7-23 狭い部屋に3人は厳しい。
イチャイチャしている所を書いている間はとても楽しかったです。
グラスコーが戻ってきたけど、さすがに疲れもたまっていたらしくギルドへ行くのはもう少し後になってしまった。
明日は物件巡りをしようかな。
工房を作りたいとも言っていたし、そういう場所も探しておくべきだろうし。
とりあえず、工房向きの物件については大家さんに手紙を書こう。
その上で見学の許可を貰っている家を巡って、他にいい建物が無いかを見て。
結構忙しいな。
とりあえず、明日は事務所に顔を出さないことはライナさんには伝えてある。
倉庫を出ると、警備の人が頭を下げてくる。
あー、そういえば、あのいざこざ見られちゃってたなぁ。
何も言わずに見守ってくれてたけど、結構恥ずかしいところを見られてしまった。
まあ、言い触らされたりはしないよな。
ともかく後はベネットを居留地まで送らないと。
「帰ろうか?」
そう尋ねるとベネットは小さく頷く。
「今日はヒロシが住んでるところに泊まりたい。」
ベネットの提案に俺は戸惑う。
「いや、狭いし、カールもいるし、そのマーナも……」
いや、まじめにベネットが寝る場所がない。
「いずれ一緒に住むわけでしょ?
家族のようなものじゃない。
それとも、カールを大家さんに任せちゃうの?」
いや、そこで責任放棄をするつもりはないけども。
いや、そうじゃない。
狭いから寝る場所がないという話だ。
「部屋の大きさの問題。
それとも俺が廊下で寝ればいい?」
まあ、別に寝袋があれば廊下で寝られなくもない。
「二人で同じベッドで寝ればいいでしょ。
そうやって、すぐ逃げる。」
いや、逃げているわけではなく。
カールが居るところで自分の理性と闘わないといけなくなるのはちょっと。
「駄目なの?」
そういわれると、逆らえない。
「分かったけど、狭いのは事実だから窮屈でも文句を言わないでよね。」
ベネットは嬉しそうに笑って頷いた。
出店のおかずをいくつか見繕い、部屋へ戻ってきた。
「おかえり、ご主人様。」
カールがベネットを見て固まる。
なんでここにいるんだという気持ちだろうか?
「カール、私もヒロシの奴隷になったの……だからよろしくね……」
ベネットがしゃがみ、カールと目線を合わせてとんでもないことを言った。
流石にそれはやりすぎだ。
こつんと頭をつっ突く。
「ベネットさん、さすがに冗談でも許しませんよ?
カール、奴隷じゃないからな。
俺の恋人だから、ちゃんと接してくれ。」
カールは、どう飲み込めばいいのか分からず視線を彷徨わせている。
「つがい?」
久しぶりに、カールはゴブリン語をしゃべる。
「そう、つがい。」
俺はカールのいう事を肯定してやった。
「分かった。奥様!よろしく奥様!!」
今度は帝国語でしゃべる。
「奥様って、貴族のご婦人のことなんだけど。
どうしよう、ヒロシ。」
俺は、プイっとそっぽを向いた。
「やだ、怒ってるの?
軽い冗談のつもりだったのに。」
いや、そこまで怒ってるわけじゃないけど。
「俺の性癖については話したでしょう?
冗談でも本気にしたらどうするんですか?」
いや、まんざらでもない顔をされても困るんだよなぁ。
「もうやりにくいなぁ。
妄想と現実は切り離そう?
思わず敬語に戻っちゃったじゃないか。」
やばい、なんか本当に手玉に取られている気がする。
ちょろいよなぁ。
そんなやりとりもマーナには関係ないらしく、ベネットの足にすりすりしていた。
なんだ、俺よりベネットの方が好きなのかマーナよ。
まあ、仲が悪いよりかはいいんだけども。
ともかく食事の準備をしよう。
椅子が1つ足りないので、商品の椅子を取り出す。
本当はこういう時に使用するのも問題な気はするけど、あとで使ったことを言って買い取ろう。
「……なに?もしかして、俺の膝の上の方がよかった?」
椅子を取り出したのを見て、ベネットが切なそうな顔をしてたから聞いてみた。
「ううん、そうじゃないけど……うん……」
そういいながら、ベネットは椅子に腰かける。
いい椅子買っとくべきだったなぁ。
全然彼女を受け入れる体制が整ってない。
「ごめん、ちゃんとした椅子を買っておくよ。
お姫様には似つかわしくないよね。」
冗談めかして言ってみた。
「もう、せっかく髪を染めたのに、またお姫様扱い?」
むしろ、より派手になってお姫様っぽく見える。
目立たないことを目標とするなら、もう少し変装が必要だな。
とはいえ、可愛さを損ないたくないし。
眼鏡って、でもそれはそれで可愛くなる気もするし。
いや、でも印象は変わるかなぁ。
「ねえ、食事にしましょ?
色々妄想を膨らませてくれるのはいいけど。
ちょっと怖い。」
やばいやばい。
嫌われたら元も子もないな。
「ごめん、とりあえず食べようか?」
料理を取り出し、買い置きのパンを出す。
「いただきます。」
嬉しそうにカールが食事を始めた。
「そういえば、マーナには食事を出してあげないの?」
不思議そうにベネットが訪ねてきた。
「受け売りで正しいか分からないけど、群れで暮らす動物は飼い主から食事をしなくちゃいけないらしい。
だから、俺達が食べ終わった後で上げてるんだ。」
もしかしたら間違ってるかもしれないけど、飼い方が分からない。
誰か助けてくれないかなぁ。
「そっか。詳しいんだね、ヒロシ。」
いや、詳しかったら受け売りなんて言わないから。
「いや、詳しいんじゃなくて全部手探りだよ。」
誰か狼をうまく飼いならせる人が居れば、教えを請いたいくらいだ。
「そういう知識って、やっぱりあの《投影》みたいなもので見たりするの?」
あぁ、動画のことか。
「そうだよ。
普段の生活を記録しておいたりして、あとで見たりもできてたんだ。
他にも遠くの人と、文章でやり取り出来たり。
丁度ベネットと手紙をやり取りしているのと似たようなことが、誰とでもできたりしたんだよ。」
想像が追い付かないのか、ベネットを食事をしながら首をひねる。
「やっぱり、ヒロシの世界のことも知っておいた方がいいのかな。」
ふと、元の世界に戻された自分を想像してしまう。
「もし俺が元の世界に戻されたら、どうする?」
何がきっかけで戻されても文句は言えない。
「迎えに行く。」
即座に返されてしまって、俺は戸惑ってしまう。
「前にも話したけど、元の世界での俺は何も持ってないよ?
お金もないし、地位もない。
他人のお金で暮らしてたような奴だし、こっちよりも老けてるはずだ。」
ちょっと意地が悪いかな。
もしベネットが俺の世界に来てくれたなら、改めて頑張ろうとは思うけども。
「いいよ。
私が養ってあげる。」
ベネットが自信満々に答える。
「だから、そんなに寂しそうな顔をしないで。」
そんな顔してたのかな。
ベネットの言葉に戸惑う。
俺は、少し自分の顔を撫でる。
ベッドに横たわり、俺は気を紛らわせるためにサービス一覧を眺めていた。
まさか、カールがいる部屋でイチャイチャはできないし。
「ねえ、ヒロシ何を見ているの?」
あぁ、そうか。
ベネットは俺が何かを見ている仕草を何度も見ているから、気づいちゃうか。
モニターを一緒に覗いたりもしたしなぁ。
でも、この映像ってベネットにも見せることはできるんだろうか?
「んー、お金を払っていろんなサービスを受けられる能力なんだけど、それを選ぶ一覧があるんだ。
見れるかな?」
ちょっと試しにベネットに俺が見ている画面を指し示す。
「あ、見える。
ちょっと待ってね。」
ベネットはイヤーカフを付けたり外したりして確かめていた。
「着けていると見えるけど、外すと見えなくなっちゃう。」
なんだか楽しそうだ。
「ちなみに文字はどうなっているのかな?」
一応俺には説明文が日本語に見える。
形としてとらえようとしても別の文字には見えない。
「フランドルの文字に見えるわ。
でも、こんなにいっぱいあると読み切れないね。」
ふと、ベネットにも購入を委任できたら楽なのに、と思ってしまった。
”売買”のレベルアップがあれば、そういう能力が手に入るだろうか?
まあ、しばらくは様子見だなぁ。
でも、画面が見えるならウィンドショッピングができるかもしれない。
「ねえ、ベネット、欲しいものない?」
通常の物品を変える画面に切り替える。
「ちょ、ちょっと待って……いきなりすぎるから……私が操作できない?……」
そうだな、自分で操作できた方がいいよな。
出来るんだろうか。
ちょっと管理権限を委譲するイメージをしてみる。
マウスやキーボードを渡す感じだろうか。
画面が右往左往する。
「え?ちょ……なんか文字が空中に浮いてる……なにこれ?……」
キーボードのイメージが浮いてるみたいだな。
「まず、あの四角い枠を見て。」
俺は検索バーを指さす。
フォーカスがあったことを示すようにテキストカーソルが点滅し始めた。
「そうそう、そしたら目を離して平気、そこで浮いている文字に触れてみて。」
どうやらこちらの文字が打ち込まれている。
俺も文字の勉強をしているから、幾分は読める。
でも、何を探しているんだろう。
あぁ、指輪か。
「じゃあ、文字が打ち終わったら、そこの横、これを押そうと思ってくれる?
実際に押さなくてもいいから。」
なかなか難儀するなぁ。
俺も最初、指で押してたし。
「うわ、いっぱい出た。」
検索結果の件数と、ページ数。
その下には、いろんな指輪の画像が表示される。
「え?何、これ……魔法の指輪?……」
うん、値段がピンキリだからなぁ。
高いのだと、魔法の指輪と同じくらいする。
「いや、ここにあるのは全部普通の指輪。
俺の世界の物価はとても高いんだ。
その分、お金持ちはとんでもないお金持ちだったりするから、こんな値段になっちゃうんだ。」
さすがに億もする商品は見当たらない。
とはいえ、野放図に買いまくられたらすぐ破産するレベルの金額が並んでいる。
「高すぎる。
ちょっと、これで買うのはやめにしよう。
怖い。」
これ欲しいとかあれ欲しいとか言われなくて、ほっとした。
お手頃な値段なら別にいいんだけど、上限知らずだからなぁ。
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