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7-11 孤児の就職事情を探ってみる。

世の中にはいろいろな仕事があるもので

割に合う合わないがあるにしろ様々な職業があるというのを表現してみました。

 職人さんたちが休憩に入ったところで、ビールを出して、ちょっと仕事について聞いてみた。

 弟子として雇う場合、孤児をどう考えているのか気になるところではある。

「孤児なぁ。

 正直、手癖が悪い奴が多いから雇いたくはないかなぁ。

 まあ、ヒロシの紹介なら悪い奴じゃないんだろうが、やっぱり最初の給金は安めになっちまうかもな。」

 それ、余計に手癖が悪くなる気がするんだけどなぁ。

「まあ、仕事ができるかどうかだよ、どっちにしろ。

 教えたことをちゃんとできるなら文句はないし、給金だってすぐ他の奴と揃えてやってもいいんだ。」

 別の職人さんは、大したことじゃないというように話してくれた。

「すぐ辞めて傭兵始めたり、最近だと揃ってスカベンジャー始めるってやつも出てきたよ。

 遺跡が見つかった今がチャンスだと思ったんだろうな。

 そんなノリで初めてうまくいくわけないのにな。」

 さらに別の職人さんは、うんざりといった調子で言う。

「やっぱりすぐ辞めちゃう人多いんですか?」

 俺の言葉に全員頷く。

「すぐ辞めて、すぐ別のところで働き始める。

 親方になるのは一握りさ。

 合間合間にヤクザな仕事をしてるやつも多いよ。

 まあ、それでも前歴があれば無いよりはいいな。」

 雇われる方も雇われる方で大変だけど、やっぱり雇う方も大変なんだな。

 

 午後は完成した冷蔵庫をインベントリに納めて、いくつかの飲食店に納入しに行く。

 ハロルドには試作品を渡していたが、それが意外に評判になったようだ。

 既にいくらかの予約を受けている。

 基本はラジエーター型だ。

 やはり初期投資は抑えたいようだ。

 設置する場所も選ぶから、俺の”収納”の能力は非常に便利だ。

 二階になんか、外に出して持ち運んだら腰をやりかねない。

 ついでに孤児の話を聞いたが、汚くて使えないという返答が大半だった。

 やっぱり、孤児がまともな職に就くのは厳しいんだなぁ。

 休憩で入ったハロルドの店で思わずため息をついてしまった。

「どうしたんですヒロシさん。

 何か問題でも?」

 ハロルドは冷えた紅茶を用意してくれたようで、とてもありがたい。

「いえ、孤児を雇う店なんかなかなかないもんなんだなって……」

 ちょっといきさつを話してみたが、やはりハロルドも孤児は雇いたくない様子だ。

「正直、清潔さは飲食店にとって大切なことですからね。

 まあ、気にしないようなところもあるでしょうが、それならそれ相応に給金も安いでしょうし。

 それに、子供同士で結託して店を乗っ取る様なのもいますしね。」

 それは、聞き捨てならないな。

「そんなのもいるんですか?」

 ハロルドは困ったような顔をして頷く。

「あそこに見える店なんですが、あまりにも可哀そうだと雇ったら、賄いと称して店の料理に手を付けるし、店の席を占拠するしでちょっとした問題になったんですよ。

 まあ、解決にはそれなりに必要だったみたいですよ。」

 それは、その。

 やっぱり、非合法な活動をされてる方々の介入なのかなぁ。

「まあ、それが計画されてたものかどうかは知りませんけどね。

 優しさが仇になることもありますから、ヒロシさんもお気をつけて。」

 分かりましたと頷くことしかできない。

 ふと、そういえばワイバーン肉がどうなったのかが気になった。

「そういえばハロルドさん、ワイバーンはどうなりました?」

 もしかして不良在庫になって腐ってないよな?

「あぁ、あれは……

 ステーキにして出してみたら、意外なほど早くなくなりました。

 銀髪の剣姫様様です。」

 なんでも、ワイバーンを倒したのが銀髪の剣姫だと話題になり、物珍しさも手伝って大流行りしたらしい。

 固い肉質のステーキというのが意外だったが、ハロルドもそれなりに工夫を凝らして柔らかく仕上げたのだとか。

 味もよく、話題性もあり、高めに設定したにもかかわらずあっという間になくなり、俺に試させる前に消えてしまったそうだ。

 知らなかった。

 持ってきたのが冬の寒い時期だったから、すっかり忘れていたことになる。

 結構アンテナを伸ばしていたつもりでいて、全然話題に気づかなかった。

 駄目だなぁ。

「何かまた面白い食材があれば持ってきてください。

 お待ちしてます。」

 ハロルドは楽しそうに笑う。

「分かりました。

 まあ、でも何か付加価値があった方がいいですよね。」

 まさか、俺が倒したダークマントとかを出すわけにもいかない。

 何か利用価値があるかもと思って、ずっとインベントリの肥やしになっている。

 そもそもこれ食えるのか?

 先生に相談してみるかなぁ。

 

 印刷所に依頼したラベルを引き取りに行くついでに、絵本の原稿を持っていく。

「おっさん邪魔だよ!!」

 そういいながら、子供たちが駆け抜けていった。

 身なりはよくないし、やはり孤児の類だろうか?

 そういえば、ああいう子が結構いたなと思いだす。

「すいませーん。

 ラベルの受け取りと原稿の引き渡しお願いしまーす。」

 はいはいと印刷所の人が出てくる。

「さっきの子たちって、印刷所で雇ってるんですか?」

 世話話とばかりに、話を切り出してみた。

「いや、あの子たちは配送を頼んでるだけでうちの人間じゃないね。

 本屋が頼んでるんじゃないか?

 まあ、出来高払いみたいだから、みんな必死だよ。」

 詳しい話を聞きたいけど、本屋には嫌な思い出があるんだよなぁ。

 あの不愛想な店主のことを思い出すと、ちょっと気後れする。

 かといって、話を聞かないわけにもいかないか。

 この印刷所を教えてくれた本屋さんに行ってみようか。

 そこの店主さんは親切だったしな。

 

 残念ながら外れだった。

 というか、少し考えればわかるんだよなぁ。

 ああいう子供たちが使われるのは、道端で売られる雑誌みたいな本ばかりだ。

 ゴシップを集めたようなものや、政治的意図を書き散らす内容で、まっとうな書店では扱わない代物だ。

 行ってみれば、瓦版みたいなものだから企画した書店はあるにしろ、本屋の形態はとっていない。

「すいません、お力になれないで。

 あの恥ずかしがり屋の店主がいたでしょう?

 彼なら何か知ってるとは思うんですけどね。」

 それは、聞いても答えてくれない奴だよなぁ。

「いえ、こちらこそ、見当違いなことを聞いてすいませんでした。」

 さて、どうしたもんかなぁ。

「んー、まあ、直接子供から聞いてみるのが早いかもしれませんね。」

 あー、確かにそれはその通りだ。

「とはいえ、全体像がつかめるとも限りませんし、裏に怖い人がいるかもしれないので、注意してくださいね。」

 そうだよなぁ。

 店主さんが言うとおり、ああいう類の本はやばい連中に繋がっていそうだ。

 商売の邪魔をされたくないとも思うだろうな。

 下手に聞くと子供たちにも不利益になるかもしれない。

 まあ、本を買って、どれくらい貰ってるのか聞くくらいなら平気だろうか?

「ありがとうございます。

 また何かあればよろしくお願いします。」

 店主さんは気を悪くしたでもなく、いえいえと返してくれた。

 仕方なしに、借りている部屋へと戻ろうとする。

 気が付けば、夜のとばりが落ちる中で本を売り歩く子供たちが目に付いた。

 話を聞いて、見てみればありふれた存在だったんだなぁ。

 よし、早速一冊買ってみようか。

「おっさん、本買ってくれよ。」

 年のころはジョンよりも幼いかもしれない。

 紙質の悪い、何が書かれているんだかも分からないような本を突き出してくる。

「いくら?」

 銅貨2枚だという。

 随分と安いな。

 厚みもないし、紙質も悪そうだ。

 暗くてよく分からないが、でかでかと煽情的な女性の絵が描かれている。

 ちょっと顔をしかめてしまう。

「いらないんだったら、どっか行けよ。」

 少年は俺を睨みつけると、どこかへ立ち去ろうとしてしまう。

「いや、買うよ。買う買う。それよりも、銅貨をもう1枚あげるからちょっと話を聞かせてくれないか?」

 そういうと少年はぱっと表情を明るくする。

「本当?いいよ、何でも話す。」

 いや、まあ金に困ってるのは分かるんだけど、ちょっとは警戒して欲しいな。

「じゃあ、これでいいかい?

 こういう本って、誰かから預かってるのかい?」

 銅貨を3枚渡して尋ねると、少年は首を横に振った。

「買ってるんだ。その、100冊くらいをまとめて。

 それを何人かで分けて売ってる。」

 買い取りかよ。

 元手どうしてるんだ?

「安くないだろう?お金はどうしてるんだ?」

 100冊なら100ダール、つまり金貨1枚分くらいは必要だろう。

 いくら印字がかすれていて、紙質がわら半紙みたいでも最低それくらいはかかる。

「リーダーが借りてるんだって、だから売り切らないと奴隷にされるとか言ってる。」

 マジかよ。

「え?そのリーダーって、大人なの?」

 少年は、また首を横に振った。

「俺と同じ孤児だよ。

 本屋さんがおいしい商売だって、リーダーに持ち掛けたんだって。」

 改めて、買った本を眺めてみる。

 中は文字ばかりで、暗がりでは判別できないが、急ぎで刷ってるのかインクのにおいが漂う。

「それで君の取り分は?」

 ちょっと、まともに売れる気はしない。

「10冊で銅貨1枚。ずるいよね。

 多分リーダーがぼったくってるんだ。」

 いや、何人で本を売ってるのか分からないけど、妥当なんじゃないだろうか?

 少なくとも半数を売らないと赤字になるリスクを軽視しちゃいけない。

 元手は、本屋が出してるんだろうけど、たぶん利子とかも取ってるんだろうな。

 これはとても商売にならない。

 もちろん、内容が面白ければ売れるんだろうけど、こんな夜中に売るという事は大っぴらにできない内容だろう。

 品質以前に問題を抱えている。

「ありがとう参考になったよ。」

 礼を言って、俺は帰路に付いた。

 晩飯に買ってきた出店の料理をカールと突きながら、買った本を眺める。

 中身は程度の低いエロ小説だ。

 いや、これはこれで味わいがあっていいかもしれないが、よくわからない表現も多い。

 しかも印字がかすれ気味で判別しづらい。

 落丁もあるらしく、前後がつながらないところもあった。

 これで、銅貨2枚か。

 買った時は安いなと思ったけど、これでは安いとはとても言えない。

 マーナがインクのにおいが気になるのか、顔を突っ込んできた。

「ごめんごめん、マーナの飯がまだだったな。

 ちょっと待っててくれ。」

 マーナ用に用意した小皿に、”売買”で購入したドックフードを用意する。

 通称カリカリという奴だ。

 子犬用だから平気だろうと思うけど、こっちの世界のものを食べさせるべきかなぁ。

 狼なんて肉を与えておけばいいだろうくらいに言われたけど、ミリーなんかは直接狩をさせているそうだ。

 正直どれが正解なのか、よくわからない。

 まあ、マーナは好き嫌いが少ないらしく、カリカリでも旺盛に食べてくれて助かるけども。

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