7-10 跡継ぎ問題は切実だなぁ。
色々ありますが、子供には子供の夢というか思惑というものがあるから色々とすれ違うわけなんですよね。
「僕が……
僕が村に残ったっていいじゃないか、父さん。
魔法は師匠の下にいれば何とかなるし、村のために使える魔法だってあるんだよ?
父さんが夢をあきらめたのは知ってるけど、それを僕たちにも押し付けないで!!」
ジョシュが珍しく大声を上げた。
ブラームさんが手を上げようとしてしまう。
これはよくない。
「ブラームさん、冷静になりましょう。
落ち着いて。」
振り上げた手を俺はとっさに掴んでしまった。
「ヒロシさん、子供のわがままに付き合っていたら、何も始まりません。
大人になるためには我慢が必要だ。」
そっか、そうだよなぁ。
そりゃ、体罰くらいは当たり前か。
余計なことをしてしまったかもしれない。
「ブラームさんの言いたいことも分かりますよ。
でも、せめてこの場では俺の顔に免じて許してもらえないですか?」
みんなせっかくの祝いの席なのに、ちょっとピリピリしてしまっている。
俺が余計なことを言わなければよかったな。
なんで、こう場所や場面を選べないんだろうか。
焦りすぎた。
「ヒロシさん、私も少し冷静さを欠いていたかもしれない。
止めていただいて、ありがとうございます。
みなにも申し訳ない。」
ブラームさんが頭を下げる。
いや、その……
謝らせたかったわけじゃないんだよなぁ。
俺はジョシュを見る。
彼も少し思うところはあるようで、自分で反省したようだ。
「父さん、ごめんなさい。
僕が、わがままだったよ。
ごめん。」
消え入りそうな声で謝った。
「アレン、お前はどうだ?」
アレンはまだわかってない様子でむすっとしている。
「分からないならいい。
ただ、今すぐ家を出ていくわけじゃないんだろう?
だったら、母さんのいう事を聞きなさい。」
ブラームさんの言葉にアレンは、はーいと不満げに返事をする。
ただ、空気を読める子ではあるようでよかった。
ここで逆らったらさらに事態はひどいことになっただろう。
そういう意味で、したたかな子だ。
「あははは!やっちゃったねジョシュ!!」
何がそんなにうれしいのか、レイナは爆笑する。
俺がレイナの家に泊まるついでにジョシュがレイナに祝いの品を運んできたわけだが、事の顛末を聞いて笑い転げている。
「なんでヒロシがジョシュの方を見てたか分かる?」
レイナは突然そんなことを言う。
「僕が、父さんを侮辱したからです。
それはやっちゃいけなかったと思いました。」
聡い子だなぁ。
俺だったら、多分気付いてない。
「へぇ、可愛げがない。
なんで、父さんが悪いのにくらい言わないかなぁこの子は。
でもなんでそんなこと突然言ったのよ?」
そりゃ、おめーが好きだからだよ。
大学行って、その間会えないとか嫌だと思った。
態度を見てれば分かる。
気付いてないふりなのか本気で気づいてないのか、よくわからないけど。
こういうところ、女性の言葉は無慈悲だよなぁ。
ジョシュは、目をそらし黙っている。
「まあ、いいや。
しかし、スカベンジャーねぇ。
強くなるには、ちょうどいいと思うけど、やっぱりその子の腕次第じゃないかな?
アレンは駄目ね。
あの子には才能が無いし。」
残酷だなぁ。
子供の前で才能ないとか、他人の話でも言うものかね。
いや、時にはそういう残酷なことは必要なのかもしれないけどさ。
「あ、いや、スカベンジャーの才能の話だからね?
そそっかしいし、飽きっぽいし。
でも、その分、決まった仕事はちゃんとできる子になると思うよ。
逆にジョシュはスカベンジャー向きね。
細かいことにはよく気付くし、集中力は高いし。
その分疲れやすいとは思うんだよね。」
レイナは誤魔化すように言葉を並べる。
いや、言ってることは間違っていないんだろうけども。
でもジョシュはとても不満顔だ。
「ごめんって、別にけなしてるんじゃないんだからいいでしょ?」
多分そこじゃないんだよなぁ。
気の利いたことを言ってやりたいが、なんか思いつかない。
「まあ、時として人の言葉って残酷だよな。」
思わず本音が漏れてしまう。
「うるさいなぁ。ヒロシ君が、そんな相談しなければよかったんじゃない。
君、余計なことを言いすぎだよ。
アルトリウス様に居場所ばらすしさぁ。
こんなものよこすから、何か面倒ごとがあるとすぐ押し付けられるんだよ?
ドレスなんか着たくないのに!!」
逆切れだろと言いたい所だけど今回の件は俺に責任があるのも確かだし、余計なことをさせてしまっているのも事実だ。
その点に関しては本当に申し訳ない。
「そうですね、俺が悪い、俺が悪い。」
だけど、なんか癪なので適当な同意をしておく。
「ムカつくなぁ。
君のそういうところが嫌いだよ。
なんか魔法の腕も上がってるらしいじゃない。
アルトリウス様がうかうかしてると抜かれちゃうよとか言ってたんだけど?」
まあ、そりゃあれだけの目に合っていれば、レベルは上がる。
扱える呪文レベルも4に上がっていた。
《魔法の目》や《完全透明化》も教えてもらったので、大分魔術師らしいことができるようになったと思う。
前者は、透明な感覚器官を飛ばすことができる呪文で、そこを経由して《透視・盗聴》も行える。
俺の場合は、さらにそこから”鑑定”も行える。
とても強い呪文だ。
後者は、今まで攻撃したら姿を見せてしまうことになっていた《透明化》を、そのまま維持できる強い呪文だ。
流石にドラゴンや聴覚に優れた魔獣とかには気づかれてしまうけど、大抵のものには見破られない。
他にもいくつかレパートリーが増えてきているので、少しくらい自慢していいと思う。
というわけで、俺はにやりと笑ってみた。
「ジョシュ、ヒロシ君の脇突きなさい。」
俺はわざと、脇を隠すようにジョシュから逃げた。
「なんでやらないの!!」
流石に、そこまで阿吽の呼吸じゃないんだな。
「そうやって、弟子ばっかりこき使ってるから、抜かれるかもとか言われちゃうんですよ。
まあ、実際は全然ですけどね。」
今後はレベルの伸びも悪くなるだろう。
意識して戦闘しない限りはここら辺が限界な気はする。
「別にこき使ったりしてないし。
ただ、空気を読めるんだから、そこはノってくれないと私が馬鹿みたいじゃない。」
そういわれて、おずおずとジョシュが俺の脇をついてきた。
くすぐったい。
「ごめんなさい。」
ジョシュは身もだえる俺に謝ってくる。
いや、まあ、ある程度は覚悟できてたから平気だし。
「大丈夫大丈夫、しかし君も厄介な人を師匠に持ったもんだ。
大学に行って立派な魔術師にでもならないと、振り向いてももらえないかもね。」
ジョシュはレイナを見た後、俺を見る。
「そう……なんですか?……」
ジョシュの問いに、俺は無責任に肩をすくめる。
まあ、たぶん、単に立派な魔術師になるだけじゃだめだとは思うけども。
人と人の関係なんか、どうなると予測できるものじゃない。
ただ、望むなら色々やらないといけないというのは俺も感じている。
それをどうするのかは、ジョシュが決めることだ。
翌朝朝早くに起きて追加の肥料を春播きの小麦に撒いて、そのあとは穀物商人の買取風景を見させてもらった。
どうやら質や大きさで値段が変わるようだ。
とはいえ、半分は持ってかれるのに変わりはない。
質がいいから税が軽減されるなんてこともないから、そこは作る人のやる気を低下させるよなぁ。
しかし、どうやら今回は掛け値なしの豊作だったらしく、穀物商人の買取金額に代官はうれしそうな顔をしていた。
アルノー村は、アライアス伯の直轄地だからこういう時は代官が派遣されてくる。
見ず知らずの人同士のやり取りだから、なんか微妙な気分だな。
こっそり《盗聴》してたけど、量が多くなった分価格は安いものの、質も高いからそこまで下がってはいないというのが俺の感想だった。
気になったのは、穀物商人の態度だ。
代官には聞き取れないように悪態をついていた。
土民が小賢しいみたいなことを言っていて、ちょっとむかつく。
どれだけ努力して作ってるのか知りもしないくせにとか思ってしまうが、まあ言ってもしょうがない。
しかし、他人の成功を妬む感情も分からなくはない。
分からなくもないが、それを態度に出しちゃうのはいただけないよなぁ。
冷蔵庫の量産がそろそろ始まるので早々にアルノー村を後にした。
それと職人さんたちに孤児の扱いについて聞いてみないといけないとも考えている。
明日は暁の盾かなぁ。
印刷所やハロルドの店にもいかないとだし。
本当にやることが多い。
でもそろそろ休みが欲しい。
マーナとカールを部屋に送って倉庫に付くと、すでに木工職人さんたちが作業をしてくれている。
しかし、やっぱり色々と面倒だよなぁ。
各工房に仕事を投げ、成果物を回収して倉庫で組み立てる。
一つの工場をラインで仕上げるようにできればいいんだろうけど、職能ギルドという存在がとても邪魔だ。
いや、それがあるおかげで親方はそれなりの収入が得られるわけだけども。
ちょっと仕事の規模がグラスコー商会ではもて余す事業なのかもしれない。
手紙に何度か書いて相談はしてるけど、これについては反応が鈍いんだよなぁ。
スカベンジャーの話は大喜びで返事してくるのに。
とりあえず、事務所に顔を出すか。。
「おはようございます。」
おはようと返事はくれるが皆作業中だ。
午前中はいつもこんな感じだから、邪魔をしちゃ悪い。
若干気温が上がったのか、室内はちょっと蒸し暑かった。
まあ日差しがなければ、それほどじゃないけど。
窓は開けたほうがいいかなぁ。
でも風が入ると作業の邪魔になるだろうか?
まあ、適当に冷たい飲み物を出しておこう。
「あら、気が利くじゃない。
お茶を冷やして飲むのにも最近慣れたけど、冷蔵庫は便利ね。
値段が安かったらうちにもほしいところよ。」
ライナさんは嬉しそうに冷やした野草茶を口にする。
「私は、渋みが強くなるからちょっと……」
セレンはちょっと苦手そうだ。
「うん、やっぱりジュースの方が好きかなぁ。」
そういいながら、レイシャは冷えたジュースの瓶を頬に当てて、涼を取っている。
イレーネは入れたお茶に目もくれず作業を続行中だ。
渋みかぁ。
いっそ、麦茶でも入れるか?
あれなら、そんなに渋くないし飲みやすいだろう。
ビールはさすがにまずいだろうし。
まあ、職人さんたちは気にせずビールなわけだけども。
そこのギャップがいまいち呑み込めてない。
仕事中にビールなぁ。
やっぱりジュースってわけにもいかないから、ビールを出すしかないよなぁ。
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