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7-18 事件の後始末が必要だ。

正直なところ、とんでもない力を持っている相手に普通の人って怯えると思うんですよね。

 エントランスに向かうと早速職員さんたちがやってくる。

 俺の用事は契約なのだから、早く話を進めたい。

 椅子を勧められたので座らせてもらった。

「申し訳ありませんでした。」

 別に頭を下げてもらう必要なんかないんだけども。

「分かりました。

 今後は注意してください。」

 あまり冷たくしない方がいいよな。

 なんか泣きそうな顔をされてるのは何だろう。

「怒ってませんよ。

 何事もなかったんだから、許してますよ。」

 念のために言っておこう。

 それに早めに仕事を済ませたい。

「それと今回は仕事の依頼に来たんです。

 話を進めさせてもらってもいいですか?」

 若い職員さんは、頭を下げてどこかに行ってしまう。

 別に彼でもいいんだけどな。

「書面を拝見させていただきます。」

 いつもの職員さんは取り乱していない。

 やっぱり職歴長いと安定しているよな。

「3か月更新という事でいいでしょうか?

 人員としては2名体制、4交代を考えさせていただきたい。」

 8人か。

 見積もり通りと言えば見積もり通りだ。

「書面通りでお願いします。

 金額についても問題ありません。

 ちなみにいつから、警備可能でしょうか?」

 それなりの人数を関わらせるのだから、それなりに時間がかかるよな。

「1週間の猶予をいただければ、問題ないかと。

 その間については、こちらから別に人員を出した方がよろしいですか?」

 アルバイト用意してくれる用意もあったのか。

「いえ、別の傭兵団に依頼を出しています。

 そこまでしてもらえるとは思ってもなかったので。」

 やばい、これ嫌味に聞こえるかな。

 思わず、沈黙が場を支配してしまう。

 参ったなぁ。

「いや、その……

 すいません。」

 職員さんは驚いた顔をする。、

「いえ、何も謝られることはありません。

 お伝えし忘れていたこちらの落ち度ですので。」

 落ち度というほどのことじゃないよな。

 多分、そういう慣例があったんだろう。

 それを知らなかった俺が悪い。

「不慣れなもので……

 あと、あの後、いろいろとご迷惑をおかけしてましたよね。」

 後始末は全部、トーラスたちにまかせっきりだ。

「迷惑などありません。

 むしろ、あれほど鮮やかに解決していただけるとは思ってもみませんでした。」

 鮮やかと言われるけど、結構行き当たりばったりだったんだよなぁ。

 たまたま運がよかっただけだ。

「賊の一人は、かろうじて息があったので聴取も取れました。

 ご覧になられますか?」

 えっ、生き残りが居たの?

 それは知らなかった。

「あぁ、いやその……

 差支えがなければ。」

 職員さんは準備していたのか、調書をまとめたバインダーを渡してくれた。

 どうやらベネットに手下を散々やられて、ドライダルは追い詰められていたようだ。

 貴族相手に殺しや誘拐を依頼され、それで活動していたようだが、何かあればベネットに阻止されるという事が多かった。

 しかも、銀髪の剣姫と持て囃されるのも気にくわなかったらしい。

 そういう意味では、ベネットの自己プロデュースは上手くやれてたって事でもあるんだな。

 問題は俺がそのことに全く気付かずにベネットを罠にかけられていることに備えられてなかったことだ。

 他にもいくつか記述がある。

 とある村を占拠していて、いくつかの家族を洗脳して飼っているというのは、ちょっと驚きだった。

 麻痺毒や麻薬の類を持っていたらしく、精神的にも追い詰めてドライダルのいう事を何でも聞く集団を形成している。

 そういう内容だけど、どこからそんな金が出てたんだろうか?

 とても、蛮地からやってきた男一人でできる規模を超えている気はする。

 裏にそれなりに権力を持った奴が居そうだな。

 ベネットも洗脳して手駒にするつもりだったと見た時には、俺の方が罪悪感を感じてしまう。

 ある意味で俺が今ベネットを洗脳しているような状態な気もしなくもない。

 その上、実際には実行してないにしろ読んでいると、お前もこういうことがしたいんだろうと言われているようで怖かった。

 手口がとても、俺の妄想に似すぎている。

 ただ、少し違いがあるとすれば、そういうことをする奴は洗脳した相手にぶち殺される末路であるべきだと俺は考えている点だ。

 ドライダルとかは、むしろそこは上手くやって好き勝手やれることを目指していただろう。、

 そこは俺の妄想とは少し違う。

 今回は、俺の妄想の方によってくれてありがたかった。

 とはいえ、そんな村があるとしたら今後そこに暮らしている洗脳された人々って言うのはどうなるんだろうな。

 少し気になってしまう。

 洗脳されているだけに、ドライダルの悪事にも加担しているだろうから決して明るい未来ではない。

 ちょっと気をもんでしまう。

 他に気になる記述は、ドライダルの家族についてだ。

 どうやら、妹がいるというのは口から出まかせらしい。

 時には妻がいると言ったり、母がいると言ったり、何かと命乞いをするときには親族の存在をにおわせる。

 場合によれば、洗脳した相手を家族だと偽らせて、相手を騙すというのもいつもの手口だったようだ。

 証言した男も、しばらく姉だと言っていた相手が本当に姉だと思っていたが、人質にされたときにあっさり見捨ててびっくりしたと書かれている。

 まさかお前まで騙されてるとは思わなかったと笑うドライダルが恐ろしかったという感想には頷かざるを得ない。

 もっと不愉快になるような証言もあっただろうけど、おそらくそこは省かれてるんだろうな。

 それでも見ていて、ちょっと疲れてしまう。

「どこまでが真実であるかはわかりません。

 一応アライアス伯には通報されておりますので、男は縛り首になるのは間違いないとは思いますが。

 村というのが、どこであるかは少しあやふやです。」

 それはたぶん、俺は分かるんだよなぁ。

「おそらく、調べられます。

 その男の持ち物はありますか?」

 職員さんは少し困惑気味だ。

「魔法ですか?」

 職員さんは人を読んで、持ち物を持ってくるように指示を出してくれた。

「あー、えっと、そうですね。

 《念視》ですよ。」

 正確には違うんだけども。

 そうだと言っておいた方が、話が早い。

「流石です。

 一流の魔術師でもいらっしゃるようだ。」

 少し恐ろしいものを見るような目で見られてしまった。

 いや、これは仕方ないか。

「アルトリウス様のご教授あったればこそです。

 とはいえ、1日に何度も使えるわけじゃないですけどね。」

 正体不明の力は人を怯えさせるものだ。

 それに形を付けて、制約があるように思わせておいた方が相手も安心ができる。

 実際は無制限だから、化け物って言われても仕方がないわけだけども。

 まあだからって自分が化け物ですって言えるほどの根性はない。

 だから俺は偽装をした。

「ところで、ヒロシさん。

 こちらからお伺いすべきだったのですが、実はヒロシさんに渡すべきものがあったんです。」

 職員さんは改まって、証書と革袋をテーブルに置いた。

 なんだろうか?

「ベネットの救助をしていただいた謝礼と賊どもを倒した報奨金です。

 賞金首でしたので、こちらの2万ダールが金貨で出されています。」

 つまり革袋の中身は金貨か。

「そして、こちらが救助の謝礼です。」

 額面は3万ダールでとても高額だ。

 しかし、なんかこれは受け取れないな。

 特にベネットの救助は俺の望みで行ったことだ。

「まず、こちらの方は受け取れません。

 あくまでも、自分の意志で行ったことだし、報酬が欲しくて助けたわけじゃないので……」

 職員さんを困らせたかったわけではないけれど、これは妥協できない。

 自分の気持ちとして、手を出したくなかった。

 なんか、すごいわがままなんだけども。

 いや、お金欲しくないですって言えば嘘になる。

 喉から手が出るほど欲しい。

 それでも、こんな形では受け取りたくなかった。

 いや、それなりに稼ぎがあるからこんなことができるわけだけども。

 職員さんは、少し悩んだ後、分かりましたと証書を引っ込めてくれた。

「では、この金額で引退までヒロシさん専属でベネットを雇用するというのはどうですか?」

 思わず俺は、言葉を詰まらせる。

 つまり、ベネットの収入を保証できるというわけだ。

 単純に俺がベネットに渡すよりもスムーズにお金を渡せる。

 契約という形ではなく生活費を渡そうとすれば、きっとベネットは難色を示すはずだ。

 そう考えると、すごく魅力的な提案だ。

 なんか、何が何でも渡してやるぞという気迫を感じる。

「いかがですか?」

 有無を言わせない圧力を感じる。

「分かりました。

 じゃあ、お願いします。

 それと、この金貨についてなんですけども。

 洗脳されていたという人たちのために使えませんか?」

 2万ダール程度で助けになるかどうかは分からないが、あいつらに滅茶苦茶にされた人生を取り戻すために使ってほしかった。

「よろしいんですか?

 2万ダールというのは、大した金額です。

 それを見ず知らずのものに渡してしまっても。

 少なくともヒロシさんの利益にはならない。」

 いや、正直半分くらい手元に置いておきたい。

 金貨ならとても使い勝手もいいし。

 でも、一度言っちゃったしな。

「洗脳されてたとはいえ、悪事にも手を染めてるでしょう。

 減刑を願うのにもお金はかかると思います。

 あの男たちは許せませんが、利用されてた人たちに俺は恨みはありません。

 うまい使い方が分からないので、預かっていただけないでしょうか?」

 何かいろいろと思うところはあるんだろうか?

 職員さんは何とかひねり出そうとしている様子だけど、言葉が出てこない様子だ。

 そうしている間に、男の持ち物が運ばれてきた。

 短剣だ。

 思わず顔をしかめてしまう。

 どんなことに利用されてきたのか、分かったものじゃない。

 でも、ちゃんと見ておかないとな。

 ”鑑定”を掛ければ、所有者の所在地が分かる。

 おそらく、そこが洗脳された人たちがいる村だろう。

 座標を地図で確認し、印をつけて印刷する。

 場所はアライアス伯領の端だ。

 ほとんど山奥と言っていいだろう。

「場所はここですね。

 アライアス伯がどう処断されるか分かりませんが、なるべく穏便に済むようお願いします。

 たかが一介の商人ごときが口を挟むべきことじゃないかもしれませんが。」

 地図を見ながら、職員さんは納得した様子で頷く。

「分かりました。

 ヒロシさんの意向を最大限反映できるよう努力します。

 挽回の機会をいただきありがとうございます。」

 挽回って、何のことだろう?

 もしかしたら、素直に受け取っておいた方がよかったのかなぁ。

 迷惑じゃなければいいけれど。

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