぱなしと言うわけにはいかない。
きっちり洗浄して、他のキャラバンに売りつけられるように準備しないとな。
大所帯のキャラバンなら、足の速い内臓も処理しきれる。
水場なら他のキャラバンと出会う可能性も高いので、まとめて捌いて内臓を売りさばくわけだ。
まあ、売りさばくっていっても手にはいるのは貨幣じゃなくて生産物なわけだが……
とはいえ、取引相手としては他のキャラバンというのは貴重な存在だ。
殖えすぎた家畜を引き取って貰ったり、逆に足らない家畜を融通して貰ったりもできる。
敵対してなければ、お互い損のない関係だ。
まあ、敵対してるとやっかいなわけだが……
ハンスはオークだし、ゴブリンのヨハンナもいる。
なので、友好的なキャラバンはそんなに多くない。
どうしても、そりが合わない連中はいるらしい。
今日まで、そういう相手と会わなかったのは幸運らしいが、逆に友好的なキャラバンとも会っていない。
広い無主の土地では珍しくないそうだが、行商人とやらも、いつ来る事やら。
まあ、焦っている様子がないので、俺としても危機感はない。
むしろ、敵対部族が来て追い出されたりしないと良いなぁ……
しっかし、足踏み洗いしてるだけなのに能力値ダメージは回復しない。
ちょっとでも動いてると駄目なのか……結構やっかいだな……
何か別の手段で回復する手段はない物か……
そういえば、昨日は30リットル近く超純水にできたのは何でだろう?
確かにぶっ倒れたはずだから、0にはなったんだろうが……
能力値ダメージに換算すれば、30点近いダメージになるはずだ。
少し疑問が湧くな。
仮説として考えると、マイナスにいかないのか……
それともマイナスになっても死んだりしないのかな?
能力確認のウィンドウを開いて調べてみよう。
とりあえず、能力値の部分にフォーカスを当て、コメントを見る。
割と雑多なことが書かれているが、目的の能力値ダメージについて確認してみた。
恒常的なダメージと一時的なダメージは違うらしく、恒常的なダメージは元の数値が下がるらしい。
治療によってでしか回復できないので注意が必要。
しかも、0になったら死んだり廃人になるらしい。
おっかない。
廃人になると、一般的な治療では回復しないとかなんだよ。
いや、まあそれでも耐久力が0になると、死ぬのか……
それならまだ廃人の方が望みはあるかな。
んで、一時的なダメージは割とちょっとしたことでも減少するらしいけど、こっちはマイナスになっても気絶するだけらしい。
つまり、昨日はマイナスになったので気絶し、睡眠状態に強制的に移行。
8時間ほどの睡眠でマイナス状態から脱却。
その後、寝てたり休んでいたので全快したって事ね。
なるほどつじつまは合う。
と言うことは上手いこと睡眠時間に合わせれば、超純水をもうちょっと効率的に手に入れるかもしれない。
マイナスになっても、気絶までタイムラグあるみたいだしな。
しかし、タイムラグはどのくらいなんだろうか?
そこは、何でだか記載無いなぁ……
「ヒロシ、寒くないかい?」
不意にヨハンナが声をかけてくれた。
どうやらいつの間にか足踏みは十分なくらいに洗浄が進んでいたらしい。
「あぁ、大丈夫だよ、ヨハンナ。とりあえず、次は選別?……」
内臓も食べられる部分や、食べられない部分、余計な脂身をとる作業なんかがある。
今日は、それも手伝おう。
その前に、ため池の水を不純物と分離して水場に戻す。
やっぱ便利だなぁ……
「ヒロシがいてくれて助かるよ。ちょっと休んでても良いんだよ?」
ヨハンナの言葉に甘えたくなるけど、ちょっと話したいこともあるしな。
「いいよ。それよりヨハンナ。俺が頃合いを見てキャラバンから離れるって言うのは話してたかな?」
多分話してた……
と思うんだよ。
だって、ハンスと同じく、このキャラバンの年長者だしな。
多分、みんなもヨハンナのことは一段上に見ていると思う。
何せ治療役だし、知恵袋でもある。
見た目は怖いけど、凄く優しいしな。
このキャラバンで怒鳴られたことなんか俺は一度もない。
みんな優しい。
そんな人に話さないわけがないと思うんだ。
「知ってるよ。」
静かに笑いながら頷いてくれた。
「それにね。あんたはこんな小さなキャラバンにいるような器じゃない。」
続く言葉に俺は、ちょっと戸惑った。
「器……ね……」
何とも言えない気分だ。
「あんたは、自分の力を借り物だと思ってるんだろう?」
ヨハンナには、お見通しか。
俺は素直に頷く。
「借り物だって良いじゃないか。仮に神様に取り上げられたら、その時はその時さ……
生きていれば、仲間だっているだろう。
もちろん、私も仲間だよ。
まあ、頼りないばあちゃんだろうけど、いつだって私はヒロシの味方だよ……」
くそう、泣きそう。
いい年したおっさんが何を涙ぐんでるんだろう。
いや、もう今更恥ずかしいとか言えないよな。
どうせ俺は駄目人間だ。
恥ずかしいも何もないだろ。
「ありがとう……」
それが言えれば十分だよな。
とりあえず、何も知らない俺を受け入れてくれたキャラバンのみんなには返せないほどの恩がある。
きっと、ここに来る前の俺だったら何も返せなかっただろう。
借り物だろうと良いじゃないか……
たとえ何分の一しか返せなくても、恩を仇で返すよりよっぽど良い。
後は、仇にならないように気をつけるだけだ。
諦めなくていいって事が、こんなに素晴らしいことだなんて思わなかった。
「何、べそかいてんのヒロシ?」
不意にミリーが顔をのぞき込んできた。
びっくりするだろ!!
「ヨハンナの言葉が嬉しいんだよ。分かれよ。」
山羊の内臓触ってるから、油まみれで涙も拭けない。
「変な顔……」
けたけたと陽気に笑いながら、布で俺の顔をぬぐってくれた。
不意にみんな黙ってしまう。
何か話さなきゃいけないかなぁ……
俺、こういう空気苦手。
「そうそう、ローフォンの所と、アジームの所がやってきたから、取引できるかもだって!」
所ってなんだ?
キャラバンのことか?
取引っていってるんだから、多分そうなんだろう。
ミリーの様子からすれば、敵対しているところでもないんだろうな。
しかし、他のキャラバンか……
どんな連中なんだろう。




