7-12 子供に嫉妬してどうする。
そして唐突な急展開。
眠い。
正直疲れがたまっている。
明日からしばらく休もうかな。
夜寝る前に、ドライダルの痕跡を追った地図を見ていたら、なんだか寝付けなかった。
色々と忙しくて、ほったらかしにしてたけど、どうしても気になって再度眺めてしまっていた。
冬に入手した手がかりだから、最早居場所を突き止める手立てにはならないとは思うのだけど、時系列に並べてみれば何か妙な感触がある。
言葉にできない感じで気になって仕方がない。
もしかしたらベネットは何かに気づいているのかもしれない。
今日は、暁の盾に顔を出したら、ちょっと話を聞いてみよう。
日はもうすっかり上っていて、ゆっくり目の出勤だから、事務所の忙しさは大分落ち着いている様子だ。
「ライナさん、明日からしばらく休みを貰いたいんですけど、大丈夫ですか?」
スケジュール的には俺が居なくても回るとは思うけど念のために話しておく。
「まあ、1週間くらいなら平気だけどね。
何かあったら、部屋に手紙を送ればいいかしら?」
まあ、1週間も休まないけど、まあ連絡先は確定させた方がいいかもな。
タイミングよくセレンが席を外したので、ちょっとしたポーチに事務所専用のインベントリをつなぐ。
開けるのは、ライナさんとベンさんだけに設定しておいた。
後で拡張はできるしな。
「こっちの方に送ってください。
多分、これの方が早いですから。」
ちょっと小声でポーチを渡す。
割り当てた収容容量は100㎏と軽めにしておいた。
「あぁ、分かったわ。
そっちも何かあったら手紙を頂戴。
まあ、休みなんだから何もない方がいいんだけどね。」
確かにその通りだ。
まあ、何も予定はないし、平気だとは思うんだけどね。
「ヒロシ、あいつがまたウーズを売りに来たぞ?
話あるんだろう?」
ベンさんが事務所に顔を出す。
そういえば、ジョンの相談、ベンさんには話してなかったなぁ。
なんかのけ者にしたみたいで申し訳ない。
「ありがとうございます。
ちょっと話してきますね。」
そういって、倉庫の方へ向かう。
とりあえず、俺が結論を出す話ではないのでじっくりジョンに説明をしていった。
俺は説明下手だから、果たしてジョンがどこまで理解してくれているか分からないけど、最後まで大人しく聞いてくれた。
なんだか、俺の周りの子供はみんな頭がいい。
ある意味嫉妬を覚える。
俺が子供のころなんか、まともに将来のことなんか考えてもいなかったよなぁ。
単純に俺がとても頭が悪かったというのもあるんだけども。
「店の乗っ取りとか、本屋の詐欺とかは聞いた事あるよ。
どっちも結局は大人に体よく使われてるだけだよな。
遺跡にいる人売りも似たようなもんかなって思うけど、違う?」
いえ、何も間違っておりません。
ジョンは洞察力が深い。
この際だから、ジョンをさっさと”鑑定”してしまおう。
「合ってるよ。
結局は、自分の利益が優先だから……」
返答をしつつ、ステータスを確認しようと思ったら、ジョンのレベルが意外に高くてびっくりしてしまった。
思わず口ごもってしまった。
レベル3というのは、この世界の標準なのか?
いやベーゼックは1だったし、そんなことはないと思うんだけども。
遺跡周りでも1レベルのスカベンジャーは吐いて捨てるほどいた。
能力値は知力も高く意志力も高い、筋力や耐久力が若干低めなのは気になるがこれから成長することを考えれば貧弱というほどじゃない。
しかも、罠作成や解除といった能力も持っている。
しかも鍵開けという能力も備わっていた。
斥候役としては申し分ない能力だろう。
まさしく即戦力と言っていい。
「なんだよヒロシ。俺なんか変なこと言ったか?」
しかし、鍵開けとかはどうやって身につけたんだろうか?
「なあ、ジョン、お前鍵開けとかできるのか?」
何を突然という顔をされてしまった。
「スカベンジャーやるんだから、鍵開けくらいできて当然だろ?
結構練習したんだ。
泥棒が得意な奴らが居て、そいつらからコツを聞いてたんだけど案外簡単だよな。」
これはやばい。
もし、スカベンジャー以外の道に進むとしたら、たぶん窃盗をやるのが一番割がいいのかもしれない。
隠密や急所攻撃なんて能力も付いていて、ハイスペックすぎる。
「いや、実は俺は他人の才能を見ることが出来るんだが、お前すごかったんだな。」
ちょっと絶句してしまう。
「勝算が無きゃスカベンジャーやるなんて言わねえよ。
それでも色々不安だったから、ヒロシの話はすごく参考になった。
しかし、仲間かぁ。
斥候は俺でいいとして、やっぱり治癒役と前衛は必須だよなぁ。
魔法使いは、いてくれると助かると思うけど。」
どうやら、ジョンの心は決まってしまったようだ。
まあ、悪の道に進まれるよりかは全然いいけども。
「そこも含めて、やるなら俺がお前のスポンサーになるよ。
お前はお前で探してくれれば助かるけど、俺の方でも伝手をたどるから。
でも、いつまでも続けられる仕事じゃないってことは肝に銘じておいてくれ。」
分かってるよとジョンは言う。
なんか、すごく頼もしく聞こえるなぁ。
「しかし、お前孤児全部を助けるつもりなのか?」
一つ疑問に思ったことがある。
確かにスカベンジャーは儲かる。
でも危険だし、安定もしていない。
それなら、農村に行って手伝いをしたり、まっとうな職人を目指すのもありだろう。
別の動機がある様な気がする。
「全部なんか無理に決まってんだろ。
俺が助けたいと思ってるのは修道院にいる奴らだけだ。
仲の悪い奴もいるけど、そのくらいなら手を差し伸べても罰は当たらないだろう?
それとも身の程知らずって思ってる?」
罰なんてとんでもない。
普通は仲の悪い奴なんか助けようと思わない。
これはとんでもない聖人と出会ってしまったかもしれないな。
「いや、神様のお導きかもな。
普通そこまで考える奴はいないよ。
まあ、でも時には善意が裏目に出ることだってあるんだから、ほどほどにな。」
なんか馬鹿にされてると思ったのか、ジョンは不満顔だ。
まあ、なんにせよしっかり仲間探ししてやらないとな。
居留地に足を運び、ジェイス団長といろいろと商談をした。
最終的に絞り式の銃剣が採用される運びで、デザインをいくつか変更するという事で落ち着く。
シンプルな針、それを大きく湾曲させるという事で落ち着く。
他にもナイフみたいに幅広にして刃を付ける案も出てたけど、密集陣形だと横にいる味方を傷つける恐れがあるという事でスティリットと同じ刺突型が望ましいという事だった。
数が250と今までの5倍だ。
納期を考えるとなかなかに厳しい。
今度アレストラばあさんにも専用インベントリを渡そうかな。
いや、ばらまくようなことをすれば後々問題になりそうな気もするし。
どうしようか。
トーラスを見つけたので相談がてらエントランスで話さないかと誘った。
「大分大変そうだね、ヒロシ。」
いや、実際大変なのですよ。
「職人さんに頼むにしても、絞り式はアレストラばあさんの所じゃないと作れないから。
どうしたものかなぁと。」
流石に作り方を教えてくれというのは虫が良すぎる。
そこそこのお金を積まないとダメだろう。
しかし、せっかく休み前なのに、仕事のことを考えたくないなぁ。
「まあ、分かるよ。
仕事って言うのはいつも面倒だよね。
僕もとっとと足を洗いたいよ。」
やれやれといった様子で、トーラスもテーブルに肘をついてため息をつく。
「なあ、ヒロシ。
専属で雇ってくれる話は本気だよね?」
トーラスが真剣に聞いてくる。
「そりゃもちろん。
じゃなかったら、いろいろ渡してないですよ。」
真面目に検討はしている。
引き抜きにかかる費用がどれくらいになるかも、検討はしていた。
「僕も年内の契約で打ち切って、来年の仕事は入れてない。
まあ、しばらくは貯蓄があるから、すぐには困らないけど真面目に考えてくれるなら具体的な話をそろそろしようと思ってね。
週に金貨5枚、これって無茶かな?」
高いような、そうでもないような。
実際、トーラスを護衛に雇えば、それくらいの金額がかかるのは当たり前だ。
むしろ安いくらいだろう。
もちろん、俺がいろいろ提供できるって言うのも含めての値段だ。
そこは何の問題もない。
問題は、トーラスの立場だ。
俺が雇うという形だと、手続きがややこしくなる。
やはり、グラスコー商会の警備担当として雇うのが一番スムーズだ。
そうなると、その給料はグラスコー持ちになる。
そこをどうするかだよなぁ。
「分かりました。
グラスコーさんに相談してみますよ。
少なくとも夏が終わるまでには返答できると思います。」
もちろん、引き抜くとなれば給金だけじゃない。
暁の盾へ保証を兼ねた金額も支払わないといけない。
だから、少なくとも今すぐに回答は難しかった。
「そういえば、ベネットさんは仕事ですか?」
少し気になって尋ねた。
「確か、そうだったはずだよ。」
トーラスが俺に返答した直後、後方から声が響く。
叱責する声だ。
めずらしい。
俺は思わず、声のする方を見てしまった。
俺への事情聴取をしていた職員さんだ。
とても物静かな感じの人なのに、声を荒げて問い詰めていた。
ふと、職員さんと目が合った。
つかつかと俺たちの方へやってくる。
「お騒がせしてすいません。
ヒロシさん、実は内密な話があるんですがよろしいでしょうか?」
なんだか胸騒ぎがする。
「急ぎの要件であれば、この場でお願いできませんか?」
分かりましたと職員さんは頷いた。
「実は、ベネットの依頼に手違いがありまして。
これは、本当に私どもの落ち度です。
彼女は恨みを買う立場でもあり、依頼主は精査したうえで依頼を受けていたんですが……」
俺は叱責を受けていた職員を思わず見てしまった。
おどおどしていて、あまり責めたくはないけど、ベネットのことだというなら話は別だ。
とても不快感を隠すことができない。
「つまり、彼が身元不明の依頼主からの依頼を通してしまったと。」
職員さんは頭を下げる。
嫌な気持ちが胸いっぱいに広がる。
「手掛かりはあるんですか?」
当然、ベネットを連れ戻すくらいはするはずだ。
「はい、うちのものを使って後を追わせる予定です。
ですが、手の込んだやり方ですから依頼通りとも限りません。
何かお心当たりがあればお聞かせ願いたいのですが。」
確かに職員さんの言う通り依頼通りに移動しているとは限らない。
心当たりはないが、もしかしたら手段があるかもしれない。
くそ!!
どうせなら《念視》の呪文を覚えておくんだった。
いや、あるいは居場所を探すサービスだってあったかもしれない。
「彼女の私物、ありますか?」
後悔なんかしてる暇はない。
ともかく、出来るかもしれないことを試そう。
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