7-14 彼女の復讐は終わったけれど。
なんとももどかしい感じです。
彼女を部屋まで運んだら、俺も寝入ってしまった。
相当疲れていたらしい。
彼女のベットの横で、もたれかかるように突っ伏して寝ていたようだ。
流石に首が痛い。
カールもマーナもほったらかしだ。
ベネットはまだ目を覚ましていないので、ちょっと帰って面倒を見てもらえるように手配をしよう。
どうにもまだ胸騒ぎが収まらない。
諸々の手配を済ませてとんぼ返りで居留地に戻ってくるとちょっとした騒ぎになっていた。
なんでもベネットが大声で泣いているらしい。
俺の名前やお父さんという声が痛々しく、早くなだめてくれと頼まれてしまった。
「ヒロシ!!ヒロシぃ!!」
子供みたいに泣くベネットに縋りつかれて俺は困惑してしまう。
どうにかベットへと連れて行き、腰にしがみつかれたまま体を横にさせる。
ぎゅうっとしがみ掴まれてちょっと痛い位だ。
「一時的なショックでしょう。
しばらく側にいてあげてください。」
医者らしい女性がそう告げて、出て行ってしまった。
しばらくっていつまでなんだろう。
いや、もうずっとかもしれない。
それならそれでもいいかなぁ。
いかん、こっちまで引きずり込まれそうになってる。
ちょっとベネットを”鑑定”する。
どうも、錯乱状態らしい。
一時的なバットステータスだから、落ち着けば治る気はするな。
俺はベネットの髪を撫でてあげる。
もう、ちょっと乱れてくちゃくちゃだ。
体は誰かが清めてくれたのか、昨日の酷い状態からは脱しているけど、やはり見てて痛々しい跡が残っている。
ちょっとしたイラつきを覚える。
それを感じ取ったのか、怯えたようにベネットが見上げてきた。
違うよ、イラっとしたのは君に対してじゃない。
そう思いながら、俺は背中を撫でる。
頭を俺のお腹にグリグリするのはやめて欲しい。
くすぐったい。
しばらくじっとしていると、疲れたのかベネットは寝息を立て始めた。
まあ、そりゃ疲れるよな。
あんなにわんわん泣いていたら。
部屋の扉がノックされる。
どうすればいいだろう。
ここは彼女の部屋だ。
勝手に許可していいものだろうか。
「悪い、少しいいか?」
外から団長の声が聞こえる。
「どうぞ。」
そう答えるしかないだろう。
団長は、部屋に入ると椅子に腰掛ける。
ベットと、椅子の間はさしてないので、なんか距離感が微妙だ。
「悪いなヒロシ。いろいろと迷惑をかけて。」
少し疲れた様子で団長は謝ってきた。
「ベネットさんのことだったら迷惑じゃないですが、依頼のことについてだったら、怒ってます。」
団長の落ち度じゃないだろうけど、責任者でもある。
まあ、だからって怒りをぶつけていい分けじゃないけども。
どうにも収まりがつかない。
「そうだな。
とりあえず、ベネットに対しての依頼はすべて断った。
復讐も終わったんだ。
引退でいいと俺も考えている。」
なんだか俺が考えているようなことはみんなしっかり対応してくれるなぁ。
それだけに怒りの矛先を向けにくい。
「引退するかどうかは、彼女が決めることですし、まさかすぐに出て行けとか言いませんよね?」
なんか言葉に棘が出てしまう。
「前にもいったが、娘のように考えてる。
仕事をしなくたって、行き先がないなら俺が養うさ。
それくらいの甲斐性はある。」
俺は思わずむっとしてしまう。
なんか男として負けた気分になる。
「まあ、そんなこと言ったってたぶんベネットはお前のもとに行くだろうがな。
ただ、しばらく様子は見てやってくれ。
復讐を終えた人間ってのは、どうにもな。中身が空っぽになっちまうもんなんだ。」
団長はそんな人間を何人も見てきたのかもしれない。
そんな様子を見せられると、俺はますます不安になってしまう。
ベネットは大丈夫だろうか?
結局一日、彼女の部屋で過ごしてしまった。
目を覚ましたら彼女に軽食を与えて、また眠りにつくまで撫でてあげる。
そんなことを繰り返していたら、俺も寝てしまっていた。
翌日早くに、お風呂に連れて行って俺も借りた。
ちょっと俺もひどいありさまだったしなぁ。
なるべく早めに切り上げて、出てくるまで待っている。
「ごめんね、ヒロシ。もう、大丈夫だから。」
お風呂に入って落ち着いたのか、ちょっとよそよそしい態度をとられてしまった。
「そう、ならいいけど。」
どうしよう。
俺は自分の部屋に戻るべきかな。
どうしようか悩んでいたら、ベネットが俺の服をキュッとつかんでいるのに気づいた。
どうすればいいんだろうか?
えっと、どうしよう。
「朝ごはん食べますか?」
うんとベネットは頷く。
食堂で食事をしている間も、足を絡めて来たり離れようとするたびにアクションを起こされる。
でも、表情は落ち着いていてむしろ無表情にも見えた。
これは依存状態というものなんだろうか?
一応”鑑定”してみると、特にバットステータスは入っていない。
落ち着いたと見るべきなんだろうけど、どうしたらいいのだろう。
困った。
本当にどうすればいいのか分からない。
彼女の表情は暗く、どこかよそよそしいくて話してくれない。
対応できずに自分の人生経験のなさがもろに出てしまう。
周りも痛々しいものを見ているようで、遠巻きに見られてしまっている。
仕方がないので、彼女の馬を見に行くことにした。
そもそも、ほったらかしにしてしまっているのでベネットも心配なんじゃないかと思ったのもある。
自発的に行動しないので、俺が促さないと動いてくれない。
「ただいま。」
馬の前まで連れて行くと、ようやく思い出したように馬に縋りつく。
彼女の相棒であるだけに愛着があるのは当然だ。
でも、それが表に出てこないといった感じがする。
しばらく一緒に馬の世話をしてやっていると、だんだんと表情が穏やかになったから、これは俺が彼女を導かないとダメな気がした。
とはいえ、外に連れ出すのはなぁ。
少なくとも今日は、居留地の中で過ごさせるべきだと俺は判断する。
お昼を取り、一緒に乗馬をし、夜も暮れてきたのでそろそろ帰ろうとすると、またきゅっと服をつかまれてしまう。
「ヒロシ、帰っちゃヤダ。」
小さくか細い声で言われてしまう。
これは苦行だ。
俺だって男だ。
ずっと女の子の部屋で過ごしてたら、変な気を起こすなと言われても困る。
でも、嫌だともいえない。
仕方がないので、ベットの横に椅子を置き、手を握りながら眠りについた。
ひどい目にあった女の子に不埒なことを考えるとは男の風上にも置けんと言われるかもしれないが、むしろ不埒なことが頭の中にちらついておかしな妄想が膨らむ。
意識が遠のくたびに、酷いことをしている自分に気が付き、目が覚める。
はっきり言って苦しい。
だが、これが彼女を守れなかった俺への罰だとすれば、なんと温いことか。
少なくとも彼女のそばに入れるんだから、幸せだろうと心を奮い立たせた。
気が付けば床に突っ伏していた。
手はつないだまま、引っ張られたか何かして、床で寝ていたようだ。
肩が痛い。
ぐおおっと低い声を漏らしてしまった。
びくっと、ベネットが体を震わせる。
「ご、ごめん。肩が痛くって。」
何とか立ち上がり、椅子に掛けなおす。
「ごめん。その……
おはよう。」
自分が原因だとはわかってくれているようで、心配そうに撫でてくれる。
あまりの心地よさにため息が漏れた。
ふふっとベネットが笑う。
よかった、笑ってくれるようになったんだな。
俺も自然と笑みがこぼれてしまう。
お風呂に連れて行き、さて今日はどうしようかと悩む。
カールもマーナも心配だが、ベネットの方がやっぱり心配だ。
キャラバンのみんなに相談の手紙を書いたけど、返答としてはそばにいてやれというものだった。
後、彼女が要求してきたらなるべく叶えてやれというアドバイスだ。
それがたとえ受け入れがたい内容でもだ。
いや、その……
受け入れがたいって言うのは、何を想定しているんだろうか?
流石に死にたいとか言われても、そこだけは断固拒否するけども。
ベネットがお風呂から出てきたけど、何も言わず俺をじっと見てくる。
やっぱり自発的に行動しにくいんだろうか?
何が正解だか分からない。
「今日は、お出かけしましょうか?」
俺は苦し紛れに言ってしまった。
うんとベネットは頷いたけど、本当に彼女がしたいことなんだろうか?
ただ振り回しているだけのようで心苦しい。
ただ、ちょっと不安があったので、防刃服を着させてついでに医療保険という名の救急サービスをベネットに付与してしまう。
なんだったら、鎧を着させたいくらいだ。
それくらい不安でしょうがない。
いや、これ、俺もだいぶおかしくなってきてるかもしれないな。
街中で襲われるなんてことはそうそう起きないはずなんだけども。
とりあえず彼女が好きそうな雑貨屋を巡り、ハロルドの店で食事をして、服飾店に言って彼女用のドレスを仕立ててもらう。
だけど、どれも反応が薄い。
お人形さん遊びをしている気分になってくる。
微かに反応があるので、それを頼りにいろいろ買ってみたけれど本当に喜んでくれてるのだろうか。
団長が言っていた、空っぽという言葉が身に染みる。
でも、何もかもなくなってしまっているわけでもないことも分かる。
離れようとするたび、不安そうに服を握られて、離れたくないようにどこかに触れられた。
何か言いたい。
でも言えないみたいな感じだろうか。
やっぱり色々と時間がかかりそうだ。
不意にベネットが前につんのめる。
びっくりした。
見れば、身なりがいい少年がベネットにぶつかっていた。
その手にスティリットをもって。
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