7-21 そわそわしながら彼女の帰りを待っている。
リア充爆発しろ。
今日ベネットが帰ってくる。手紙はもらったし、トランシーバーの反応もある。
俺は門の前でそわそわしっぱなしで、早く来ないかな、どこかに見えないかなという感じだ。
見えた。
馬車に乗った一団の中にベネットが見える。俺は大きく手を振ってしまった。
隣に団長がいるって言うのに、なんか恥ずかしい。途中で手を振るのをやめてしまった。
馬車を途中で降りてベネットが駆け寄ってきた。
「お、お帰りベネット。」
「ただいま、ヒロシ。」
顔がにやけてしまう。
「もう、笑わないでよ。
ヒロシだって、あんなに手を振ってたのに。」
いや、その駆け寄ってきたことを笑ったわけじゃないんだけども。
「ごめん、なんだか恥ずかしくって。」
団長が後ろでにやにや笑ってる。
「ヒロシ、お前は幸せ者だぞ?
馬車の中でずーっとヒロシに会いたい、ヒロシに会いたいってうるさかったくらいだ。
よっぽど惚れられてるな。」
ベネットは言ってない、そんなに言ってないと慌てて否定した。
そんなにってことは少し言ってくれたってことだよな。
なんだか嬉しくって仕方がない。
「まあ、とりあえず居留地行くか。
住む家は探してんのか、ヒロシ?」
そうだ家のことだ。
早く決めないとなぁ。
「一応探してはいます。
候補は2つですけど、なかなか決め切れてないんですよ。」
居留地へと足を運びながら、俺は団長に話した。
ベネットは俺の腕にしがみついてきた。
「どんな所か教えて。
私も住むんだから、勝手に決めちゃだめだよ?」
まあ、そうだよな。
「大家さんが紹介してくれたところだけど、一つは壁の外。
もう一つは、壁の内側なんだけど幽霊付きらしいんだよね。」
幽霊付きかぁ。とベネットは少し微妙な顔をする。
まあ、誰も好き好んでそんなところに住みたくはないか。
でも、壁の外はなぁ。
「家賃は、同じ?」
俺は頷く。
「だとすれば、やっぱり壁の内側の方がいいよね。
幽霊付きって言っても、倒しちゃえば問題ないし。」
うん、そうではあるんだけども。
この世界の事故物件はちょっと面倒くらいの感覚なんだなぁ。
いや、知ってはいたけど、改めてそういう反応をされると困惑してしまう。
「幽霊は面倒だぞ?
切っても切っても、現れる奴もいるからな。
ぶった切って、おしまいの奴らならいいけども。」
どうやら、団長は幽霊を切れるらしい。
いや、呪文を使えば実体を持たない相手も攻撃できるけども。
なんだか呪文を使わなくても団長なら切れる気がするのは気のせいだろうか?
「駄目そうなら教会にお祓いを頼まないとだね。」
なんだか幽霊付きの家で決まってしまいそうだ。
「いや、一応見学してから決めよう。
壁の外でもベネットが気に入る家かもしれないし。」
俺がそういうとベネットはにっこり笑う。
「うん、分かった。
壁の外なら、大きい声出しても平気だもんね。」
後半は小声で、これの胸元でささやいた。
俺は思わず目をそらしてしまう。
恥ずかしすぎる。
なんだこの会話。
ベネットの部屋のベッドをしまい、風呂桶を取り出す。
濡れてもいいようにベネットには肌着になってもらっている。
いや、その。
髪を染めるためには、水を使うんだからしょうがない。
泡で染められる染料を選んだので、ただコームに出して髪を梳くだけなんだけど。
ある程度時間を置いたらお湯で流さないといけない。
なるべく濡れないように注意はするけど、完全に濡らさないようにするのは不可能だ。
だから、その……
いや、本当にドキドキする。
「しばらくかかるからじっとしていて。」
ベネットは俺の言葉に静かに頷く。
「ねえ、ヒロシ。
私が居なくて寂しくなかった?」
どうだろう。
ベネットのことを考えてたり仕事のことをいろいろやっていたりで寂しいと思う間もなかったような気もする。
「居ないと思う瞬間がなくて、あれこれやって失敗したなって思うことはあったよ。ベネットのこと分かってあげられてるかなって不安になったこともあったけど。
寂しいとは感じなかったかな。」
むすっとされてしまった。
やっぱり寂しいと言うべきだったのかな。
「嬉しいけど、それは他の女の子に言ったら許さないからね?」
喜ばれた、のか?
女の子の気持ちはよく分からない。
「わ、分かった。」
とりあえず頷く。
今度はうれしそうに笑ってくれた。
まあ、喜んでくれてるならいいか。
しばらく指を絡めたり、脇を突かれたりしながら時間を過ごす。
そろそろ染まっているだろう。
ゆっくりお湯を操作して泡を落としていく。
あれ?
こんな色だったけ?
思わず俺はパッケージを眺めてしまう。
普通の茶色の染料だ。
目立たない色になっているはずなんだけどな。
「ねえ、ヒロシ。
この色って、ちょっと派手じゃないかな?」
鏡に映る自分の髪に、ちょっとベネットも困惑気味だ。
一見すると赤髪にも見える。
でもどちらかというと、赤銅色だ。
ベネットの白い肌によく似合う気がする。
でも、派手だよなぁ。
「ごめん、なんでこうなったかよくわからない。」
なんでだろう。
首をひねることしかできない。
「変かな?」
少し不安そうにベネットは訪ねてきた。
「いや、似合ってるよ。
可愛い。」
銀髪も可愛かったけど、明るい色も似あってる。
つまりどっちも可愛い。
ベネットはちょっと頬を赤らめる。
「それならいいけど。」
髪をいじりながら、ベネットは鏡でチェックし始めた。
耳が見える。
このタイミングで出すべきかなぁ。
「ねえ、ベネット。貰ってほしいものがあるんだ。」
俺はイヤーカフを取り出す。
「え?指輪じゃないの?」
あー、いや、それは改めて二人で決めたい。
「いや、それは一人で決めちゃ駄目かなって。
それとこれは実用品。
あの時、かばんが近くに落ちてたからよかったけど、いざという時に手が届かないとか嫌だから。
こっちにもつないでおいた。」
なるほどとベネットは納得したようだ。
「でも、可愛いかも。
ありがとうヒロシ。」
早速とばかりに耳に着けてくれた。
やっぱり似合う。
よかった。
「不安だったのは、これを気に入るかどうかってこと?」
俺はベネットの言葉に頷いた。
「そっか。
わたし、このイヤーカフ好きよ。」
なんか嬉しさを言葉にできない。
目の前がくらくらとする。
「でも、目立たないようにするためなら、もっと見えない場所もある……かなぁ……」
それは、その。
考えたけど、考えたけどさ。
「今の無し!」
「はい。」
俺はベネットの言葉に素直に従う。
とりあえず、服を着てもらい、風呂桶をしまってベッドを出す。
あのままだと俺が耐えられない。
流石に暑くなるだろうけど、ベネットのために買ったディスプレイスメントコートも取り出してみた。
それと、ブラインドサイトゴーグルもだ。
「これは、さすがに暑苦しくないかなぁ。
まあ、真夏でも戦場なら鎧を着てなきゃいけなかったし、これくらいは我慢できるけど。」
使い方を説明しているので、位置をずらしたり、戻したりしながら、ベネットは鏡の前でくるくる回る。
「うん、あとで気づいた。
ごめん。」
でもよく似合ってる。
「すぐ着れるからいざという時に着るって言うことでいいよね?」
そういいながら、ベネットはブラインドサイトゴーグルを身に着けた。
「うーん。
鏡は見えなくなっちゃうんだね。」
あ、そうか。
鏡面だと単なる板になってしまう。
そこも難点と言えば難点か。
「でも、顔を隠すのにはいいかも。」
どうかなといった感じでベネットが顔を寄せてきた。
「そ、そうだね。」
俺は、ちょっと恥ずかしくなって顔をそむけてしまった。
なんだこの童貞臭い行動は。
だめだ。
本当に情けないなぁ。
「……ごめんね。
なんだか、からかいたくなっちゃったから。
でも、ちょっとヒロシ、可愛すぎる。」
喜ぶべきか?
いや、可愛いと言われて喜ぶ男はいないよなぁ。
「勘弁してください。」
俺にだって自尊心くらいある。
「うん、ごめん。」
嫌がっているのは、分かってくれてるみたいだから許そう。
「なんだか熱くなっちゃった。」
ベネットはコートをインベントリに納めた。
やばいなぁ。
言葉だけでも反応してしまいそうになる。
「ところで、ヒロシ。
しばらくは、私ヒロシの専属、なんだよね?」
その、専属ってところを強調するのはやめろ。、
「あ、いや……
お仕事ついて行った方がいい?って聞こうと思って。」
いや、絶対違うだろ。
もう、なんだか弄ばれてる気分だ。
「そりゃもちろん、着いてきてもらわないと。」
ちょっと勇気を出して言ってみた。
「うん。分かった。」
嬉しそうにベネットは笑う。
「午後は、ジョンと会う予定だから、そろそろ出ないと。」
お昼を済ませて、事務所に行かないとな。
「他に予定はない?」
他に予定。
何かあったかなぁ。
相変わらず、キャラバンのみんながお金を使ってくれない件は解決策が見いだせないまま放置してしまっている。
服とかいらないかと聞いても、必要な道具が無いかと聞いてもあまり色よい反応はない。
今、キャラバンのみんなはどうなってるんだろうか?
まあでも、これは予定じゃないんだよなぁ。
「悩みはあるよ。
キャラバンのみんながお金使ってくれないんだ。」
相談というわけじゃないけど、困って入る。
「あぁ、分かる。
私も仕送りしてたんだけど、丸々残っててびっくりした。」
ベネットの所もなのか。
なんでこう、使ってくれないんだろうか?
やっぱり物を送るのがいいのかなぁ。
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